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百十四銀行×りそなHD×ブレインパッド。「地銀DX」の裏側と、3社のパートナリングがもたらす地域経済活性化

公開日
2023.03.30
更新日
2024.03.15

地域金融機関は、生き残りをかけDXを“戦略的”に取り入れながら、顧客のニーズの発掘や業務の効率化を行うことが求められている。そんな中、積極的にDXを推進しているのが、香川県高松市に本店を置く百十四銀行だ。

同行はデジタル・リテール・バンキング構想を掲げ、2021年9月には株式会社りそなホールディングスとのデジタル分野における戦略的業務提携を締結し、 2023年2月には非対面チャネルの強化を目指し、バンキングアプリをリリース。また、行内においては、ブレインパッドの支援を受けながら、データの利活用ができる人材=データサイエンティストの育成を進行中だ。

これらの取り組みのねらいは何か、また、どのようにしてDX人材を育成してきたのか。りそなホールディングス(以下りそなHD)とブレインパッドが百十四銀行をどのように支援しているのか。そして3社が目指す地方経済の活性化とは。

百十四銀行、りそなHD、ブレインパッドのプロジェクト関係者が一堂に会し、百十四銀行が考える「地銀DX」について、議論を交わした。

■登場者

  • 山本晋
    株式会社百十四銀行
    営業戦略部 デジタル戦略室長
  • 近泉俊博
    株式会社百十四銀行
    営業戦略部 デジタル戦略室 上席調査役
  • 岩倉弘貴
    株式会社百十四銀行
    営業戦略部 デジタル戦略室 主任
  • 中村みのり
    株式会社百十四銀行
    営業戦略部 デジタル戦略室
  • 那須知也
    株式会社りそなホールディングス
    データサイエンス部長
  • 若尾和広
    株式会社ブレインパッド
    ビジネス統括本部 データビジネス開発部 プリンシパル
  • 大澤温
    株式会社ブレインパッド
    ビジネス統括本部 データビジネス開発部 マネジャー
  • 木下湧気
    株式会社ブレインパッド
    ビジネス統括本部 データビジネス開発部 コンサルタント

※登壇者の所属部署・役職は取材当時のものです。

デジタル・リテール・バンキング構想

DOORS編集部(以下、DOORS) 最初に百十四銀行様のデジタル・リテール・バンキング構想と、これまでのDXおよびデータ活用戦略について教えてください。

百十四銀行・山本晋氏(以下、山本氏) 地方銀行だけでなく、銀行業界全体を取り巻く状況として、オンラインバンキングやキャッシュレス化の進展に伴い、店舗への来客数が減っていることや、そもそも多くの個人のお客様に会えていないことがまず挙げられます。そのような中で、店舗の統廃合も進み、お客様と対面で接する機会が減っています。当行においても対面接触数の減少傾向は火を見るより明らかで、このまま手をこまねいていては危機的状況に陥ることが懸念されます。

対面での接触機会が減っているのであれば、スマホアプリなどの非対面接触を増やすしかありません。リテール業務のデジタル化は必須です。スマホアプリで獲得した新規のお客様とは長いスパンで寄り添い、支えていかなければなりませんが、そのためにもデジタルを活用した接触頻度の向上が欠かせません。とはいえ、お客様に質の高いコンサルティングをするためには対面での接触が必要なことも多いので、非対面に寄せきってしまうのではなく、対面接触においてもアプリから得られたデータを活用していかなければなりません。

株式会社百十四銀行 営業戦略部 デジタル戦略室長 山本晋氏

このようにリテール業務における対面・非対面の両方でバランス良くデータとデジタルを活用していこうとするのが、私たちの「デジタル・リテール・バンキング構想」です。

銀行においては、事務処理のIT化・デジタル化は他業界に先駆けている部分があり、全般に進んでいると思います。一方で、お客様とのリレーション構築やそのためのチャネルの充実といった面では遅れており、データ利活用も不十分です。そこでまずはリテール業務に関してスマホアプリで利便性を高め、お客様のニーズに応えていくことから手掛けることにしたのです。

DOORS お客様の利便性へのニーズとは、たとえばどのようなことでしょうか。

山本氏 基本的に、銀行の店舗は用事を済ませる場であり、ショッピングモールで買い物をするときのようなウキウキする場ではありません。できれば非対面で自分のタイミングで用事を済ませたいのが本音であり、ニーズだと思います。一方で、資産運用などじっくりと相談したいというニーズを察知して、手厚くサポートできる態勢も必要です。

DOORS お客様の行動やニーズを知るためにも、また、お客様に寄り添って取り組んでいることを効果的にプロモーションするためにもデータ分析は重要だと思います。実際にどのような取り組みをされているのでしょうか。

山本氏 お客様を知ることが、コミュニケーションを深め、必要な商品やサービスを提案するための第一歩だと考えます。従来は、売りたい金融商品を勧めるだけの銀行都合のセールスをしていたことは否めません。マーケットが拡大していた頃はそれでも通用したのかもしれませんが、人口の減少に伴いマーケットが縮小している今は、それでは相手にされません。選んでいただくための努力が必要になってきます。お客様本位で考えることが重要なのです。

「お客様本位」のヒントがデータの中に隠れていて、データを様々な切り口で分析することでお客様への理解が深まります。バンキングアプリを提供することでより多くのデータが得られ、さらに理解が深まると期待しています。


志を同じくする仲間作り

DOORS 今回、りそなHD様のバンキングアプリをベースとされていますが、りそなHD様のアプリを知ったきっかけは何だったのでしょう。

山本氏 非対面チャネルの重要性が増す一方で、既存のサービスは伸び悩んでいるという課題を解決するために様々な情報を収集していたところ、ご縁があってりそなHD様のバンキングアプリを知ることになりました。行内でワーキングを立ち上げ、他社のアプリも含めて検討を行うなかで、お客さまと生涯にわたって接点を持ち続けることが重要と結論付け、単なるアプリの提供だけではなく、お客さまの行動データを分析しデジタルの世界で適切な接点を確保しているりそなHD様のアプリとその考えが、当行に最もマッチしていると判断するに至りました。

【関連】銀行アプリの先進的存在・りそなグループアプリから学ぶ、顧客接点のデジタル化とその先

りそなHD様のバンキングアプリ導入を決定するなかで、りそなHD様に相談を持ちかけたところ、りそなHD様からもデジタル分野における情報・ノウハウを相互に活用することによる、地域経済への貢献を目的とした提携のお話をいただきました。銀行経営の舵取りが難しくなっている昨今、そのような協業の話はたいへんありがたく、アプリ以外の面でも様々な知見を共有したいとの思いから、自然と今回の連携につながっていったのです。

DOORS りそなHD様が百十四銀行様を支援する理由は何なのでしょうか。

株式会社りそなホールディングス・那須知也氏(以下、那須氏) まず強調しておきたいのは、支援というよりも、「志を同じくする仲間作り」だと私たちは考えているということです。従来の銀行間の連携は、資本関係を結ぶかシステムを統合するという形が多かったのですが、もっと柔軟な連携を目指す時代になりました。これは銀行同士だけではなく、異業種との連携も視野に入れています。

株式会社りそなホールディングス データサイエンス部長 那須知也氏

言い換えますと、共創型のプラットフォームに集まった仲間がWin-Winの関係を築いていくという思想に基づいた連携なのです。百十四銀行様がこの思想に共鳴してくださったので、2021年9月にまずバンキングアプリを仲立ちとした連携をしていくことで合意し、今に至るわけです。

りそなグループは大手銀行とみなされてはいますが、実態としては関東圏と関西圏を中心とする各地域に密着した銀行でもあります。地域に根ざすという意味では百十四銀行様と同じであり、悩みもよく似ています。ですから、この提携はとても意義があることだと考えています。


デジタル戦略室の立ち上げ

DOORS 2021年9月にりそなHD様と提携した後、2022年4月に百十四銀行様の営業戦略部にデジタル戦略室が設立されました。そのミッションはデータ活用施策の企画・立案ですが、内部にデータサインティストも所属しておられます。立ち上げ当初のエピソードや苦労話を聞かせてもらえますか。

山本氏 大きなミッションはその通りですが、まずはバンキングアプリを導入し、リテール分野でのデータ活用を実現することが当面のミッションであり、今もそれが継続しています。リテール分野でのデータ活用ですから、マーケティングが中心であり、営業戦略部内の室として立ち上がったわけです。

本日同席している3名のデータサイエンティストは、昨年4月のデジタル戦略室発足時に配属されました。3人ともデータ分析の経験はなく、それどころかリテール業務に関しても詳しくありませんでした。

DOORS ではどういう理由でそのお三方が配属されたのでしょうか。

山本氏 データ分析のスペシャリストを配属してほしいと人事部に言ったとしても、そのような人材が行内にはいませんので、技術面でのリクエストはしませんでした。外部から採用する手もありますが、受け皿となる組織が発足していない段階での募集も難しいと考えました。実は2月からキャリア採用したデータサインティストがデジタル戦略室に入ってきたのですが、それも、室が発足して、取り組みの方向性が明確になったからのことだと思います。

まったく新しい組織を立ち上げるのですから、苦労を共にできる人材ということで、真面目で物事にじっくり腰を据えて取り組める、なおかつ情熱のある人というリクエストを人事部に出しました。それが本日同席している3名です。

データを活用したマーケティングの取り組みは当行としては初めてのことで、最初は何から手を付けていいのかもわかりませんでした。データを分析するのだから、データを集めないといけないということでデータ収集から取り組んだところ、様々なシステムにデータが散在している上、データ項目の定義に関する資料がないものが多数あり、調査に膨大な工数がかかりました。分析に入る以前に、その準備でたいへんな苦労をしたのです。

またその分野に強いブレインパッド様の支援を受けて、マーケティング分析に取り組み始めたのですが、そもそも業務に精通していないので、ビジネス的な課題やニーズがわかりません。現場部門に協力を仰ぎながら分析テーマを決めていきました。最初はなかなか双方の理解が進まず、これも苦労したところです。

DOORS 山本様とデータサイエンティストのお三方は、元々はどのような部署におられたのですか。

山本氏 私は本部系の部署を渡り歩いてきました。営業店の経験は入行時の1店舗だけです。システム系の部門が一番長く、経営企画部が次いで長いです。

百十四銀行・近泉俊博氏(以下、近泉氏) 私は融資部で融資企画を担当していました。

株式会社百十四銀行 営業戦略部 デジタル戦略室 近泉俊博氏

百十四銀行・岩倉弘貴氏(以下、岩倉氏) 私は営業店で渉外を担当しており、本部経験は初めてです。

株式会社百十四銀行 営業戦略部 デジタル戦略室 岩倉弘貴氏

百十四銀行・中村みのり氏(以下、中村氏) 私も岩倉と同じです。

株式会社百十四銀行 営業戦略部 デジタル戦略室 中村みのり氏

データ分析組織支援の裏側

DOORS デジタル戦略室の立ち上げにはたいへんな苦労が伴ったようですが、ブレインパッドはどのような支援をしてきたのでしょうか。まず、若尾さんの役割を教えてください。

株式会社ブレインパッド・若尾和広(以下、若尾) 私は、りそなHD様のデータサイエンス室の立ち上げをはじめとして、他の企業様でもデータサイエンティストの育成や分析組織の立ち上げをご支援してまいりました。そのため、今回の百十四銀行様へのご支援については、ブレインパッドチームの責任者として参画しております。

DOORS これまでの経緯を教えてください。

若尾 デジタル戦略室設立がまだ構想段階だった2021年11月、百十四銀行様からデータ利活用組織を立ち上げたいとの相談をいただき、組織体制やメンバー要件、分析環境などの構想策定を行いました。

構想策定の後、2022年4月にデジタル戦略室が組成されたことから、データサイエンティスト育成や施策検討実行などの伴走支援を行っています。当初は分析をするといってもメンバーのみなさまが未経験の業務でしたので、今あるデータを整理し、実際に分析をし、結果を見ながら施策を改善するという一連の流れを一緒に実行することで、スキルトランスファーをしていきました。

株式会社ブレインパッド ビジネス統括本部
データビジネス開発部 プリンシパル 若尾和広

また、大量なデータを分析する環境の整備についても、まず分析出来る環境と、将来的な拡張についての検討のご支援もいたしました。

デジタル戦略室様のようなポジションの組織は、データサイエンティストに必要な力と同様に、データサイエンス力、データエンジニアリング力、ビジネス力の3つの力が必要です。それらを各メンバーの役割に応じてバランス良くスキル獲得いただけることを心がけました。

データサイエンティストに必要な3つの力
(出典:一般社団法人データサイエンティスト協会

DOORS 必要な3つの力といっても、全部を身につけている人は少ないように思います。今回3人のデータサイエンティストの方が同席されていますが、これはそれぞれの力を一人ずつ担当しているということなのでしょうか。

若尾 本日こちらにいらっしゃっているのは、アナリティクス力を中心として力を発揮されるデータサイエンティストの方々なのですが、本日こちらにいらっしゃっていない事業部門とデータ分析部門のブリッジとなる”サービスデザイナー”という役割の方や、IT部門と協同してデータ利活用環境の整備やデータサイエンティストが構築した機械学習モデルを仕組み化する”データエンジニア”という役割の方などを構想策定の際に定義させていただき、デジタル戦略室メンバーとして参画いただいています。

一人の方が3つの力の全てで高いスキルを獲得するのは困難なので、デジタル戦略室のメンバーが全員3つの領域についての共通言語的知見を有した上で、データサイエンティスト・サービスデザイナー・データエンジニアの各役割の方々はその専門性を高め、組織として3つの力をつけていけるようにご支援を行っております。

DOORS 実際に支援を受けてみて、どのように感じられましたか。

山本氏 ブレインパッド様に関しては、そもそもの強みであるデータ分析力やデジタルマーケティングに関する知見をトランスファーしてもらうことを期待していたわけで、その期待に十分応えてもらったと思います。それも一方的なレクチャーではなく、一緒に手と頭を動かしながら教えてくれる「伴走支援」だったので、自分たちで考える力もついてきたと思っています。

りそなHD様に関しては、2021年11月から2022年10月までの1年間、私たちのメンバー1名をトレーニーとしてデータサイエンス部に受け入れてもらいました。その中でバンキングアプリのアドバイス配信の企画から運用までの一連の業務を経験させてもらい、その経験を当行のバンキングアプリのサービス運用でも活かしています。また顧客リストの中から、アプリ利用の見込みがある方を抽出するための機械学習モデルの構築や、アプリをリリースした後の利用状況を見える化するBIダッシュボード作成も伴走支援してくださいました。

どちらの支援も効果的なスキルアップにつながっており、今後のデータ利活用の推進には不可欠なものです。

DOORS りそなHD様がデータサイエンス室(現在は部)を立ち上げられたときの支援の経験が様々あったかと思いますが、それが今回役に立ったことはありましたか。

若尾 データサイエンティストの育成においては、分析結果を実際の施策で実行し、効果検証によってPDCAを回せる環境があることが不可欠ですが、多くの地銀様で対面・非対面に関わらず、そうした環境が充実していないケースが多いと感じています。過去の他社様へのご支援の中でも、分析は実施したものの施策の実行が出来ず人がうまく育たなかったこともありました。

私がりそなHD様のデータサイエンス室の立ち上げのご支援を行った際には、りそなHD様はバンキングアプリとそのアプリ上で施策を行う仕組みをお持ちであったことから、データサイエンティストが分析した結果を素早く施策として実施し、その結果からより精度の高い分析結果を得て育成がスムーズに進んだ、という経験があったことから、百十四銀行様のご支援においても、施策実施を前提としたテーマ選定やスキルの獲得支援に腐心しました。

百十四銀行様では、まだバンキングアプリの導入前ではありましたが、実際に住宅ローンに関する施策で、メールマガジン業務を使ってメール施策の実行とPDCAを回してみました。住宅ローンの申し込みがあった場合、その場で仮審査をして通った方に、その後本審査をすることになりますが、本審査までに他の金融機関などへ心変わりして本審査を受けていただけない方々が一定数いらっしゃいます。そこで、百十四銀行様でローンを借りることのメリットなどを伝えるフォローメールを実施し、効果検証まで行うようなことも行いました。

それ以外にも、現場から上がってきた分析テーマに対しては、できるだけ非対面、すなわちメールでフォローしながら効果検証しましたが、中には店舗に協力してもらって対面のフォローをしたケースもあります。

対面・非対面のいずれの施策においても、必ず効果検証を行いPDCAを回しながら伴走支援していくことが大切だと言えます。これこそが私たちがりそなHD様をご支援した中で学んだことであり、百十四銀行様をご支援する際にも役に立ったことでした。

DOORS ブレインパッドの支援メンバーの担当領域をそれぞれ聞かせてください。

株式会社ブレインパッド・大澤温 私はIT環境の企画周りを中心にご支援しております。

先ほど山本様より「データが散在している上、データの中身がよくわからず、調査に膨大な工数がかかっている」とお話がありました。この課題を解決し、百十四銀行様に貢献し得る分析業務を確立していくためには、散在しているデータを収集・集約するデータ基盤と呼ばれるシステム、データマネジメントの仕組みが重要になります。また、単にデータを集めるだけではなく、データから得られた示唆を実際のアクションに繋げられるかもポイントです。

今回のフェーズでは、これらのポイントを押さえ、百十四銀行様のデータ活用を進展させる目的で、データ基盤の企画やBIツールやデジタルマーケティングツールの導入検討をご支援しました。

株式会社ブレインパッド ビジネス統括本部 データビジネス開発部 大澤温

株式会社ブレインパッド・木下湧気 私は弊社主導の基礎集計・戦略策定と、データサイエンティストのみなさまがデータを分析して、それを施策に結びつける部分の支援をしました。弊社主導の基礎集計では、リテール顧客の取引状況を分析して、将来見込める収益別に顧客を分類するといったことです。それらに対してどのような戦略や方向性で接していくかについてリテール担当部門にも参加してもらって議論を深めていました。

さらにデータサイエンティストが営業企画部内や他の部署から吸い上げてきた課題から、どのようなテーマでどのような分析をし、どうやって効果検証をするかといったテクニカルな部分のサポートもしました。

株式会社ブレインパッド ビジネス統括本部 データビジネス開発部 木下湧気

DOORS ブレインパッドと百十四銀行様のデータサイエンティストで別々の分析をするといった役割分担はありましたか。

若尾 百十四銀行様のデータサイエンティストのみなさまは、データ戦略室が発足した4月の段階では経験がおありではなかったので、その時点で私たちブレインパッドが部門からテーマを吸い上げる前の俯瞰的な分析をしました。先ほど木下が言ったような、将来見込める収益別に顧客をセグメンテーションするといった分析です。百十四銀行様のデータサイエンティストが実際のデータでPDCAを回せるスキルが身についたら、すぐに分析ができる準備をブレインパッドが先にしておいたということです。

データ活用人材の育て方と社内認知の広がり

DOORS 百十四銀行様では、どのような方針でデータサイエンティストを育成しようとされていたのでしょうか。

山本氏 今後、事業戦略を進める上でデータがますます重要性を増す中、自前で分析力を持って自走できる組織を作りたいという方針がありました。それは競争力を維持していく上で不可欠のことだと考えたからです。したがって、新たな人材も社内で育成できるようにする必要があり、自分が成長するのはもちろん、他の人も育てられる人材を育成したいと思っていました。ブレインバッドさんの伴走支援は、人の育て方も学べるので、私たちの方針に最も合った支援だと思っています。

DOORS 2023年度からは、データサイエンティストの自前での育成開始を始めるのが目標だと伺っています。現時点でのデータサイエンティスト育成の状況を教えていただけますか。

山本氏 今後どうデータサイエンティストを拡充していくかは、データ活用の範囲を拡大するスピード感によって変わってきます。現時点でいつまでに何人育成するという目標は立っていません。ただ、活動領域が広がると人員が不足するのはわかっていますので、継続的に人材を供給していくことは間違いありません。先ほども述べましたが、キャリア採用した人材がこの2月からジョインしました。このように社内外から人を集め、育てることを続けていくつもりです。

DOORS 行内でのデータサイエンスの浸透状況はいかがでしょうか。

山本氏 まだできることは限られていますが、営業企画部からも他部署からも、「〇〇といった分析をしてほしい」というリクエストをもらえるようになりました。徐々に社内認知が広がってきているという実感があります。

ただ今の段階では、「このようなデータを抽出してほしい」とか「こういう集計をしてほしい」という依頼が中心で、現場の課題やニーズの吸い上げがまだまだできていないと感じています。これらは、「何かありませんか?」と御用聞きに行ってもなかなか出てこないものです。成功事例を積み上げながら、私たちの能力をアピールするとともに、業務上の課題や仮説を一緒に考えていくことでリクエストも増えていくのだろうと思います。

DOORS 支援する側から見て、百十四銀行様の変化を感じますか。

若尾 分析経験がまったくなく、DXやデジタルの経験もほとんどないところからのスタートでしたが、データ理解、分析などメンバーの方々がいろいろと努力された結果、今では当初想定していた集計・可視化レベルを超えて機械学習に関する知見も得られつつあります。

私たちの過去の他社様に対する支援の状況と照らし合わせても、早い成長であると思います。先ほど、山本様から他部署から分析依頼が来ているという話がありましたが、組織としてもデジタル戦略室が発足して1年も経っていないことを考えると、順調に組織機能の獲得と発揮が進んでいるのではないでしょうか。

りそなHD様のご支援で、バンキングアプリのダッシュボードもリリース直後から使えることになります。これはデータ活用が進んでいることに関する大きなアピールになり、デジタル戦略室だけでなく、行内全体にデータ利活用によるビジネス効率化の種が撒かれることになると期待しています。

DOORS 百十四銀行様のデータサイエンティストの成長が早い理由は何でしょうか。

若尾 正直、デジタル戦略室発足の段階でみなさんにヒアリングしたときは、どなたも「Excelは使ったことがあるが…」といった経験値でしたので、正直時間がかかると覚悟していました。しかし、私たちが伴走している間だけでなく、皆様ご自身でも大変な努力をされ、それが実を結んだ結果、まずは個人でのスキルが向上したのが大きかったと思います。

また、施策や分析の企画を進めていく上で組織の壁があり、それでなかなか分析テーマがもらえずデータサイエンティストが成長しないということも多いのですが、そこも山本様を中心に全員が協力し合って突破していったように見受けられます。実際の課題から出てくるテーマで分析することが何よりも成長促進になりますので、そのことも大きかったと思います。

ここにいるみなさまの「データサイエンスで会社を変えていくんだ」、「我々の活動を通して、社内のデータ利活用のムードを盛り上げるんだ」という意気込みを私もひしひしと感じています。その熱さに打たれた結果、各営業部門も影響を受けて協力的になったのではないでしょうか。新しいことに取り組む上では、それまでの経験や知識よりも情熱が大切だと改めて思い知った次第です。

DOORS 那須様はりそなHD様の中でデータ分析組織を立ち上げ、現在は百十四銀行様で同じく組織の立ち上げに立ち会われています。その経験を通して、これからデータサイエンティストとして育っていこうとする方々へメッセージはありますか。

那須氏 データ分析はスキルなので、しかるべき支援を受ければできるようになります。しかし、分析から得られた洞察をビジネスに実装することはたいへん難しいことです。私も日々、大いに悩んでいるところです。しかしながら私たちも1年半継続してきて、ようやく社内で多少の存在感が出てきました。大変とは思いますが、愚直に続けることが最も重要だと考えます。

継続する中で私が言い続けてきたことは、「ビジネスに始まり、ビジネスに終わる」ということです。データを分析するだけで満足してしまってはいけないということで、この言葉を日々噛みしめていれば、少しずつビジネスへの理解が深まり、道が開けていくはずです。

【関連】りそなホールディングスの「データ分析組織」の現在地

伴走支援により変化した、データ分析の現場の意欲・意識

DOORS りそなHD様、あるいはブレインパッドの支援が百十四銀行様のDX戦略に変化をもたらしたことはあったのでしょうか。

山本氏 戦略の変更といったことよりも、私たちの意欲や意識に変化をもたらしてくれたと思っています。

たとえばりそなHD様は、私たちより遙か先を進んでおり、先行者ならではの多くの経験や知見をオープンに教示してくださっています。そのこと自体に感謝するとともに、私たちも継続していけばいつかはりそなHD様に近づいていけるはずという励みもいただいております。特に今私たちが目指しているマス・リテールにおけるビジネスでりそなHD様が既に大きな成果を上げられていることが、私たちにどれだけ大きな希望を与えているかは計り知れません。

またブレインパッド様からは、先ほど木下様がおっしゃっていたような、私たちでは考えつかなかったデータ分析のプロの視点での切り口があることを教わりました。そうした刺激をもらいながら、マーケティングにおけるデータ分析のPDCAを体系立てて回せていけるという自信を持てるようになりました。これも大きな変化です。

DOORS デジタル戦略室の現在での取り組みや担っている業務について改めて教えてください。

近泉氏 発足当時から、大きく2つのことに取り組んでいます。1つはデジタルとデータを活用し、リテール推進に資する企画を立案し推進すること、もう1つはバンキングアプリを利用した企画を立案し、リテール分野におけるマーケティングで実践し、成果を上げることです。そのうち私が担っているのは1つ目であり、リテール営業戦略部門等からもテーマを共有しながら分析テーマについて様々なデータから顧客の特徴を把握し、ターゲットを絞って施策を考え、実行しています。

DOORS りそなHD様やブレインパッドといった外部のデータサイエンティストの交流を通じて感じたこと、気づいたことなどはありますか。

岩倉氏 りそなHD様にはモデルやダッシュボードの作成支援を頂いています。弊行の環境に合わせた支援を丁寧に行っていただき、経験や知見を共有頂けました。りそなHD様は既に分析環境や人材の整備を実施されており、弊行と比較するとまだまだかけ離れた存在だと感じています。しかし、根本的な悩みや経験は共感できる点が多く、他部門に対してどのように話を持っていき擦り合わせたらよいか、施策を立案・分析して、結果をどうやって共有するかといった経験談を共感しながら聞くことができます。

ブレインパッド様には、大量データの取り扱い方という面でとても大きな示唆をもらいました。Excelではとても扱えないようなデータ量が取り扱えるようになったことは、大きなスキルアップだと感じます。それまで私たちはある断面でしかデータを見られなかったのですが、時系列のデータを見ることができるようになりました。

DOORS データ分析による顧客理解の具体例や、それによる気づきがあれば教えてください。

中村氏 例えば、「教育資金」の調達手段には、自己資金での調達以外で、銀行教育ローン・国の教育ローン・奨学金など様々な方法があります。外部データも用いて様々なローンや奨学金の顧客層を比較した結果、当行のローンと国の奨学金の顧客層が大きく重なることがわかりました。特に親の年収と年齢層がよく似ているのです。

一方、香川県内の大学進学者数が増加しているにも関わらず、当行の教育ローンの利用件数は年々減少していることもわかりました。これらの事実から、当行は、教育ローンのターゲットとすべき層にリーチできていないという仮説を立てました。そこで、当行保有のデータから教育ローンのニーズの高そうな層に対して教育ローンの紹介をして、当行の教育ローンの認知度を上げる取り組みを始めたところです。

DOORS デジタル戦略室での取り組みを通じて、ご自身の変化を感じますか。

近泉氏 私は前任が融資部だったので、今の営業戦略部とフロアが変わっただけで職場環境はあまり変化なく取り組めています。ただ、デジタル戦略(データ分析)という業務自体はまったく初めてですので、今までの知識や経験があまり役立っていないかもしれないと感じることもあります。一から学び直しをしているということであり、良い経験をさせてもらっていると思っています。

岩倉氏 3つの店舗を経験し、個人と法人の両方の営業に関わりました。そのときは自分なりに確信を持って営業していましたが、データを通して見ると違うやり方もあったなということがわかるようになってきました。そこが自分としては面白く、仕事が楽しいと思えるところです。今の業務を継続していきたいと強く願っています。

中村氏 営業店で3年間営業を務め、4年目で本部に配属されました。営業店での経験を今の業務にどう活かせるかを考えながら業務に当たっている毎日です。営業店にいたときは向き合っていたお客様のことしかわかりませんでしたが、今はデータ分析を通して当行のお客様の全体像が見えるようになりました。この知見を営業店に還元して、営業店にできるだけ負荷をかけず、むしろ営業の力添えになる施策を立案していきたいと考えています。

DOORS デジタル戦略室が様々な取り組みを行った結果、顧客とのコミュニケーションあるいは社内でのコミュニケーションに変化はありましたか。

山本氏 繰り返しにはなりますが、顧客のセグメンテーションに関する新たな知見をもらえたことは、これまでアプローチできていなかった顧客層と密なコミュニケーションを行っていく上での大きなヒントになっています。また、これまではすべてのセグメントに向けて一律にキャンペーンを仕掛けていたのですが、ターゲットを絞り込むことでキャンペーンの打ち方が大きく効率化されました。

2月にバンキングアプリをリリースしましたが、これこそがお客様との最強のコミュニケーション手段であり、個人向けビジネスのメインチャネルになるだろうと行内各所から大きな期待を受けています。

こういった動きの中で、デジタル戦略室を擁する営業戦略部全体にもデジタルマーケティングの推進を期待する気運が高まっています。たとえばWeb広告の担当者から効果検証や有効活用についての依頼が来るようになっているのです。つまり現場の自発的な企画とデジタル戦略室との連携の動きが出てきているということです。

近泉氏 従来の銀行の営業はフェイス・トゥ・フェイスで、信頼関係に基づく対面営業が主流でした。それが、データを活用したターゲティングができるようになったことで、今まで気づかなかったお客様層へのアプローチ機会を捉え、コミュニケーションの構築に利用ができるようになったと感じています。

若尾 企業規模が大きくなるほど、部門をまたいでの取り組みが難しくなります。しかしデータサイエンスという架け橋があると、社内はもちろん外部であるお客様との間でも様々なコミュニケーションが生まれます。その土壌が百十四銀行様でできあがりつつあることを感じます。

今後、りそなHD様が構築支援しているダッシュボードが広く使われるようになると、社内全員が同じ数字を見ながら、様々な議論が行えるようになり、さらにコミュニケーションの土壌が広がっていくと期待しています。

データ活用をあらゆる領域・問題解決へ

DOORS 百十四銀行様では、これからのデータ活用やデータサイエンティスト育成にどのような期待をされているのでしょうか。

山本氏 まだリテール施策で結果が出ていない段階ではありますが、将来構想では法人向けビジネスにも展開していきたいと考えています。また、来店顧客の分析による店舗戦略への応用や、業務量を分析することで社内の最適な人員配置といったバックオフィス業務にも貢献していきたいと思っています。

このようにデータ活用の適用領域を広げていくことが大きな目標・方向性ですが、これらのように私が思い付くこと以外でも、データで解決できることが行内に山ほど隠れているでしょう。また行内で既に持っているデータさえ把握し切れていない、つまり活用されていないという現状を打破して、より多くのデータを活用できるようにしていきたいとも考えています。そうすることがお客様をさらに深く知ることにつながるからです。

さらに現時点では自分たちの持つデータを自分たちのために活用しています。もちろん私たちの商品やサービスがお客様の課題解決に役立っていると信じていますが、私たちの商品・サービスを介さずにお客様の直接の課題解決にも役立てていければと思っています。

デジタル戦略室のメンバーは、経験ゼロから始めて本当に苦労が多かったと思います。ようやく業務に慣れてきたところですが、さらに高いレベルの悩みや壁にぶつかることになるでしょう。しかし、私たちの取り組みは百十四銀行にとって非常に重要であり、それを担っている自信と気概を持って、引き続き取り組んでほしいと思っています。

企業が連携して目指す先

DOORS 大手銀行であり、信託を併営し、また地方銀行の強みも持っているりそなHD様が、百十四銀行様のような地域金融機関と連携強化することで見据えている先を教えてください。

那須氏 繰り返しにはなりますが、我々が目指す姿は、私たちの提供する金融デジタルプラットフォームの上で、金融機関同士はもちろんその顧客企業や提携企業も巻き込んで、Win-Winの関係を築き上げていくことです。そのためにいろいろな仲間を募り始め、最初の一歩を踏み出したのが今の段階です。

仲間とはいえ、競争領域と非競争領域の両方があると思っています。競争領域はおのおのの商圏の中で顧客に対して独自性を発揮する領域です。ここでは切磋琢磨していけばいい一方で、たとえばデータを収集し、分析できる形に整形するような苦労はりそなHDでも取り組んできましたし、百十四銀行様でも経験しました。誰がやっても同じような苦労をする領域です。このような領域に関しては、みんなが順番に苦労していく必要はなく、先に苦労した者が得たノウハウを共有して、省力化を図っていけばいいのではないかと思います。そうすることで日本の至るところでムダな労力が減り、日本全体の生産性が向上するはずです。そうして生まれた余剰時間をもっと付加価値を生む仕事に振り向ければ、おのおのの地域がまず活性化し、さらには日本全体が活性化し、私たちが目指すサスティナブルな社会の実現につながっていくのではないでしょうか。

そのような未来を創りたいという考えから、私たちはブレインパッド様と資本業務提携契約を結びました。しかしこの2社だけで達成できるものではありません。まず地域金融機関の仲間を増やそう。そして力を合わせてその先にある地域経済を活性化していこう――このような考えに百十四銀行様が共鳴してくださったということであり、それに対する感謝は尽きません。

若尾 お金が経済の血液だと考えると、地域経済において血流を回せるのは、まさに地域金融機関です。りそなHD様とこうやって百十四銀行様の支援をさせてもらっていますが、那須様のおっしゃるように百十四銀行様とも協力して、香川県の経済を活性化していくことが次の目標となります。それを見据えたデータ活用のお手伝いを今後はしていきたい。そして香川県と同じ取り組みを全国に広げていくことで、日本全体を活性化していきたいと考えます。

データサイエンスで日本を変えたいというのは、ブレインパッドの創業者の思いであり、また我々の存在意義でもあります。それをりそなHD様、そして百十四銀行様と一緒に進めていけることはたいへん嬉しいことですし、同時に大きな責任も感じています。

DOORS これからデータ活用に取り組む企業にとって参考になる話を多くいただきました。同時に熱い気持ちも受け取りました。みなさま、長時間にわたって、本当にありがとうございました。

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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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