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製造業の開発現場では、新製品や新プロセスの実現に向け、日々多くの実験や検証が行われています。限られた期間と予算の中で成果を出すためには、試行回数を減らしつつも品質を確保し、安定した条件を見つけることが欠かせません。
しかし、実際には、担当者の経験や勘に依存した検討が多く、計画の属人化や工数の増加、開発スピードの停滞という課題が顕在化しています。
また、世の中の動向としても、製品ライフサイクルの短期化やAI・IoTの普及により、迅速かつ精度の高い意思決定がますます求められるようになってきているのが実情です。
こうした中で注目されているのが、データを活用して実験条件を最適化するアプローチです。本記事では、ブレインパッドが提供している実験計画最適化ソリューションを導入し成果を上げた企業の成功事例と、その活用によって得られる具体的なメリットをデータサイエンティストの魚井が詳しく解説します。
開発現場の実験計画を支援する「実験計画最適化ソリューション」とは、材料や工程に関する膨大な条件を学習し、最適な実験計画を効率的に導き出すためのシミュレータとコンサルティングを組み合わせたサービスです。
従来の実験計画では、材料面でのデータ活用(MI:Materials Informatics)と工程面でのデータ活用(PI:Process Informatics)の両面で課題を抱えてきました。経験や勘に依存した調整でも一定の成果は得られるものの、試行回数の増加や再現性の不足、ノウハウの属人化といった問題が顕在化していました。
このような課題に対し、シミュレータは材料とプロセスの両面で効果を発揮することが可能であり、その結果、人材活用の面にも良い影響を与えます。ここからは、それぞれの観点から得られる具体的な効果を整理します。
材料配合や物性値に関する検討は、従来は担当者の経験や勘に強く依存していました。そのため、狙い通りの特性を得るまでに多くの試作を要し、検討時間やコストが膨らむ傾向がありました。
実験計画最適化シミュレータを活用することで、以下のような効果が得られます。
研究段階で成立した品質が、量産スケールに移行すると再現できないという課題は多くの現場で共通しています。設備や工程条件の違いが障壁となり、立ち上げ時の手戻りや歩留まり低下を招いてきました。
シミュレータで工程条件や制約を反映させることで、以下のような効果を発揮し、研究から量産までの一貫したプロセス最適化が可能になります。
実験計画最適化シミュレータの導入は、技術面の改善にとどまらず、人材活用の面でも大きな効果をもたらします。
大手企業になると研究開発や生産部門を合わせて100名規模になることもあり、全員がデータを活用できる体制をつくることは容易ではありません。しかし、規模が大きい分体制を整えて人材ポテンシャル最大化できたときの効果はより大きくなるでしょう。
データに基づく検討フローを整えることが属人的なスキルに依存しない体制づくりにつながり、新たに加わった社員が短期間で戦力化できるようになるのです。
また、評価指標と操作変数の関係が明確になれば、議論の焦点が合いやすくなります。会議での合意形成が早まり、工程移管や量産立ち上げの準備も前倒しで進みやすくなる点はメリットです。分析や最適化を道具として日常的に使えるようになれば、現場全体で生産性が底上げされるため、人材採用のアピールポイントにもつながるでしょう。
ここまで実験計画最適化ソリューションの利点をお伝えしましたが、このようなツールを現場に実装していくにあたっては、以下のことが障壁になることがあります。
お客様と接する中で見えてきたのは、データ活用を阻害している最大の要因は、「データを取るのが面倒くさい」という意識であるということでした。理論的な課題、仕組み面の課題は私たちもあらかじめ把握していましたが、どの企業にも共通している一番の課題は「人の意識」だったのです。
データを取得して整理し、蓄積していく作業は手間がかかりますし、現場の人にとっては優先度が低くなりがちです。
意識として、「面倒くさい」を完全にゼロにすることはできません。しかし、その面倒くささを超えてデータ活用を進めるためには、できる限り簡単にデータを蓄積できる仕組みを用意することが大切です。そして、もうひとつ重要なのは、「データを貯めるとこんな良いことがある」というメリットを明確に見せることです。単に「データは大事」、「統計は大事」と理念を語るだけでは浸透しません。
実際に、実験回数を減らしたり、失敗も含めてデータを蓄積したりする意味をメリットとして明確に示したりと、面倒くささを減らす工夫が必要なのです。
開発・実験現場 計画におけるデータ活用を進めていく上でのポイントは、「データ蓄積・活用の文化・習慣の浸透」「ツールの使いやすさと機能のバランス」「費用対効果」の3点です。
精度は初期評価で最も影響のある項目です。世の中のデータ分析ツールは「予測」だけで終わるものが多いのですが、「実験計画最適化シミュレータ」に関しては、数理最適化まで含めて実験条件を提案できる点が特長の1つです。予測だけだと“天気予報”の域を出ず、現場の実験条件検討に寄与しにくいのが正直なところです。
データ活用の最大の課題は、データ蓄積・活用の文化・習慣の浸透ですが、「データは大事」というスローガンだけでは人や組織はなかなか動きません。データを貯めると何が良いのか」を具体的に示す必要があります。そこで導入初期は「明日から使ってください」とはせず、代行して解析結果を提示します。まずは効果を見ていただきながら、初めは2〜3人の利用からスタートし、10人、20人と徐々に広げていきます。当社の支援も徐々に減らしていき、お客様自身での運用へ段階的に移行していきます。
最終的にはお客様だけで運用できる状態を目指します。半年から1年単位で見ると、自社だけで回せるようになり、コストも抑えられるようになるでしょう。
導入前の準備工程が多すぎると浸透しにくくなるため、最低限、Excelファイルなどで数字が入ったデータが1つあれば始められるようにしています。既存業務を邪魔しないことが大事で、「実験ノート1つから着手できる」くらいの使い勝手を重視しています。
一方で、簡便さを優先し過ぎると最適な実験条件の精度を損なうリスクもあるため、パワーユーザー向けの機能は残すなど、バランスを取っています。
費用対効果や投資回収に関しては、企業やテーマ数、利用人数によって変わるため一概には言えません。テーマ数や利用人数、浸透度が高まるにつれて、リターンも大きく異なります。
ただ、短期での回収を約束するよりも、中長期での活用を前提に考えるのが現実的です。初期は1〜2テーマで伴走し、手応えを得てから自走へ移るというステップが最終的に最もコスト効率が良いと考えています。
自社の規模ややりたいことに見合ったツールであるかどうか、またその導入ステップがどうなっているかを予め確認すると良いでしょう。
実験計画最適化シミュレータの基本性能と強みは、実験条件提案機能の速さと精度です。無限にある実験条件の組み合わせを、我々のエンジンは1秒間で10万〜100万回試行できます。
他社が24時間かけて出した結果を、当社では1分で同等の結果として提示できた事例もあります。
また、Excelファイル1つから始められる手軽さも特長の1つです。ブラウザ上で動くためインストール不要で、IDとパスワードがあれば高性能PCを用意しなくても利用できます。すぐに導入でき、トラブル時にも迅速に状況を確認できます。カスタマーサポートも付いており、課題設定からご相談いただけます。
条件を限定してAIに提案させることができるため、人の仮説とAIの提案を組み合わせたハイブリッド運用ができることも大きなメリットのひとつです。
導入後、お客様から効果を実感したとよく言っていただけるのは、日常的にツールを使ってもらえるようになったときです。業務のインフラとして欠かせない存在になってきたという手応えがあります。
他社との違いは、AIと人間のハイブリッド提案機能、圧倒的な組み合わせ探索性能です。UIは一見シンプルな他社製品の方が優れて見える場合もありますが、長期利用を見据えた高度な機能性を備えており、初期の学習コストを上回る効果を提供します。
今後の改善や新機能として、 生成AIを活用し、チャット形式で実験条件検討ができる機能を計画しています。初めての利用者でも、条件を簡単に入力してAIに依頼するだけで、最適な実験条件が得られる仕組みです。最低限のルールを守るだけで運用できるようにし、初心者でもすぐに成果を出せる体験を目指しています。
製品開発の効率化事例として、食品メーカーA社は食品の特性を測定する専用機器を保有していましたが、既存の機器は性能の良し悪しを数値化するだけで、改善のための具体的な条件や方法までは示せないものでした。
また、品質向上のための配合や製造条件は各技術者の知識や経験に依存しており、ベテランは自身のローカル環境(Excelなど)にデータを蓄積し、新人は十分な情報を得られないという属人化が進んでいました。
「実験計画シミュレータ」を導入した後は、既存の試験データや配合条件をツールに投入することで改善方向が可視化され、属人的だったノウハウが共有されるようになっています。新人でも一定の成果を出しやすくなり、試作や開発にかかる時間は約20%短縮され、新たな商品開発にもつながっています。
ただし、導入直後は全員が活用するわけではなく、使用者と非使用者の差が残っていたため、初期段階ではツール提供側である私たちが代行解析や効果の提示を行い、徐々に現場主体の運用に移行しました。勘や経験に依存していた実験条件検討が減少し、議論の質がデータドリブンに変化しています。
食品メーカーB社は、ラボ段階では実現できる品質を大量生産に移すと維持が難しいという課題を抱えていました。原材料の種類や調達元、生産量によって最適な機械設定(温度や時間)が変わり、標準化が困難になっていました。また、生産ラインは1日1回程度しか稼働できず、品質検査の負担も大きく、データの蓄積も進みにくい状況でした。
データを蓄積しつつ、「実験計画シミュレータ」を導入したあとは、条件を入力すればそのときどきに応じた最適な設定が提示されるようになっています。担当者の経験に依存しない安定した品質確保が可能になりました。
結果として、生産工程が改善され、社内の意識向上にもつながっています。
データドリブンな実験計画を発展させる上で重要となるのは「民主化」です。データ専門人材に依存せず、誰もが同等のアウトプットを手軽に得られる環境を構築すべきです。
そのためには、現場の一時的な工夫ではなく、専門家による設計・開発を経た堅固な仕組みづくりが不可欠です。同時に、現場が直感的に利用できる使いやすさと浸透方法を考慮することも課題となります。
こうした流れの中で、生成AIは中核的な役割を担うと感じています。今後は「実験計画エージェント」としてAIエージェント化を進め、利用者が条件を入力するだけで最適な実験条件や計画案を提示できる仕組みの実現を目指すべきです。その際には、利用者が必ずしもデータそのものに強い関心を持っていない点を前提とした設計が求められると予想しています。
また、データ活用は今後の研究開発において「インフラ」と位置づけられるべきものです。将来的には新製品の原価に果物や加工費と同様に「データを活用したレシピ計算費」が含まれるような世界が理想といえます。AIエージェントの利用費用が人件費と同様に捉えられるようになれば、企業にとって欠かすことのできない基盤となるでしょう。
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