DXがもたらす真の顧客理解とは データ分析とマーケティングで描く成長戦略【後編】

※前編はこちらからご覧いただけます

DOORS 前回は「日本にはDXを実現するインフラは整っているけれども、データ分析や活用という面では大きく後れを取っている。それには企業内にマーケットやデータ分析のプロを育成していかなくてはならない」というお話でした。インフラが整っていて人材が足りていないならば「あと一押し」でものすごい変革が訪れそうな予感もしますが――。

佐藤 インフラが整っていると言いますが、品質が良いかと言ったら全然そんなことないでしょう。ユーザー目線で快適なデジタル体験を提供している企業はそう多くありません。ユニクロとかマクドナルドとかはかなり先進的だと感じていますが、全体からするとごくわずかです。

川邊 小売業だと自社のユーザーをいちばん理解しているのはその企業であるはずですが、事業規模に対して社内にデータ分析やマーケティングの専門家が十分にいません。そういう専門的なことを長く続ける人材が少ないのです。

佐藤 人材育成という面でアメリカと日本が決定的に違うのは、どういったところですか?

川邊 決定的に違うのは採用方法です。アメリカでは大学やビジネススクールでコンピュータサイエンスや統計学を専攻して専門知識を身に付け、その道で食べていきたい人たちがスペシャリストとして採用されます。企業の中にネット戦略を専門とする部署があり、あるいはデータ分析を専門にする人もいます。そればかりかデータ分析の専門家をサポートする専門のエンジニアもついていて「これはすごいぞ!」と思いました。

佐藤 社内にネット戦略の専門部署があってデータ分析の専門家までいる。日本ではデジタルネイティブの企業でなければ、なかなかそこまでの体制を築いている企業はないですね。そういう専門家は他部署に異動することはないのですよね? ずっと同じ企業の同じ領域のデータ分析だけをやり続けるのも、仕事としてはしんどそうです(笑) その道のプロであればこそいろんなデータ分析をしてみたい、挑戦してみたいといった野心もあるでしょう?

川邊 スペシャリストとして採用された人は異動することはありません。その道の専門家としてキャリアを築いていきますし、上り詰めれば好待遇が約束されます。確かにずっと同じ企業の同じ領域のデータ分析を続けるというのはモチベーションの維持というところでしんどいですが、そこはアメリカらしいところでプロジェクトが一定の完成を見ると、どんどん転職していきます。

佐藤 そういえば、アメリカにはCTO(最高技術責任者)やCFO(最高財務責任者)と並んで、CMO(最高マーケティング責任者)という役職がありますもんね。顧客管理や広告部門の出身者が就任することが多いようですが、企業がそれだけ顧客理解を深めることを重視している証なのだと思います。CMOはブランドマネジャーとはまた違うんですよね。

川邊 CMOはカンパニー全体を統括して、ブランドマネジャーはそれぞれのブランドの中で顧客理解や広告戦略を見ていますね。

佐藤 しかし、アメリカのそうした人事戦略を日本に持ち込むのは難しそうです。新卒者を一括でどかっと採用して、そこから仕事を教えていく。経験を積ませるためにいろいろな部署を異動して、ゼネラリストを育てる人事が主です。

川邊 それはそれで良い面もたくさんあるのでしょうが、データやマーケティングのスペシャリストを育成するという観点からは、難しいだろうと思います。DXというのはマーケティング部門だけの課題ではなく、企業としても経営戦略に関わる改革になります。マーケティングの担当者が従来の仕事もこなしながら、取り組めるものではないかもしれません。

佐藤 例えば、日本企業にも昔から市場調査をやっている人はいて、その人たちはデータ分析をやっているんですよ。それなのに、なぜかデジタルデータの方には入って来ない。あれはなぜなのでしょうね? 自社でデータを取れるツールがあるのに、別部署が管理しているとか。縦割り組織の弊害とかがあるのかもしれませんが、もったいないと思います。

川邊 かといって日本がすぐにアメリカのようなスペシャリスト採用を導入するのは、現実的ではありません。雇用体系を根底から変えることになってしまいますから。それに、先ほど言ったようにアメリカでは離職率は高くて、みんなどんどん辞めていきます。あちらはそれで回っているからいいんですが、傍から見ていてもあれはドライ過ぎます。

佐藤 データ分析の仕事は腰掛感覚でできる仕事ではないので、数年後に別部署に行くのがわかっていたらモチベーションが保てない。なので専門企業が専門職を育てる役割を担っているのが実情です。なんかちょっと歪みがあるなあって感じますね。

川邊 知見が外部に溜まっていく構造になっていますよね。逆に効率性を追及するアメリカで日本のジョブローテーションを導入するのもまた難しい。どちらが良い悪いではないとは思いますが、自社でスペシャリストを育成するという意味では「職種ではなく会社に就職する」傾向が強い日本ではなかなか難しいだろうということです。

佐藤 そう考えるとやっぱり日本では日本なりの「スペシャリストを育てていくエコシステム」を作る方が向いているのかもしれません。各企業がベンダー企業とチームになってプロジェクトを手掛けるような、そういうのが「今、日本でやれること」ということですね。

DOORS 企業が顧客と繋がってデータを取れる環境(インフラ)が日本にはある。そのデータを生かすにはマーケティングとデータ分析という専門知見が必要だが、日本ではそうしたスペシャリストを企業内で育成するのは難しいシステムがある。そこでDXBのような専門家集団が企業とタッグを組むことによって、真の顧客理解に基づいた事業展開やブランディングを目指していけますね。

佐藤 その通りです。ただ、我々としては外注企業としてその部分をまるっとお引受けするでもいいのですが、それだとクライアントさんにとってのメリットは限定的なものになってしまうかもしれません。できればクライアントさんの中にマーケティングやデータ分析を扱うチームを置いていただいて、我々のノウハウをどんどんお渡していきたい。そうすることで、日本にデータに基づいた真の顧客理解が浸透するし、顧客から愛され支持される企業が増えていくと思うので。

川邊 これまでなかなか顧客と接点を持ちづらかった企業もあると思うんです。消費財メーカーなどが最たる例だと思いますが、顧客は小売店で商品を購入しますし、小売店への配慮から直販もなかなかやりにくい。しかし、やりようはいくらでもあると思います。そういう難しい領域にもどんどんチャレンジしていきたいですね。


利用者の声を丁寧に聞いて商品開発に生かしたり、気配り目配りの行き届いたサービスを提供するのは、本来、日本企業のお家芸であったはず。ネットが普及し市場が拡大するにつれ、お客様は「マス」(mass)になり、得意分野は「理想」になっていないだろうか? 人に喜ばれ受け入れられる商品/サービスは、今も昔も変わらない。データ分析とマーケティングの力で理想は実現できる。今後、DXに踏み出して新たな市場開拓に乗り出す企業がますます増えてくるだろう。

取材・文 渡辺一朗
写真 白玉洋平

 

 

お話を伺った方

川邊忠利 
株式会社電通クロスブレイン
代表取締役
東京大学工学修士、MIT MBA。約10年間、データ分析を基にコミュニケーション戦略/施策の立案、PDCAサイクルの推進、マーケティングツールの運用、データ取得・可視化環境の構築などを行う。その後、電通グループ企画部門で組織改革やM&Aなどプロジェクト参画後、2020年8月まで米国Merkle社に出向。Data Scienceチームのディレクターとして、PIIを活用した広告/メール施策の立案、効果検証などに従事。

佐藤洋行 
株式会社電通クロスブレイン
取締役業務執行担当
九州大学院修了(農学博士)。大学院でリモートセンシング画像解析を研究。2008年ブレインパッド入社。2014~17年、Qubitalデータサイエンス取締役(兼任)。プロジェクトマネージャー、データサイエンティストとして幅広いプロジェクトに携わる。2016~19年多摩大学経営学部経営情報学科准教授兼任、後に客員教授。現在はビジネス統括本部クロスブレイン推進部長兼株式会社電通クロスブレイン取締役執行役員担当。著書『データサイエンティスト養成読本』(共著、技術評論社)、『AI時代の意思決定とデータサイエンス』(単著、多摩大学出版会)。

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