ガールズトレンドを捉え続けるフリュー。プリントシール機開発から見えてきた「体験の価値」

公開日
2026.08.19
更新日
2026.08.19

プリントシール機やキャラクターグッズをはじめとするエンタメ事業を展開してきたフリュー株式会社。移り変わりの激しいエンタメ業界でガールズトレンドを捉え続け、2025年で30周年を迎えたプリントシール機市場においては現在シェアトップを誇っています(2026年3月末フリュー調べ)。

「カワイイ文化」を象徴するコミュニケーションツールを支えているのは、年間270回(2025年度顧客インタビュー調査実績)にのぼるユーザーインタビューをはじめとする、ユーザーデータの活用です。今回はデータエンジニアリングを担うお二人に、データ活用の最前線について詳しくお話を聞きました。

本記事は、データ横丁主催イベント「エンタメ業界のデータエンジニアリング最前線」を起点に、DOORSメディアが企画する連載「エンタメ業界のデータ活用最前線」の一編です。
技術の先にある、データ活用を通じて何を実現したいのかという視点から、エンタメ業界の取り組みを紹介します。

本記事の登場人物
  • 盛岡 尚記
    Naoki Morioka
    会社
    フリュー株式会社
    所属
    ガールズトレンド事業本部
    プリントシール機事業部 技術推進部
    役職
    部長
    2002年にオムロン株式会社に入社し、2007年フリュー株式会社のMBO及び設立とともに転籍。当初よりWEBサービスの開発を担当、立ち上げより携わっているプリ画取得サイト『ピクトリンク』において、2015年からデータ基盤構築に従事。2019年にはフリュー初のエキスパート職に就任。現在はシニアプロフェッショナルとしてプリントシール機、WEBサービスの横断的な技術向上に努めている。
  • 氏野 愛里
    Eri Ujino
    会社
    フリュー株式会社
    所属
    ガールズトレンド事業本部
    プリントシール機事業部 技術推進部 市場分析課
    2022年にフリューに中途入社。前職では通信会社に常駐し、システムエンジニアとして勤務。現在はプリ機や関連WEBサービス『ピクトリンク』に関連する利用データの分析を中心に、定量データ面からプロダクト開発を支援。
  • セールス
    松本 洋介
    Matsumoto Yosuke
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    消費者サービス事業部
    インダストリーユニット
    役職
    アカウントマネジメント部 部長
    ブレインパッド入社後、マーケティングプロダクトの提案・導入支援のほか、プロダクト事業の営業部長としてプロダクト戦略の立案・推進にも従事。 現在はエンタメ業界特化のAI・データ活用をリードし、エンターテインメントコンテンツ企業のデータドリブンなマーケティングやデータ活用戦略の構築を支援。株式会社ADKマーケティング・ソリューションズと連携したIPビジネス向け共創プロジェクト「共創ラボ」では、営業責任者として立ち上げから推進までを担う。

大失敗から始まったフリュー「プリントシール機」の歴史

株式会社ブレインパッド・松本 洋介(以下、松本) フリューは元々、オムロン株式会社の新規事業開発から誕生した会社だそうですね。その後、2007年にフリュー株式会社として独立されています。どのような経緯で「プリントシール機事業」に至ったのでしょうか?

フリュー株式会社・盛岡 尚記氏(以下、盛岡氏) 当時、オムロンでは、コアビジネスの他に、未来の社会を予測しながらさまざまな新規事業を手がけていたんです。多方面での試みの中でエンタテインメントに着目し、元々オムロンが手がけていた「画像処理技術」を活かした製品開発ができないかとの意見が出てきました。

そこで顔認証技術を活用し、撮影した顔のパーツを自動で組み合わせて、撮影者の似顔絵シールを生成する『似テランジェロ(ニテランジェロ)』が1997年に誕生。顔認証と画像処理技術を駆使したプリントシール機として、後発ながらプリントシール機市場に参入しました。

松本 1997年は、ちょうど「プリントシール文化」が最盛期の頃ですね。

盛岡氏 そうです。しかし『似テランジェロ』は大失敗してしまいまして(苦笑)。当時は似顔絵よりも、写真をそのままプリントするほうがユーザーに支持されていたわけです。さらに90年代後半がプリントシール業界の全盛期であり、そこから徐々にユーザーは減少していく傾向にありました。

松本 ただその後も、フリューはシェアを伸ばし続けています。市場が縮小していく中で、圧倒的シェアを有するまで成長されたのはなぜだったのでしょうか?

盛岡氏 ユーザーである女子中高生のトレンドを追いかけるだけというよりも、彼女たちの「ニーズ」をきちんとキャッチアップし、商品サービスを通じて提案し続けてきたからだと思います。

その背景にあるのが、ユーザーに直接話を聞く「ユーザーインタビュー」をもとにした開発手法の定着です。2000年前後から、インタビューを高頻度で実施して商品開発に活かす取り組みをスタートさせ、現在まで続いています。

『似テランジェロ』のように自分たちが面白いと思うものや技術的優位だけを押し出したものを作っても、必ずしもうまくいくとは限りません。ユーザーのニーズをつかみ、課題を解決する開発スタイルによって成果につながっていったのだと思います。


年270回のユーザーインタビューが支える、若年層インサイトの構造化

松本 まさにその「ユーザーの声を聞き続ける」という部分が、フリューの強みでもありますね。若年層のインサイトを取る仕組みとして、どのようにデータを取り、分析・行動へと反映されているのでしょうか?

フリュー株式会社氏野 愛里氏(以下、氏野氏) ユーザーインタビューは施策によって形式を変えて行っています。年間270回実施しており、インタビュー対象は学生さんです。主に1対1で行う「N1インタビュー」と、複数名で行う「ユーザーインタビュー」が中心です。

学校が終わった後、夕方に実施することが多く、フリューのオフィスがある渋谷・京都の2拠点にインタビュー専用ルームを設け、週4回以上実施しています(2025年度実績)。1回あたり4〜6名での実施が多いので、単純計算でも年間千人以上の方に参加いただいていることになります。

松本 インタビューでは、具体的にどのような質問をされているのでしょうか?

氏野氏 まずは開発段階のプリントシール機の撮影体験をしていただき、「商品評価」に関する定量的な質問をします。「写りはどうか?」「実際に体験してみた感想は?」などの質問項目をヒアリングし、ユーザーの声として定量化できるデータを取っていますね。

もうひとつはユーザーの価値観やトレンドに関する、定性的な内容の質問をしています。「今、学校ではどんなものが流行っているの?」「お小遣いの使い道は?」など、リアルな若年層の文化をキャッチするのも、インタビューの重要な目的です。どのような生活や価値観においてプリをご利用いただけているのかを知ることで、商品評価に加えて、トレンドを読む力も養っていると思います。

松本 世の中にプリントシール機が誕生してから30年が経過し、ユーザーを取り巻く環境は大きく変わりました。それに伴って、プリントシール機がもたらす体験も変わってきたのではないかと思います。インタビューを通じて、実際に「ユーザーの体験」そのものを変えようとしたことはありましたか?

ブレインパッド・松本 洋介

盛岡氏 そういったこともありましたが、ユーザーインタビューは「方向性を確認する」ために使うことが多いですね。当社のプランナーが「こういう商品企画にチャレンジしたい」と考えたアイデアを、ユーザーに聞いてみて確かめる──そうした企画側の仮説検証を行う場として、活用しています。

そのためにも徹底しているのが、インタビューで得たユーザーの言葉は、要約せずにそのまま残すこと。「この機種を使ってみてどうだった?」という質問に対して、たとえたどたどしい言葉が返ってきたとしても、そのままメモするようにしています。

要約するとどうしてもニュアンスがずれて、本来のリアルな声とは違ったものになってしまうんです。この姿勢は、インタビューに関わる全員が意識し、大切にしている部分でもあります。

フリュー株式会社・盛岡 尚記氏

定量データと定性データ。どう組み合わせて意思決定につなげるか

松本 プリントシール機の筐体やアプリから取得できる「定量データ」と、インタビューから得た「定性データ」。この2つを掛け合わせると、さまざまなデータ活用ができそうです。実際の意思決定には、どのように反映されているのでしょうか?

氏野 プリントシール機の筐体からは、プレイされたかどうかや撮影人数など、基本的なデータが取れます。さらにユーザーが『ピクトリンク』を通じてプリ画をダウンロードすると、年齢などの個人の属性情報が紐づきます。

この両軸を掛け合わせると「何歳のユーザーに利用されたか」「プリ画を入手するところまで行動が進んだか」がわかるようになり、ユーザーの認知からの利用・有料会員化に至るまでが可視化されています。新機能の搭載には、まずこうした定量データの仮説をもとに開発を進めていきますね。

意思決定に関して言えば、やはりユーザーインタビューによる定性データが強いです。若年層がプリントシール機をスムーズに操作できるかどうかは、実際にテスト利用している様子を目で見て、真意をヒアリングをしないとわからない部分があります。

盛岡氏 私自身、これまでピクトリンクにおいてイベントデータやGoogleアナリティクスを使って、ユーザーの行動を分析してきました。定量データを見れば、ユーザーの動向は把握できます。

ただ、当社には実際のユーザーに直接話を聞ける環境があります。数字を見ながら仮説を立てるだけでなく、気になったことをその場でユーザーに確認できる。そうすることで、判断に必要な情報を早く集められ、結果として意思決定のスピードも上がると感じています。

近年はピクトリンク企画担当と一緒にチームを立ち上げ、ユーザーに実際に操作してもらいながら、使い勝手や触り心地を確認する取り組みも進めています。そこで得られた意見は、できるだけすぐに改善へ反映するようになりました。

松本 フリューならではのデータが取れる状態になってきたということですね。ダッシュボードを見ていて、特徴的だと感じる傾向などはありますか?

盛岡 一番特徴的な点は「学年単位」で集計しているということでしょうか。一般的な消費者データは、生年月日をベースにした“個人”の年齢に紐づくものですが、私たちは「小学生、中学1年生、中学2年生、中学3年生…」などの粒度でデータを見ています。

例えば中学3年生は、卒業前にプリをたくさん撮りますが、進級後の4月に入ると少し落ち着きます。そこで「新しい友だち作りにプリを使おう」と促すような施策を取ると、売上が伸びていく。そうした事業戦略を、過去のデータから紐解いて描いているんです。

“学年”という同じ属性を時系列で見る手法は、他ではあまり見られないユニークな手法かもしれません。

松本 今年の中学1年生と、去年の中学1年生を「同じ切り取り方」で比較しているわけですね。仮説の検証は、どのように実施されているのですか?

盛岡 年3回程は新しいプリントシール機を市場に投入し、ユーザーの初動や認知のされ方を見ています。その際に、シミュレーションしたデータと実際の結果がズレることがあるんです。

例えば「平成プリ」という企画を実施した際、当初想定を遥かに上回る反応がありました。調べて見ると、現役女子高大生の反応も多かったのですが、当時平成のど真ん中を生きた20代〜30代の社会人の反応が想定よりも高く、SNSなどを通じて爆発的に拡散してくれていたとわかったんです。

氏野氏 『ピクトリンク』から取得しているデータと掛け合わせると「平成プリ」シリーズは、プレイしたユーザーのおよそ半数が社会人でした。1年以上プリを撮っていなかったユーザーも多く、懐かしさを求めて戻ってきてくださったこともわかりました。

データを掛け合わせていくことで仮説を検証し、休眠ユーザーの復帰が検知できた興味深い事例でした。

フリュー株式会社・氏野 愛里氏

ハードとデジタルをつなぐデータ基盤の現実と課題

松本 ハードウェアから得るデータとオンラインから得るデータを組み合わせて活用する難しさもありそうですが、その辺りはいかがでしょうか?

盛岡 確かに課題もあります。『ピクトリンク』からは行動ログがしっかり取れる仕組みが確立されていますが、プリントシール機には「取れないデータ」も多く存在しています。

プリントシール機の多くは、私たちが直接関わることができない場所──自社運営ではないアミューズメント施設に置かれていることがほとんどです。そのため「プリントシール機の周りで気になって眺めていた人」「興味は持ったが、撮影はしなかった人」など、周辺にいる潜在ユーザーのデータは、まったく取れません。

ユーザー情報も『ピクトリンク』に会員登録した方だけの属性しか分からないため、ユーザー全員を把握できるわけではないんです。

松本 なるほど。そうした課題の解決に向けて、何か取り組まれていることはありますか?

盛岡 自社運営の店舗を活用したユーザーアンケートの実施や、クーポン配布などを通じて必要なデータを補完しています。

松本 データだけではこぼれてしまう大切な情報は、実際に現地へ足を運んで取りに行き、分析を進めているのですね。

盛岡 そうですね。いま事業部として掲げているひとつの強化ポイントが「現場へ」ということなんです。私たちの原点であるユーザーの生の声を意識的に現場で拾いに行き、熱量を見るべきだと。

データが蓄積されればされるほど、現場へ行かなくても分析ができるようになり、どうしても「分かった気になるリスク」が増えます。そうしたリスクを抱えないためにも、職種や立場に関係なく全員が現場を見るようにしているんです。

氏野 本当に多くの社員が自発的にアミューズメント施設に出かけて、ユーザーの属性や新機種への反応を観察していますよね。

盛岡 デスクトップ上でデータを見るよりも、現場で10分間ほど周りを見ているだけで得られる情報のほうが多いこともありますからね。

フリュー株式会社・盛岡氏、氏野氏

AIは何を変えたか——生成AI活用の現在地と未来

松本 AIの登場により、データ活用の環境も大きく変わってきています。社内でもそうした変化の波は感じていますか?

盛岡 データエンジニアリングの現場では、コーディング支援や多言語対応、集計の自動化にAIを活用しています。最近では、定性データの前処理にも活用するようになりました。

インタビューで得た回答のうち「Yes/No」で答えられたものなど、判断が明確なデータはすでに自動集計できるようになっています。しかし、ユーザー理解の観点で言葉のニュアンスを大切にしたいと考えているため、AIだけに任せすぎないようにしています。

松本 確かに、リアルな言葉から得られる情報は大切にしたいですね。プロダクトへの直接的なAI活用事例はありますか?

盛岡 AIの画像生成技術は、プリントシール機との相性が非常に高いと感じています。

以前、イラストレーターさんとのコラボ企画で、撮影したプリ画をAIイラスト化する施策を行いました。生成した画像をSNSのアイコンに使用するなど、ユーザーからも非常に好評でした。当時はGPU調達コストの面など色々な制約があり、一旦サービスの継続を断念しましたが、今のインフラ環境ならば、再挑戦も可能ではないかと感じています。

また、この夏の新機種『FLASH』では、外装やプリ機内の各画面にフリューとしては初めて(2026年6月時点)生成AIを活用して制作したAIタレントを採用しています。開発の効率化とともに、新しい技術を盛り込んだ挑戦にも取り組んでいます。

松本 それは素晴らしいですね。他に社内向けにチャレンジしてみたいAI活用はありますか?

盛岡 私は企画担当やエンジニアからは「このデータはどう解釈したら良いですか?」と質問を受ける機会が多いので、双方の効率化のためにAIに直接回答させられないかと考えています。

今は担当者がそれぞれ答えていますが、月ごとに傾向をまとめて報告できるように自動化したいですね。個人的にはチャットでの質問にAIが回答するチャットボットを、何らかの形で実装したいと考えています。

かけがえのない時間と大切な思い出が、体験とともに蘇る

松本 誕生から30年を迎えたプリントシール機の「これから」について、お二人はどのようにお考えですか?

氏野 AIで簡単にカワイイ画像がつくれる中、それでもアミューズメント施設でプリを撮る。そうした「体験に価値を感じている」ユーザーもたくさんいます。「そこでしかできない体験」にフォーカスしたプロダクトを、これからも作っていきたいですね。

世の中のトレンドを反映しながら、プリならではの要素を取り入れた体験価値を生み出したいです。

盛岡 プリントシール機はもはや「文化」ですから、これからも続いていくと思っています。プリだけではなく、多くの人が写真を撮る楽しさを実感していますよね。そこから派生し、友だちに画像共有するためのプラットフォームとして『ピクトリンク』を活用してもらえないかと考えているところです。加えて、AI技術を新たに盛り込んだプロダクトも開発していきたいですね。

松本 スマートフォンでセルフィーを撮影するのと、プリントシール機で撮影する。この違いは一体、何だとお考えでしょうか?

氏野 私は、プリントシール機は「その日の思い出が記録される装置」だと感じています。楽しかった1日がカワイイ形で残ると、体験とセットになって思い出し、振り返ることができるのかなと。

盛岡 その日なのか、その瞬間なのかは分かりませんが「自分にとって一番良い状態」を残したいところが、ユーザーに突き刺さっているのはたしかです。

フリューが掲げているブランドスローガンに「Precious days, always」という言葉があります。フリューはプリントシール機のほかに、クレーンゲーム景品(プライズ)やホビーECやくじ、ゲーム・アニメなどさまざまなサービスを展開していますが、どれも共通しているのが「かけがえのない時間を届ける」ということなんです。

松本 思い出と一緒に、記憶に残っていくわけですね。

盛岡 まさにそうなんです。「平成コラボ」で20〜30代が反応したのは、思い出と記憶がセットになっているからでしょう。「あのとき、あの人と一緒に撮った」とリアルな体験が蘇る点が強みだと思っています。

氏野 「タイパ重視」な時代だからこそ、リアルな体験への投資が増えているのかもしれません。自分にとって不必要な部分はなるべく削って効率化し、本当に楽しいと思えることには時間とお金を惜しまない。そうした流れがあるように感じます。

松本 データとAIを使った技術を強みとしながら、30年続いてきたガールズトレンド文化の価値をさらに磨いてひろげていく。それが、これからのフリューの方向性のひとつだと言えそうですね。

今日は多岐にわたるお話を聞かせていただきました。現場で起きていることを大切にしながら、文化を築いてきた歴史を感じるお話しでした。ありがとうございました。


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2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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