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【後編】経営にデータサイエンスをどのように取り入れるか~DX推進の成否を分ける5つのトピック~

執筆者
公開日
2022.02.22
更新日
2024.02.17

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本記事の執筆者
  • データサイエンティスト
    辻 陽行
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    アナリティクスコンサルティングユニット
    役職
    マネジャー
    機械学習を用いた需要予測や判別問題に関する事例を担当。プロジェクトの立ち上げから機械学習アルゴリズムの仕組み化の支援までを主に担当。

AIシステムのリリース条件の設定

取り組むべき課題の選定を終えた後に検討すべき点は「どんなケースであればAIシステムを業務に適用して良いか」となります。

最近では認識が広まってきたものの、AIだからと言ってビジネス上の課題を全て人より上手に解決できるわけではありません。さらに厄介なことにどの問題がAIより人間の方が得意かというのは、問題設定や収集可能なデータの質によるので一般論として語ることも難しいのが実情です。

計画段階ではAIシステムがどの程度精度改善に寄与するのか見えないため、到達不可能な精度基準がシステムリリースの条件として設計されリリースが遅延する事態が生じかねません。

現行オペレーションが実現している精度をどの程度上回れば、AIシステムをリリースする価値があるのかはプロジェクトの設計段階である程度見積もれるはずですが、AIへの過度な期待から実際に設定される条件は投資価値基準を満たす水準よりも高いところに設定されがちです。

よくあるケースとしては、商品の仕入れにおける現行オペレーションの需要予測の精度とAIシステムの需要予測精度を比較してAIシステムにオペレーションを置き換える価値があるかどうかをジャッジしようとする場合です。

需要予測モデルがどの程度の精度になるかはPoCをやるまではわからないので、まずはPoCが開始されるのですが、よくよく話を聞いていくと現行オペレーションではバックヤードの在庫や在庫費用を勘案した仕入量しかデータとして蓄積しておらず、オペレーション担当者が暗黙のうちに予測した需要量自体はデータとして残っていないという事態に遭遇します。

このような事態に陥った場合、現行オペレーションの精度と比較できるようになるまでPoCやリリース条件の基準の設定は控えるのが妥当だと思われます。しかし、大抵の場合はPoCに着手した段階でDXプロジェクトの成果として数ヶ月先にシステムのリリースが計画されていて、比較すべきデータが溜まるのを待っていられない状況になりがちです。次善の策としてざっくりとした精度基準が設定されてPoCの終了条件やリリース条件にそれらが用いられるのですが、この時に設定される基準はAIが実際にそのような精度水準に達することが本質的に可能かどうかは吟味されずに設定されることが多く、これがリリース遅延の原因となりがちです。

「PoCの段階で基準を満たせないのならば、本番開発に移行しないはずなのでリリースの遅延にはつながらないのでは?」という真っ当な反論が考えられるのですが、そう言った場合にも「PoC時点ではこの精度だが本番システム開発中に改善を続けてリリース条件に到達するようにプロジェクトを進める」といった選択がなされることも少なくないため、リリース直近になって問題が表面化してきます。今後AIを活用したDXを進める場合には、現行オペレーションの精度と比較できる状態を整えつつ設定したリリース条件自体の妥当性を見直す機会をフェーズ毎に設けるなどして対応していく必要があります。

AIがどの程度の精度を出せるかは実験してみないとわからない以上、計画段階ではAIの品質面において妥協するオプションを用意しておくかリリース期限において妥協するオプションを用意しておくのが妥当な進め方といえます。


AIシステムの共存運用を前提とした業務運用

AIシステムの導入基準を策定した後は「AIシステムとの共存を前提としたオペレーション運用」を設計する必要が出てきます。

当然、DXプロジェクトを実施するからには可能な限りAIシステムで現行オペレーションを刷新したくなるわけですが、実際には人間が得意な部分は人間に任せる・AIシステムに人間の行動を学習させること(ヒューマンインザループ)を前提にプロジェクトを進めた方が遥かにうまくいくことがあります。

AIなどによって自動化・自律化が進んだ機械やシステムにおいて、一部の判断や制御にあえて人間を介在させること(ヒューマンインザループ)が求められる。

一般的にAIは過去経験したことのない事象や再現性の低い事象に対してうまく対応できません。それをAIシステムで乗り越えるために時間を使うよりもAIでも予測できないパターンがあることを前提にオペレーションを構築した方が効率的です。

また、現行オペレーションの洗い出しの中で絶対にミスが許されない業務や不測の事態に備えた業務が明確になってくると思うのですが、そういった領域の業務はそのまま残すか形を変えて人間が介在し「確実に遂行する」ことを保証する必要があります。

全ての予測をAIに任せてしまうと人間がその業務を担当した方が良いのかAIに任せた方がいいのかを判断する手段がなくなってしまうため、業務の健全性・持続性を担保するためにあえて現行業務を残したり、継続的な検証が可能な領域を残しておくこともAIシステムの共存を前提としたオペレーション運用を設計する際には考慮しなければならない要素となります。


DX実現後の人事評価方法の設計

最後に、「AIが介入するオペレーションが構築された後の人事評価方法」を設計する必要があります。

正直な所、これまで様々なお客様のDX推進の支援をさせていただきましたが、DXプロジェクトの初期段階でDX実現後の人事制度をどうするかが話し合われている姿や人事評価に関する責任者がDXプロジェクトの重要な会議に同席しているところを見たことがありません。

しかし、DXが実現した後に今まで働いていた人たちがどのように評価されるようになるのかはプロジェクトの初期段階で十分に経営層の間で議論されるべきです。

もし現行オペレーションをそのまま実施していて評価されるのであれば、本質的に働き方が変わっているとは言えずDXが成功しているとは言い難いですし、DX後の評価基準が社員の利益と相反している場合には社員がDX推進に対して抵抗する恐れがあるからです。

例えば、仕入れを担当している部署がこれまでは欠品率の大小で業績を評価されていた場合にAIシステムの導入が部署の評価と利益相反することが考えられます。AIシステムが仕入あたりの利益率を最大化させるような仕入量を算出するシステムである場合には、これまで欠品を可能な限り生じさせないような発注をしてきたにもかかわらず、AIシステムに従うと利益率は高いが時折欠品が生じるような発注を実施しなければならなくなります。

もし評価基準が欠品率の大小のままであればAIシステムを導入する事は自身の評価にとって不利益にしかならないため、AIシステム導入に対して強い抵抗が生じることになります。そして、人事評価に関する責任者はDXプロジェクトに呼ばれるタイミングが遅いか、全く呼ばれることが無いためシステムを導入するギリギリになってこの問題が表面化することになります。

このような事態に陥らないようにするためにもAIシステムと共存するのを前提として人間にどのような価値を発揮してもらうのか、それをどのように評価してくのかはDXの構想段階から考えておく必要があります。

なかなか前例がないDXプロジェクトには、人事評価制度の構築もあわせて必要となる。

今回は、「経営にデータサイエンスをどのように取り入れるか」と題してAIを活用したDXプロジェクトを推進する上で考慮すべきことをお話させていただきました。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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