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デジタル社会の実現に欠かせない研究開発のDXをどう進めるか?

公開日
2021.09.09
更新日
2024.02.17

社会のDX化を推し進めるには、その基盤となる研究開発にもデジタルの力を活用したDXが求められることは言うまでもありません。政府(文部科学省)は、2020年にデジタル化推進プランの一つとして「デジタル社会の早期実現に向けた研究開発」を掲げ、研究開発DXを本格的に推進しようとしています。

この記事では、特に研究開発DXの内実について説明します。ものづくりの基盤となる研究開発の場がどのように変わるのか、概要を理解しましょう。

関連:DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?「DX=IT活用」ではない。正しく理解したいDXの意義と推進のポイント

研究開発DXに向けた「三本柱」とは?

文部科学省は、「文部科学省におけるデジタル化推進プラン」で、研究開発DXを3つの項目に分けて記述しています。まずは、3つの項目の概要について解説します。

デジタル社会への最先端技術・研究基盤の活用

まず、ビッグデータやスーパーコンピュータといった次世代情報インフラを整備して、研究開発に活用していくことが掲げられています。特定の研究機関のみならず、日本全体のイノベーション強化を目指しての各種施策です。

施策の一つとして、研究開発へのデータ活用があります。研究データをデータベース化して研究機関同士で共用できるようにし、日本全体の研究開発の効率アップを目指していくというものです。世界的な潮流であるデータ駆動型研究が推し進められていく計画です。

また、スーパーコンピュータ「富岳」の整備を始め、イノベーションの創出に必要なインフラ整備が行われる予定です。ほかにも、研究施設や設備、機器などのリモート化・スマート化、デジタルプラットフォーム化などといったキーワードが、資料には記載されています。

これらの詳細については、後ほど掘り下げて説明します。

将来のデジタル社会に向けた基幹技術の研究開発

2つ目の柱が、研究開発の基幹となる技術の開発です。計算科学技術、ロボット、AI、量子技術など、将来の産業競争力の源泉となる重要な基幹技術へ投資することで、「デジタル強国」へ向けた基盤構築を進めるというのが狙いです。基幹技術への投資のため、中長期的な成果を見据えているものです。

研究環境のデジタル化の推進

最後に、研究環境のデジタル化です。資料では、これを「研究DX」と呼んでいます。各研究機関や政府などの連携によって、研究情報のデータベース化やオープンサイエンスに関連する検討、研究活動の機械化・遠隔化・自動化などの施策を進めることが示されています。

また、研究環境の改革を検討する際、常に言及されるテーマが人材育成です。この資料でも、データ駆動型研究や研究DXを主導する人材の確保を取り組むべき課題として掲げています。

研究開発基盤のDX化の内容

「デジタル社会への最先端技術・研究基盤の活用」とは、具体的に何を指しているのでしょうか。文科省の資料から、データ活用の強化や情報インフラの整備などについて紹介します。

データ駆動型研究の推進

データ駆動型研究は、近年サイエンス研究の分野で潮流となりつつある研究手法です。蓄積された実験データの分析から研究をスタートさせ、それを説明するモデルを見つけ出すという帰納的なアプローチの研究手法です。研究者が最初に仮説を立て、実験によってそれを検証する演繹的な仮説駆動型研究より研究者のバイアスが入りにくい、研究効率が高いなどのメリットがあるとされています。

材料開発の分野では、データ駆動型研究は「マテリアルズ・インフォマティクス」と呼ばれ、高い期待を集めています。マテリアルズ・インフォマティクスについては、以下の記事を確認してください。

マテリアルズ・インフォマティクスとは?材料開発・研究を加速させるデータの力

データ駆動型研究を推進するために必要なインフラや技術は、データを蓄積するプラットフォーム、機械学習やAIのようなデジタル技術、計測技術など数多くあります。文部科学省の発表資料では、データフォーマットの標準化、研究データの収集・共有が謳われています。

必要な情報インフラの整備

データ駆動型研究に必要な情報インフラとして、具体的にはスーパーコンピュータ「富岳」と学術情報ネットワーク「SINET」が挙げられています。富岳は、世界最高水準の汎用性と性能を持つコンピュータで、2021年3月9日より理化学研究所(理研)と高度情報科学技術研究機構(RIST)の共用が開始されています。富岳を社会課題解決のためのシミュレーション研究などに活用し、科学技術の発展や産業競争力強化につなげていく狙いです。

SINETは、学術情報基盤として大学や研究機関などに提供されている学術情報ネットワークです。海外の研究ネットワークとも接続され、学術情報の流通や研究者達のネットワーク形成をサポートしています。2022年から新たに「SINET6」が運用開始予定となっていますが、これ以外でも技術的な整備を目指します。

新たな価値創造プラットフォームの構築へ

データや情報インフラの整備によって、イノベーションを創出できる新たな価値創造プラットフォームが構築されると文科省は考えています。いずれも交通網や情報通信網と同じようにきわめて重要な社会インフラであり、政府の目指す高度な社会を実現するために必要な要素です。

重要基幹技術への集中投資

将来の産業競争力を支えると見込まれる重要な基幹技術について、集中的な投資を進めることも文科省は説明しています。具体的な投資分野について紹介します。

情報科学・マテリアル・・・・・・重要分野の成果創出

情報科学やマテリアルなどといった最先端分野、セキュリティ、プライバシーなどの分野で、官民連携によって研究開発力を強化し、将来のデジタル社会で求められる新基幹技術の創出を図るとしています。

また、計算科学の技術についても言及しています。技術の高度化によって、国民の安心・安全につながる成果を創出するという内容です。

AI・量子技術への研究開発の実施

最先端技術の中でも、特にAIおよび量子技術は重要分野と考えられています。政府は2019年に「AI戦略2019」を策定しており、その中で「中核的研究ネットワークの推進」「創発研究支援体制」と研究開発の強化についても言及しています。文部科学省は、「AI戦略2019」の内容などを踏まえた形でAIに関連した理論を始めとした基盤技術の研究から、防災やヘルスケアなどへの社会実装を念頭に置いた研究まで実施するとしています。

量子技術(量⼦コンピューター、量⼦計測・センシング等)についても同様で、2020年に出された「量子技術イノベーション戦略」などを踏まえて研究開発を進めていく構えです。「量子技術イノベーション戦略」の最終報告書では、「量子技術はAIやデータ基盤をさらに発展させる可能性を秘めている」とされています。欧米諸国や中国では国・産業界をあげて投資を拡充させています。文部科学省も、量子技術の研究開発を実施して基幹技術の獲得を目指すようです。

オープンサイエンス時代のデジタル化された研究開発環境

研究開発の加速化のために、必要な環境・人材の確保が欠かせません。文科省の考える研究環境のデジタル化の内容について説明します。

研究活動環境のデータベース化

研究開発課題の評価結果や成果情報など、研究マネジメントに必要な各種情報をデータベース化する取り組みが行われます。また、研究DXの推進によって研究活動がどう変化したかを分析し、政策推進に貢献することを目指すものです。

研究関連の手続きのデジタル化

研究費の申請などのための事務手続きが、研究者の研究時間を圧迫している現状を受けて、手続きのデジタル化も実施されます。また申請だけではなく、その審査や管理などの事務作業についても、デジタル技術を活用した効率化を図るということです。

富岳のような共用施設・設備の公募や選定といった手続きも同様にデジタル技術を活用し、効率化を目指すと記載されています。

DX人材の育成

データ駆動型研究や研究開発DXなど、これまで挙げてきた各種施策を主導できる人材が必要不可欠です。こうしたDX人材の育成に文部科学省自らが関わることが資料には記載されています。

まとめ

DX推進には高度なデジタル技術がなくてはならないもので、技術の刷新や社会実装のためには地道な研究開発プロセスが欠かせません。DX推進のためにインフラ整備や人材育成など、文部科学省の発表資料に記載されていることがどのように実施されていくのか、研究開発の当事者のみならず私たち国民が注視していく必要があるでしょう。

DX人材に関しては下記の記事も是非ご覧ください。

(参考)
文部科学省「文部科学省におけるデジタル化推進プラン(案)」
首相官邸 統合イノベーション戦略推進会議「量子技術イノベーション戦略(最終報告)」

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