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【スペシャリスト鼎談】サプライチェーンDXの未来(前編)

公開日
2022.04.07
更新日
2024.02.21

「サプライチェーンDX」が今注目を集めています。その中で個別最適化、ITシステムのレガシー化、経営と現場の乖離、システムのサイロ化とデータの点在化など、サプライチェーンDXを推進していく上での課題はまだまだ根深いものがあると言えます。具体的にはどのような課題があり、どうやって解決していくべきなのか、そして解決し先に見える「サプライチェーンDXの未来」とはどんな世界なのか――

サプライチェーンDXの最前線でコンサルティングに取り組んでいる、ブレインパッドのビジネス統括本部の面々に話を聞きました。

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ブレインパッド全体の営業とコンサルティングの2つの役割を持つビジネス統括本部

DOORS編集部(以下、DOORS) まずビジネス統括本部について紹介してもらえますか?

西村 順(以下、西村) ビジネス統括本部長を務める西村順です。ブレインパッドには大きく4つの事業部門があります。データサイエンティストで構成される分析部門、エンジニアで構成される部門、マーケティング系のSaaSプロダクトを扱う部門、そして私たちビジネス統括本部です。ビジネス統括本部は、2つのケイパビリティを持つ事業部門です。1つは、ブレインパッド全体の営業を担当することです。もう1つは、データ分析に入る前の先鋒隊として構想立案や企画を司る、つまりビジネスコンサルティングを実施することです。

DOORS 続いて各々の自己紹介をお願いします。

西村 元々、外資系の大手コンサルファームに12年間在籍していました。ハイテクメーカーや通信会社のお客様に対し、データに基づいて、サプライチェーンをどのように最適化していくかというプロジェクトを数多く経験し、そのキャリアを最前線で活用すべく物流系のITベンチャーの役員になり、その後ブレインパッドに転職。今に至っています。

株式会社ブレインパッド
ビジネス統括本部長 西村 順

東 建志(以下、東) 私はエンタープライズアナリティクスコンサルティング部で部長を務め、企業におけるデータ活用支援やデータを活用したサービス企画を担当しています。前職は国内大手コンサル会社に在籍し、サプライチェーンにおける業務改革を支援してきました。その中で、もっと本格的にデータを活用した取り組みに携わりたいと考えてブレインパッドに入社しました。流通や小売はもちろん林業や農業も含めたサプライチェーン全般に関わってきた経験があります。

大学院時代は物理をやっていたため、データサイエンスをビジネス活用する点において踏み込んだビジネスコンサルティングができることが強みと考えています。

小林 英之(以下、小林) 私は、アカウントマネジメント2部でチーフ・アカウントマネージャーを務めています。カバーする業界は、消費財メーカーおよび流通・小売になります。インダストリー営業・アカウント営業という軸で仕事をしていますので、サプライチェーン関連の仕事も多いのですが、それだけでなくDX全般をテーマに取り組んでいます。


サプライチェーンDXが求められる背景にある3つのこと

DOORS サプライチェーンDXが注目されていると実際に感じますか。

西村 これまでブレインパッドではマーケティングに関連したプロジェクトが比較的多く、得られた販売データや行動データをどうマーケティングに活用していくか、といったテーマが中心でした。しかし、お客様との会話の中で、よりお客様の経営課題を解決していく、という文脈で、得られたデジタル接点のデータを調達や生産計画にどのように反映していくかという、まさにサプライチェーン全体にまたがる経営課題に応えてほしい、という要望が多くなっている実感があります。

DOORS その背景について教えてください。

西村 3つのことがあると思います。周知の通り、1点目は「内需が頭打ちになっていること」です。例えばコンビニなどを見ていても、店舗数拡大ではなく、いかに店舗を少なくしつつ、全体の売上を確保していくか、またオペレーションの生産性を上げていくかという論点に焦点が当たっていると感じます。

2点目は「企業と顧客の接点が”購買”ではなく”利用”に移行しつつあること」です。これまではPOSデータを見て、いつどこで何が売れたというのがデマンドチェーン(需要側から見たサプライチェーン)の出発点でした。ところがスマホが浸透したおかげで、どういう人がどのタイミングでどういう広告を見て買っているのか、購入後、どう利用されているか?といったことがわかるようになり、より深い洞察が得られるようになりました。このようにデジタル化によって得られるデータのバラエティや深さが変化、進化してきたために、サプライチェーンもバージョンアップしなければならないという時代的要請が出てきたわけです。これが2点目です。

3点目は、これらに加えて「ESGへの対応」です。需要予測をベースに単純に在庫を減らせばよいのではなく、輸送についてもCO2を最小限にするにはどうしたらいいかといったことも考えないといけなくなりました。考えるべき変数がさらに増えたわけです。サプライチェーンDXは、このようなことも本格的に考えないといけない時代になったのです。

 西村さんが今お話しされた1点目、つまり「生産性を上げていく必要性」と関連するのですが、サプライチェーン領域においても人材不足が大きな問題になっています。例えば需給調整業務は、販売と生産、生産と調達など川上と川下の結節点をマネジメントする特性上、幅広い経験や知見が必要になります。そこに対して以前は、販売や生産の経験のある若手社員が先輩の背中を見ながらサプライチェーンを学んでいくといったことで業務を回してきました。しかし今は、そういった若者は各業務でも必要不可欠な人材ですのでなかなか人が集まらず、ベテラン社員しか出来ない属人的な業務ににつながったり、業務が増加しても対応要員がすぐには増やせないので残業が多くなったりするということに繋がっています。結果、そのような仕事のやり方は敬遠されるようになり、更に人が集まらないということが起きています。

そのため、最悪の場合、供給が滞ることに繋がり、もはや事業が継続できなくなるリスクになってきています。そのためにはデジタル化やデータの活用によって人にしか出来なかった業務をどの様に自動化するか、支援するかが事業継続の課題となっており、それが業務レベルではなく、経営のアジェンダに上ってきているのだと思います。

DOORS 人材不足に関して、現場だけでは解決できないレベルに達しているということですね。

小林 国内人口の減少で売上を増やしづらいという状況の中、企業間の競争が業界の壁を越えて激しくなっていると感じています。たとえば最近では、ドラッグストアが生鮮食品を扱い、商圏内での業界間競争が激化したり、ある事業を中心に商品展開していたメーカーが、消費者の健康嗜好やウェルネスをとらえて、健康軸への商品展開を図っている例もあります。多くの会社が事業の幅を広げることで生き残りを図っており、そこで非常に厳しい競争が繰り広げられているということです。

そうした中、以前はPOSデータ、すなわち購買データ中心だった消費者理解が、今では購買前の顧客の傾向に関する知見を取り入れて、商品開発やプロモーションの差別化を図る取り組みが増えています。こうして顧客の様々な嗜好性に合わせた商品が開発されるのですが、川上におけるこのような変化は、川下にとっては商品アイテムが増えるので大きな負荷になるわけです。

もはや効率化や残業でカバーできるレベルではなく、生産計画とリンクしてマネジメントするといった経営レベルでの解決が必要でしょう。

「2024年問題」で日本の物流になにが起きるのか、より深く知りたい方はこちらもご覧ください。

株式会社ブレインパッド
ビジネス統括本部 アカウントマネジメント2部
チーフ・アカウントマネージャー 小林 英之

あるプロセスに閉じた分析・自動化ではなく、壁を越える分析が増えている

西村 以前は、製造工程の特定のプロセスの置き換えという文脈で、製造ラインをカメラで撮影し、画像解析して不良品を検出するのにデジタルを活用したいといった案件がほとんどでした。既存工程の自動化や、人間が目で行っていることの置換というテーマです。今は、事業やバリューチェーンの間の垣根を埋める、購入前のデータから消費者を理解して製造計画に反映するという案件が増えています。部門・企業・産業の壁を越えて、データをどのように活用し、プロセスを最適化していくかに注目が集まっていて、ブレインパッドへもそうした相談が増えていると感じます。

DOORS サプライチェーンと聞くと、川上から川下まで複数の企業が関わっており、社内だけでなく企業間でデータの最適化をしなければならない、それゆえにDXに注目が集まっているという印象があります。

西村 それももちろんあります。その中心にあるデータは、顧客情報ではないでしょうか。メーカーの視点でいえば、今までは卸から情報をもらって、それを起点に考えてきたのが、今はできるだけ消費者から直接データ収集しようという流れになっています。ただ本格的に取り組み始めたのは、この数年ですね。

先日某食品メーカー様と商談をした時の話ですが、顧客情報を収集しよう、という文脈の中で、メーカー様が第一想起する顧客は卸業者でした。ただ、議論する中で捉えるべき顧客は、最終消費者であり、その接点を今はスマホアプリやWebでオリジナルレシピを提供する、等をうまく活用すればたとえメーカーであっても最終消費者の行動を捉えることができるのではないか?食品メーカーであれば、消費者が自社の食品がどう加工され、どう食べているのかを知ることで、サプライチェーンマネジメントだけでなく、品質管理にも活用できるか、等と議論が深まっていきました。サプライチェーンの領域を少し超えていますが、こうした複合的なことが今起こり始めているのです。

「サプライチェーン❝外❞からの参入」という流れ

DOORS 東さんが以前おっしゃっていた、「サプライチェーンの外から入ってくる」という言葉が印象的でした。詳しく教えてほしいです。

 昨今、IoTの普及は様々な業界に及びますが、たとえばLPガスのスマートメーターの普及によりその検針データー×データサイエンスの活用でLPガス業界は大きく変わる可能性があります。これまでガス検針は、検針員よる月に1回の検針が一般的でした。ここにスマートメーターを活用することで、検針作業レスになるだけでなく、日々の検針データが取得できるため、機械学習等によるガス使用量(=ガス残量)の予測精度の向上、更に需要家までのルート情報をかけ合わせることで、数理最適化によるガスボンベの配送タイミング・配送ルートの最適化まで一気に行うことが期待されます。

この変化には、LPガス会社だけでなく、スマート検針機メーカー、検針値をクラウド上に収集するためのネットワークとして通信キャリア、クラウド提供会社など様々なプレイヤーが必要になります。そして肝はデータの収集・蓄積とAIの活用になるため、そこに強みを発揮できる通信キャリア等のプレイヤーが、上記の収集・予測・最適化をサービスとして提供しようという動きがあります。これは今後のLPガスビジネスにおける1つのプラットフォームになり得るので、サプライチェーンに欠かせない要素となります。つまりデジタルによって、サプライチェーン外にいた企業がサプライチェーンに参入してきているわけです。これが今、大きな流れになろうとしています。

株式会社ブレインパッド
ビジネス統括本部 エンタープライズアナリティクスコンサルティング部長
東 建志

DOORS サプライチェーンには多くの関係者がいます。1つの会社内でも多数の部門が関連しますし、企業間にもまたがります。そればかりか最近は今までサプライチェーン外と考えていた企業も入ってきているとの話でした。サプライチェーンDXの課題の多くは、関係者が多いことに起因しているとも思うのですが。

 「全体最適」というテーマですね。サプライチェーンマネジメントにおいてはずっと中心的な課題です。そしてその解決には企業内であろうと外であろうと情報連携がベースとなります。最適化の形は状況に応じて変わるものですのでその変化をデータで素早く捉え対応することが重要になってきます。

これまでは、販売・生産・在庫・調達等のデータ、工場・倉庫・トラックなどなどのリソース情報を経験ある人が膨大なデータから変化を検知し対応することを何とか人手で回してきました。それがトラックや人材逼迫による物流制約でより強くなっている状況で輸配送の手配を行う、需要増に対しても長期的には内需減のため設備投資判断が難しく、現状工場能力でどうにか生産対応するなど、サプライチェーンマネジメントはより複雑化・難化している現状があります。そこに対してデータを活用し人間の判断をサポート/自動化することが大きく期待されますが、現実には対応が難しいというのが実態です。データを活用しようデータから判断しようとした時に、データが各業務システムに点在していたり、必要なデータが神excelや紙データ形式でしか無いということが今まで以上に問題になってきています。また分析技術も高度化しているため、自社の人材だけでは対応できないという事態にもなっています。

DOORS 今の話は、どちらかというとインフラ的な観点ですよね。

 データという観点で補足すると、サプライチェーンの分析をする際のデータが基幹系システムから全て集められるのなら問題は小さいのです。しかし「来月キャンペーンを実施するので、少し多めに見積もっておくか」といったデータは、営業担当者のローカルPCのExcelデータにしか存在しないといったことが往々にしてあるわけです。こういう形で点在しているデータを集めて、つながないとサプライチェーンの最適化はできないのですが、それはとても難しい。データをどこまで追いかけるのか、そしてどこから人が介在して対応すべきかが難問ですね。

DOORS つまりシステムの壁によるデータの点在という問題と、組織や人の壁によるデータの点在という2つの問題があり、それがサプライチェーンDXを難しくしているということですね。

西村 そこに「2025年の崖」で指摘されていた「レガシーシステム」の問題なども絡んでくるので、ますます複雑で根深い問題になっていますね。

(後編へ続く)

この記事の続きはこちら

【スペシャリスト鼎談】サプライチェーンDXの未来(後編)



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2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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