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【前編】DX実現ツールとしてのMA❝らしい❞使い方

公開日
2022.08.24
更新日
2024.02.18

日本におけるMA(Marketing Automation)の普及は2015年頃から始まったが、一時の導入ブームは沈静化し、本格的な活用のフェーズに入ってきた。そんな中、急激に増えているのがリプレイス案件だ。

ブレインパッドでも、日本のMA黎明期からMAツールである「Probance」の導入および運用サポートを提供してきた。そのProbanceに、別のツールから移行したいという相談が増えているのである。

ツールのリプレイスは少なくないチェンジコストを伴うので、大きな決断を要する。そこにはそれに見合うだけの大きな課題があるはずだ。

そこで、長年Probanceのプリセールスを担当してきた政岡 桂介(プロダクトビジネス本部 プロダクトインテグレーション部長)と、インプリメントを担当してきた西村 陽子(同本部 プロダクトインテグレーション部 副部長)の2人に、日本企業が抱えているMAに関する課題について、同社マーケティング本部長・近藤 嘉恒が聞いた。

また2人の話から、「MAらしい」使い方も見えてきたので、ぜひ本記事で紹介したい。

プリセールスとインプリメントの役割

写真左から近藤、政岡、西村

ブレインパッド・近藤 嘉恒(以下、近藤) 今回はMAの最新事情についての話を聞くということで時間を取ってもらいました。
その前に、マーケティングDXの大きな潮流を簡単にまとめておくと、パーソナライズと省力化という2つの大きなテーマがあると認識しています。そしてMAはそのどちらにも貢献するツールです。

つまりMAは、マーケティングDXの根幹を占めるツールの1つだと位置づけられるわけですが、そのようなツールのリプレイス案件が増えています。これはマーケティングDXという観点で、大きな変化が起こっていると思わざるを得ない。今日はその変化を解き明かしつつ、MAらしい使い方を提案できるようにまとめていきたいと思っています。

ブレインパッド・西村 陽子(以下、西村) そもそもブレインパッドがMAツールを取り扱っている理由について説明すると、MAには散在するマーケティングデータを整えるという効用もあります。つまりMAでもデータマネジメントは必要かつ重要ということです。こうしたMAの利点を、ユーザーのニーズに転換するのにブレインパッドの強みが発揮できるのではないか――そのような発想から、日本のMA黎明期からProbanceの導入から運用サポートまで関わってきました。

近藤 その中で西村さんが担当してきた「プリセールス」は、どのような役割を担うのでしょうか。

西村 営業提案フェーズを主に担当します。営業がユーザーから聞いてくる話は、機能の相談など概念的なレベルであることが多いのですが、そのままでは本当のニーズはわかりません。そこで私たちプリセールスが、ユーザーの使用シーンを想定した具体的な使い方の話をするのです。そうすることによって、ユーザーの中にリアリティーのあるイメージが湧いて、導入可否の判断が可能になります。

その際に気を付けていることは、良い話だけでなく悪い点についても説明することです。より正しい判断をしてもらいたいからです。

近藤 今の話は、初めてMAを導入するユーザーを想定したものだと思いますが、最近増えているというリプレイス案件についてはどうなのでしょう?

西村 基本的には同じで、具体的な使い方の話をしながら、現在のツールが使えない理由を伺っていきます。ツールの機能・性能に問題があることもありますが、実際にはツールの問題ではないことも多いのです。そこで使えない理由を、潜在的な根本原因に遡るまで深掘りしていきます。

株式会社ブレインパッド
プロダクトビジネス本部 プロダクトインテグレーション部 副部長
西村 陽子

近藤 続いて、政岡さんが担当している「インプリメント」について教えてください。

ブレインパッド・政岡 桂介(以下、政岡) プリセールスによって、ユーザーがやりたいことのリアルなイメージが湧いてきた段階でバトンを受け継ぎ、現実とのギャップを埋めるお手伝いをします。これは、いわゆる「フィット&ギャップ」(ツールとユーザー要件の乖離を埋める作業)ではなく、リソース、期間、予算などの制約条件の中で実現可能な提案をするということです。

制約条件として特に重要なのは、ビジネスルールです。どの会社にもやってはいけないこと、やらなくてはいけないことがあり、どの会社も守らないといけない法的な話や社会常識を除けば、会社によって違ってきます。そのルールの中で、MAを使ってやりたいことにどれだけの実現性があるかを考えることが、私たちインプリメント担当の重要な仕事になっています。

近藤 ビジネスルールの制約の具体的な例を聞かせてください。

政岡 例えば複数事業の壁を越えるときに、人間ならやらないようなことを、システムが勝手に行ってしまうことがあります。MAはシナリオとして設定されたことを、自動的に実行してしまうため、その危険性が特に大きいのです。

よくあるのが、リアル店舗にはあるがECサイトにはない商品をウェブでレコメンドしてしまうことです。会社全体で売上が増えればいいと考えるマーケターにとっては問題ないとしても、EC部門からは「勝手なアクションを取るな」となりかねない事案です。

これはデータガバナンスやパーミッションの問題で、これらをしっかりと整理しなければなりません。さもないとマーケティング部門が実施したくても、事業部門は実施したくないことをツールが自動的に実行してしまうことがあるということです。

西村 同様のものとして、営業が既にアプローチしているリードに、許可なく余計なコンテンツを送らないといった制約もありますね。

政岡 かといって、部門間のトラブルになりそうだから何もしないというのでは発展はありません。ルール化することによって、新たに「やっていいこと」を作り出すことも必要です。

西村 「自動でやられてしまうのは怖い」ということの中に実は重要な施策があり、それらをしっかり検討することで、新たな実りある施策が始められるということです。


なぜMAにプリセールスとインプリメントが必要なのか?

近藤 プリセールスとインプリメントの役割は明確に分かれるのでしょうか?

西村 グレーゾーンがあります。例えば要件定義には、プリセールスもインプリメントも入ります。それは、引き継ぎをスムーズにするためであり、提案品質を高めるためでもあります。良い提案をするためには、ユーザーから暗黙知を引き出さなければなりませんが、そのためにはプリセールスとインプリメントの両方の知見や経験が必要なのです。

その後、いったん導入が完了すれば、カスタマーサクセスに引き継いで、私たちはその案件からは基本的に離れます。

近藤 国産ツールもありますが、MAでシェアが高いツールは海外産が多い。それらは原則的に、フィット&ギャップ分析をして、その結果をツールの設定に反映し、簡単なフィールドテストをしたら、「あとは使ってください」とユーザーに引き渡すという流れで導入が進みます。しかしProbanceの場合は、プリセールスとインプリメントが入って、ある意味手厚いサポートをしています。なぜそれが必要なのでしょうか?

政岡 海外の考え方は、「スモールスタート、スモールサクセス」を良しとし、必要最低限のテーブルとクエリを用意して、1日も早くスタートしようというものです。これには2つのメリットがあります。

1つは、マーケターが早期に社内で評価されることで、本格的な予算が付くということ。もう1つは外資系ベンダーの売上計上基準がツール使用開始時なので、無駄なコストを抑えられるということです。要件定義などに時間を掛けるとベンダーにとって無駄な出費が発生してしまうわけです。

ベンダーから見れば手離れが良く無駄なコストも掛からないのですが、結果としてユーザーが使いこなせなくなることが多い。私たちは、ユーザーが使えるようにすることを重視していますから、そのためにプリセールスとインプリメントを実施しているわけです。

株式会社ブレインパッド
プロダクトビジネス本部 プロダクトインテグレーション部長
政岡 桂介

西村 Probanceもフランス産、つまり海外産ですが、私たちが独占代理店だからこそできることでしょう。またブレインパッドはデータ分析の会社ですから、MAを売るというよりも、DX、データ活用のためのソリューションを提供しているという自負があります。したがってどんな機能を実現するかよりも、どのデータをどう使ってどんな成果を出したいかにこだわりますし、そのためのデータ環境構築にも踏み込んだ提案をします。

政岡 いっけん外資系ベンダーの進め方のほうがスピーディーで生産性も高そうですが、私たちの進め方のほうが、ユーザーの目的とのギャップが少なくなるため、最終的には生産性が高くなります。それはユーザーと深いレベルでのコミュニケーションを実施することで、不可能な要件や不確実性を先に潰すことができるためです。初めてのユーザーには事前予防になりますし、リプレイス・ユーザーに対しては二の轍を踏ませないことになります。

近藤 いわゆる「フィット&ギャップ」ではなぜ不足なのでしょう?

政岡 フィット&ギャップでは、業界に関係ないホリゾンタルな分析を行いますが、それでは機能要件しかまとまりません。もちろん機能要件も大切なのですが、業界に特化したバーティカルな分析をしてこそ、その企業の持つ課題の抽出とその解決策の提案に役立ちます。つまりフィット&ギャップでは、提案品質が高まらないのです。

MAはようやく成熟してきた

近藤 お二人は2013年から2014年頃のデジタルマーケティングツールの黎明期からこうしたツールに関わってきました。その頃と今とでは何が変わったのでしょうか?

西村 2014年頃には、まだメール配信機能がなく、ツールの名称も「キャンペーンマネジメント」でした。2015年ぐらいからメール配信機能を備えるツールが出てきて、それと同時に顧客のセグメンテーションもツール内で行えるようになり、「オートメーション」と言えるツールになりました。

その後、年々、シナリオが多様化し、あらゆるコミュニケーションが自動化されていきました。ただデータに関しては、MAに特化したデータが前提で、何年も前から「データ統合」が叫ばれてきましたが、なかなかその波に乗れませんでした。

プリセールスの段階で、MAのデータも統合したいというユーザーがほとんどだったのですが、つい数年前までは「夢物語」でした。それが最近ようやくできるようになり、技術的な観点からは申し分ないものに育ったと言えます。

政岡 そうなると、シナリオをどのように使うか、どのようにコントロールするかに関して、現実的な落とし所を探ることがますます重要になっています。データ統合によって事業間の連携がさらに密になり、先ほど説明した制約条件がより顕在化するからです。ビジネスのデジタル化の前に、デジタルをビジネスにどうやってフィットさせるかを考えないといけないことが誰の目にも明らかになってきたのです。

近藤 デジタルとビジネスをフィットさせないといけないということですが、現実にはどんなことが起こっているのでしょうか?

政岡 先ほど挙げたオムニチャネルの例(店舗とEC部門の利害対立)が典型的ですが、他の業界でも様々な問題が発生しています。

不動産のような、BtoBとBtoCの両方のビジネスがある業界では、同じ会社や同じ企業グループ内にそれぞれの担当部門や担当会社があり、それぞれが違うMAツールを使っていることが多いのですが、何が違うのかを明確に答えられる人は少ないのです。

そして実際には相手が消費者であっても、ビジネスの流れは法人とあまり変わりありません。どちらにしても高価な買い物であり、契約までのリードタイムが長く、きめ細かい営業サポートが必要なことに変わりありません。

MAを採用するかどうかは、顧客(リード)が多いかどうかで判断すればいいでしょう。リード数が多くて、マーケティングの労力を削減したいのであればMAを採用することになります。

しかし同じBtoBとBtoCの両方のビジネスを手掛けていても、消費財販売では考え方が大きく違ってきます。例えば、企業ではコピー用紙を事務担当がまとめて発注しますが、それは上司の指示に従って発注するわけです。ですからいつもコピー用紙を注文してくれるからといって、その人にいろいろな商品やサービスをレコメンドしてもあまり成果は出ません。どうやって上司にレコメンドするかが課題になります。一方、一般消費者向けには、本人に積極的にレコメンドするだけのことです。

オムニチャネルにおける本部と店舗のあり方も変わりつつあります。これまではO2O(Online to Offline)という形で、CoE(センターオブエクセレンス)がオンラインで集客して、リアルな店舗に送客することが行われてきました。これを各店舗に権限委譲し、店長にMAを使わせる会社が出始めています。

そうなると今まではCoEがシステムをコントロールして、データ連携を実施し、バッチ処理のタイミングなどもクリティカルにならないよう調整していたのが、各店長が一斉に同時刻(例えば店舗での毎日の締め処理が終わった直後など)に大量のメールを配信してしまって、システムがダウンするといったことが起こりえます。こういった事態をどこまで想定するのかが課題になります。

(後編に続きます)



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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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