DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?今さら聞けない意味・定義・事例をわかりやすく解説【2023年最新版】
- [執筆者]
- 高田 洋平
DX(デジタルトランスフォーメーション)が流行し、はや数年が経ちました。読者の皆さまも、ビジネスや生活においてDXに触れる機会が増えているのではないでしょうか。
本記事ではここ数年のアップデート等もふまえ、DXとは何かについて、様々な角度から解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?意味や定義
DX(デジタルフォーメーション)とは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応するために、デジタル技術を活用し、業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、新たなデジタル時代にも十分に勝ち残れるよう自社の競争力を高めること」を指します。
しかし、DXという言葉を用いるに当たっては、その本質的な意味を理解する必要があります。以下で、DXの定義とその変遷について詳しくご説明します。
DXの起源
DXは、Digital Transformationの略です。Transformationとは「変形」「変質」「変容」という意味なので、日本語に置き換えれば「デジタルによる(ビジネスや生活の)変容」を意味します。Trans-がしばしばXと略されることから、Digital Transformationの略語としてDXが定着するようになりました。
DXの起源は、2004年にスウェーデンのウメオ大学に所属するエリック・ストルターマン教授が提唱した「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という「社会の変化」を表した概念でした。
DXは学問的な用語として提唱され始めましたが、ビジネスの世界にさまざまなデジタル機器やソーシャルメディアなどが入り込んだ結果、2010年代を通して、DXという言葉が少しずつビジネス用語として浸透していったと考えられます。
日本における定義と変遷
日本では、経済産業省が2018年に発表した、通称「DXレポート」(後述)をきっかけに、DXという言葉が浸透していきました。経済産業省のガイドラインでは、DXを以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
また、IPA(情報処理推進機構)ではDXを以下のように説明しています。
デジタル技術の活用によって企業のビジネスモデルを変革し、新たなデジタル時代にも十分に勝ち残れるように自社の競争力を高めていくこと
このように、いずれの説明でもDXをビジネスと結びつける説明が日本では定着しています。デジタルを広く活用することで、ビジネスモデルや製品・サービスを変革することが、DXだと考えられます。
【DXの定義を改めて理解する記事】
変革プランナーにとってのDX推進の急所~第1回 いまさらながらDXとは何か?~
また、2022年2月には、ストルターマン氏により、DXを推進する日本の様々な組織の現状に合わせて、社会、公共、民間の3つのレベルで、デジタルトランスフォーメーションの定義が再策定されているほど、DXは年々、定義がアップデートされています。
【参考記事】デジタルトランスフォーメーションの定義の改訂(デジタルトランスフォーメーション研究所)
では、DXとよく混同される「IT化」との違いは何でしょうか。ここからは、DXと混同されやすいキーワードとの違いを解説します。
DXとIT化との違い
IT化の意味
一般的にIT化とは「既存の業務プロセスは維持したまま、その業務の効率化・強化を図るためにデジタル技術やIT・データ活用を導入すること」を指します。
例えば、電話や手紙であった連絡手段が、メールやチャットツールなどに置き換わったのはその典型です。連絡の是非自体は問われることなく、ツールを導入することで効率化が図られたことになります。
DXは「人々の生活をよい方向に変化させるような、製品・サービスやビジネスモデルの変革を起こすもの」です。したがって、IT化はDXの手段であり、DXはIT化の先にある目的であると考えられます。
DX・IT化による変化の違い
IT化による変化は「量的変化」、DXによる変化は「質的変化」と言えます。
IT化は、既存プロセスの生産性を向上させるものです。何がどのように変化するか、社内でもわかりやすいのが特徴です。
それに対してDXは、プロセス自体を変化させます。単に「作業時間が減る」「作成プロセスを自動化する」などのわかりやすい変化ではなく、「顧客との接客方法がデジタルを通じて根本的に運用が変わる」「デジタルを用いて物流の配送計画における確認プロセスが抜本的に変わる」など、会社全体に関わるようなドラスティックな変化であるのが特徴です。
DX、デジタイゼーション、デジタライゼーションの違い
DXと似た用語として、デジタイゼーション(Digitization)やデジタライゼーション(Digitalization)も存在します。この2つは非常に混同しやすいのですが、下図のように、DXが全社規模で価値創出にこだわるデジタル化であるのに対し、デジタライゼーションは特定のプロセスに限ったデジタル化、デジタイゼーションは紙やパンチカードなどの物質的な情報をデジタル形式へ変換することを指します。
参考:「経済産業省「DXレポート2 中間取りまとめ(概要)」P.25
【発展内容】DXがビジネスに求められる理由と日本企業の課題
では、デジタルによるビジネスの変革がなぜ必要になるのでしょうか。
既存システムの老朽化とIT人材の活用
日本企業のDXを阻む問題として、「既存システムの老朽化」と「人材不足」の2点が挙げられています。 調査では、約8割の企業が老朽化したシステムを抱えており、約7割の企業がそれをDXの足かせと感じているという結果が出ています。ドキュメントが整備されていない、データ連携が困難、多大な改修コストがかかるなどの理由で、デジタルを活用した価値創造が難しいというのです。
この点は、人材不足の問題も関わっています。IPAによれば、DXを推進する人材が大幅に不足しておりますが、その要因の一つとして老朽化したシステムの運用・保守に人材を割かれてしまっているという点がを挙げられることができるためです。仮に先端的な技術を学んだIT人材が入ってきても、老朽化したシステムの運用・保守に充てざるを得ず、結果として高い能力を使いこなせていなかったり、離職してしまったりと、IT人材の確保に苦労している実情が読みとれます。
以上の課題を踏まえると、日本企業がDXを進めるためには、既存システムを含めたシステムの再構築と、IT人材の育成・活用が大きな鍵となることが分かります。
2025年の崖とDXレポート
また、経済産業省は、DXを実現していく上での課題やそれらの課題への対応策を明らかにするために研究会を設置し、そこで行われた議論を「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~(以下、DXレポート)」と題した報告書にまとめ、2018年に発表し、以降、現在に至るまで、4回にわたり発表しています。
以下では、各DXレポートの要点をまとめます。
2018年:「DXレポート」(「2025年の崖」問題)
2018年発表の「DXレポート」で、経済産業省は、DXを進めるための課題を克服できなければ、日本は将来的に大きな損失を生むと予測し、「2025年の崖」と表現し、警鐘を鳴らしました。
2025年の崖とは、2025年だけではなくそれ以降を含めてDXを実現できなかった場合に生じると思われる経済損失を示しています。
経済産業省によると、企業がグローバルなデジタル競争に敗北し、システムの維持管理費がさらに高騰し、サイバーセキュリティや事故・災害による損失が発生することで、毎年12兆円にものぼる巨額の損失が発生するとのことです。
【「2025年の崖」解説記事】
2025年の崖とは?経産省が示す日本企業DXの現状と課題・対策
2020年:「DXレポート2」(「システム刷新」から「ビジネス変革」へ)
2018年に公表された第1弾レポートの内容とそれ以降の動向、特に新型コロナウイルスの感染拡大による影響を踏まえ、企業の取り組むべきアクションプランが具体的に示され、「DXレポート2」はより実践的な内容になりました。
2018年の第1弾の発表以降、経済産業省ではガイドラインを整備したり、自己診断のための指標を策定したりと、企業のDX推進を支援するための仕組み作りを進めてきました。しかしながら、2019年および2020年のデータ分析によると、相変わらずDXの遅れは解消されていないことがわかりました。
「コロナ禍が事業環境の変化の典型であると考えると、DXの本質とは、単にレガシーなシステムを刷新する、高度化するといったことにとどまるのではなく、事業環境の変化に迅速に適応する能力を身につけること、そしてその中で企業文化(固定観念)を変革(レガシー企業文化からの脱却)することにある」とレポートでは強調されている通り、前回のレポートより企業の方向性を具体化し、「レガシーシステムを刷新すればよい」という誤解の払拭を意図した内容にもなっています。
【「DXレポート2」解説記事】
経済産業省「DXレポート第2弾(2020年)」公表に見るコロナ禍での企業変革の重要性
2021年:「DXレポート2.1」(ユーザー企業とベンダー企業の相互依存問題)
DXレポート2.1では、これまでの2つのレポートの結果を受けたうえで、課題を「ユーザー企業・ベンダー企業の企業のあり方」に絞っています。
「DXレポート2」では政策の方向性として、「レガシー企業文化からの脱却」、「ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進」の必要性を示しました。
また、企業がラン・ザ・ビジネス(守りのIT投資)からバリューアップ(攻めのIT投資)へ軸足を移し、アジャイル型の開発等によって事業環境の変化への即応を追求すると、その結果として、究極的な産業の姿としてユーザー企業とベンダー企業の垣根が無くなっていくとの方向性を、DXレポート2.1では示しました。
【「DXレポート2.1」解説記事】
【前編】DXレポート2.1を解説。DXで企業が目指す「デジタル産業」とは?経産省が描く企業の経営課題と将来像
【「ユーザー企業・ベンダー企業の企業のあり方」についての解説記事】
データドリブン変革を阻む「ベンダーロックイン」とは
2022年:「DXレポート2.2」(デジタル産業宣言)
これまでのDXレポートの内容を踏まえ、DXをさらに推進するため、デジタル産業の変革に向けた具体的な方向性やアクションを提示しています。
具体的には、企業に向けて以下3点のアクションを提示しました。
- デジタルを、省力化・効率化ではなく、収益向上にこそ活用すべきであること
- DX推進にあたって、経営者はビジョンや戦略だけではなく、「行動指針」を示すこと
- 個社単独ではDXは困難であるため、経営者自らの「価値観」を外部へ発信し、同じ価値観をもつ同志を集めて、互いに変革を推進する新たな関係を構築すること
DXレポート2.1で示した通り、日本においては、個社単独でのDXが困難な状況にあります。
そのため、産業全体での変革が必要であり、目指すべき産業の姿として「デジタル産業宣言」を策定したのです。
【発展内容】DX推進のための4ステップ
では、実際にDXを進めるためには、どのようにすればよいのでしょうか?以下で、DX推進の手順を大きく4つに分けてご説明します。
ただし、ここでご説明するのは一つの例ですので、個々の企業に合わせた進め方を検討することが求められます。
ステップ1|自社の現状・課題を把握する
DXを推進するにあたり、まず自社のビジネスや社内状況を正確に理解し、可視化することが重要となります。既存のシステムや情報資産、そして人材の能力や適性といった「ヒト・モノ」を全面的に把握することが含まれます。
これらの情報をもとに、企業は自社の強みと弱みを明確にし、DXの方向性を定めることができます。
また、これらの情報はDXの進行に伴い更新されるべきものであり、常に最新の状況を把握し続けることが求められます。これにより、企業はDXを効果的に推進し、ビジネスの競争力を高めることが可能となります。
先入観や固定観念に囚われずに、DXで解くべき課題かどうかを見極めることが本ステップでは何より重要になります。
【DXにおいて「自社の現状を把握する」ための考え方についての解説記事】
変革プランナーにとってのDX推進の急所 第3回 変革プランナーにとって必須のスキル
ステップ2|人材・組織体制を構築する
DXを推進するためには、適切な人材アサインとそれを支える組織体制の構築が不可欠です。
既存組織で対応が可能なのか、新たに専門部署・チームを立ち上げるかなどの検討も必要になります。
なお、「DX人材」とは主に以下の職種をさします。
こうしたDX人材を確保するには、外部の人材を確保する方法と、既存社員のリスキリングやDX人材育成を実施する方法があります。
【関連記事】
- 【社員が解説】データサイエンティストとは?仕事内容やAI・DX時代に必要なスキル
- DX人材とは?必要な役割やスキル・マインド、人材育成のポイントを解説
- リスキリング(学び直し)とは?意味・事例や導入メリットを解説
ステップ3|デジタル化により業務効率を向上させる
デジタイゼーションやデジタライゼーションによって業務効率が高まり、会社全体の生産性が向上するとともに、DXに対する期待値やDX実現によってもたらされるメリットを社内に周知することができるでしょう。
このデジタル化は部署ごとの短期的な視点ではなく、全社的な長期的な視点で進めるようにしましょう。これによって全社的な業務最適化が可能となり、組織全体の生産性向上につながります。
ステップ4|データを蓄積・分析・活用する
デジタイゼーションやデジタライゼーションによって業務をデジタル化することで、企業はさまざまなデータを取得できるようになります。これらのデータは、顧客の行動パターン、商品の売上動向、業務の効率性など、多岐にわたる情報を含んでいます。
これらを適切にデータ分析し、活用することで、企業は自社のビジネスをより深く理解し、新たなビジネスチャンスを見つけ出せます。
データに基づく意思決定は、組織の変革を促進し、企業の競争力を高めます。データは新たな価値創造の源泉であり、デジタル化によって得られるデータを活用することは、ビジネスや組織の変革を実現する重要なステップとなります。
【「データ分析・活用」関連記事】
DXの先進事例:業界ごとに解説
では、日本の大企業ではどんなDXを推進しているのでしょうか?ここからは、DXの先進事例をいくつかご紹介します。
【「DX事例」関連記事】
【2023年最新版】DX事例26選:7つの業界別に紹介~有名企業はどんなDXをやっている?~
先述した「DXピラミッド」と照らし合わせると、より理解が深まるかもしれません。
【製造業×DX】キリンビール ~DXを活用したサプライチェーン業務の変革~
将来にわたってお客様へ商品を安定的にお届けし続けるためには、市場の変化に迅速に対応するとともに、より強固な供給体制の構築が必要です。そのため、キリンビールは2021年4月に「SCM(Supply Chain Management)部」を新設し、需給業務における、安定供給とコストの最適化の実現を目標として掲げました。
本プロジェクトは「需給業務のDXを推進・加速していく」位置づけとし、目的を、
①物流コストの最適化や業務効率化による自社の経済的価値の向上
②物流負荷の軽減やCO2削減による社会的価値の創出・創出し続けるための業務基盤構築
に定めています。
※補足すると、物流業界では現在「2024年問題」が話題として挙がっており、DXによる業務変革が求められています。2024年問題について詳しく知りたい方は以下の記事もあわせてご覧ください。
【関連記事】
物流2024年問題とは?社会や運送業界への影響と対策法をわかりやすく解説
本プロジェクトは、第1弾として2022年12月にブレインパッドと共同開発した「資材需給管理アプリ」を運用していましたが、第2弾として2023年7月より「製造計画作成アプリ」の運用を開始しました。
【キリンビールの先進事例解説記事】
- 【DX事例】「未来の需給」をつくる、キリンビール「SCM(サプライチェーンマネジメント)」の挑戦~DOORS -BrainPad DX Conference- 2023 テーマ別 企業DX対談~
- サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?成功事例や必要性・メリットをわかりやすく解説
ちなみに製造業は「人材不足の深刻化」や「データ活用の停滞」といった課題がまだまだ多く存在しており、製造業DXのニーズは今もなお高まり続けています。製造業DXの導入の進め方や成功事例については以下の記事にもまとめているので、あわせてご覧ください。
【関連記事】
製造業DXとは?導入の進め方と4つの成功事例をご紹介
【製造業×DX】トヨタ自動車 ~AIや機械学習を駆使して材料研究・開発の解析時間を大幅に短縮~
自動車をつくるだけでなく、これまで築いてきたアセット(資産、財産)や培ってきた技術を使って、「社会課題に向き合う」新規事業が始動しました。
自動車業界のみならず、何か社会を変えることができないか、社会全体に貢献していきたいという気持ちから生まれた取り組みです。
その一環として、AIや機械学習を駆使して材料研究・開発の解析時間を大幅に短縮する、「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」という新サービスを提供しています。
DXにつながるツールを外販することで、みんながコーディングフリーでデータを使いこなし、より早く、良いものがつくれるようになれば喜ばしく、それが社会全体の改善につながると、トヨタ自動車は考えています。
【トヨタ自動車の先進事例解説記事】
【シリーズ】経営者の隣にデータサイエンスを。Vol.2 データサイエンスでものづくりの未来を開く「材料開発のDX」でトヨタが目指すもの
【金融業×DX】りそなホールディングス ~先進的な銀行アプリで、今まで会えなかったお客様と会う~
りそなグループアプリは、「スマホがあなたの銀行に」をコンセプトに、さまざまな手続きをかんたんに完結できるアプリです。他社に先駆けて金融サービスのデジタル化を推し進め、2022年3月にはすでに中期経営計画目標の500万ダウンロードを突破しています。
りそなグループには約1,600万人の個人のお客さまがいるにもかかわらず、対面で営業できていたのは10%を切っており、残りの90%のお客さまに対して、能動的な接点がありませんでした。残りの90%のお客さまにより良い金融サービスを届けるにはどうしたら良いかを考えた結論がスマホアプリだったのです。
りそなグループアプリ上の行動を分析すると、アプリの使い方と外貨預金の利用に相関関係があることが見えてきたことから、預貯金額を軸にしない新たな切り口でお客様を抽出し、その方々に対して提案活動を行ったところ、以前の約2倍のコンバージョンを達成するなど、成果を積み重ねています。
また、りそなグループアプリが軌道に乗り始めた2018年後半から、より俯瞰的に、グループのビジネス高度化を考える必要性が高まってきました。そこで注目したのが『データ』です。リアル店舗からアプリまで、多様化する顧客接点で得たデータを分析・活用することで、各サービスの継続的改善に向けたPDCAサイクルを回す。同時に、一層の新規サービス創出やマーケティング高度化に生かしたいと考え、これらの取り組みを担う中核組織として「データサイエンス室」(現在は「データサイエンス部」)を立ち上げるなど、データ活用の内製化にも積極的です。
【りそなホールディングスの先進事例解説記事】
- 金融DXで先行するりそなホールディングス。データサイエンスの専門家と共にデジタル変革の自走化を目指す
- 【シリーズ】経営者の隣にデータサイエンスを。Vol.4 データの力で持続可能な変革を推進する りそなHDが目指す、新しい銀行の形
- 銀行アプリの先進的存在・りそなグループアプリから学ぶ、顧客接点のデジタル化とその先
【小売業×DX】アサヒグループジャパン ~全員をDX人材に育成~
「DX銘柄」としても業界内外から注目を集めるアサヒグループジャパン。「飲食×デジタル」で新規ビジネスの創出を目指す「Food as a Service構想」を掲げ、業界をリードしています。
DX=BX(Business Transformation)であるという考えのもと、新価値を創造しビジネス変革を起こすためのValue Creation(VC)人材像を定義しました。
その流れで、新たな発想でアイデアを創出しかたちにする「クリエイティブ・ビジネス企画」コースとデータから新しい価値を生み出す「ビジネス・アナリスト」コースの育成プログラムを開始。社内で希望者を募ったところ、想定の2.5倍以上の536人の応募が殺到したといいます。
同社のDXを推進する野村氏は、「組織そのもの・どの部門であってもDXにつながる」と考え、「実際にトランスフォーメーションはどの部署にも可能性はあります」と言います。
【アサヒグループジャパンの先進事例解説記事】
熱意を持った社員を育成し、新たな価値を創出:アサヒグループの挑戦
DXによる解決が期待される社会課題
DXは事業拡大だけでなく、社会課題の解決にも取り入れていく必要があります。例えば次のような社会課題です。
2040年問題(人口減少・高齢化による労働力不足)
2040年問題とは、「2040年に日本の高齢者人口(65歳以上)割合がピークに達し、生産年齢人口の割合が急激に減少する問題」を指します。日本では近い将来、高齢者人口の増加に伴う労働力人口の減少が想定されており、DX推進による生産性向上が喫緊の課題となっているのです。
また、地方公共団体に目を向けると、2020年12月に総務省によって策定された、「自治体DX推進計画」にて、「希少化する人的資源を本来注力するべき業務に振り向けるため、地方公共団体の業務の在り方そのものを刷新することが必要」と記載があり、自治体のAI・RPAの利用推進といった業務DXにより、社会課題や社会ニーズの変化に対応を進める旨が明記されています。
2050年カーボンニュートラル(気候変動・エネルギー)
近年、世界的な平均気温の上昇や海面水位の上昇等の地球温暖化が叫ばれており、これに伴う気候変動によって世界各地に様々な影響が現れています。
特に、気候変動の原因となる温室効果ガスについては、2020年10月には当時の政府が2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。
【関連記事】
カーボンニュートラルとは?2050年に日本が実現を目指す環境目標と進め方
その後、2020年12月に発表された経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」には、「グリーン成長戦略を支えるのは、強靱なデジタルインフラであり、グリーンとデジタルは、車の両輪である」と記されています。
テレワークの実施による公共交通機関利用抑制による電力コストのカット、食品業界の廃棄ロスやコスト削減を実現するAI需要予測など、カーボンニュートラル実現のために、さまざまな分野でDXが欠かせないと考えられています。
GX(グリーントランスフォーメーション)の実現
また昨今、カーボンニュートラルや温室効果ガス削減のために取り組む活動や変革であるGX(Green Transformation:グリーントランスフォーメーション)が注目されています。
GX実現には、デジタル技術を用いた情報の管理が必須で、IoTの活用によるカーボン排出量のモニタリングや、デジタル技術の活用可能性を探る必要性があり、GXを推進する上で、DXは急務の課題と言えます。
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GX(グリーントランスフォーメーション)とは?企業の取組事例やビジネスにおける必要性
医療DX
厚生労働省「医療DXについて」には、先般の新型コロナウイルスの世界的な流行を受け、「平時からのデータ収集の迅速化や収集範囲の拡充、医療のデジタル化による業務効率化やデータ共有を通じた医療の「見える化」の推進等により、次の感染症危機において迅速に対応可能な体制を構築できることとしておくことが急務。」と明記があります。
医療分野において、「保健・医療・介護の各段階(中略)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変える」ためには、DXが必要不可欠と考えられています。
物流2024年問題
物流2024年問題とは「働き方改革関連法によって、自動車運転が伴う業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることで生じる課題群」を指します。
先日、岸田首相が”置き配を選ぶ消費者にポイント付与”、”鉄道・船舶輸送の強化”などを盛り込んだ、「物流革新緊急パッケージ」を発表しました。その背景にも「物流2024年問題」があります。
配送ルートの最適化や、トラックドライバーの業務時間の可視化など、様々な場面でデジタルを活用し、DXを推し進めることが、課題解決の糸口になると考えられます。
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物流2024年問題とは?社会や運送業界への影響と対策法をわかりやすく解説
DXの最新動向
DXは「完了すれば終わり」ではなく、企業変革後も随時更新していかなければならない取り組みです。本節では、日々進化するDXについて、最新動向をまとめます。
政府の動き
デジタル行財政改革会議の始動
政府は、令和5年10月6日の閣議決定において、「デジタルを最大限に活用して公共サービス等の維持・強化と地域経済の活性化を図り、社会変革を実現する」ために、『デジタル行財政改革会議』を発足させました。
第1回会議では、岸田総理自ら「介護事業者向けのDX支援」に言及し、また、オンライン診療の拡充等「医療DX」の検討の加速を指示しました。また、教育分野においては「プッシュ型子育て支援や保育DXによる現場の負担軽減」「子供や家庭に寄り添った相談業務のDX」の推進を指示しました。そして、「避難所等におけるマイナンバーカードの活用」など、「防災DX」の加速にも言及しました。
【参考】
各分野で「DX」推進の動きが多く見られ、今後の取り組みにも注目です。
地方自治体の動き
「埼玉版スーパー・シティプロジェクト」(埼玉県)の始動
「超少子高齢社会を見据え、市町村の「コンパクト」「スマート」「レジリエント」の3つの要素を兼ね備えた持続可能なまちづくりを県が支援するプロジェクト」として、埼玉県は「埼玉版スーパー・シティプロジェクト」を本格始動しました。
この取り組みにより、都市機能のデジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)を強力に推し進めます。
【参考】埼玉版スーパー・シティプロジェクトについて(埼玉県)
総務省「自治体DXの推進」ページを参照すると、自治体DX推進参考事例集が確認でき、全国の自治体でのDXへの取り組み状況が確認できます。
国内企業の動き
住友化学株式会社:社内向け生成AIサービスを導入
住友化学株式会社は、生成AIを活用した自社版チャットツール『ChatSCC』を開発。約6,500名の全従業員を対象に運用を開始しています。
一般的なオフィス業務(文書作成、校正、プログラムソースコード生成など)利用に加え、技術アイデアの創出や研究・製造データの分析に活用することも視野に入れているとのことです。
【参考】社内向け生成AIサービス「ChatSCC」の運用を開始~飛躍的生産性向上と独自データの有効活用を目指す~
DXに関連するキーワード
DXが成功するためのキーワードはいったい何でしょうか。ここからは、いくつかのDX事例を通して浮かび上がった主な関連キーワードを、ブレインパッドならではの視点で列挙します。
データドリブン経営
いわゆる高度なDXを推進している企業にも共通しているのは、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切り、成功していることにあります。
すなわち、データが活用される場面が増えることは、DXが進むことと同義と言えるのではないでしょうか。残念なことに現在、データの活用率は3%と言われていて、まだまだデータ活用が進んでいないことも事実です。しかし、見方を変えて見ればどうでしょう。残り97%に活用の余地があるとも言えます。
企業に「データ活用」という力を加え、データを隅々にまで巡らせることが、DXを成功に導く、つまり日本のビジネスを成功に導くチャンスになるのです。
【関連記事】
DXリーダー
DXの成功ポイントである、データドリブン経営を推進するためにはデータ、デジタルに精通した旗振り役の存在が必要です。最近は、「CDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者あるいは最高データ責任者)」を新たに据える企業が増えています。
DXは組織横断で進めることが望ましく、事業部門やシステム部門レベルで成し遂げることは難しいと考えられます。経営層がリーダーシップを示し、内外に明確なメッセージを発信して全社的な組織およびビジネスモデルの変革を成し遂げるという覚悟を持って進めている企業は、DXを先進、成功させているといえます。
【関連記事】
DXの担い手「CDO」とは?DX成功のカギは、デジタル化を推進する専門組織にあり
【関連資料】
DXリーダーの格言集
顧客視点
大手セレクトショップのユナイテッドアローズでは、顧客からのデータを大量に取り続けることで製品づくりに生かしています。これは顧客の顕在的なニーズを捉えるだけでなく、潜在的なニーズを発見し、製品づくりまで変革するためです。
【関連記事】
【前編】ユナイテッドアローズが考える「データの価値」 ~BrainPad DX Conference 2022~テーマ別 企業DX対談
また、オルビスでは、顧客の利便性を重視して販売チャネルの区切りをなくしました。それによって顧客から見える「ブランド」を統一し、結果としてブランドの価値を上げています。自社目線ではなく、徹底的に顧客視点・マーケット視点で事象を捉えて行動していることも、DX成功のポイントと言えます。
【関連記事】
【前編】「サスティナブルなDX」を目指すオルビスの未来~DOORS BrainPad DX Conference 2021~#Cross-Talk Session
人材育成/リスキリング
最新のIT技術があっても人間が使いこなせなければ意味がありません。
また、使いこなせてもビジネスの成果に結びつけられなければならず、データをビジネスに活用することを促す企業文化がなければ取り組みは拡大・定着しません。
また、リスキリングとは、ビジネスパーソンが新たな知識を学び直すことです。AIや機械学習を使いこなすためには、データ分析手法を社内のさまざまな人材がリスキリングによって身につける必要があります。
「人材育成/リスキリング」記事一覧はこちら
DXの内製化
内製化は、人材や物資、情報、技術などを外部に委託せず自社で賄うことを指します。
DX以前から内製化という言葉自体は存在しますが、データの力をビジネスに最大限活用するには、自社の人材がデータ分析や最新のIT技術を理解することが欠かせないため、特にここ2~3年、DX推進の文脈でも頻繁に用いられるようになりました。
データドリブンな意思決定や業務効率化によって生まれた時間的な余裕を、より価値のある新しい事業を考えるために使えるような内製化こそ「真の内製化」です。
【「DX 内製化」解説記事】
DXの「内製化」とは?ビジネス価値の創造をもたらす真の内製化
【参考記事】
DX先駆者から感じた、DXを前進させるための5つの秘訣~DOORS BrainPad DX Conference 2021~#Summary
また、ゆくゆく内製化を実現することを視野に入れてスムーズにDXを進めるためには、外部パートナーの伴走支援を受けるのも一つの方法です。
企業はまず戦略という自社の❝意志❞を持ち、その意志に共感し、伴走できるパートナー企業を定め、進めていくことがベストであり、パートナー企業は必要なケイパビリティを持っていることはもちろん大前提ですが、受発注関係を超えて、クライアントに寄り添いながら課題を共に解きにいく姿勢が求められているとも言えます。
生成AI
近年では生成AIが世界中で注目を集めており、テキスト生成AIの「ChatGPT」や画像生成AIの「DALL·E 2(ダリ・ツー)」をはじめとした多種多様な生成AIがビジネスシーンや日常生活で活用され始めています。
従来のAIは「学習済みのデータの中から適切な回答を探して提示する性質」を持っていましたが、生成AIは「0から1を生み出す」性質が特徴的です。
これまで0から1を生み出す作業は人間にしかできないものでしたが、生成AIの登場によって「アイデア創出」さえもAIに任せられるようになり、より創造性の高い作業も自動化できるようになりました。
こうした生成AIをビジネスシーンでいかに有効活用するかも、DX推進のカギになってくるといえます。
【「生成AI」解説記事】
生成AI(ジェネレーティブAI)とは?仕組みやChatGPTとの関連性を解説
ESG
ESG(イーエスジー)は、環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の頭文字を合わせた言葉です。気候変動や人権問題などの課題解決が世界的に重要視されている中、持続可能な世界の実現に必要な観点である「ESG」を意識した経営・取り組みが国内国外問わず見られるようになってきました。
そんなESG経営にはDXが不可欠です。例えば環境課題の有力な解決策と言われるサーキュラーエコノミー(循環型経済)。
サーキュラーエコノミーではモノの生産・消費は「動脈」、回収・再使用は「静脈」と例えられ、この動脈と静脈の需要を一致させることが重要であり、そのためにはデータ流通の仕組み構築が求められます。このように、DX化はESG経営の基盤に他なりません。
【「ESG」解説記事】
ESGとは?企業の取組事例やESG経営導入ステップをわかりやすく解説
SX
SX(Sustainability Transformation:サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、持続可能な社会の実現に向けた企業の変革活動です。
前述したESGは持続可能な世界の実現に必要な観点・概念である言葉に対し、SXは社会の持続性に留意した「企業活動」全般を指します。ESGを実現するための手段がSXであるようなイメージです。
ゆえにSX実現のための不可欠なツールがDXであると位置づけられます。このような文脈から、SXはDXの関連キーワードと言えるでしょう。
【「SX」解説記事】
SXとは?ビジネス事例や国内の取組状況・DXやGXとの関連性
まとめ
DXという言葉が広がり、また様々なDXに関連する言葉も増えてきました。
こうした情報の氾濫に踊らされずに、自社のDXと向き合うには、まずはDXの本質を知り、しっかりと分類することが重要です。コロナ禍を経て、より新たな消費者行動や働き方、価値観が定着する今が、デジタル化へ舵を切り、業界におけるポジションを上げられるかの真の勝負時ともいえます。
DXにより得られる成長は、ビジネス上の鉄板の勝ちパターンや正解があった過去のような右肩上がりの経済成長とは異なります。激しい環境変化の中で目を凝らし、DXへ舵を切ることが必要です。
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WRITER執筆者プロフィール
株式会社ブレインパッド
セールス&マーケティングユニット
DXメディア「DOORS」編集長
高田 洋平
大学卒業後、大手地方新聞社やビジネス系出版社を経て2020年、ブレインパッドに入社。マスコミ業界で培った企画・編集力を、同社のコンテンツマーケティングにおいて活かす。当メディアの編集長として、構想段階からローンチ、現在に至るまで運営を担っている。主に、多くの読者の方に理解いただけるようなDXのニュース、トレンド記事の執筆やその他お役立ち資料の編集を担当。
Twitterでも、日々積極的にDX情報を発信中。
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