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本記事は、Monthlyミクス((株)ミクス発行2026年4月号)に掲載された記事「製薬業界に押し寄せる「生成AI変革」の波 」を転載したものです。
URL:https://www.mixonline.jp/tabid1448.html?acatid=571
第1回は、「とりあえず生成AI」の危険性と、その処方箋としての「目的先行でのテーマ設定」、そして「生成AIは部下」という考え方を提示した。 概念は理解できても、現場での実践には迷われる方も多いのではないだろうか。 本稿では、架空の製薬企業を例に、開発前の思考の深さが成果をいかに左右するか検証する。 出発点は同じでも、どこで立ち止まるかによって、結末は天地の差となる。
営業リーダーから次のような相談を受けた。「生成AIで、医師の興味を把握できないか?」
この相談を受けたとき、あなたならどう動くだろうか。 ここでの対応が成否の分岐点となる。 思考の深度ごとに、3つのパターンを見ていこう。
最も陥りやすいのが、相談を額面通り受け取り、直ちに解決策を作ってしまうパターンだ。 具体的な例としては、「ターゲットとする医師のWeb行動やアンケート回答を生成AIで要約し、関心テーマを出す」システムを作る。一見正解に見えるが、現場からはこのような声が上がるだろう。 「知っている情報ばかり」「根拠が不明」「で、どうすればいいの?」
結局、現場からは「参考にします」と返ってくるだけで、翌日のアクションは何も変わらない。 結局、使われない仕組みがまた増えるだけだ。これは前回警告した「目的先行でのテーマ設定」と「生成AIは部下」の双方を欠いた、「とりあえず生成AI」の典型例であるからだ。
現場は課題を理解しているが解決策を持ち合わせていない。現場の言葉通り翻訳してシステム化しても、現場の役に立つレベルには至らないのだ。
次に、「目的先行でのテーマ設定」を実現したパターンを見てみよう。 相談を受けた際、すぐに着手せず、こう問い返せた場合だ。「なぜ医師の興味を知りたいのか? もしかして、医師に会いに行く『ネタ探し』で困っているのではないか?」現場が「その通りだ」と答えたなら、真の課題は「興味の分析」ではなく、「面談機会(会いにいく口実・話のネタとなる手土産)の創出」にあることが分かる。
ここでの解決策は、単なる情報の要約に留まらない。 具体的には、「医師の行動変容(処方増減やWeb行動)を分析し、質問・提案内容を示唆する」システムになる。「【事実】XX病院で自社薬の処方が減少 【深掘】 競合薬の納入量に変化はなく切替ではない→ 【仮説】 副作用による治療中断の可能性がある→【提案】医師に治療中断患者を確認し、対策資材を提示する」これはレベル1より遥かにマシだ。
しかし、これでも「活用できるMR」と「できないMR」の二極化が起きる。 あくまで行動の結果から生じたデータを解析しただけなので、医師の深層心理に迫る提案には至らない一般的なサジェストに留まる。
そのため、優秀なMRは自力で工夫できるが、多くのMRは結局、何を口実に会いに行けば良いのかわからず、参考にならないと感じて利用を止めてしまう。 原因はもう一つの鍵である「生成AIは部下」の視点が欠けていたからだ。 多くのMRは「一般的なサジェストに留まる生成AI」という部下を与えられても、充分な成果は得られないのだ。

では、「生成AIを最強の部下」として機能させ、全員が成果を出せるようにするにはどうすればよいか。 「本当に全員が使えるようにするには?」「実際のMRは、医師に会いに行く前にどんな準備をしているだろうか?」と再度立ち止まる勇気が必要だ。 そうすると「さらに踏み込んだデータの活用とユーザー体験の設計が必要だ」と考えが巡る。
具体的には、「医師とのコミュニケーション状況や医師個人の特性に合わせた外部情報を含めた、よりパーソナルな理解を深める」システムになる。「XX先生から3ヵ月前の面談時に『XX病の既往歴のある患者さんに処方開始した』と伺いました。同じ背景の患者を対象とした研究結果をお持ちし、お困りごとがないか確認しましょう。」さらに、これを一方的な通知で終わらせず、対話型の生成AIにすることで、MRはAIを相手に「実際に困っている可能性がある事象と、その対処法の案は?」と壁打ちを繰り返し、訪問直前の準備を完結させられるようになる。
システム構築側が優秀なMRの思考プロセスや必要なデータを生成AIにあらかじめインプットすることで、「生成AIとの対話だけで、訪問のシナリオ作りと資材選定が完結する」状態を作り出すことができるのだ。 これにより、全てのMRが芯を食った提案を自信を持って行えるようになる。 これが、生成AIが「最強の部下」として機能し、ビジネス変革に繋がる瞬間である。
仮に技術的な制約で完全実装が難しくても、第一歩として医師とのコミュニケーション状況を踏まえたアラート発信や、症例別の想定問答集等、少し段階を下げた展開も可能だ。
そんなことが自社のデータや技術で本当にできるのかと疑問に思った方もいるだろう。 重要なのは、この構想を「技術検証や環境選定・構築の前」に描くことだ。多くの企業では、「技術的に何ができるか」から入り、「作れるもの」を作ってしまう。 しかし、正解は逆だ。 まず「業務をどう変えたいか・従業員やユーザーにどういう業務/体験をして欲しいか」を徹底的に議論し、定義する。 その後に、技術的な実現可能性を探るべきだ。
仮に技術的な制約で完全実装が難 しくても、第一歩として医師とのコミュニケーション状況を踏まえたア ラート発信や、症例別の想定問答集等、少し段階を下げた展開も可能だ。少なくとも、誰も使わないシステムを作って予算と時間を浪費することは避けられるはずだ。
生成AI導入の成否は、AIツールの選定やプログラミングやプロンプトエンジニアリングの前に決まっていると言っても過言ではない。現場から「XXXで困っている」という相談が来たとき、あるいはトップから「生成AIを使え」と号令が出たとき。 そこで反射的に動き出さず、一旦立ち止まることができるか。 問いを徹底的に突き詰めるプロセスこそが変革の鍵となる。
生成AIは「魔法の杖」ではなく「最強の部下」なのだ。「上司」である人間が言葉尻に惑わされて動くと、「部下」も本質ではない方向に、これまでにない速度で進むだろう。
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