停滞するDXを打開する“AIエージェント”――経営改革の新たな推進力

公開日
2025.06.13
更新日
2025.06.13
停滞するDXを打開する“AIエージェント” 経営改革の新たな推進力

近年の環境変化にともない、デジタル技術を活用した企業の競争力強化と持続的な成長を目指すDXが注目されています。しかし、経営層のデジタル技術への理解不足や投資へのためらいが、その推進を妨げています。さらに、デジタル人材の不足や部門間連携の欠如、既存システムの制約、データ基盤の未整備などにより、多くの企業でDXが停滞しています。
一方で技術革新のスピードは、加速の一途をたどっています。2025年に入ってからは「AIエージェント」が、企業の競争力強化と持続的な成長を推進する重要な手段として、注目を集めています。
AIエージェントとは一体どのようなものなのか、またビジネスや経営にどのようなインパクトをもたらすのか――。AIエージェントの概要と、企業が導入を検討する際の実装ポイントについて解説します。

経営改革を加速するAIエージェント導入の全体像

AIエージェントとは、「自らが置かれている状況を理解して自律的に判断し、行動できる高度なAI」を指します。

AIエージェントは、大きくふたつのタイプに分類されます。ひとつは、情報を自律的に読み取り解釈して人間に提案を行う「参照型」AIエージェント、もうひとつは、情報の読み取りと解釈に加えて、実際のアクションまで起こす「執行型」AIエージェントです。このような自律的な判断・行動能力こそが、AIエージェントが注目される最大の理由となっています。その影響力は、日常的なビジネス業務にとどまらず、経営層の意思決定や戦略立案にまで及ぶ可能性を秘めており、今後の企業活動に革新的な変化をもたらすことが期待されています。

AIエージェントという言葉を初めて聞いた方も、言葉だけは知っている方も気になるのは、ChatGPTなどの生成AIとAIエージェントがどう違うのか、ということではないでしょうか。生成AIとAIエージェントはどちらもLLM(大規模言語モデル)と呼ばれる技術をベースとしていますが、両者は使い勝手の面で明確な違いがあります。

複雑なビジネス課題に生成AIを活用する場合、適切な指示を明確に出す技術(プロンプト作成のテクニック)が必要です。場合によっては、タスクを細かく分解した上で「次は○○をしてほしい」といった指示を継続的に出さなければなりません。また、生成AIは他のシステムにアクセスして情報を入手するといった“行動”を自ら起こせないため、必要な情報はあらかじめ人間が準備しておく必要があります。ハルシネーションと呼ばれる“うそ”を吐かせないように、質問をあいまいさのない明確な表現にしたり、前提条件や注意の必要な関連情報、文脈を伝えたりするなど、的確な指示も求められます。

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これに対して、AIエージェントの利用は、利用者の作業負担を大幅に軽減できる可能性を秘めています。AIエージェントは、前述したような自律性や実行力を特徴としているため、経営層や各部門のマネージャーの「参謀」や「軍師」のような役割を果たすツールとして活用できます。

自律的に行動するAIエージェントは、多様なシステムやデータベースに散在する情報を自ら集め、統合します。集めた膨大なデータから文脈(コンテキスト)を導き出すことで、人間が見落としがちな要素も踏まえた上で分析を行い、経営の意思決定を効果的に支援します。

例えば、カスタマーセンターに寄せられた様々な問い合わせやクレームに対して対応策を検討するとします。AIエージェントは、問い合わせやクレームなどの音声データやテキストを理解し、問題が起こった背景を推定し、製品改善やマーケティング戦略の見直し案を作成します。このように文脈に応じた適切な処理を自律的に行えるのが特徴です。

(表)生成AIとAIエージェントの違い

観点生成AIAIエージェント
役割の例(文章、画像、コードなど)コンテンツの生成・加工、アイデア出し、分析や提案の素案作成目的達成に向けた多様なデータの分析、適切な処理の判断・実行
動作の特徴ユーザーからの指示に都度対応与えられた目標に向けて自律的に行動
活用場面の例
  • 企画立案
  • 支援文書作成
  • デザイン制作
  • 業務の自動実行
  • 意思決定支援
  • プロジェクト管理
期待される効果クリエーティブ業務や分析業務などの効率化・高度化業務プロセス全体の最適化・自動化
必要な管理出力結果の確認と修正目標設定と進捗モニタリング

このようにAIエージェントの導入は、勘や経験に頼った経営から脱却し、データに基づく客観的な意思決定へと転換する重要な契機となります。AIエージェントをうまく活用すれば、経験や勘のみではなく、客観的な信頼できるデータに基づいて考えていく経営、いわゆる「データドリブン経営」の基礎を瞬時に築ける可能性があります。全社的なDXをスピーディーに推進していく原動力になるでしょう。

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ここで差がつく! AIエージェントの実装ポイント

AIエージェントは、企業の競争優位性を確保し、持続的な成長を実現するための戦略的投資として注目されています。しかし、その効果を最大化するためには、経営者としての重要な意思決定が求められます。

まず、組織変革の観点から、AIエージェントと人材の最適な組み合わせを実現する新たな組織体制の構築が不可欠です。AIエージェントによって定型業務の大半が自動化される一方で、より高度な判断や創造性を要する業務の重要性が増します。この変革を成功に導くためには、人材育成への戦略的投資と、組織全体の意識変革が重要な経営課題となります。

業務改革の視点では、既存の業務プロセスを抜本的に見直す必要があります。ただし、全社一斉の導入はリスクを伴うため、投資対効果の高い領域から段階的に展開する戦略的アプローチが有効です。

さらに、市場に存在する多様なAIエージェントソリューションの中から、自社の経営戦略に最適なものを選定する必要があります。この選定では、既存システムとの整合性や将来の拡張性に加え、投資対効果の観点が重要となります。


3つのステップで推進する経営改革

AIエージェント導入の成功には、戦略的なステップを踏むことが不可欠です。特に、経営改革の規模と影響を考慮すると、外部の知見を活用して確実に推進していく必要があります。専門家の関与により、より本質的な議論が可能となり、改革の実効性が高まります。

ステップ1 経営戦略との整合性確保 ステップ2 全社変革の基盤構築 ステップ3 競争優位性の確立

ステップ1:経営戦略との整合性確保

まず、優先度の高い経営課題を特定し、AIエージェントによる解決可能性を検証します。限定的な実証実験(PoC)を通じて投資対効果を見極め、本格展開に向けた戦略を策定します。業界や競合企業での取り組みを分析したり、AI技術の最新動向を継続的に取り込んだりしながら、投資効果の高い特定領域で具体的な成果を検証します。この段階での慎重な見極めが、その後の成功を大きく左右します。

ステップ2:全社変革の基盤構築

実証実験の成果を基に、本格的な改革推進体制を確立します。この段階では、以下の3つの施策を並行して進めることが重要です。

  • 部署横断的な推進チームの編成
  • データ基盤の戦略的整備
  • 人材育成指針の設計

ステップ3:競争優位性の確立

競争優位性を確立するために、実証実験での成果を踏まえてより大きな経営課題への対応を検討します。例えば、新規事業創出や顧客体験の革新など、企業価値の向上に直結する領域への展開を視野に入れ、中期経営計画に組み込んでいくことが有効です。
情報セキュリティとコンプライアンスの観点から、適切なリスクマネジメントも不可欠です。AIエージェントの判断プロセスを可視化して意思決定の根拠を明確にし、適切な監視・統制の仕組みをつくります。継続的なパフォーマンス評価を行い、問題発生時には即座に対応できる体制を整えます。

AI時代を勝ち抜く経営者の“最初の一歩”

経営者には、テクノロジーと人材の最適なバランスを見極め、持続可能な成長モデルを構築することが求められます。AIエージェント導入の成否を左右する重要な経営要件として欠かせないチェック項目があります。最初の一歩として、以下の観点から評価を行ってみましょう。

AIエージェント導入成功のためのチェック表 経営戦略との整合性が取れている 具体的な投資対効果をイメージできる 既存システム基盤を活用できそう 変革をリードする人材を確保できている 社内の理解と協力を得られる体制がある 導入と運用に必要な予算を確保できる

これらの要件をひとつでも多く満たしていけば、投資リスクを最小限に抑えながら、停滞しがちなDXを確実に推進できるようになります。今後、AIエージェントは企業の競争力を左右する重要な経営資源となっていくでしょう。経営者の皆様には、この変革の波を確実に捉え、DX加速の機会としてAIエージェントを活用されることを期待しています。


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