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SMBCグループにおけるデータドリブン組織への変革に向けた取り組み

公開日
2023.03.13
更新日
2024.03.08

「最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー」を目指して、金融機関の枠に囚われない挑戦に取り組んでいる株式会社三井住友フィナンシャルグループ様(以下、SMFG。同社グループを総称してSMBCグループ)。本記事では、SMBCグループにおけるデータドリブン組織への変革に向けた取り組みについて、ブレインパッドCEO 高橋隆史がSMFG執行役専務グループCIO 内川淳氏にお話を伺った。

写真左から、株式会社三井住友フィナンシャルグループ・内川淳氏、
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本記事の登場人物
  • 経営
    高橋 隆史(旧姓:草野)
    会社
    株式会社ブレインパッド
    役職
    取締役会長 Co-Founder
    慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。新卒として日本サン・マイクロシステムズ株式会社(現:日本オラクル株式会社)に入社。その後、フリービット・ドットコム株式会社(現:フリービット株式会社)の起業参画を経て、日本企業のデータ活用を支援するべく2004年3月に佐藤とともにブレインパッドを共同創業。代表取締役社長として、2011年9月に東証マザーズ、2013年には東証一部上場を成し遂げる。 現在、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事、一般社団法人日本ディープラーニング協会理事、東京大学エクステション株式会社社外取締役を務める他、官公庁による各種研究・委員会活動等に識者として参画する等、データ活用促進のためさまざまな対外活動にも従事。2023年7月より取締役会長に就任(現職)。

SMBCグループが「情報産業化」を目指す理由

株式会社ブレインパッド・高橋隆史(以下、高橋) 最初にSMBCグループのCIOとしての、内川様のミッションを聞かせてください。

株式会社三井住友フィナンシャルグループ・内川淳氏(以下、内川氏) 当グループでは、攻めと守りの両利きの経営を目指しています。私は、経営を支える基盤であるIT、データ、情報セキュリティに加え、オペレーション分野を担当しています。わかりやすい取り組みとしては、ペーパーレス化、デジタル化、STP(Straight Through Processing)化などで、これらを通じて効率化とスピードアップを図ることで、お客様の負担を減らすことを目指してきました。

ITはSMBCグループ全体を支える基盤であり競争力の源泉です。データ利活用を推進し、グループ全体をデータドリブン組織に変革していくことが攻めのITの要諦だと考えています。

株式会社三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCIO 内川淳氏

高橋 SMBCグループ様が2020年5月に発表された中期経営計画におけるデータ戦略を、私たちは以下のように理解しています。

  • 情報産業化、プラットフォーマー、ソリューションプロバイダーという3つの方向性を目指している
  • 情報産業化の推進に向けては、グループCEO太田純氏によるメッセージの通り、「データはバランスシートには計上されない非常に価値の高い資産であり、この目に見えない資産をいかにマネタイズするかが企業の勝敗を分ける鍵となる」との認識の下、データを活用した価値創出に取り組んでいる

こうした取り組みをグループ一丸となって加速させていくために、データドリブンな企業への変革に向けたプロジェクトを、ブレインパッドをパートナーとして取り組んでいるとの認識でよろしいでしょうか。

内川氏 はい。おっしゃる通りです。私たちのグループビジョンは、「最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー」になることです。このビジョンを実現するためのキーワードとして、「情報産業化」を掲げています。そのためにはデータは欠かせない要素です。

2023年2月現在、2023年度から始まる次期中期経営計画に向けての戦略を練っているところであり、DX・デジタル化を柱にビジネス戦略を組み立てようとしています。これはデジタルありきではなく、あくまでビジネスありきの戦略であり、現場における戦術の実行力を高めるためのデジタル化であることを強調しておきたいと思います。

高橋 「情報産業化」とは具体的にはどのようなことなのでしょうか。またそこからどのような価値を創造しようと考えておられるのでしょうか。

株式会社ブレインパッド 代表取締役社長 執行役員CEO 高橋隆史

内川氏 たとえば私たちの持っているデータを分析することで、お客様の商流を把握することができます。そこから「より効率的な資金運用をするには、このような調達が可能です」とか「キャッシュマネジメントを効率化するためにこのような方法がありますよ」といったご提案が可能になります。つまり「私たちの持っているデータに基づいて、お客様にフィットしたソリューションを提供できるようになること」を「情報産業化」と呼んでいるのです。

以上は金融取引の例でしたが、それ以外にも、先ほどのグループビジョンに「社会」とあったように、社会課題の解決への貢献も目指しています。その一例が、温室効果ガス(以下、GHG)排出量の算定・可視化クラウドサービス「Sustana(サスタナ)」です。温暖化対策は世界規模の取り組みで、日本企業にも当然のこととして求められています。しかしそもそも自社がどれだけのGHGを排出しているかを把握できていないのが現実です。そこでGHG排出量を可視化するツールを提供し、次の打ち手を考えられるようなサービスを開始しました。既に100社を超える契約をいただきました。Sustanaを通じて具体的なGHG排出量の削減目標や削減方法を提案し、その実現をサポートしていくことにつなげていきたいと考えています。

つまり金融業界を超えて、あらゆる産業のデジタル化のお手伝いをしていくことを目指しているということです。

高橋 自グループはもちろんのこと、それにとどまらずに顧客のデジタル化支援が既に一部で始まっているということですね。


300人のデータサイエンス人材を育成・確保した7年間の軌跡

高橋 SMBCグループ様のビジョンやミッションを達成するために、データドリブン組織へ変革することを目指されていると認識しています。そのためにどのような方向性で人材を育成してこられたのでしょうか。

内川氏 当グループでは、7年前の2016年にデータマネジメント部を設立しました。私はその初代部長に着任し、2年間基礎作りに邁進しました。設立目的は、今後重要になっていくであろうデータ利活用を推進することで、攻めのエンジンたる組織という位置づけでした。これはグループ内に前例のないことであり、まったく手探りで始めたのですが、まずはデータ整備から着手しようとMIS(経営情報システム)を構築し、ビジネスに必要なデータを集めてデータベース化していきました。

またデータベースだけあっても意味がないので、並行してデータ分析環境の整備を進めました。自社で一から開発するのは難しいと判断し、dotDataというAIツールを導入したり、リテール分野のデジタルマーケティング・プラットフォームを構築するなどしました。

この初期の取り組みの時点では、社内にデータサイエンティストが1人もいませんでした。そこで外部企業に依頼して、トップレイヤーのデータサイエンティストに出向してもらい、データ分析に関するスキルトランスファーを受けたのです。

しかしデータマネジメント部だけがデータを活用できても意味はありません。グループ全体でデータ活用ができるようになるのが目標でした。そこでまずは全社的にデータ活用の重要性を知ってもらうため、部長クラスのマネジメント層を集めた研修を実施しました。まずこのクラスの人たちに、「データの見える化→分析→打ち手の検討」の流れとその有効性を理解してもらったのです。

並行してアカデミアとの連携も進めました。東京大学と滋賀大学に社会人向けデータ分析教育プログラムを導入してもらい、次世代の人材育成に取り組むことにしました。また米国のデータサイエンス大学院に従業員を留学させました。採用においても専用のコースを設けて、データサイエンス人材が積極的にインターンシップに参加してもらえるようにしています。

さらにデータサイエンティストのスキルを持っている従業員を正当に評価するために、エキスパート制度を導入するなど人事制度の充実にも努めてきました。キャリア採用も進めており、現在ではエントリーレベルの人材も含め、グループ全体で約300人のデータサイエンス人材を擁するまでになりました。

高橋 まず部長クラスから教育を始めたのはどういう意図だったのでしょうか。

内川氏 社内全体に新しい意識を取り入れるにはボトムアップではだめで、まずマネジメント層が理解する必要があります。そうしないと部下が一生懸命取り組んでいるのに、部長が受け付けないということになり、モチベーションが下がるからです。

高橋 とはいえ部長全員に研修を受けさせるのはコストが掛かりますし、スケジュール調整も大変だったでしょう。

内川氏 もちろん全員を1回でというわけにはいかないので、半日から1日ぐらいのワークショップを数回に分けて実施しました。コストを掛けた価値は十分ありました。部長クラスでデータの重要性を認識していない者は、いまや一人もいないと断言できます。


「D-1グランプリ」で隠れたデータ人材を発掘

高橋 SMBCグループならではの取り組みはございますか。

内川氏 グループ内で、通称「D-1グランプリ」と呼ぶデータ分析コンテストを開催しています。今年度で3回目となりました。テーマは「Jリーグの年間観客動員数を予測する」というもので、先日、表彰式を終えて閉会となりましたが、かなり盛り上がりました。

高橋 何人ぐらい参加されたのですか。

内川氏 約500人の参加がありました。個人戦ですが、初学者でもモチベーション高く取り組めるように、経験者の部と未経験者の部に分けて開催しました。こうした取り組みのおかげで隠れたデータ人材の発掘につながっています。

高橋 それはすばらしい! データ分析が業務でない人たちがそのようなコンペに参加するような意欲がある会社はなかなかありません。

内川氏 秋先から4カ月掛けて実施しています。参加者同士のコミュニティも用意して、そこで活発な情報交換も行われています。グループ会社の部長も参加していて、けっこう優秀な成績を上げました。

高橋 それにしても500名の参加は驚くべきことだと思います。

内川氏 銀行員は元々データが好きなのです。昔から数字を扱っていますし、数値分析に凝る人も多く、こういうコンテストに食指を動かされる人も多いのでしょう。

100%の正確性を求められる銀行システムとは文化が違った

高橋 データ活用を推進するにあたってデータマネジメント部といった新しい組織を作ることは1つのセオリーですが、その組織を任せる人材の選定で悩む企業も多いようです。内川様がデータマネジメント部の初代部長に選任された理由を聞かせていただけますか。

内川氏 1988年に住友銀行に入行して以来システム部門におりましたので、IT経験は長いのです。ただ、データ分析の経験はまったくありませんでした。データマネジメント部には、出向していたグループ会社から戻ってきて着任し、そこで毎日試行錯誤しながら、一からデータ活用について学んだというのが正直なところです。

高橋 ITは充実していても、データが活用されていない会社が多いと感じています。ITの専門家の内川様から見て、データ活用は何が難しかったのでしょうか。

内川氏 ベースとなるスキルが違います。データ活用には、プログラミングだけでなく統計を理解している必要があります。またクレンジングなどのデータ整備・加工のスキルや、機械学習をはじめとするAIの理解も必要です。これらは私のシステム開発のキャリアでは手掛けてこなかった分野でした。

高橋 しかし基幹系のシステム開発でもデータベースからデータを読み込んで計算するといったデータ利用の場面はありますよね。

内川氏 銀行の勘定系のシステムであれば、100%の正確性が求められます。しかしデータ分析であれば95%の精度があれば上々とされます。その文化の違いはとても大きいのです。

高橋 マインドセットの変更が必要ということですね。

内川氏 はい。正直、データ分析は銀行の文化にはなじまないのではないかと考えた時期もありました。しかしよくよく見てみると、マーケティングやリスク計量化など適している分野がいくつもあることに気がつきました。そこから取り組んでいけばいいのだと思ったのです。

ROIが算定できないのに投資できた理由

高橋 まずデータ収集とデータ基盤開発から取り組んだということでしたが、SMBCグループ様の規模となると莫大な投資額だったと想像します。これらのテーマではROIが事前に算定できないと思うのですが、それでも投資に踏み切るにはかなりの勇気が必要だったはずです。

内川氏 おっしゃる通りで、ROIベースで予算を算定したわけではありません。経営基盤強化のためのインフラ投資です。だからMIS(経営情報システム)構築プロジェクトから着手したわけです。これは基盤作りであり、現在一定レベル以上の分析ができているのは、この投資のおかげです。

基盤構築ではいっときに大きな投資をしましたが、データ分析が向く分野、たとえばマーケティング分析なども事前にROIを算定するのは困難で、実施してみないとわかりません。そのような分野の投資に関しては、スモールスタートで小さな成功を積み上げながら、ビジネスサイドに徐々に展開していくようにしています。

高橋 データ活用で結果が出てくるまではどうしても投資先行にならざるをえないのですが、ROIが算定できないと決裁が下りない文化の会社が多く、それが日本企業のデジタル化を妨げている面があります。それでも成功体験のサイクルが何回か回れば変わってくることも多いのですが、SMBCグループ様ほどの規模になると投資額が膨大で、1回目のサイクルを回すのも大変だったと想像するのですが……。

内川氏 実は今回(2020年から)の中期経営計画からなのですが、IT予算に通常枠とは別に、経営枠を設けたのです。中長期的な観点で経営基盤の強化に資するITについては、CEOとCSO、CIOの三者で相談して投資を決めるのです。

おっしゃる通りROIに囚われると後手後手の投資しかできません。それが攻めのIT投資ができない原因になっています。確実に利益の上がることから投資していくとなると候補となる案件が限られてきます。経営基盤強化という観点から見ると多くの案件が埋もれてしまうという課題意識があったので、別枠として経営枠を設けることにしました。

高橋 今説明してくださった考え方は、DXを本気で推進したいと考えている多くの企業の参考になると思います。

グループ各社が一体となったビジネスラインの伴走支援

高橋 これまでの取り組みの結果、現在の組織体制はどうなっているのでしょうか。

内川氏 データマネジメント部を設立して7年間取り組んできましたが、それだけではグループ全体を見ていくには限界があります。そこでグループ会社である株式会社日本総合研究所(以下、日本総研)の組織を再編成して、データサイエンティストを1カ所に結集してもらうことにしました。これと株式会社三井住友銀行のデータサイエンティスト集団が一体となって取り組むことで、データ活用体制を強化したのです。

それまでも日本総研の先端技術ラボにデータサイエンティストはいたのですが、実際のビジネスソリューションの専門集団が必要と考えて組織しました。ですので研究ではなく、グループ会社のビジネスラインを伴走支援するのがミッションです。

高橋 先ほどの300人のデータサイエンス人材というのは、データマネジメント部と日本総研を合わせてということですか。

内川氏 いいえ。SMBCグループのビジネスラインの人材も含めて300人ということです。これらのデータサイエンス人材とは別に、ビジネスラインの企画人材については、データに基づいてビジネス企画ができる人材という意味で「ビジネスデータプランナー」と呼んでいます。ビジネスラインのビジネスデータプランナーをデータマネジメント部と日本総研のデータサイエンス人材が、どのようにサポートしていくかが今後の課題になっています。

今までの延長ではなくブレイクスルーが必要と感じた

高橋 データマネジメント部の設立から7年間、様々な取り組みの結果としてデータ活用基盤が構築され、データ人材も順調に増えてきました。ここに至って、私たちの「データドリブンアセスメント」サービスを採用された意図は何だったのでしょうか。

内川氏 7年間取り組んできた結果、取組内容は進化し、適用範囲も広がってきました。しかしこれまでの延長線上ではなく、ブレイクスルーが必要な時期なのではないかと思い至ったのです。そこで我々の現状の立ち位置や課題を客観的に第三者に評価してもらうことにしました。きっかけは中期経営計画の切り替わりです。2023年度から次の3年間の中期経営計画が始まりますので、2022年度中に評価し、次の計画に盛り込みたかったのです。

高橋 ブレインパッドにご用命いただけた理由は何だったのでしょうか。

内川氏 私たちが求めているようなアセスメントを実施して、さらに実績もあるという会社がないか、かなり真剣に探しました。高橋社長とは、ある公官庁の技術者会議で顔見知りでしたし、データサイエンティスト協会の代表理事も務めていらっしゃるので、ブレインパッドさんなら安心だろうと採用を決めました。

高橋 たいへん恐縮です。

アセスメントの話をしますと、私たちのフレームワークでは大きく8つの領域を評価します。アセスメントのフェーズ1では、データ戦略とデータマネジメント部のDMO(Data Management Office)としての機能を特に重点的に評価しました(図の①および⑧)。

理由は、グループとしての戦略が明確でしたので、その戦略をどこまでデータ戦略に落とし込んでいるかが重要なポイントだと考えたからです。また実行においては、DMOであるデータマネジメント部が旗振り役として組織全体をどうやって啓蒙しながら、リードしているかが重要です。その観点で評価しつつ、先進企業のDMOの取り組みを参考にして、改善点の提言もいたしました。

現在はアセスメントのフェーズ2に入っています。フェーズ1からの半年間で、データマネジメント部はさらに進化し、次の中期経営計画をリードする組織として存在感を増していると私たちは評価しています。

内川氏 現時点ではまだ中間評価で、最終レポートの提出・発表はこれからですが、部門別の取り組みレベルに乖離があるなど様々な発見がありました。

進んでいる部門も遅れている部門もあるということで、一律に取り組みを進めることは無理があります。各部門の状況に合わせて寄り添って進めて行くことが必要だとはっきりしました。また進めて行く上でデータマネジメント部の更なる強化も必要だとわかりました。ビジネスをよく知らないと効果的なサポートはできませんから、データマネジメント部にもビジネスに長けた人材を育成していく必要があります。

高橋 会社、部門あるいは個人ごとの取り組みにギャップがあること自体は悪いことではありません。部門における戦略や目標に応じて人材の確保の仕方は変えていけばいい。そこは個別最適でかまいません。各部門のデータ戦略や目標の違いが明確になってきていることがとても大きな成果だと考えます。それらを踏まえていれば、あとはそれに沿って平常的にデータ人材を育成していけばいいのです。

もう1つ発見だったのは、第1フェーズでは、ビジネスラインにはビジネスはわかっていてもデータサイエンスがわからない人材ばかりという前提でアセスメントしていたのですが、実際はそうでなかったことです。

ホールセール(法人向け営業)部門が行っている業務では、ほぼデータサイエンスと言えるような、データに基づく判断がされていました。ただビジネス成果の創出に向けては課題がありました。短時間で情報を集めて共有する仕組みがないことです。ですからデータ人材を育成する以前に、情報共有の仕組み作りをホールセール部門には提言しました。

このように私たちは各社・各部に合わせた提言をしていかなければいけませんし、受け取る側もその提言を参考に次の一手を考えていっていただければと考えています。

既存データの収集・分析だけでなく、新しいデータを取りに行く

高橋 先ほどSMBCグループ様のビジョンは、「最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー」になることだと伺いました。それを目指す上でブレイクスルーが必要であり、そのためのアセスメントだということでしたが、アセスメントの結果、突破しないといけない課題は見えてきたのでしょうか。

内川氏 ここまでの歩みを振り返ると、既に持っているデータを集めて、いかに活用するかにフォーカスしてきました。これからは自社にない新しいデータを取りに行って、それらを活用していく必要性を感じています。新たな付加価値を創造して社会に還元するためには、絶対必要なことであり、SMBCグループの次なる成長のキーポイントと考えています。今年度は、SBIグループやCCCグループとの連携を発表しましたが、こうした取組を通じて取得した新しいデータを活用し、新たな付加価値を創造したいと思います。

また2020年からの中期経営計画では、リテールビジネスを中心にデータ活用を図ってきました。顧客の母数が多いのでデータ量も多く、またデジタルマーケティングも個人向けが進んでいるからです。そのおかげでリテールビジネスに関しては良い方向性で進んでいる感触を得ています。

一方でホールセールビジネスは、まだまだ対面営業重視の文化が色濃く残っています。お客様との関係性はもちろん重要であり、それはそれで強化していくべきですが、それだけに頼ったビジネスでは限界があり、デジタル化がますます必要と考えます。SMBCグループにおける次のDXの本丸はホールセールビジネスだと考えている次第です。

ホールセールビジネスではデータサイエンス的な業務が行われているとの評価もありましたが、データがまだまだ少ないのが現実です。決算データとこれまで構築してきたCRMデータ、あとはテキストの営業日誌があるぐらいです。したがってデータ分析の精度も低いですし、できることも限定的です。ホールセールビジネスのデジタルチャネルをバージョンアップして様々なデータを収集し、より良いサービスにつなげていかなければなりません。ホールセールビジネスをデータで支えていくことが、データマネジメント部の次なる大きなミッションだと考えています。

高橋 ホールセールビジネスのポテンシャルは大きいですからね。

内川氏 ホールセールビジネスを進めるにあたっては、私たちだけではなく取引先にもデジタル化を進めていただく必要があります。日本企業のデジタル化がまだまだ進んでいない状況においては、お客様のデジタル化のサポートもしていかなければならないと考えています。

コロナ禍では、日本企業・日本社会のデジタル化の遅れが浮き彫りになりました。3年経ちましたが、日本のデジタル化が劇的に進展したとは言いにくい状況です。私たちの法人ビジネスにとどまらず、日本の成長、産業の育成のためにもデジタル化の後押しをしていきたい。それによって様々なデータが集まり、私たち自身も新たな付加価値を提供できるようになると期待しています。

次の中期経営計画で目指すこと

高橋 2023年度から始まる次の中期経営計画では、さらに組織にデータ活用を根付かせる取り組みに着手しようとされていると推察します。経営視点と組織論視点のそれぞれでどのような取り組みを考えておられるのか、まず経営視点での重点ポイントを教えてもらえないでしょうか。

内川氏 私たちは「科学的経営」を標榜していますが、そのためには経営者自身がもっとデータドリブンに思考し、意思決定していく必要があるだろうと考えています。そのための基盤作りもさらに進めて行く必要があり、BIツールを導入して経営ダッシュボードを提供していますが、データの鮮度向上など改善点がまだまだ多いと感じています。

経営の可視化ということでは、売上データは集計しやすく、わかりやすいので経営層からも注目されています。課題はコストデータが標準化されていないことです。経費の費目がグループ各社で違っており、そのままでは全体で集計できない状態になっているのです。そこで来年度からはグループ内で経理システムを統一し、費目を揃えることにしました。これによりコストデータも見える化でき、売上とコストの両サイドからグループ全体でのデータによる経営判断が可能になります。

高橋 組織面のポイントはいかがでしょうか。

内川氏 これまでの取り組みの延長で言えば、日本総研のデータサイエンティスト専門組織をさらに充実させてデータサイエンティスト輩出のフレームワークをさらに充実させたい。またデータドリブンアセスメントの提言を受けて、データマネジメント部を発展させた本格的なDMOをSMBCグループに作り上げたいと考えています。

その上で、今まで力を入れていた攻めの観点だけでなく、守りの観点にも注力していきたいと思います。というのはグローバルな課題として、データ利活用とプライバシーが相反するケースが注目されるようになったからです。GDPRのようなリーガルな規制に対応することはもちろんですが、お客様にアプローチをしようとする際にはプライバシーの問題が必ず立ち上がってきます。「プライバシーガバナンス」を効かせる体制が必須です。

データの正確性の担保が今まで以上に求められるようになっており、データガバナンスも重要視しています。処理の正しさはもちろん、データの源泉が何なのかまで遡って説明できなければなりません。データの品質管理が厳しくなっているのです。

プライバシーガバナンスといい、データガバナンスといい守りのための組織が必要になっています。2020年からの中期経営計画では攻めに重点を置き、それなりの成果も生まれました。2023年からは守りを一気に固めて、攻めと守りのバランスを取りながら進めて行くことがポイントだと考えています。

高橋 データガバナンスについては、誰でもデータ活用、特に加工ができるようになったことで改めて注目されています。「このデータってそもそもどうやって作られてるんだっけ?」「最初のデータは誰が作ったの?」という疑問を解消せずに、都合がいいからとデータを使い続けているとそのうちトラブルにつながることになります。

内川氏 データ品質を向上させるための地道な取り組みが大事です。しかし日本全体を見回しても参考となる先行事例がほとんどありません。実現に向けたハードルはとても高いと感じています。たとえばデータオーナーシップの考えを取り入れて、「このデータはそちらの部署で責任を持って管理してくださいね」と急に言っても、言われた側は「えっ? 何をしたらいいんでしょうか?」となってしまいます。

高橋 国内に参考事例がないからといって、海外のソリューションをそのまま適用しようとしても日本企業にはそぐいません。データ所有の感覚が国によって大きく違うからです。個人によっても感覚が違っていて、同じ会社に同じ提案をしても「もっと踏み込んだ提案をしてくれ!」という人もいれば、「なんでそんな提案が出せるの? 危なくない?」という反応もあります。逆に言えば、その企業に合わせて個別対応することも可能であり、ビジョンやミッション、戦略に合わせて提案していくことが求められています。

内川氏 一般的に日本ではプライバシーに関してセンシティブだと感じています。ビジネス側から見ると、慎重な取り組みが必要と言えます。特に金融機関、その中でも銀行は信用を源泉とするビジネスを行っており、プライバシーの問題で非難を受けやすい面もあります。

高橋 名寄せも進みませんよね。

内川氏 機械的に名寄せできるようになってきてはいるのですが、お客様の受け止めも踏まえながら、慎重に取り組みを進めねばならないと感じています。

名寄せをしなくても、連合学習や秘密計算といった、プライバシーを守りながら個人別に集計して分析するAIモデルも登場してきています。このようにお客様の感情を尊重しながらテクノロジーで解決できる道筋がないか常に研究しています。

経済的価値だけでなく社会的価値も生み出せるデータ活用を

高橋 最後にまとめとして、次期中期経営計画に向けてデータ活用に期待することを聞かせてください。

内川氏 ビジネスですから、データ活用で経済的価値を生み出すことはもちろんなのですが、社会的価値も生み出すことが必要だと考えています。マイケル・ポーター氏がCSV(Creating Shared Value、共通価値創造)という概念を提唱しています。これは社会的価値を充足しながら、経済的価値も生み出せるはずというもので、私たちのチャレンジを支える概念です。そのためにはデータが絶対に必要であり、また社会的課題を解決するために私たちが情報産業化していくことも必要です。

情報産業化とは金融の枠を超えた取り組みをするということで、先ほど一例としてSustanaを挙げました。これ以外にも、2020年に連結子会社化したプラスメディという会社があります。医療データを扱う「情報銀行」と呼ばれる取り組みの一環で、データから社会的価値を生み出すチャレンジの1つと捉えています。

プラスメディは、新たな価値を生み出すという攻めの観点でも重要ですが、機微のある個人情報である医療データをしっかり管理するという守りの観点からも重要な事業です。攻めと守りのバランスが求められるわけで、こういった事業を滞りなく推進するのを支えることが私たちのミッションと考えています。

高橋 攻めようという意識が高い分、責任を果たすという意味で守りもしっかり固めて、攻めと守りの両面でレベルをどんどん上げていこうという考え方が、先行企業としてすばらしいと感じました。

内川氏 まだまだこれからのところも多いと思っています。

高橋 そのような部分もあるかもしれませんが、金融業界に限らず日本企業があいかわらず横並びしている状況で、SMBCグループ様ほどの規模のグループがこれまでに例のないチャレンジを大規模に行っているのを見て、続こうという企業も出てくることでしょう。当事者としては腹を括って、片眼をつぶって飛び込んでいるのだと思うのですが……。

内川氏 SMBCグループは「カラを、破ろう。」のスローガンの下、金融業界の枠に囚われない自由な発想での挑戦を続けています。私自身もデータマネジメント部のメンバーたちとともに適度なプレッシャーを感じながら、さらに上のステージを目指してチャレンジしていきたいと思います。

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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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