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入社1年目が教わる「はじめての人工知能」 第8回:人工知能(AI)のプロジェクトの進め方

公開日
2020.10.30
更新日
2024.03.07

※本記事は、ブレインパッドが運営する人工知能ブログ「+AI」に掲載されている記事の転載版になります。

現在、人工知能(AI)は人びとの生活や産業に革新をもたらす技術として世界中で注目されています。本ブログではこれからビジネスにAIを活用する方に向けて、ブレインパッドの入社1年目が先輩社員から学んだAIの“基礎”を連載形式でお届けします。第8回目は「人工知能(AI)のプロジェクトの進め方」をわかりやすく解説します。

連載『入社1年目が教わる「はじめての人工知能」』も残すところ2回となりました。第7回目「人工知能(AI)のプロジェクトを推進するための基礎知識」では、最適なパートナーや提供サービスを選定するために必要となるAI・機械学習の基礎知識についてみてきました。

今回は、機械学習プロジェクトの実践的なノウハウについて学んでいきます。本稿でプロジェクト全体の流れと各フェーズにおけるポイントを理解しましょう。

機械学習プロジェクトの目的はビジネス価値の創出

機械学習プロジェクトの目的は、機械学習を用いてビジネス価値を創出することです。そのためには、適切なビジネス課題を設定し、ROI(投資対効果)を見立てた上で、計画的にプロジェクトを推進していく必要があります。

機械学習プロジェクトの4つのフェーズ

機械学習プロジェクトは多くの場合、構想とPoCを区切り、計4つのフェーズで進めていきます。

機械学習プロジェクトの全体像:フェーズの切り方(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)
機械学習プロジェクトの全体像:フェーズの切り方(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)

構想フェーズでは、プロジェクトによって解くべき課題を特定し、テーマを設定していきます。テーマの設定においては、十分に投資対効果が見込まれるテーマを見極めることが重要になります。

PoCフェーズでは、構想フェーズで立てたテーマが技術的に実現可能かどうかを、機械学習モデルのモックアップを構築して検証していきます。「PoC」とはProof of Conceptの略で、「概念検証」と直訳されます。

機械学習で得られる成果はデータの量と質に大きく依存します。そのため同じテーマで同じアルゴリズムを使ったとしても、データによって結果が大きく変わる可能性があります。機械学習プロジェクトには、こうした「実際にやってみないとわからない」という性質があるため、PoCフェーズで実用性・投資の妥当性を検証する必要があるのです。

実装フェーズでは、PoCフェーズで構築したモックアップのモデルを実際の業務やサービスで利用できるようにシステムとして構築していきます。システム化することにより、非属人的で継続的に成果が出せる仕組みを作ることができます。

そして運用フェーズでは、そのシステムを運用していきます。通常のシステムと同様の監視や機能改善作業とともに、機械学習モデルの精度を定期的にモニタリングし、モデルを改善するという作業も行います。

では、ビジネス成果を生み出すためにはどのようにプロジェクトを進めていけばよいのでしょうか。次に、リーダーの観点からみた各フェーズにおけるゴールやタスクについて解説します。

構想フェーズ

機械学習で解決すべき課題、つまり取り組むテーマを選定するのが「構想フェーズ」です。ここでのゴールは「投資判断の承認」です。

現場からボトムアップで社内決裁を取得する際はもちろん、経営陣がトップダウンでプロジェクトを進めていく際にも、プロジェクトへの投資判断が必要になります。投資判断基準となるROIなどの指標を試算します。

構想フェーズで各タスクを十分に検討したか否かで、後続の「PoC・実装・運用」フェーズが順調に進むかが大きく左右されます。表面的な体裁を整えた企画書を作り後続フェーズに入ってしまった場合、関係者の目的意識や認識の齟齬が生じたり、思うような成果が得られないことにつながります。

そのため、構想フェーズで各タスクを十分検討した上で、認識を共有することが重要です。

構想フェーズのタスク

構想フェーズでは、主に①テーマの選定、②テーマの具体化、③実行計画の立案の3つのタスクがあります。

構想フェーズのタスク(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)
構想フェーズのタスク(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)

テーマの選定では、機械学習プロジェクトにおいて解決する課題を挙げた上で、そのテーマによってどれほどの成果が期待できるのか、また利用するデータが有用なのかという観点で、取り組むテーマ候補を絞り込みます。

テーマを絞り込んだら、実際に機械学習がどのように業務プロセスに組み込まれ、それを支えるシステムがどう構成されるのかを具体的に描いていきます。その後、スケジュールや実行体制を検討し、構想書として取りまとめます。

プロジェクトのファーストステップである「テーマの選定」は、プロジェクトの成否を決するとりわけ重要なタスクです。「テーマの選定」を誤ると、その後綿密な実行計画を書いたり、精度の高いモデルを構築したりしても、ビジネスにおける課題を解決できずに終わる恐れがあります。最小限の労力・時間で、最大の成果をあげるためにも「テーマの選定」は十分に検討を重ねる必要があります。

そこで次章では、「テーマの選定」を行う上でのポイントについて詳しく解説します。

機械学習プロジェクトのテーマとは何か

機械学習プロジェクトのテーマとして成立するのは、以下の3つの条件を満たすものです。

機械学習プロジェクトのテーマ

そもそも解くべき課題である

機械学習プロジェクトにおけるテーマの条件の1つ目は、「そもそも解くべき課題である」ことです。

企業において「問題かもしれない」と考えられている事柄の中で、本当に重要な問題、すなわち「解くべき課題」は限られています。解くべき課題を見極めることで、大きなビジネス価値が期待できるだけでなく、無駄な作業を減らし、本来注力すべき部分に労力を使うことができます。

解くべき課題は、以下のような観点で見極めていきます。

  • 結論が問題の解決に直結する、あるいはその先の検討の方向性を大きく決定づけるものであるか
  • 現在の市場や他社、技術の状況を踏まえ、問いに対して明確な答えを出せる見込みがあるか
  • 結果が測定でき、客観的に評価できるか

機械学習で解決できる、扱えるテーマである

機械学習プロジェクトにおけるテーマの条件の2つ目は、「機械学習で扱える、解決できるテーマである」ことです。機械学習プロジェクトを行うので、機械学習で扱えるかつ扱うべきテーマであるというのは大前提になります。

ただし「機械学習でできること」を起点にテーマを考えてしまうと、目的と手段を履き違えてしまいます。あくまでも機械学習は「手段」に過ぎず、目的によっては機械学習以外の方法で解決するべき場合もあります。そのためにも、前述した「解くべき課題の見極め」をしっかりと行うとともに、機械学習の可能性と限界を理解する必要があります。

ROIが成立する

機械学習プロジェクトにおけるテーマの条件の3つ目は、「ROIが成立する」ことです。機械学習プロジェクトでは、プロジェクトごとにROIをしっかりと見積もっておく必要があります。

機械学習プロジェクトは、システム開発投資の一環として行われる場合もあれば、マーケティング投資として行われることもあります。担当部門や意思決定者によって求められるROIの水準も異なるため、事前に確認しておくことが重要です。

テーマ選定が重要なワケ

新しい技術は、積極的に取り入れて課題に取り組むことにより、ビジネスを大きく推進させる可能性を秘めています。いち早く機械学習プロジェクトに取り組んだ企業は、業界の中で先端的な事例を作るというアドバンテージを得ることができます。

ところが期待された結果が得られないと、今後自社だけでなく業界全体として、機械学習を用いるハードルが高まり、新たな挑戦の機会を逸する恐れがあります。業界を牽引する挑戦になるからこそ、ここで挙げた3つの条件を満たす取り組むテーマを慎重に検討する必要があるのです。

PoCフェーズ

PoCフェーズではモデルの構築にトライします。その過程で、必要なデータを揃えられるのか、構築するモデルは実用に耐えうる精度なのかなどを検証します。

PoCフェーズのゴール

PoCフェーズでは、「データ/機械学習モデル」「オペレーション」「ROI/実行スケジュール」の3つの観点で、下図の事項をそれぞれ検証していきます。

PoCフェーズのゴール(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)
PoCフェーズのゴール(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)

PoCフェーズのタスク

ゴールを達成するため本フェーズでは、①データのアセスメント、②モックアップモデルの構築、③検証項目の評価の3つのタスクを行います。

PoCフェーズのタスク(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)
PoCフェーズのタスク(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)

データのアセスメントとは、モデルを構築するのに十分な質と量のデータがあるのかを確認することです。ただし、あらかじめ実現したいモデルに必要なデータの質と量を明確に定義することは難しく、実際にはモデルを構築しながら、検証項目の評価、データのアセスメントを何度も繰り返すことが多くなっています。

近年では、AIや機械学習の興隆に伴い、AIで何が出来るのか知りたい、データを活用すれば何らかの良い成果が得られるのではないか、という曖昧な目的のままPoCを実施してしまうケースも少なくありません。その結果、「AIや機械学習でできること/できないことを知って満足した」程度で終わってしまい、その先のフェーズに続かないことが世間では往々にしてあるようです。

このようにPoCをやっただけで終わらせるのではなく、機械学習を課題解決につなげるためにも、PoCで何を検証したいのかを明確にすることが重要になります。

実装フェーズ

実装フェーズでは、構想フェーズでテーマを選定し、PoCにより実現性を検証してきた機械学習モデルを実現するシステムを構築していきます。

実装フェーズのタスク

実装フェーズのタスク(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)
実装フェーズのタスク(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)

機械学習システムの開発も「システム開発」の一種であるため、通常のシステム開発における「要件定義→設計→開発→テスト→運用」というプロセス自体に大きな違いはありません。通常の開発との大きな違いは、機械学習モデルによって必要な実装が定まるという点です。

機械学習モデルについて、「どのようなデータを使い、どのような前処理をし、どのようなアルゴリズムにより、どのような出力を得る処理をさせるのか」を要件として確定させることが必要になります。また同時に、PoCフェーズで構築したモデルを本番運用で求められる精度や処理速度へと最終化させていきます。

このように機械学習システムの実装は、通常のシステム開発とは進め方や留意点にも違いがあり、開発の歴史もまだ浅いため、理想的な方法論はこれから整備されていく段階にあります。一方で、すでに数多くの成功例もあることから、ここで解説したポイントを押さえて進めていくことが重要です。

運用フェーズ

運用フェーズでは、これまでのフェーズを経て構築された機械学習モデルを搭載したシステムを日々の業務やサービスの中で問題ないよう運用・改善していきます。

運用フェーズのタスク

運用フェーズでは、①システムの運用、②KPIモニタリング、③モデルのチューニングの3つのタスクを行います。

運用フェーズのタスク(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)
運用フェーズのタスク(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)

「システムの運用」とは、システムの監視や機能改善などのことを指し、通常の業務システムにおける運用・保守作業と同様です。他方、「KPIモニタリング」と「モデルのチューニング」に関しては、機械学習システムならではの運用タスクになります。

機械学習モデルは、学習データの質や量によって精度が大きく変化します。その学習データに変化が起きた場合、すなわち、現実に起きている事象に変化が生じた場合、モデルの精度が落ちることがあります。そのため、プロジェクトの成果を定量的に評価するためのKPIを設定して定期的にモニタリングし、必要に応じてモデルのチューニング(精度改善)をする必要があります。

運用フェーズ、そしてプロジェクト全体の目的はビジネス価値を創出することにあります。プロジェクトを進めていくと、システムを実装した時点で終了した気になりがちです。しかし、ビジネス上の価値を継続的に創出できるかは、運用フェーズでの改善がポイントです。構想フェーズで検討した「解くべき課題」が解決に向かい、想定したROIが達成できているかをきちんと確認することが重要です。

***

連載第8回目となる今回は、AI・機械学習プロジェクトの進め方について、プロジェクト全体を4つのフェーズに分け、各要点をみてきました。AI・機械学習プロジェクトは、通常の業務改善やシステム開発のプロジェクトとは異なる点が数多くあります。本稿で解説した内容に留意してプロジェクトを進めていくことで、機械学習を活用しビジネス課題を解決に導くことができます。

最終回の次回は、AI・機械学習プロジェクトの成功事例をみていきます。

今回の要点

  • 機械学習プロジェクトは、一般的に「構想」「PoC」「実装」「運用」の4つのフェーズで進めていく
  • 機械学習プロジェクトの目的は、機械学習を用いてビジネス価値を創出すること
  • 構想フェーズでは、プロジェクトへの投資判断の承認を得るため、解くべき課題を検討し、取り組むテーマを設定する
  • 機械学習は学習データの質と量によって成果が大きく変わるため、PoCで実用性・投資の妥当性を十分に検証する必要がある
  • 実装フェーズでは、PoCフェーズで構築したモックアップのモデルを実際の業務やサービスで利用できるようにシステムとして構築する
  • 運用フェーズでは、継続的にビジネス上の価値を創出できるようにシステムを運用する

参考文献

・安宅和人(2010)「イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」」英治出版
・安宅和人(2018)「人工知能はビジネスをどう変えるか」DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(2015年11 月号)
・韮原祐介(2018)「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」株式会社インプレス

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