マルチモーダルAIの導入事例を紹介!代表モデルや業界別の活用方法とは?

公開日
2025.12.08
更新日
2025.12.05

近年のデジタルトランスフォーメーション(DX)において、企業が直面する課題は単一のデータ形式では解決困難なものが増えています。しかし、従来のAI技術では異なる情報を個別に処理するため、人間のような直感的な判断や包括的な分析は困難です。

そこで登場したのが、マルチモーダルAIです。この革新的な技術は、複数のデータ形式を同時に理解・分析することで、さまざまな業界で実用的な成果を上げています。

本記事では、マルチモーダルAIの基本概念から代表的なモデル、業界別の活用方法、そして実際の企業導入事例まで、実践的な情報を幅広く解説いたします。導入を検討している企業の方は、ぜひ参考にしてください。

マルチモーダルAIとは

近年注目を集めている「マルチモーダルAI」は、テキスト・画像・音声といった多様な情報を統合して理解・生成できる新しい人工知能です。単一のデータ分析では得られない洞察や判断が可能となり、幅広い分野での応用が進んでいます。

まずはその基本的な概念から整理していきましょう。

マルチモーダルAIの特徴

マルチモーダルAIは、テキスト・画像・音声など複数の種類のデータを同時に処理し、統合的に学習・分析する能力を持つ人工知能です。異なるモダリティ(データの種類)※1の特徴を抽出し、共通の潜在的特徴空間で関連付けを行います。

  • 二段階学習プロセス
    「事前学習」で多様なモダリティの特徴を結び付け、「Instruction-Tuning(指示調整)」で適切な応答生成や動作指示に最適化する段階的な学習方法を採用しています。
  • 共起関係の理解
    映像と音声が同時に発生する現象の関連性を学習することで、より文脈に即した自然な出力を実現します。
  • 倫理面への配慮
    生成内容の制御が困難なため、暴力的・差別的表現の抑制など倫理面の課題に対応するチューニングやガイドライン策定が進められています。

マルチモーダルAIの主要な特徴は次の通りです。

  • 多角的な情報理解により、単一データでは得られない深い洞察と判断を可能にする革新的な技術となっています。

※1 本記事では“モダリティ”を画像・音声・テキストに加え、時系列センサーや行動ログなどの構造化/半構造化データも含む広義の概念として扱います。

シングルモーダルAIとの違い

シングルモーダルAI※2は、テキスト・画像・音声など単一の種類のデータのみを処理し、特定のタスクに高い精度で対応するAI技術です。一方、マルチモーダルAIは複数のデータ形式を統合し、相関関係を理解することで、より複雑で多角的な分析や判断を可能にします。

両者では、次のような決定的な違いがあります。

  • 処理方式の違い
    シングルモーダルAIは単一データに特化した「入力→出力」の単純処理であるのに対し、マルチモーダルAIは異なるデータ形式を同時に処理して高度なアウトプットを創出します。
  • 活用事例の差
    シングルモーダルはテキストから音声生成や画像認識が代表例ですが、マルチモーダルは自動運転でのカメラ映像とレーダー情報統合や医療診断での画像と患者データ融合などがあります。
  • 性能と計算負荷
    マルチモーダルAIは複雑なモデルで計算資源の消費が多いものの、人間の感覚情報統合に近く、文脈理解や複合的意思決定に優れています。

マルチモーダルAIは人間に近い総合的な情報処理を実現する点で革新的な技術です。

※2 本記事では“シングルモーダル”を入力が単一のモダリティであるモデルとし、出力のモダリティは問わないとします。

マルチモーダルAIの歴史と進化

マルチモーダルAIの研究は1980年代半ばに始まり、当初は音声や映像など単一モダリティの組み合わせによる補助的な処理が中心でした。技術の発展とともに、より複雑で高度な情報統合処理が可能になり、AI技術も段階的に進化を遂げてきました。

  • 初期段階(1980年代後半)
    騒音環境での会話認識向けに唇の動きから言語を推測する技術など、複数感覚の統合を目指した基礎研究が行われていました。
  • 発展期(2010年代以降)
    ディープラーニングの進展により、画像キャプション生成やVisual Question Answering(VQA)など、画像と言語の双方向処理が可能になりました。
  • 実用化段階(現在)
    GPT-4VやGoogle Gemini 2.5 Proのような大規模言語モデルがマルチモーダル対応を果たし、テキスト・画像・動画・音声を組み合わせた高度な生成・解析が実現されています。

日本でも産学連携によるマルチモーダルAI研究が活発化し、実用化段階に入りつつあります。


マルチモーダルAIができる3つのこと

マルチモーダルAIの真価は、複数のデータを組み合わせて新しい価値を生み出せる点にあります。画像とテキストを組み合わせた説明生成や、テキストから動画を作り出すなど、人間の感覚に近い処理が可能です。

ここでは、マルチモーダルAIの代表的な3つの機能を、事例とともに紹介します。

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【連載①】生成AIのマルチモーダルモデルでできること -タスク紹介編-

1. 画像認識+テキスト生成

マルチモーダルAIの画像認識とテキスト生成機能は、写真や画像の内容を分析し、人間が見て理解するような自然な文章で説明する技術です。人が写真を見て説明するかのように、AIが画像を「読み取って」言葉にすることができます。

具体的な活用事例は次の通りです。

  • 視覚障害者支援
    スマートフォンアプリがカメラで撮影した景色や商品をリアルタイムで音声説明に変換し、日常生活をサポートしています。
  • EC・SNSサービス
    商品画像から自動的に商品説明文を生成したり、投稿画像に適切なハッシュタグを自動提案したりする機能が普及しています。
  • 医療分野
    レントゲン画像やCT画像を分析し、医師の診断を補助するレポートを生成する研究が進んでいます。

このように、画像認識とテキスト生成を組み合わせることで、視覚情報を言語化する新たな価値創出が実現されています。

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2. テキストの理解+音声・画像・動画生成

テキストから音声・画像・動画を生成するマルチモーダルAIは、文字情報を理解して視覚的・聴覚的なコンテンツを自動作成する技術です。人間が文章を読んで頭の中で映像を思い浮かべるように、AIがテキストの内容をもとに具体的な画像や動画を生み出します。

代表的な活用例は次の通りです。

  • マーケティング分野
    商品の特徴を記述したテキストから宣伝用の画像や動画を自動生成し、広告制作の効率化を図っています。
  • 教育業界
    教科書の文章から解説用のイラストや動画教材を作成し、学習者の理解促進に役立てています。
  • ニュース・メディア
    記事内容を音声に変換して読み上げ機能を提供したり、文章の要点を視覚的なインフォグラフィックに変換したりする取り組みが増えています。
  • エンターテインメント
    小説のあらすじから映像化したイメージを生成する実験的なサービスも登場しています。

テキスト理解と多様なコンテンツ生成の融合により、クリエイティブ活動の可能性が大きく広がっています。

3. 音声解析+動画生成

音声から動画を生成するマルチモーダルAI技術は、話し言葉の内容や感情、話者の特徴を分析し、それに対応する映像コンテンツを自動作成します。人が相手の声を聞いて表情や仕草を想像するように、AIが音声情報から視覚的な表現を生み出します。

具体的な活用例は次の通りです。

  • ビジネス分野
    会議の録音データから要点をまとめた説明動画を自動生成し、参加できなかった社員への情報共有に活用されています。
  • 教育現場
    講義音声から講師の動きや表情を再現したアバター動画を作成し、オンライン学習の質向上に貢献しています。
  • 放送業界
    ラジオ番組の音声コンテンツから映像付きの動画版を自動生成し、配信プラットフォームの拡大を図る事例もあります。
  • バーチャルアシスタント
    ユーザーの音声質問に対して回答内容を視覚化した動画で返答するサービスも開発されています。

音声解析と動画生成の連携により、聴覚情報を視覚的に表現する新しいコミュニケーション手段が実現されつつあります。


マルチモーダルAIを活用するメリット

マルチモーダルAIを導入することで、企業は従来のAIでは難しかった複雑な業務や高度な分析に取り組めるようになります。人間に近い直感的な判断や、精緻な分析に基づく意思決定をサポートする点が大きな強みです。

ここでは、その具体的なメリットの数々を見ていきましょう。

人間に近い情報処理が可能

マルチモーダルAIは、視覚・聴覚・言語など複数の感覚情報を同時に処理し、人間の脳のように統合的に理解することで人間に近い判断を実現します。人間が「目で見て」「耳で聞いて」「文脈を読み取りながら状況を判断」するかのように、AIも多角的な情報を組み合わせて理解を深めます。

人間に近い判断能力がもたらすメリットは、次のように多岐にわたります。

  • 自然なコミュニケーション
    カスタマーサポートでは顧客の表情や声のトーンを読み取り、感情に配慮した対応が可能になります。
  • 精密な状況把握
    防犯システムでは映像と音声を同時解析することで、単純な動作検知では見逃しがちな異常行動を的確に識別できます。
  • 直感的な意思決定支援
    医療現場では画像診断と患者の症状記録を統合し、医師の診断をより自然で包括的にサポートします。

人間に近い情報処理を行うことで、より実用的で信頼性の高い判断パートナーとして機能します。

複雑な業務課題への対応が可能

マルチモーダルAIは異なる種類のデータを同時に解析することで、従来の単一データ処理では解決困難だった複雑な業務課題に対応できるようになりました。複数の情報源を組み合わせることで、課題の本質を多面的に捉えることが可能です。

ビジネスシーンでの活用メリットは次の通りです。

  • 製造業
    映像データと振動・音響センサー情報を統合し、設備の故障予兆を人間より早く察知して予防保全を強化しています。
  • 防犯・セキュリティ
    映像と音声を組み合わせることで、映像だけでは検出困難な迷惑行為や異常行動を高精度に検知します。
  • 医療
    画像診断結果と患者の症状記録、検査データを総合的に分析し、診断精度向上と医師の判断支援を実現しています。

複雑な業務課題への対応により、業務効率向上と迅速で的確な意思決定が同時に実現されます。

高精度な分析が可能

マルチモーダルAIは複数の異なる形式のデータを統合的に処理するため、単一データでは見落としがちな情報を補完し合い、包括的で高精度な分析を実現します。各データが持つ独自の情報を組み合わせることで、より深い洞察を得ることが可能です。

高精度な分析がもたらす主なメリットには、次のようなものがあります。

  • マーケティング戦略
    製品レビューの画像とテキストを合わせて解析することで、顧客の感情やニーズを正確に把握し、効果的な戦略立案に活用できます。
  • 医療診断
    画像診断と患者のテキスト情報を統合し、より正確な診断や最適な治療計画の作成に寄与しています。
  • リスク管理
    複数データの相関関係を分析することで、単一指標では見逃しがちなリスクを早期に発見できます。

高精度な分析により、業務効率向上・リスク軽減・顧客満足度向上など、多様なビジネス価値を創出できます。

マルチモーダルAIの課題

マルチモーダルAIは革新的な技術である一方、克服すべき課題も存在します。特に、大量のデータ準備や評価方法の難しさは、多くの企業が導入を検討する際の大きなハードルとなっています。

ここでは、マルチモーダルAIの実用化に向けた、主要な課題について詳しく解説します。

膨大かつ高品質な学習データが必要

マルチモーダルAIが膨大かつ高品質な学習データを必要とする理由は、複数のデータ形式を統合して学習する技術的特性にあります。画像・テキスト・音声・動画などの各データ形式の特徴と相互関係を理解するには、従来のAIとは比較にならないほど、多様な学習材料が大量に必要となります。

学習データ準備における具体的な課題は、次の通りです。

  • ペアデータの希少性
    画像と説明文、動画と音声解説が正確に対応したデータセットは希少で入手が困難なため、多くの場合は独自のデータセット構築が必要になります。
  • 高精度なアノテーション
    各データには正確なラベル付けや詳細なアノテーション(注釈情報)が求められ、動画の場合はタイムスタンプや文脈情報の付与も必要です。
  • コスト・工数の負担
    データの多様性と質を保ちながら大規模に整備するには、専門知識・工数・コストが大きくかかります。

学習データの準備負荷の高さが、多くの企業にとってマルチモーダルAI導入の大きなハードルとなっています。

評価指標が理解しにくい

マルチモーダルAIの評価が困難な理由は、複数の異なるデータ形式を統合処理する複雑性にあります。各データの貢献度を明確に分離することは、技術的に非常に困難な状況です。

評価指標が理解しにくい具体的な要因は、次の通りです。

  • 評価基準の未確立
    統一されたベンチマークや評価指標が確立されておらず、ユースケースや文脈に依存した主観的な評価になりやすい問題があります。
  • ブラックボックス化
    モデルの判断根拠の説明が困難なため、どの情報がどの判断にどの程度影響したのか人間が把握することが極めて困難です。
  • 責任所在が不明確
    トラブル発生時の原因分析や責任の所在が曖昧になり、システムの信頼性確保にリスクを伴います。

特に、法的判断や医療診断などの説明責任が重要な分野では、モデルの透明性を高めるAI技術や横断的な評価指標の開発が急務となっています。

代表的なマルチモーダルAIのモデル

2025年現在、マルチモーダルAIを牽引する代表的なモデルが次々と登場しています。各モデルはそれぞれ得意分野や強みが異なり、活用できるシーンも多岐にわたります。

ここでは、特に注目すべき3つのモデルを取り上げます。

ChatGPTOpenAI

OpenAIは、テキスト主体のGPT-3.5やGPT-4から、画像入力対応のGPT-4V、リアルタイム音声・映像処理が可能なGPT-4o(Omni)へと発展してきました。

直近では、GPT-5が発表され、より高度な推論能力と長大なコンテキスト処理能力※3を兼ね備えています。GPT-5は研究開発・意思決定支援・エージェント的自律動作など、実務レベルでの幅広い応用を見据えた進化型モデルとして位置付けられています。

特徴的な進化ポイントは次の通りです。

  • リアルタイム性の強化
    GPT-4oで培った音声・画像の即時処理能力をさらに高め、自然な対話やマルチモーダル応答を低遅延で実現します。
  • 高度な推論能力
    GPT-5は「複数仮説を比較・検証する思考プロセス※4」が強化され、研究・分析タスクや戦略立案支援に適しています。
  • 利用シーン別の展開
    軽量モデルから高精度モデルまでラインナップされ、カスタマーサポートから先端研究まで幅広く導入可能です。

このようにOpenAIは、GPT-4シリーズからGPT-5へと進化する中で、単なる自然言語処理の枠を超え、人間に近い直感的な理解と複雑な意思決定支援を担えるマルチモーダルAIを実現しています。

※3 長文や複雑なデータを一度に扱える能力。
※4 答えを一つに決める前に、複数の可能性を検討する能力。

GeminiGoogle

GoogleはPaLM 2を経て、Gemini 1.x/1.5でマルチモーダル統合と長文処理を強化し、2025年時点ではGemini 2.5 Proを中心とした最新系へ発展しています。Geminiはテキスト・画像・音声を中心に、動画やコードも含めたマルチモーダル処理※5を視野に設計されており、業務活用を意識した多機能なAIへと進化してきました。

特徴的な進化ポイントは次の通りです。

  • 長文コンテキスト対応
    最大100万トークン規模(公表モデルでの仕様例)の処理能力により、複雑な文書解析や長文読解に強みを発揮できます。
  • 推論強化
    段階的に仮説を検討する機能(Deep Thinkモード)を搭載し、人間に近い深い分析や意思決定支援が可能です。
  • 業務ツール連携
    Google WorkspaceやVertex AIとの統合が進み、日常業務や企業利用の現場で導入しやすい環境を提供しています。
  • Geminiファミリーの用途別展開
    軽量版の「Gemini Flash」や「Flash-Lite」といったバリエーションが展開されており、用途や端末性能に応じて幅広いシーンに対応できます。

このようにGoogleのマルチモーダルAIは、研究開発向けのモデルから実務に直結するAIプラットフォームへと進化し、ビジネス効率化と高度な情報処理の両立を実現しています。

※5公式対応範囲はモデルにより異なる。また、動画・コードの対応は研究段階や一部機能に限られる。

ClaudeAnthropic

Anthropicは「安全性と信頼性」を最重要テーマに掲げ、Claude 3系からClaude 4系へとモデルを発展させてきました。最新のClaude Sonnet 4.5やClaude Opus 4では、画像入力など一部のマルチモーダル機能を拡張しつつ、高度な推論力と説明可能性の向上を意識した設計が進められています。

特徴的な進化ポイントは次の通りです。

  • 高度な処理能力
    最大100万トークン規模※6の長文コンテキストを処理でき、複雑な推論・数学・プログラミングにも高い精度で対応可能です。
  • 柔軟なモデル構成
    Opus・Sonnet・Haiku※7といった前系列を含むファミリーモデルを展開し、性能と速度のバランスを用途ごとに選択可能です。
  • 安全性の強化
    有害情報の抑制や誤情報フィルタリングに注力し、説明責任が重視される業務領域でも比較的安心して導入できるよう設計されています。
  • 多言語・実務対応
    日本語を含む多言語での処理能力が高まり、契約書レビュー・文書要約・コラボレーション支援などに活用できます。

Anthropicはこのように、安全性を軸に据えた進化を続けることで、企業にとって信頼できる実用的なAIパートナーとしての地位を確立しつつあります。

※6 最大100万トークンは Sonnet 4 の仕様例
※7 前系列から継続する名称例

業界別マルチモーダルAIの活用方法

マルチモーダルAIは、単なる技術導入にとどまらず、各業界が抱える課題解決の鍵として注目されています。近年では、製造・自動車・医療・教育・セキュリティなど、幅広い分野でデータを横断的に活用する事例が急速に増えています。

ここからは、各業界でどのように成果を上げているのか、その具体的な活用方法を見ていきましょう。

製造業:品質検査と生産ラインの最適化

製造業では、マルチモーダルAIが画像データとセンサー情報を組み合わせ、従来の目視検査を大幅に進歩させています。振動・温度・音などの多角的な情報をリアルタイムで解析し、品質検査と異常検知を高精度で実行できます。

製造業における具体的な活用事例は次の通りです。

  • 自動品質検査
    複数倍率での画像解析AIが一次・二次検査を自動化し、人手を最終チェックに集約することで生産性を大幅に向上させています。部品組立品の検査では、高精度で不良検出を実現した事例もあります。
  • 予防保全の強化
    生産設備の振動や音響データを統合分析することで、突発的な故障リスクを削減し、生産計画の安定化とダウンタイム低減を達成しています。
  • 作業安全管理
    ポーズ推定AIを活用した作業者の動作監視により、事故予防と迅速対応を実現し、現場の安全性向上に貢献しています。

マルチモーダルAIにより、製造業の品質管理と生産効率が同時に最適化されています。

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世界の製造業の進化を実感:Hannover Messe 2025参加レポート

自動車産業:情報の統合処理

自動車産業では、マルチモーダルAIが自動運転技術の中核として機能し、カメラ映像・各種センサー・音声情報を統合的に解析してリアルタイムでの状況判断を可能にしています。人間ドライバーが視覚・聴覚・触覚をフル活用して運転するように、AIも多様な情報源から包括的な環境理解を実現します。

自動車産業における主要な活用例は次の通りです。

  • 高度な自動運転
    ソフトバンクの「交通理解マルチモーダルAI」は低遅延エッジAI技術により、予期せぬ事態にも柔軟に対応できる遠隔サポートシステムを実現しています。
  • 次世代AI開発
    チューリングが開発する「Heron」は画像・音声・テキストから複雑な状況を模倣・理解する独自技術で、より高度な自動運転を目指しています。
  • 車載AIアシスタント
    DSオートモビルは日本で車載音声アシスタントにChatGPTを統合し、自然言語での車両操作やナビ設定を可能にしています。

マルチモーダルAIにより、自動車の安全性と利便性が飛躍的に向上しています。

医療・ヘルスケア:診断支援と患者データ分析

医療分野では、マルチモーダルAIが画像診断データと患者の病歴・電子カルテ・バイタルデータを統合解析し、診断精度を大幅に向上させています。多角的な医療情報を組み合わせることで、単独では見逃しがちな微細な異常も的確に検出します。

医療分野における具体的な活用例は、次の通りです。

  • がんの早期発見
    肺がんや胃がんの診断では、X線・MRI画像と患者の生活習慣や家族歴を統合分析し、微細な異常を高精度で検出して誤診や見逃しを削減しています。
  • 患者モニタリング
    ICUでは心電図・血圧・環境情報をリアルタイムに統合分析し、異常の早期察知と迅速対応を可能にしています。
  • 治療計画の最適化
    大学病院では前立腺がんの治療計画策定や再発予測にマルチモーダルAIを活用し、従来手法より高い予測精度を実現しています。

マルチモーダルAIにより、医療の質向上と医療従事者の負担軽減が同時に達成されています。

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医療分野のAI活用―社会実装に向けてのディスカッションで見えてきたこと

教育分野:教材生成と学習支援

教育分野では、マルチモーダルAIがテキスト・画像・音声・動画を組み合わせ、個別化された教材生成と学習支援を実現しています。学習者の理解度や反応をリアルタイムで分析し、最適なフィードバックを提供します。

教育分野における主要な活用例は次の通りです。

  • 個別化学習
    学習者の理解度に応じて最適な補助教材を自動生成し、効果的な学習体験を提供しています。
  • 特別支援教育
    視覚障害者向けの音声教材生成や聴覚障害者向けの字幕付き動画作成など、多様な学習ニーズに対応しています。
  • 没入型学習
    VRやARと組み合わせた臨場感ある学習環境により、遠隔地の学習者も質の高い教育体験を受けられます。
  • 教師支援
    自動採点や授業内容分析により教師の負担を軽減し、より質の高い教育活動を支援しています。

マルチモーダルAIにより、教育の個別最適化と効率化が実現されています。

セキュリティ業界:映像と音声データの統合分析

セキュリティ業界では、マルチモーダルAIが監視カメラの映像データと音声センサー情報を統合し、従来の監視システムでは困難だった高精度な異常検知を実現しています。複数の感覚情報を組み合わせることで、より確実な状況把握が可能となります。

セキュリティ分野における具体的な活用例は、次の通りです。

  • 統合監視システム
    大規模商業施設では映像と音声を統合解析し、映像だけでは見逃されやすい迷惑行為や不審者の行動を高精度で検知しています。
  • 自動アラート機能
    AIが異常を検知すると同時に状況説明文を自動生成し、監視業務の効率化と迅速対応を支援しています。
  • 生体認証の強化
    顔認証に指紋や静脈などの複数の生体情報を統合することで、誤認証を大幅に削減し安全性を向上させています。
  • サイバーセキュリティ
    ネットワークログやアクセス履歴などマルチソースのデータを統合分析し、必要に応じて端末映像等の他モダリティとも組み合わせ、早期検知を図ります。

マルチモーダルAIにより、物理的・デジタル両面でのセキュリティ強化が実現されています。

マルチモーダルAIの企業導入事例

実際に企業がどのようにマルチモーダルAIを導入し、成果を上げているのかは気になるところです。ECサイトの検索精度向上から医療現場での診断支援、防犯システムまで、適用範囲は多岐にわたります。

ここではブレインパッドの事例を中心に、具体的な活用事例を紹介します。

ECサイトの商品検索最適化の導入事例

ブレインパッドが開発したRtoaster GenAIは、GoogleのマルチモーダルAI「Geminiファミリー」を活用した商品検索最適化サービスです。従来のキーワード検索では対応困難だった曖昧なニーズへの対応が課題となっていましたが、画像・テキスト・行動ログ・ユーザー入力を総合解析することで、次のような抜本的な課題解決を実現しました。

  • 曖昧な検索への対応
    「優雅な休日を過ごしたい」など感情的で抽象的な検索クエリにも適切な商品を推薦できるようになり、従来のキーワードマッチングでは不可能だった検索体験を提供しています。
  • 感情に寄り添う接客
    商品推薦に加えて、ユーザーの感情に配慮した一言コメントを自動生成し、購入意欲の向上を促進しています。
  • 業務効率化の実現
    生成された対話ログや説明文をLP文面・広告・商品企画にも活用し、マーケターの業務効率化に貢献しています。

初期導入はタグ設置で早期に価値検証を開始できます。一方、精度向上や業務適合の最大化にはデータ連携や評価設計、運用プロセス整備が必要です。

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「検索」から「対話」へ 老舗『Rtoaster』が描く、生成AI時代の“出会うUX”|DOORS DX Media BY BrainPad

医療機関での画像診断支援事例

昭和大学歯科矯正学講座とブレインパッドの共同研究では、口腔内画像から不正咬合(かみ合わせ異常)を分類・検索するマルチモーダルAIシステムを開発しました。従来は歯科医師の経験と主観に依存していた診断プロセスに客観性と定量性を持たせることが課題でしたが、AI技術により大幅な改善を実現しています。

  • 高精度な診断支援
    6つの画角から撮影した約1,000名分の口腔内写真を「EfficientNet」モデルで解析し、判別しやすい不正咬合ではAUCが0.9以上の高精度な識別を確認しました。
  • 客観的診断の確立
    歯科医師の経験に依存しない定量的な診断支援により、矯正歯科医療のDX促進を目指しています。
  • 学術的評価
    日本デジタル歯科学会で最優秀発表賞を受賞し、研究成果の有効性が専門機関から認められています。

複雑な症例への対応は今後の課題として残っているものの、さらなる精度向上と社会実装に向けた取り組みを進めています。

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マルチモーダルAI×歯科医療〜産学連携の取り組み成果をViEW2024で発表|DOORS DX Media BY BrainPad

防犯システムの映像解析の導入事例

NTTデータは防犯・セキュリティ分野において、映像データと音声データを組み合わせたマルチモーダルAIシステムを開発しました。従来の映像解析だけでは検出困難だった複合的な迷惑行為や異常事態への対応が課題でしたが、多角的なデータ統合により高精度な検知システムを構築しています。

  • 多角的異常検知
    ビルのエントランスでの大声による迷惑行為など、映像と音声の両面から総合的に判断することで、従来では見逃されがちな異常行動を高精度で検知します。
  • 効率的な監視運用
    大規模施設の防犯カメラモニタリングにおける人手不足をAIが補完し、誤検知を抑制しつつ効率的な監視体制を実現しています。
  • 迅速な対応支援
    AIが不審行動をリアルタイムで検知し、自動アラートと状況説明文の生成により、警備スタッフの迅速な対応を支援しています。

多様な現場への導入拡大により、地域の安全強化と運用コスト削減の両立に貢献する重要なソリューションとなっています。

※参考:マルチモーダルAIとは?複数データを統合する次世代AIの仕組みと活用事例|クラソル

まとめ

マルチモーダルAIは、今やビジネスの競争優位性を左右する重要な技術となりました。複数のデータ形式を統合的に処理する能力により、人間の感覚統合に近い情報処理を可能にし、従来のAIでは対応困難だった複雑な業務課題の解決を支援します。

しかし、データ準備の負担や評価指標の不透明さなど課題も残されており、導入にはしっかりとした準備と戦略が必要です。AI技術の進歩は日進月歩であり、早期導入によりノウハウと実績を蓄積すれば、将来的に大きな競争力となります。

マルチモーダルAIは、今後各業界で高度な活用が進み、新たなビジネス価値創造の原動力となるでしょう。マルチモーダルAI導入を検討している方は、DX分野で豊富な実績を持つブレインパッドまでお気軽にご相談ください。


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