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宇宙から取得された衛星データは、事業戦略の高度化や社会インフラの最適化において、十分な活用可能性のある情報資産です。しかし、「新たな石油」とも呼ばれるこのデータの価値を十分に引き出せている企業や自治体は、いまだごく一部に限られます。その背景には、専門知識の不足、コストの大きさ、そしてデータ形式の複雑さという根深い課題が存在します。
ブレインパッドは、誰もが衛星データの恩恵を享受できる未来のために、これらの課題の抜本的解決を目指して、生成AI技術を駆使した新サービス「Orbital Sense」をリリースしました。専門知識を持たない利用者でも、日常的に使う「自然言語」をインターフェースとすることで、衛星データ活用をより実務的かつ広範に展開できる新たなステージへと引き上げるソリューションです。
この記事では、Orbital Senseがどのようにして衛星データ活用の壁を打ち破るのか、その技術的な背景から具体的な活用シナリオ、そして未来の展望までを解説します。
これまで多くの企業が衛星データ活用に挑戦しながらも、本格的に使いこなすことができている企業は多くありません。その理由は、大きく3つの壁に集約されます。
壁①:データを読み解くための専門知識が不足している
壁②:技術開発に要するコストが膨大すぎる
壁③:「非構造化データ」の扱いが難しい
それぞれひとつずつ説明していきます。
衛星データを読み解き、ビジネスに活用できる知見を得るには、地理空間情報(GIS)やリモートセンシングといった高度な専門知識が不可欠でした。「特定の波長の光の反射率から、植物の活性度を測る」といった専門的な分析は、誰もができるものではありませんでした。
膨大な衛星画像を保管するストレージ、高速に処理するための計算リソース、そして特定の目的(例:建物だけを検出する)のためだけに新たなAIモデルを個別に開発・学習させるための多大な時間とコストが、導入への高いハードルとなっていました。
これが最も根深い課題です。ビジネスで一般的に扱われる売上データや顧客リストは、Excelの表のように整理された「構造化データ」です。一方、衛星画像は、テキスト・音声などと同じく、決まった形式を持たない「非構造化データ」に分類されます。
非構造化データは、その名の通り構造化されていないため、コンピュータが「意味」を理解するのが非常に困難です。例えば、一枚の衛星画像から「建物の密集度が高い地域」や「土砂崩れの兆候がある斜面」といったビジネス上有用な情報を抽出するには、従来、専門家が目視で判断するか、前述の通り専用のAIモデルを個別に開発する必要があったのです。
3つ目の「非構造化データの壁」を解決するためのブレイクスルーとなったのが、生成AI、特に「マルチモーダルLLM(大規模言語モデル)」です。
従来のAIが主にテキスト情報のみを扱っていたのに対し、マルチモーダルAIは、テキスト、画像、音声など、複数の異なる種類のデータ(モダリティ)を同時に理解し、関連付けることができます。
これにより、人間が「海が見えるしずかな高台」という言葉(テキスト)から実際の高台の情景(画像)をイメージできるように、AIもテキストと画像を同じ「概念」として理解し、関連付けられるようになりました。
Orbital Senseは、このマルチモーダル技術の応用によって、衛星データ活用における革命的なインターフェースを実現しました。その核心となるのが「マルチモーダルエンベディング」です。
これは、テキストが持つ「意味」と、画像が持つ「視覚的な特徴」を、共通の意味空間(ベクトル空間) と呼ばれる、コンピュータが理解できる数値の集まりとして変換(写像)する技術です。

この技術により、例えば「海が見えるしずかな高台」というテキストを入力すると、AIはその意味を解釈し、意味空間上で最も近い位置にある衛星画像を瞬時に探し出すことができます。これは、画像にあらかじめ与えられたタグ情報に頼るのではなく、画像そのものの内容や文脈をAIが直接理解して検索できるということです。この「あいまい検索」の技術こそが、専門知識を不要にし、誰もが直感的に衛星データを扱えるようにする鍵なのです。

Orbital Senseの活用可能性は、衛星データ(非構造化データ)の解析だけに留まりません。既存の統計データや業務データといった構造化データと組み合わせる「ハイブリッド検索」によって、さらにその真価を発揮します。具体的なビジネスシーンを2つ見ていきましょう。
ある不動産会社が、具体的な条件に基づいてリゾート開発用地を探しているケースを想定してみます。
人間がこれらの条件を入力すると、Orbital Senseの裏側で機能するAIエージェントは、最適な検索戦略を自律的に設計し、実行してくれます。
次に、これまでにない新しいコンセプトのカフェを展開するチェーン店の店舗開発担当者のケースを考えてみます。
これまでは、今回のケースのような「街の雰囲気」という定性情報は、担当者が歩き回る現地調査に頼るしかありませんでした。AIエージェントは、このプロセスをデータドリブンに自動化します。
ブレインパッドが目指すのは、単なる検索ツールの提供ではありません。将来的には、データを分析する人間の相棒のように、自律的に思考し、最適な問題解決プロセスを判断・実行する「AIエージェント」 への進化を見据えています。
ここまでのビジネスシーンで想定してきた、AIが「決定論的な条件」と「概念的な条件」を使い分ける動きこそ、我々が構想するAIエージェントの萌芽であると捉えています。
例えば、経営層から「首都圏において、水害リスクが低く、将来的な地価上昇が期待される、大規模物流センターの建設候補地を5件、定量的な根拠とともに報告せよ」といった高度な要求があったとします。
これに対し、未来のAIエージェントはどのように思考して、問題を解決していくのか、簡単に考えてみましょう。
このように、AIエージェントは単にデータの処理・分析を補助するだけでなく、課題解決のためのプロセスそのものを立案・実行する存在へと進化していきます。人間は、AIが提示した質の高い分析結果を頼りにして、より本質的な意思決定に集中できるようになっていくのではないでしょうか。
私たちブレインパッドは、20年以上にわたり、データ活用とAIのプロフェッショナルとして、お客様のビジネス成長に貢献してきました。しかし、さらなる本質的な価値を生み出すには、私たちの技術だけではなく、お客様が現場で培ってこられた専門知識やデータの融合が必要であると確信しています。
Orbital Senseは、この融合を加速させるための強力なツールです。
「自社のこの課題は、宇宙から見たデータによって解決できないか」
「このデータと衛星データを組み合わせることで、どんな新しい価値が生まれるか」
少しでもご興味をお持ちいただけましたら、ぜひ一度お話をお聞かせください。貴社のビジネス課題を、新たな視点から解決するディスカッションの機会を、心よりお待ちしております。
【参考】
ブレインパッド、ジオテクノロジーズと「生成AI×地理空間データ」の共同研究を開始

本技術や具体的な活用方法に関するお問い合わせは、こちらよりお願いいたします。
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