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未来の日本の「創造」に向けて 今、私たちができること~ブレインパッド高橋社長インタビュー~

公開日
2022.12.27
更新日
2024.02.22

■登場者紹介

  • 高橋隆史(旧姓:草野)
    代表取締役社長 執行役員CEO

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。新卒として日本サン・マイクロシステムズ株式会社(現:日本オラクル株式会社)に入社。その後、フリービット・ドットコム株式会社(現:フリービット株式会社)の起業参画を経て、日本企業のデータ活用を支援するべく2004年3月に代表取締役会長 執行役員 佐藤清之輔とともにブレインパッドを共同創業。代表取締役社長として、2011年9月に東証マザーズ、2013年には東証一部上場を成し遂げる。 現在、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事、一般社団法人日本ディープラーニング協会理事、東京大学エクステション株式会社社外取締役を務める他、官公庁による各種研究・委員会活動等に識者として参画する等、データ活用促進のためさまざまな対外活動にも従事。2022年10月より現職。

株式会社ブレインパッド 代表取締役社長 執行役員CEO 高橋隆史(旧姓:草野)

社会情勢の急激な変化とデータの重要性

DOORS編集部(以下、DOORS) 「VUCA時代」などと言われ、2022年だけでもウクライナ紛争、急激な円安、世界的な物価上昇など、変化が激しく先が読めない時代にいることを実感させられます。このような時代に私たちはどのように対応していくべきでしょうか。

株式会社ブレインパッド・高橋隆史(以下、高橋) 先が読めない中、変化を早く察知し、アジャイルに対応するために、データとITを活用することが求められています。今後これらの重要性はますます大きくなっていくはずです。

一方データを見るだけでは、せいぜい、今この瞬間の少し先を予測や把握することができるだけで、未来を作ることはできません。データサイエンスとITの力で、データから価値を創り出していくことがより強く求められる時代になったと言えるでしょう。

日本では、これまで、コスト削減や効率化のための「守りのIT」投資に重点が置かれ、価値を生むための「攻めのIT」投資ができてきませんでした。現在の日本の状況を鑑みると、価値を生むためのIT投資およびデータ活用に日本全体が待ったなしで取り組まなければなりません。そのぐらい追い込まれているのです。

つまり、より本質的には、ただ変化に対応するというよりは、望ましい未来を自ら仕掛けて創っていかなければならない。そのためにデータを活用することが今求められています。


失われた30年ではなく、失った30年

DOORS 失われた20年とも30年とも言われます。ブレインパッドの創業が2004年ですから、創業以来今までの間、日本経済・日本社会はずっと停滞していたことになります。何が原因だったのでしょうか。

高橋 歴史を振り返ると、1995年にWindows 95が登場し、インターネットに誰でもつながる環境が提供されるようになりました。世界中のあらゆる企業に対して、一斉にインターネットを活用してビジネスを変革するチャンスが平等に拓かれたのです。その機を掴むことでアメリカにはGAFAと呼ばれるビッグテック企業が登場しました。GAFA以外にも、またアメリカ以外にも、インターネットとそこから得られるデータを上手に活用することで世界的な企業に成長した会社が数多く存在します。ところが日本には数えるほどしかありません。

1995年を起点に、ITおよびデータ活用の巧拙がビジネスの優劣を左右する時代に突入したのですが、日本のIT投資はそれから四半世紀の間ほぼ横ばいなのです。その間アメリカは3倍近くになっています。これではビジネスの成果に大きな差がつくのは当然です。

日米のICT投資額推移(名目) (出典)OECD Stat
総務省 情報通信白書 平成30年版 

DOORS IT投資の量、すなわち投資額が増えなかったことが停滞の一因だとして、投資の質はどうだったのでしょうか。

高橋 シリコンバレーを中心に、アメリカにはITを活用したスタートアップが生まれやすい環境と気質があります。大企業であってもいつスタートアップに追い越されるかわからないという危機感を常に持っています。そのため、大企業の中でも新しいビジネスを生み出すための投資が盛んに行われています。ウォルマートがアマゾンに対抗するために行ってきた様々なチャレンジを思い出してください。

一方、日本では大企業がスタートアップに挑戦されて追い詰められるようなことがなかなか起こりません。その辺りの危機感の薄さもあってか、IT投資は増えず、限られた投資の大半は、過去に構築したシステムの保守に消えてしまっているのが実際です。

1999年にiモードが登場しましたが、それ以降日本に世界レベルと言える特筆すべきイノベーションがあったでしょうか。このことも攻めのIT投資がなされてこなかったことの証左ではないかと考えます。

実は「失われた30年」という言い方は好きでありません。自らに責任がないかのようなどこか他責にしている語感を受けるからです。そうではなく私たち自身のせいで機会を失ったのです。「失った30年」というべきでしょう。機会はあったのに十分に挑戦してこなかったことがいけなかった。「挑戦」ですから勿論、必ずしも成功するとは限りませんが、挑戦しないことで失ったものが多いと感じます。

18年前に思っていた世界になったが……

DOORS 1995年から日本の停滞は始まっていたし、iモード以降は目立ったイノベーションもないということでした。そんな中2004年に佐藤さんと二人でブレインパッドを創業した動機は何だったのでしょうか。

高橋 当時私たちが持っていた仮説は、「日本企業や日本社会はデータ活用の力が足りていない。データ活用の力を供給すれば、企業も社会もうまく動き出すのではないか」というものでした。ところが、これは自分たちの力不足もあるのですが、データ活用の力を社会に供給しても、日本はあまり変わりませんでした。前述した通り日本企業のITの使い方はほとんど変わらなかったのです。攻めのIT投資ができなかったし、投資額も増えませんでした。

思っていた以上に日本企業の変革に対する腰が重く、私たちには変える力がありませんでした。ブレインパッド自体は規模こそ大きくなりましたが、子どもたちが将来に希望を持てる国には残念ながらできていません。正直、無力感を抱くこともあります。

DOORS 創業当時、高橋さんはデータがビジネスにとって重要とされる時代がやってくると考えていたと思うのですが、その通りになりましたか。

高橋 はい。その点に関してはその通りになったと思います。日本企業にも、データを活用することで変革を促す部署が作られるようになりました。それでも日本は遅れていますが、世界的に見れば「データの時代」が到来したと言っていいでしょう。

ブレインパッドとしては、データサイエンティストを一つの職業にできたのは大きな成果だと思っています。創業当時は、そんな言葉すらありませんでしたから。

DOORS とはいえお客様のビジネス変革はまだ道半ばです。その本質的な原因は何なのでしょうか。

高橋 様々な提案・提言をするとはいえ、最終的には私たちは委託されてデータ分析をするわけです。となるとお客様が持っているデータの特性に分析内容も左右されます。現時点で多くの企業が持っているデータとは、業務オペレーションのためのシステムから生まれているデータです。ですからオペレーションを改善する分析はできても、そのデータを使って直接ビジネスで付加価値を生むことは構造的にかなり困難です。

ビジネス自体を変えるためには、ビジネスそのもののデータが蓄積されている前提で、営業などの顧客接点となるビジネスがデジタル化されている必要があります。分析結果を反映してアクションをする際に、日本企業ではフロントビジネスのためのIT化、すなわち「攻めのIT」が遅れてしまったため、データで改善・改革できる部分がどうしても限定的になってしまうのです。

痛みを引き受ける覚悟のある会社に、こちらも覚悟を持って向き合っていく

DOORS そもそもなぜ「攻めのIT」投資ができてこなかったのでしょうか。

高橋 当社のクライアント像の中心である大企業を前提にコメントすると、経営者がインターネットによって生まれた機会をわがごととして捉えられなかったということが1番大きいとは思いますが、加えて、国内だけを見ていると低成長の時代が長く続き、今後も多くの市場が人口減少で縮小していくのは明らかで、IT投資をしたからといってそうそう簡単に売上が増えるわけではありません。ですから業界再編を仕掛ける覚悟を持っているか、マーケットを拡げるために海外に進出しようという意思がないと、攻めのIT投資の判断のハードルが高い面はあったと思います。しかし、結局のところ、IT投資をして生産性を上げていかないと、市場も労働人口も減る中、事業継続がどんどんと困難になっていきます。

DOORS 海外に進出する企業に対して、データでできることは何でしょうか。それがなければ海外進出を決める会社が増えてもIT投資は進まないと思うのですが。

高橋 これから海外に進出する企業は、自分たちが知らないマーケットに打って出るわけです。したがってそのマーケットの状況を把握し、迅速に対応することが必要になります。データとITが活躍する余地は非常に大きいと言えます。

ただ経営層が海外の状況を正しく把握するためには、システムをグローバルで統一する必要があります。欧米の企業ではあたりまえのことですが、日本企業は現地法人の個別のシステムを許してしまう傾向があります。それでは各国の状況を同列に比較できないので、正しい現状把握が困難になります。

DOORS 「ユーザーに優しいシステムを作る」というのは日本企業の伝統で、国内用でも現場に合わせてERPソフトをカスタマイズしてしまうぐらいです。それを変えるのはなかなか難しいと思うのですが、どうすれば変わるのでしょうか。

高橋 経営者がIT化の目的を明確にして覚悟を持って、改革の痛みを引き受けるしかないと考えます。

今のままではジリ貧になるのは、論理的に考えれば明らかです。成功事例がまだ少ないとはいえ、日本企業が一斉にDXに取り組み始めたのも、このままでは潰れるかもしれないという危機感が共有されてきたからだと思うのです。

今の日本の停滞、あるいは衰退の原因に関してはいろいろ言われますが、誰が悪いという犯人がいるわけではありません。強いて言えば全員が悪いのです。全般に危機感が薄く、変革に向けた行動を起こす人が少なすぎた。そうであれば誰かが変わるのを待つのではなく、自分自身が変わるしかありません。ただ変化には必ず痛みが伴います。痛みを引き受ける覚悟ができている経営者がまだまだ少ないのだと思います。

DOORS 覚悟のある企業として、まず思い浮かぶのはどこでしょう。

高橋 100円ショップを展開される株式会社セリアさんですね。多くの100円ショップがSPA化することで収益を上げようとするトレンドの中で、現場のオペレーションの負荷を下げる自動発注システムの開発に投資し、それが完成すると直営店率を上げることで今では10%を超える高い利益率を達成されています(他の企業は2%前後)。価格が一定の100ショップなら、POSのデータをきちんと活用すれば店舗毎の各製品の需要が定量的に捉えやすく予測しやすいと気づきシステム化まで持って行かれた慧眼と覚悟が素晴らしいと思います。

また、日本のネット企業を代表する存在でもありますが、ヤフー株式会社ですね。スマホ時代に対応するため思い切って経営者を若返らせ、おそらく大変な混乱を伴ったと思うのですが事業を成長させ続け、今のポジションがあります。直近でも、PayPay事業でも大変なリスクを伴う投資をされていました。彼らは、データ活用の最先端企業ですから、自分たちの状況も正確に理解できているのでしょう。危機感が他社とは違います。手をこまねいていたら、GAFAに市場を根こそぎ持っていかれると考えているのだと思います。しかし研究開発の投資規模では、資金が潤沢なGAFAの足元にも及びません。その制約条件の中で生き残りを模索しているわけですから、必死さがぜんぜん違います。

日本人は優秀だと私は思っています。覚悟を決めて、本気で取り組めば、必ず未来はあるはずです。もはやチャレンジするしか生き残る道はありません。楽観的なことを言う人もいますが、私は甘い見通しは言いたくありません。ここまで日本社会を変えられなかった後悔と絶望を繰り返したくないからです。

今、アメリカのテックジャイアントでリストラの嵐が吹き荒れています。彼らの衰えを指摘する人もいますが、そこで思考を止めてはいけません。リストラとは贅肉を落とすことですから、そうでなくても強大な彼らがさらに筋肉質になって、次の景気回復期に我々の前に立ちはだかるわけです。

日本企業が対抗するためには、今いる社員のリスキリングも必要ですし、企業統廃合によるダイナミックな業界再編成も必要です。想像以上の痛みが伴うことになるでしょう。その痛みを覚悟した企業や業界を、私たちも覚悟を持って支援する――ブレインパッドをそういう会社に作り上げていきたい。

データサイエンティストとコンサルタントのコラボレーションが価値を生む会社に

DOORS ブレインパッドでは今コンサルタントを増員しています。高橋さんが目指すブレインパッドに必須だからでしょうか。

高橋 お客様の変革を実現する上で、構想から支援するのが職務であるコンサルタントを強化するのは当然の理です。しかし私はブレインパッドをコンサルティング会社にしようと考えているわけではありません。

ブレインパッドはデータ分析の会社です。データサイエンティストが日本で一番活躍できる会社だと自負しています。ブレインパッドの価値の源泉はデータサイエンスであり、今後もそのことを変えるつもりもありません。

しかしデータに関する高度な専門性だけでお客様に価値を提供できるでしょうか。データサイエンティストは基本的にはビジネスサイドの求めに応じてデータ分析をすることが仕事です。しかしビジネスに価値をもたらすためには、お客様に働きかけて、解くべき課題を気づかせることが必要になります。その役割をコンサルタントに求めているのです。

コンサルタントがその役割を引き受けてくれることで、データサイエンティストの価値も向上します。また仕事の機会も増えます。価値と機会の掛け算でブレインパッドの価値も高まります。その結果、ますます社員の価値が高まるという好循環が生まれます。

もちろんお客様に働きかける力は、データサイエンティストにも必要です。しかしコンサルタントにデータサイエンティストと同様の分析スキルを求めるのは難しいのと同じで、データサイエンティストにコンサルタントと同様のスキルを求めるのも合理的ではありません。

だからデータサイエンティストとコンサルタントはお互いのコンピテンシーや気質をもっと理解し、お客様に対して自分がなすべきことをもう一度見つめ直して、切磋琢磨しながらコラボレーションを進めてほしいのです。このコラボレーションこそがブレインパッドを成長させる大きな要因だからです。

DOORS データサイエンティストとコンサルタントのコラボレーションで、結局はお客様に何を提供していくのでしょうか。

高橋 私がブレインパッドをコンサルティング会社にしないと言っているのは、そもそもビジネスモデルが違うからです。コンサルティング会社のビジネスは、家庭教師として入ったはずなのに子どもの代わりに宿題を解いているのに似ています。これでは子供の学力は上がりません。私たちのビジネスは、釣った魚を与えるのではなく、釣り方を教えるというものです。私たちのミッションである「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」を思い出してください。お客様が求めるがままに、お客様の課題を私たちが解決してしまうのはお客様にとって決していいことではありません。いつまでも自走できない会社は持続可能と言えないからです。

私たちのビジネスの本質は、お客様のデータ活用を支援することです。それも私たちが解くだけではなく、お客様も解けるようにしていく。その結果、一緒に始められるビジネスが出てくるのであれば、それはそれで進めていけばいいと考えます。

ただブレインパッドが単独でイノベーションを起こすことはあまり考えていません。イノベーションにはビジネスとの掛け算が必要で、データ分析だけでイノベーションができるとは考えていないからです。それに、一社だけで起こすイノベーションより、日本中の会社と幾つものイノベーションを起こした方が日本を早く変えられると思っています。もし、日本中のどの企業もイノベーションを起こすつもりがないというのであれば、改めて自らそれを起こすことも考えるかもしれません。しかしそうでないのなら、データを活用することでお客様がイノベーションを起こせるよう支援していくのが我々の使命だと思っています。

DOORS 最後にこれからのブレインパッドの社員に求めることを教えてください。

高橋 データサイエンティストに求めることは、今持っている以上の業界ドメイン知識とビジネスプロセス知識です。そこを今コンサルタントに補ってもらっていますが、上流から下流へと流れていくビジネスプロセスの中で、どこかの時点からはデータサイエンティストが直接現場のユーザーと会話できるようになることが必要不可欠です。一方でAIを含めた最先端のテクノロジーをキャッチアップすることは、当然の大前提ですから、そこはもちろん怠らないで欲しいと思います。 最後に全社員に求めることは、プロ意識を常に持ち続けてくださいということです。プロと呼ばれるためには、成長し続けなければなりません。慢心が一番の敵なのです。

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「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント

 



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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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