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【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの-第10回 改めてデータガバナンスとは データマネジメントとの対比を中心に

公開日
2023.07.14
更新日
2024.02.21

【シリーズ】「データガバナンスがもたらすもの」では、ここまで9回にわたり、データガバナンスとはなにか、また、組織組成/人材育成、データ基盤構築とデータガバナンスの関係性、金融業界におけるデータ活用のあり方などについて解説してきました。

2022年の終わり頃からデータガバナンスや内製化に関する取り組み状況が変化してきており、データドリブンな意思決定を目指すためのデータガバナンスや内製化に舵を切る企業が増えてきています。そのような状況に応えるべく、ブレインパッドにおけるデータガバナンスの概念にもアップデートがありました。

一方でお客様の理解が進むにつれて、そもそもデータガバナンスとデータマネジメントの違いは何かと改めて尋ねられることも増えています。

そこで株式会社ブレインパッドの執行役員 内製化サービス推進および金融インダストリー責任者を務める神野雅彦と金融インダストリー シニアマネジャー櫻井洸平で、データガバナンスを改めて定義するとともに、データマネジメントのとの違いについて深掘りしました。

本記事では改めてデータガバナンスを定義し、データガバナンスの攻めと守りの違いについて再検討します。

■登場者紹介

  • 神野雅彦
    株式会社ブレインパッド
    執行役員 内製化サービス推進 および 金融インダストリー責任者

大手IT企業、外資系企業、海外駐在、日系コンサルティング会社および外資系コンサルティングファームを経て、ブレインパッドに参画。戦略コンサルタントとしての経験を活かし、顧客企業のデータドリブン企業への変革、DX推進体制の強化、データ組織・人材開発の伴走支援、金融領域の活性化、デジタル基盤を含むトランスフォーメーションを実現するためのビジネス開発、プランニング等を担う。2022年10月より現職。一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)標準化委員会委員長代行。

  • 櫻井洸平
    株式会社ブレインパッド
    ビジネス統括本部 データビジネス開発部 シニアマネジャー

独立系SIerにて、オンプレ、プライベート、パブリッククラウドのインフラ全般の技術知識から、お客様へクラウドシフト、クラウド活用、クラウド推進のコンサルティングを経験。ブレインパッドに参画後 企業におけるデータ活用のためのシステム企画から、活用を推進する組織醸成や人材育成のコンサルティングをプロジェクトマネージャとして対応。

※所属部署・役職は取材当時のものです。

本連載の記事一覧

データガバナンスを取り巻く環境が変化した

株式会社ブレインパッド・神野雅彦(以下、神野) このシリーズ(「データガバナンスがもたらすもの」)の最初の対談からほぼ1年が経過しました。データガバナンスを取り巻く状況もその間にかなり変わってきているのではないかと感じます。

株式会社ブレインパッド 執行役員
内製化サービス推進 および金融インダストリー責任者
神野雅彦

大きく変化してきたのは、昨年(2022年)の秋頃からでしょうか。「内製化」というキーワードはそれ以前から言われてきていましたが、はっきりとDXやデータ活用の内製化が議論の中心になってきたと感じています。それまではIT/システムの内製化が中心だったと言えます。今でも、IT/システムの内製化を目指している企業は多いと思うのですが、メディアや広告ではDXやデータ活用の内製化をテーマにした記事が中心になってきています。

DXの内製化となると、1つの目標はデータドリブン化です。データで意思決定するわけですから、データの品質や安全性等が担保されないといけません。当然の帰結としてデータガバナンスの必要性・重要性に気づく組織が増えます。その結果、私たちブレインパッドも新しいお客様にお会いする機会が増えています。その中で「そもそもデータガバナンスって何なの?」と改めて聞かれることも増えています。

また、既存のお客様の間でも、内製化に取り組み始めた動機や目指すゴールが違うため、データガバナンスの取り組み内容にも違いが出てきています。その結果、お客様ごとにデータガバナンスの定義が異なってきているとも感じます。

さらに世の中の状況が変化し、お客様のニーズも多様化する中で、ブレインパッドのデータガバナンスの概念もアップデートされていますし、残念ながら社員ごとでも微妙な食いちがいがあるような気もしています。

最近多いのが、「データガバナンスと似たような話でデータマネジメントってあるけど、この2つはどう違うの? 実は同じなの?」といった質問です。我々コンサルタントからすると、「ガバナンスは監理統制で、マネジメントは執行だからぜんぜん別物でしょう」という認識があるものの、あまりしっかり説明できていなかったのかもしれません。しかし、いざ違いを説明しようとよくよく考えるとけっこう紛らわしい面もあります。

こういった状況の中で、DMBOK等を参考にしながら、各社悩みながらもデータガバナンスとデータマネジメントを自社なりに定義し進めています。しかしうまく舵取りができている企業は少なく、データガバナンスの守りの部分が強すぎて、データドリブンになかなか至らない企業もあれば、逆に守りを軽視しすぎて、リスクに晒されている企業も多いように見受けられます。

このような混沌とした状況の中で、ブレインパッドとしてはデータガバナンスの定義について改めて発信する必要があるのではないか、またデータガバナンスとデータマネジメントを対比しながら、双方に関するブレインパッドの見解を、事例などを交えて提示できればと考えています。


まだまだ根強い「データガバナンス=守り」のイメージ

神野 最近、あるテーマについて、世の中の人の最大公約的な意見を探るのに、ChatGPTに聞くのがいいと思っています。「正しいとは限らないが、そう考えている人が多いんだろうな」という答えを返してくれます。そこは逆にChatGPTの課題でもあり、またリスクでもあるのですが、どこかで見たことのあるようなことを答えてはくれます。

そこでChatGPTに「データガバナンスって何?」と聞いてみました。

データガバナンスは、組織が持つデータに対して、責任と管理の枠組みを確立することを指します。データガバナンスは、データの品質、安全性、セキュリティ、プライバシー、可用性、アクセシビリティ、および利用可能性を保証するためのポリシー、手順、および規則を策定し、実施することを目的としています。データガバナンスは、データに関する重要な意思決定をする上での信頼性を高められます。また、データを効率的に管理することで、データ品質の向上や不要な重複を排除できます。さらに、データガバナンスは、法的、規制上の要件を遵守し、情報セキュリティリスクを最小限に抑えられます。データガバナンスの基本的な要素には、データの所有者や責任者の定義、データ品質の基準、データの機密性の確保、データのアクセス制御、データのライフサイクル管理、および監査およびコンプライアンスのプロセスが含まれます。

我々が言うところの「守り」一辺倒な内容だと思いませんか。

どうやら企業を守るという視点でデータガバナンスに取り組む人・会社が多いということが伺えます。しかしながら守りに終始していると、様々な攻めの取り組みが進みにくくなるかもしれないとも思えます。

改めてですが、櫻井さんのデータガバナンスの定義、ないしは概念を教えてもらえますか。

株式会社ブレインパッド・櫻井洸平(以下、櫻井) このシリーズの第1回「「データガバナンス」とは何か?」で神野さんが既に定義されている通り、「既知/既存情報の利活用を想定した企業全体のデータによる恩恵最大化の仕組み」だと考えています。要するに守り一辺倒ではなく、むしろ恩恵を最大化することに重点が置かれたものです。

株式会社ブレインパッド ビジネス統括本部
データビジネス開発部 シニアマネジャー
櫻井 洸平

マネジメントとの対比で言うと、ガバナンスが監督でマネジメントが執行ですから、ガバナンス側でしっかり定めたルールや仕組みを、マネジメント側が粛々と運用するイメージです。ですから、まずはガバナンス側で「しっかり定める」ことが大切だと思います。

神野 ありがとうございます。では第1回で、櫻井さんと一緒にデータガバナンスについて考えたときに使った図をもう一度見てみましょう。

グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション

自動的に生成された説明

【関連】【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの-第1回 「データガバナンス」とは何か?

大きな枠組みとしてコーポレートガバナンスがあり、CxOと言われる人たちがそれぞれの責任分野を担当し、協力しながら機能させています。コーポレートガバナンスの中に、ITとビジネスを統合したものとしてのデジタルガバナンスがあり、さらにその中にITガバナンス、データガバナンス、AIガバナンスがあるという構造になっています。

この図で言いたいことは、データだけ独立してガバナンスを効かせるのではなくて、あくまでコーポレートガバナンスという全体最適の仕組みの中にデータガバナンスがあるということです。つまりデータガバナンスも全体最適でなければなりません。

もう1つ、このような図もありました。

先ほど、櫻井さんがガバナンスは監督、マネジメントが執行とおっしゃいましたが、データガバナンスの中に執行に関わる部分もあって、それを「攻め」のデータガバナンス、一方で主に監督に関わる部分もあり、それを「守り」のデータガバナンスと定義したのでした。

我々ブレインパッドは、この攻守一体のデータガバナンスフレームワークを軸として、データガバナンスとデータマネジメントを定義した上で、お客様の状況に応じてデータガバナンス構築の支援を展開してきました。改めて振り返ってみましょう。

櫻井 あの議論以降、多くの企業様からデータガバナンス支援のお話をいただきました。あのときにしっかり定義していなければ対応できなかったでしょうから、よいタイミングで定義できていたと思っています。

ただ、データガバナンスとデータマネジメントとはそれぞれ何かという定義についても、どこからがどこまでがガバナンスおよびマネジメントなのかという範囲についても、まだまだ浸透していないと感じます。

神野 なるほどですね。1年前にいったんこのように定義して走り出し、顧客理解を進めていったわけですが、まだまだデータガバナンスと言えば守りという認識が強いと感じています。したがってこの攻守一体のフレームワークを浸透させていくことが肝要なことは今でも変わらないと思っています。

そこで、フレームワークを、以下のように見直してみてはどうでしょうか。

赤い枠は監督(守り)で、今までと考え方は同じですが、戦略も執行(攻め)にも含めたのが青い枠です。つまり戦略は守りでもあり攻めでもあるというように捉え直すのです。

櫻井 なるほど。戦略と言うからには攻守両方があるはずで、確かにこのほうがしっくりくる気がします。

攻めのデータガバナンス:ビジネス成果につなげる4つの論点

神野 攻めのデータガバナンスがまだまだ浸透していないということなので、攻めのデータガバナンスとは何か、少し噛み砕いてみましょう。

櫻井 データ活用の結果、収益増に貢献するためには何を実施するかをしっかり定めることが攻めのデータガバナンスだと考えます。

神野 やはり「ガバナンスは仕組み」であるということで、企業におけるデータ活用に関わる実行や執行を推進するための仕組みが攻めのデータガバナンスということでしょう。では、攻めるためには何が必要なのでしょうか。

まず実行するための箱がないとそもそも動き出せないので、組織/人材を定義しなければなりません。次にデータ活用を実行するためには、それに関わるプロセスが必要ですので、それらを定義します。言い換えると、データの運用ルールを決めて、それに基づいて管理することですね。また実現に適した技術/テクノロジーも必要で、自社の場合それは何なのかを定義します。ただしあくまでツールであり、ツールを使うことが主になってはいけません。さらに安心・安全に活用できるだけのデータ品質が必要です。その品質基準を定義する必要もあります。

以上を実行するための鑑(かがみ)や道標(みちしるべ)となる戦略や統制があるいうことが攻めのデータガバナンス、ということでいいでしょうか。

櫻井 データ分析を実行してビジネス成果につなげるために、組織/人材・プロセス・技術/テクノロジー・品質の4点を整備していくことがデータガバナンスということですね。その通りだと思います。

守りのデータガバナンスに戦略が関係する理由

神野 守りのデータガバナンスについても噛み砕いていきましょう。

櫻井 まずはトラブルが起きないように、またトラブルが起きてしまったときのために、自分たちを社会の批判や懲罰からレピュテーション低下を防ぐために何を定めるか――そこが守りのデータガバナンスの要諦だと思います。

神野 このように攻めと守りに分けてデータガバナンスを考えてみると、クリティカルな違いが見えてきそうに思います。ここまでの話をまとめると、企業におけるデータに関わる管理調整を中心として、ルールやガイドラインの制定および各種標準化などの統制に関わるベースラインの整備とモニタリングといったことになりそうです。

だとすれば、戦略というものを改めて考えると、攻めるための取り組みの道標(みちしるべ)となるものなので、執行のための計画でもあり、守り(モニタリング)のための指標にもつながります。したがって戦略を意識することで、安心・安全なデータ活用を実現できることになると思っています。

まだ出発点に過ぎませんが、どうやら攻めと守りの違いは明確になったようです。

櫻井 お客様とデータガバナンスの話をしているときに、「うちは攻めはいいから、守りだけをやってほしい」と言われることがあるのですが、何だか釈然としませんでした。守りだけを考えようとしても、どうしても戦略が関わってくるので、結局攻めも意識して考えないと守れないということで引っかかっていたようです。

神野 先ほど「データガバナンスの守りの部分が強すぎて、データドリブンになかなか至らない企業もあれば、逆にデータドリブンに接触的に取り組んでいるものの、守りを軽視しすぎて、リスクに晒されている企業も多い」と言いました。実際に「攻めすぎて守れない」あるいは「守りすぎて攻められない」という状況にある組織からの相談が多いです。それだけでなく、考え方としての攻めと守りのバランスは良いのだが、管理統制ができていなくてうまくいかないという組織もあります。ガバナンスとマネジメントのバランスも重要ということですね。

データマネジメントとデータガバナンスは表裏一体

神野 データガバナンスにおける攻めと守りの違いが見えてきたところで、データガバナンスとデータマネジメントの違いについて確認していきましょう。

昨今、お客様の中で、データガバナンスとデータマネジメントという2つの言葉について、実際の適用で試行錯誤しながら、体感的に理解を深めているのが見受けられます。

櫻井 私も同じことを感じますね。

神野 ここで改めてデータマネジメントについて考えたいのですが、まずはChatGPTに聞いてみましょう。

データマネジメントは、組織が持つデータを収集、整理、保存、分析、および活用するプロセスです。データマネジメントは、データを適切に管理することにより、企業活動や意思決定の質を向上させることを目的としています。データマネジメントには、次のような活動が含まれます。

  • データ収集: データの収集は、データマネジメントの最初の段階です。組織が収集するデータは、内部および外部の情報源から収集されます。
  • データ整理: データを整理することは、データマネジメントの重要な部分です。整理されたデータは、保存および分析のために準備されます。
  • データ保存: データ保存は、データを保管するためのプロセスです。組織は、データの取得、保存、および利用に関連する法的および規制上の要件に準拠する必要があります。
  • データ分析: データ分析は、データから洞察を得るためのプロセスです。データ分析は、ビジネス活動の改善や意思決定のサポートに使用されます。
  • データ活用: データ活用は、データを有効に活用するためのプロセスです。データは、意思決定をサポートするために使用され、新しい製品やサービスの開発などのビジネス活動を促進するために利用されます。

データマネジメントは、データガバナンスと密接に関連しています。データガバナンスは、データマネジメントにおけるプロセスとポリシーを設計し、実施するための枠組みを提供します。

こうして見ると、ChatGPTは優等生だけれど何か物足りない感じがします。論点は網羅的ですが、それぞれの項目への言及が浅く、これでものごとを理解するには不安を感じます。ですが、これが一般的な理解なのでしょう。間違ったことを言っているわけではないのです。

一方でブレインパッドでもデータマネジメントの話は、DMO(Data Management Office)など組織組成に関わる限定的な話に終始していたかもしれません。改めて深掘りしていきましょう。

実はガバナンスとマネジメントは表裏一体だと考えています。データマネジメントの範囲を図解すると、下図の緑の点線となります。

攻めのデータガバナンスとまったく同じ範囲ですよね。なぜでしょうか?

櫻井 ガバナンスとは管理統制の仕組みであるのに対し、マネジメントとはその仕組みを実行することですから、範囲、すなわち論点が同じになるのは当然のことだと思います。

神野 その通りです。ちなみに「データガバナンスとデータマネジメントの違い」をChatGPTに尋ねたら、以下の通り回答しました。

データガバナンスとデータマネジメントは、両方とも組織が持つデータを効果的に管理するためのプロセスですが、異なる目的と規模を持っています。

データガバナンスは、組織がデータに対して責任を持ち、データの品質、安全性、セキュリティ、プライバシー、可用性、アクセシビリティ、および利用可能性を保証するためのポリシー、手順、および規則を策定し、実施することを目的としています。データガバナンスは、組織が正確なデータを使用して意思決定を行い、法的および規制上の要件に適合し、情報セキュリティリスクを最小限に抑えられるようにするために重要です。

一方、データマネジメントは、組織がデータを収集、整理、保存、分析、および活用するプロセスです。データマネジメントは、データを適切に管理することにより、企業活動や意思決定の質を向上させることを目的としています。データマネジメントは、組織がデータを収集、整理、および活用する方法に関連する手順、ツール、およびポリシーを確立することに重点を置いています。

データガバナンスとデータマネジメントは密接に関連しています。データガバナンスは、データマネジメントにおいてプロセスとポリシーを設計し、実施するための枠組みを提供します。データマネジメントは、データガバナンスに準拠してデータを収集、整理、保存、分析、および活用します。データガバナンスとデータマネジメントの両方が組織が持つデータを適切に管理するために必要です。

かなりまともなことを言っていると思います。日本企業の現在地もこのようなところではないでしょうか。しかし私たちが考えているものと比べると、やはり守り一辺倒な印象は拭えません。

さて先ほどの図を見ると、ブレインパッドではデータガバナンス(攻め)とデータマネジメントを同じものと考えているように受け取られかねません。しかし実は違います。ガバナンスはあくまで監理統制の仕組みであり、マネジメントはそれを実行するための仕組み作りとその実行です。マネジメントと(攻めの)ガバナンスは論点は同じ、すなわち表裏一体ですが、やっていることはぜんぜん違うということです。

データガバナンスとデータマネジメントを考える上での5つの論点

神野 データガバナンスとデータマネジメントが表裏一体だが違うものだということはわかりました。ではこれらを網羅的に考えていくための論点はあるのでしょうか。

既にこの連載で何度も登場している図ですが、もう一度見直していきましょう。

データガバナンスもデータマネジメントもこの5つの論点(戦略、人材/組織、プロセス、データ、テクノロジー)で考察することで、網羅的に整理できます。 

各論点で議論する観点を挙げたのが上の図です。詳細は書いてある通りですので、細かく説明しませんが、たとえば戦略という論点の中では、「中長期的な企業のあるべき姿」、「大局的な経営戦略の中でのデータガバナンスの位置づけ」などが検討の観点となります。さらに論点ごとに5つずつ検討テーマを挙げています。この部分はブレインパッドと他社を差別化する独自ノウハウとなりますので非公開とさせていただいていますが、戦略であれば、ビジョンやイノベーションなどのテーマを1つ1つの観点で検討します。我々はこれを「BrainPad Business Framework」と呼んでいます。

櫻井 実際に何度も使った上での所感ですが、論点が網羅的に整理されているので、とても使いやすいフレームワークだと感じます。ただし、観点が多いので全部を一気に詰めていくのは難しく、優先順位および検討範囲はお客様の事情や成熟度によって変わってきます。したがって「データガバナンスやデータマネジメントの全体像はこの図の通りで、お客様の場合はこの部分をこの順番で考えていくのがよいと思います。いかがでしょうか?」といった使い方をしています。

またガバナンスでもマネジメントでも、話が複合的になりますので、人材の話を始めると、役割や組織、ケイパビリティといった話になり、ではそれをどう運営していこうという話になります。ならばガバナンスを効かせるためには、その運営をどうチェックしていくのかと、今度はプロセスの話になり、さらにチェックをするために見るべきデータは何だという話から、今度は管理すべきデータ品質の話へと移り変わります。

つまり「そもそも何の話をしていたんだっけ?」ということになりがちなのですが、そのようなときにこのBrainPad Business Frameworkがあると、議論の目的や現在地がすぐにわかるので便利です。

神野 ガバナンスとマネジメント、監督と執行、戦略と実行なども話が行き来しやすいですね。戦略とは何かと尋ねると「目的を達成するための実行だ」と答える人もいます。これなどは戦略と実行が完全に混同されているのですが、表裏一体なものはそうなりがちです。BrainPad Business Frameworkがあると、そういった混同を避けられます。

またよく陥りがちなのが、ガバナンスの話をし始めると、システムやテクノロジー関係を重視しすぎて、本来の目的であるビジネス貢献に踏み込んだ議論ができないといったことです。このあたりは私たちはデータの専門家として、ビジネス貢献とテクノロジーのバランスの取り方を示していかないといけません。

一方でビジネス効果を追求するあまり、常にリスクに晒されるという状況もよく耳にします。ビジネス効果とリスクについても綱渡りのようなバランス感覚が必要で、どちらか一方を重視しすぎると、綱から落ちてしまいます。そうならないように、お客様の状況をしっかり見て、アドバイザリーをしていかなければなりません。攻め/守りのどちらに傾きそうになっても、BrainPad Business Frameworkはバランスを取り戻すのに役立ちます。

さて5つの論点の中で、ブレインパッドが特に重要視しているのは人材/組織、プロセス、データの3つです。データの論点では、データそのものの品質を議論しますが、品質を保証するプロセスを業務とマネジメントの両面から検討し、そのプロセスを実現するための人材/組織を検討することになります。この3つには強い関連性があるということですね。その上で、必要であればMDM(Master Data Management:マスターデータ管理)などデータ品質管理のためのテクノロジーも議論するということになります。ただ実際にはテクノロジーの議論から始まることが多いです。そのときは、上記の通り、全体を踏まえた上での進め方を提唱させていただいています。

たとえばDMOについては、データマネジメントを担当する組織として、データレイクやトランザクションデータ、マスターデータをどう管理するかという議論に終始しがちです。しかしBrainPad Business Frameworkを使えば、担当する人材に必要なケイパビリティや、DMOが所属するのは本部なのか事業部なのか各部門なのかといった総合的な議論が必要だとわかります。

DMOと言うとテクノロジー的な面が強調されがちですが、我々はBrainPad Business Frameworkを使うことで、データドリブン推進の中心としてのDMO組成に貢献できるんですね。つまりビジネスとテクノロジーの両方に携わり、DX推進を支えるDMOが実現できるわけです。

事例に見るガバナンス構築の苦労とポイント

神野 データガバナンスとデータマネジメントは表裏一体であり、どちらかが存在しないまたは一部欠落すると、情報セキュリティ事故が発生したり、レピュテーションの低下が見られたり、それらの結果として経営に悪い影響が及んだりします。この対談を行っている5月だと、まだ組織改正によるシステム変更が終わりきっていない段階で、本来自分たちの権限では見られないはずの他部門のデータが見えてしまうといったことが起こりがちになるのです。

データ活用に取り組む上でデータガバナンスとデータマネジメントが機能していない状況は非常に恐ろしいということです。そこでデータ活用に取り組もうとする組織では、データマネジメントとそのベースとなるデータガバナンスの構築に取り組もうという動きが活発になっています。

私たちがデータガバナンスの構築に直接または間接的に携わった事例を、固有名詞は出さない形で、いくつか紹介したいと思います。

A社さまへのデータガバナンス構築支援

櫻井 A社の事例です。データ活用環境を構築したいということで始まった案件でしたが、データを活用するという発想がこれまでなかったため、そもそもデータガバナンスとは何か、データガバナンスとデータマネジメントの重要性とは、といったことを理解していただくところから着手しました。データ活用環境がよりよく活用されるためには、全社ポリシーや社規・社則の制定が必要ということで、そちらも支援しました。

データ活用のプロセスを見直し、事業部門とIT部門の役割分担も検討しました。つまりデータの発生から廃棄までのライフサイクル全体の中で、いつ・誰が・何をするかを定義したわけです。

また実際にデータを使い始めてみると、データの不足や数字が合わないといったデータ品質の問題が発生しましたので、各データの総数や鮮度などを一覧にして、トラブルの原因を簡易に特定する仕組みも用意しました。

神野 5つの論点だと、どれが中心でしょうか。

櫻井 データテクノロジーですね。その中のビジョンとプロセス定義が大きなテーマでした。

A社の論点

A社ではデータガバナンスやデータマネジメントの必要性はよくわからないが、それらをやるべきことはわかるという状態でしたので、そもそも論から入って、じっくり時間をかけて理解してもらうことに努めました。

2年ぐらいかけてようやく組織が立ち上がり、社内で様々なデータ活用に関する意見交換ができるようになりました。A社も、3カ月ぐらいで集中的にやりたいのではなく、ゆっくり時間をかけて浸透したいという考えでした。

現在はコンサルは終了し、構築したデータ活用環境のアップデートを実施しています。今後も長期的に支援していくことになると思います。

神野 ありがとうございます。なるほど、初期状態からデータガバナンス整備が完了した上で、自走期に入り、今後はデータ活用活性化に取り組まれるということですね。しっかりと守りのガバナンスを整備しつつも、攻めに転じて活用を推進できる仕組みを整備できたのではないでしょうか。

B社さまへのデータガバナンス構築支援

神野 B社の事例を紹介いただけますか?

櫻井 B社はA社とは違って、データガバナンスの必要性は理解していました。ガバナンスやマネジメントの検討観点についてもDMBOK-2から洗い出していました。ただガバナンスの構築は別チームであとから実施することになっており、私たちはデータ活用基盤構築支援から入ったのが、他の案件とは違うところです。そこで、ガバナンスチーム側にあとから決められると支障があることと、あとで決められても対応できることを区分けして、支障がある部分について優先的に検討してもらいました。一方であとから決められてもいいところは、どのように決まっても柔軟に対応できるように作り込みました。ここが苦労したところです。

またB社には詳細なセキュリティ規定があったのですが、それをどうやってデータ管理やデータ基盤に落とし込んでいけばいいかわからないということでした。そこで先方のセキュリティ規定を読み込んで、A社と同じく、データの発生から廃棄までのライフサイクル全体の中で、いつ・誰が・何をするかを定義し、それをデータ分析基盤のセキュリティ要件に落とし込みました。

神野 5つの論点の中では、どこが中心でしたか。

櫻井 データテクノロジーですね。

B社の論点

神野 データガバナンスは、データ活用の軸となるものであるため、はじめに整備することが望ましいものではあるものの、必ずしもそうではありません。関係するプロジェクトや取り組みと並行して同期できるように対応していくことが肝要であると思います

C社さまへのデータガバナンス構築支援

神野 C社の事例を説明します。当初はデータサイエンティスト育成が目標だったのですが、人材を育てるだけではデータ活用が進まないという議論になり、データガバナンスとデータマネジメントの整備を並行して考えていくことになりました。

既に各部門でのデータ活用の取り組みが始まっていて、全体統制するためのビジョン策定とプロセス定義、およびこれらの浸透から着手しました。現在もまだ浸透を図っている最中ですが、今後の目指す姿に近づくために不足していることや、力を入れていくことを念頭において、次に必要な項目を整理していくことになっています。

5つの論点で言うと、プロセスデータテクノロジーが中心ですが、そもそもの入口は人材/組織となります。

C社の論点

神野 苦労した点はありますか。

櫻井 ビジョンや規定がないところで既に始めていたので、B社とは違う意味での後追いの苦労がありました。実際にデータ分析をやり始めている人たちに対して、データガバナンスとデータマネジメントを勉強して、必要性を理解してもらい、実際に取り組んでもらうのはたいへんなことです。まったくのゼロからスタートするほうがまだやりやすいように思います。

実際にまだまだ統制は取れていません。たとえばこれまでの分析によってたくさんの中間ファイルが消されずに残っています。それらを使って分析すると、過去の一時ファイルですから、現在の課題にフィットした分析ができないことが多くなります。しかし使う人は、それらしいファイルがあるとついそれを使ってしまいがちです。そこでデータのライフサイクルプロセス定義が必要になってくるのですが、その前に作られていたファイルは適用範囲外なので、削除していいかどうかもわからないことになります。現在はあまりにも古いファイルは消すというルールになっていますが、それだけだとなかなか中間ファイルは減っていきません。ストレージが常に逼迫気味になっています。

神野 かなり幅広くデータガバナンスを検討していることがわかります。また、一気に広げるのではなく、現状把握を通じて、段階的に必要となる箇所を強化することや、整備することで、データガバナンスの仕組みを成長させていくことができているかと思います。

ここまで、3つの事例を紹介してもらいました。共通しているのは、ビッグバン的に一気に短期間で刷新するというよりも、弱いところや急ぐところを明確にして、データガバナンスとデータマネジメントの両面で、総合的・俯瞰的な視点・視座を持ちながら、必要とされる部分の仕組み作りを支援していることになるでしょうか。

櫻井 その通りです。ブレインパッドでは、データドリブンアセスメントなどの現状評価サービスも提供しています。こうした現状評価を踏まえながら、取り組むべき論点を明確にして、データガバナンスとデータマネジメントの両側面から様々な形の支援を行っているのです。それができるのがブレインパッドの強みであり、また実際に取り組んでいることでもあります。

3つの事例の共通点を別の観点で見ると、どの会社もデータ活用に既に何らかの形で取り組んでいて、その中でいろいろな危機感や問題意識が生まれてきて、データのガバナンスやマネジメントが必要だとなったことです。多くの日本企業がそのような状況だと思いますが、そこでガバナンスやマネジメントの仕組み作りを支援するのはたいへんなことであり、BrainPad Business Frameworkがあってこそ可能なのだと言えます。

まとめ

神野 全体の議論を振り返ってみましょう。まず改めて、ブレインパッドとしてのデータガバナンスとデータマネジメントについての考えを共有できました。重要事項は以下の通りです。

  • データガバナンスとデータマネジメントは表裏一体である
  • 攻めと守りのデータガバナンスを両方具備することで、統制を効かせたデータ活用に取り組める
  • データガバナンスを踏まえたデータマネジメントに取り組むことで、より安心・安全なデータ活用を推進できる
  • データガバナンスに係る論点を明確化させることで、網羅的かつ優先度を決めて取り組むことができる(BrainPad Business Frameworkの活用)
  • それぞれの企業の事情に応じて、強化や整備が必要なところから着手することが肝要である

データガバナンスは守りのイメージが強いものの、企業が攻めに取り組むために重要なものだということが共有できたと思います。また巷で区別がつきにくいと言われる、データガバナンスとデータマネジメントの違いも明確になったのではないでしょうか。

攻めと守りの両側面の取り組みと、表裏一体であるガバナンスとマネジメントの両面の取り組みがデータ活用では肝要であると考えます。

櫻井 データガバナンスやデータマネジメントは、法律に近い考え方だと思います。しっかり定めて、それを守ることが統制と共通理解につながり、最終的にはデータドリブン文化を実現していくことにつながります。しっかり定めると言っても、世の中の変化にすばやく対応していくことも肝要で、たとえば規定でChatGPTが使えないのであれば、使えるような形に変えていく必要があります。

また部門ごとのローカルルールが必要なときもあるでしょうから、それは国の法律・法令と自治体の条例と同様の使い分けで対応すればいいと思います。

DXやデータドリブン化を推進していく上では、優先順位を決めて進めていく必要があります。優先順位をつけるためには全体を網羅した視点が必要であり、それを担うのがBrainPad Business Frameworkになります。今後もBrainPad Business Frameworkを活用して、企業のデータドリブン化を実現していきたいと思っています。

そのミッションのためにも、網羅的なフレームワークがあることは大きな強みです。お客様の足りないところを洗い出して優先的に支援できるからです。「データガバナンス構築支援ならブレインパッド」というポジションを確立するために、自分もしっかりやりたいと決意する次第です。

神野 ありがとうございます。引き続き、ご支援を展開できればと思います。今日はありがとうございました。

櫻井 ありがとうございました。



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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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