【前編】アパレルの「接客体験」の未来
オンワードと語る、顧客とのつながり方

アパレル業界においてマーケティングテクノロジーの活用が近年急激に進んできた結果、これまで店舗スタッフが直接伝えてきたブランドや商品の魅力を、ECサイトでもどのように伝えるかが重要になってきました。

また、OMOやオム ニチャネルをどう設計していくのかは喫緊の課題となっています。

今回、オンワードデジタルラボの山下氏をお招きし、店舗とECにおける接客の違いやポイント、これからのアパレルの「接客体験」など、アパレル業界のデジタル化における少し先の未来について、「STAFF START」を運営するバニッシュ・スタンダードと、「Rtoaster」を運営するブレインパッドの3社でディスカッションします。

  • 小売・アパレル業界にお勤めの方
  • 店舗やECを運営し接客体験の向上をお考えの方
  • オムニチャネルやOMOを推進していきたいとお考えの方

におすすめの内容です。

■登壇者

  • 株式会社オンワードデジタルラボ 取締役 デジタルマーケティングDiv. 部長 山下 哲 氏
  • 株式会社バニッシュ・スタンダード Head of Sales 薄井 崇史氏
  • 株式会社ブレインパッド マーケティング本部 本部長 近藤 嘉恒

※本記事は、2022年7月20日にオンライン配信された、「<オンラインセミナー>アパレルの「接客体験」の未来~オンワードと語る、顧客とのつながり方~」のレポート記事になります。

本セミナーはアーカイブ配信を実施中ですので、あわせて視聴可能です。
https://www.brainpad.co.jp/seminar/digital_marketing/17732

アパレル業界と接客体験という価値提供

ブレインパッド・近藤 嘉恒(以下、近藤) みなさん、こんにちは。今回は「アパレルの接客体験の未来」と題しまして、オンワードデジタルラボの山下さんとバニッシュ・スタンダードの薄井さんをお招きし、セッションを行っていきます。お二人ともよろしくお願いいたします。

では、本格的な議題に入る前にバニッシュ・スタンダード様がどんな会社かについて、薄井さん、お願いします。

バニッシュ・スタンダード・薄井 崇史氏(以下、薄井氏) バニッシュ・スタンダードは2011年に創業し、2016年に「STAFF START」を立ち上げました。「STAFF START」は店舗のスタッフがオンラインで活躍するサービスです。

13万人の「STAFF START」のユーザーは、自社のECサイトにコーディネート・動画・レビュー・ブログを簡単に投稿できます。スタイリング・スナップ・コーディネートは服を購入する際に多くの人が気にする項目であり、その裏側で「STAFF START」が活用されています。

そして、スタッフによるコンテンツは去年1年間で1,300億円以上の売上という価値を生み出しています。また、見方を変えてみると一人のスタッフによる「STAFF START」経由での売上は、最高で1ヶ月で1億円ほどです。500万円以上は600人、1,000万以上は200人であることから、スタッフのセンス・経験には非常に大きな価値があるといえるでしょう。 

スタッフの経験が価値になる理由は、情報が溢れているためです。インフルエンサー・YouTubeの情報もふまえて信頼性があると判断されることから、スタッフの価値向上につながっています。

実は、店舗スタッフ発信のコンテンツそのものは昔からありました。LINE・Instagram・アメブロが代表的ですが、上手くいっているケースは珍しいかと思います。店頭のスタッフの評価はあくまでも店頭の売上によるものだったためです。

そのため、「STAFF START」ではスタッフの効果を可視化したうえで、評価の仕組みを変えました。評価は4つの視点から行います。

1つ目は、スタッフがオンラインで売った金額を全て可視化し、オンラインと実店舗で販売している金額が把握できるようになっています。

2つ目は、企業内ランキングやコーディネートの組み合わせがどの程度販売できたのかも知れるため、売れる投稿を意識することにつながりました。

3つ目は、オンラインで商品が販売できると、スマホにプッシュ通知が届くため、スタッフが販売した喜びを感じられるようになりました。 

4つ目は、導入企業がスタッフを評価しインセンティブを増加させられる仕組みにしました。結果として、スタッフにファンがつき、合計500万人のスタッフのフォロワーがいる企業は、100万トラフィックを獲得しています。つまり、スタッフの発信・影響力によって、100万人以上のトラフィックが獲得できる状態にあり、価値があるといえるでしょう。

近藤 今回のセッションの意義として、「STAFF START」は店舗のスタッフのDXから新しい価値を作るという部分、ブレインパッドはデータを通じて店舗を含めて価値を作るという部分で「持続可能な未来を作る」ために、両社がビジネスを展開しているといえます。

その中で日本の主要産業の1つであるアパレル業界において、DX・接客体験の未来について語っていく予定です。

では、山下さんにオンワードの今の展開についてお話しできればと思います。山下さんがオンワードに入社したのはいつでしたか?

オンワードデジタルラボ・山下 哲氏(以下、山下氏) 2006年です。オンワード樫山に入社してからであれば、17年目になりますね。

店舗での販売・営業・ブランドマネージャーを経て、2012年からECのデジタル戦略部門に異動し、メンズのセールスを経験しました。その後は、2014年には全体を見る役割になり、2020年にオンワードデジタルラボに出向したという流れです。

現在はEC全体だと、約100名規模のチームとなっています。その中で、デジタルマーケティング・システム・カスタマーサポートのプラットフォーム周りを、オンワードデジタルラボの領域として管掌しています。

近藤 ECサイトのオンワード・クローゼットの状況をお聞きしたいと思います。どういったコンセプトで運営されていますか?

山下氏 オンワード・クローゼットは、設立当初から「価値提供」をコンセプトとしています。2009年の立ち上げ以前には、モール出店という形で販売を行っており、2015年に第一回のリプレイスを実施しています。

2009年時点では、オンワード・クローゼットの売上は大きなものではなく、自社データも取得できませんでした。また、社内的なプレゼンス(存在感)も無かったため、販売用の在庫を確保できないことに加え、モール依存型で展開していました。

つまり、「自社のデータを活用したサービス提供や商品提供」につなげられていなかったといえます。そういった課題を受けて「自社ECを立ち上げて価値提供を行い、規模感を上げていく」。そして、「社内的にもECの組織を確立させてスタートしよう」と考えるきっかけになりました。

2009年から2014年までは黎明期であり、「組織として独立化する」、「デジタルマーケティングを含めて自社で集客する」といった体系を整えていきました。 

その後、プラットフォーム・サービスを自社主導で作っていく観点から、2015年のシステムリプレイス、会社全体の在庫を一元化していくロジスティクスリプレイスを進めていきました。

近藤 価値提供をテーマに体制を変えていったということですね。2度目のリプレイスは、山下さんからするとどのように感じられましたか?

山下氏 2015年から2021年までにかけて徐々にシステムをカスタマイズしていったため、一言でまとめると大変でした。社内検討からローンチまでに2年ほどかけ、「どういうサービスを提供していくか?」について真剣に向き合い、システム構造の理解・ビジネス的な価値の見直しを行いましたね。

近藤 ECサイトとして、100億からさらに駆け上がるとすれば、条件の仕様もマーケットのニーズも変わりますよね。リプレイスの焦点は「課題を解決する」視点よりも「会社として目指す物を作る」視点だったのでしょうか?

山下氏 1回目のリプレイスはどちらかといえば、今までの機能を崩さない点にフォーカスしました。しかし、2021年にはリアルも含めたデータを一元化するために、ベンダーも含めて話を聞き、大規模なシステムリプレイスに踏み切りました。

近藤 コロナでアパレル業界は、少し苦しい状況になりましたよね。しかし、オンワードの直近の22年2月決算では「EC売上高が前期比6.3%増」と好調でした。要因はどの点だと思いますか?

山下氏 21年度は、コロナの影響でリアル店舗の稼働ができませんでした。しかし、オンワード・クローゼット内で、在庫一元化の第2フェーズとして、EC・店舗の在庫連携を構築し、販売機会のロスを抑制したことが要因ですね。また、EC需要が増えた時に獲得した新規顧客の維持人数も多かった点もポイントとして挙げられると思います。

近藤 2021年のリプレイスをきっかけにして、体制変更を行ったのですね。オンワード・クローゼットで活用するツールはどのように変化しましたか?

山下氏 ツールとして、「Rtoaster」と「STAFF START」はよく使用しています。「誰に、何を」と考えを突き詰めていく中で、「Rtoaster」は購買データだけでなく行動データも加味し、ユーザーにマッチしたよりパーソナルな提案ができるサービスだと感じています。そのため、オンワード・クローゼットでは積極的に活用している状況です。

また、スタッフコーディネートはEC購買のステップの中で、「大体のユーザーはコーディネートを見ている」といっても過言ではないほど重要なコンテンツです。コンテンツの効果を可視化し、スタッフ自身のコンテンツアップを加速させることができる点から、「STAFF START」も活用しています。

2021年のリプレイスでは、実現したかった「顧客理解」を進めるためのデータ基盤構築も進みました。これまで分断されていたECとリアルのデータを一元化し、CDPの基盤を作ることで顧客の解像度が上がった点は嬉しかったですね。

アパレル業界の悩みと、変化しつつある顧客体験の価値

近藤 オンワード・クローゼットの売上が300億に突入している中で、「店舗とECの接客」はIRや中期経営計画でもふれられる話題かと思います。では、山下さんからみて、店舗・ECの接客面から、最近のアパレル企業の悩みはどういったものだと感じられますか?

山下氏 オンワードの場合、百貨店やショッピングモールで展開していたこともあり、広告宣伝効果は高かったと思います。しかし、コロナ以降、リアル店舗の拠点数が減り、店舗の展開方法も「単独ブランドショップから複合型ショップを増やし、顧客との接点を増加させる」戦略に変わっていきました。

そのため、「これまで店舗にあった顧客との接点をデジタルにシフトさせていく必要がある」と感じています。しかし、ユーザーアンケートからは、「近くに店舗が無くなったので素材感やサイズ感を試せなくなった」という意見も散見されています。

実際にリアルからデジタル、デジタルからリアルに相互に行きかうきっかけとなる顧客体験や接点が少なくなった点は悩みです。

近藤 アパレルはブランドの集合体だと個人的に感じています。オンワードは、総合・特定ブランドどちらもありますよね。顧客はオンワードとブランドどちらを重視しているのでしょうか?

山下氏 どちらもありますね。オンワードの歴史の長さから品質を評価している場合もあれば、「23区」などブランドによるマス広告の効果で認知されている場合もあります。しかし、今の業態では「次にどのような価値を提供していくか」「顧客にどんな価値を感じてもらいたいのか」といったポイントを意識していますね。

近藤 自社ブランドの展開ではなく、店舗のオンワード・クローゼット化が進んでいるということですね。コーポ―レートの転換期という意味で今は難しさがあるかと思います。薄井さんはアパレルブランドの変化をどう感じていますか?

薄井氏 コロナによる変化は大きかったと思います。「STAFF START」も店舗のスタッフがやれることを探すという面から声掛けしてもらいました。店舗・スタッフの価値を守るために「STAFF START」があり、この店舗・スタッフという存在こそ、実店舗を持っているブランドさんがECモールやD2Cブランドと差別化を図れるポイントだと考えています。

近藤 企業の資源であるERP目線からすれば、店舗スタッフには、接客も在庫の入出庫といったバックオフィス業務もあります。しかし、顧客が来なければその業務も無くなっていくといえます。

そして、コロナをきっかけにして、「店舗でできることを考える」ことにフォーカスするようになったことから「STAFF START」がマッチしたということですね。働き方ではなく、考え方から変えられたと感じました。では、アパレル以外はどのような状況でしょうか?

薄井氏 私が知っている中では、コスメ・家具・家電などの小売業界は厳しいと聞きました。アパレル業界はEC化率が高かったため、比較的早くEC対応サービスを開始できていました。

ただ、そうした中で「店舗にいるスタッフの知識・センスに価値がある」と顧客が気付き、アパレル業界以外の店舗も価値を再認識が進みました。そのため、他業界でも店舗スタッフのEC対応サービスを提供し始めた状況です。

近藤 アパレル業界は「小売業界からするとデジタル化の1つの指標になっている」のですね。そういった状況をふまえて、山下さんからすると、昔のECと今求められるECの違いをどのように感じられますか?

山下氏 以前のECは、「集客と在庫の最大化を行い、いかにしてトップラインを上げていくか」に焦点を充てていました。ECの中だけで完結できる内容だったため、マーケティングコストと在庫があれば、力業でトップラインを上げることができたと思います。

しかし、今求められるECは、「チャネル単体での限界はすぐ見える」状況にあります。そのため、21年のリプレイスの段階で「会社全体として顧客がどういう行動をしているのか、横断的・俯瞰的に捉える必要がある」と定義し、CDPを導入しツールによる分析が必要になった点は大きな違いですね。

また、現在は商品やブランドという接点以外に、スタッフ軸の接点を拡大し、ユーザーとの接点をより増加させていくことも重要だと思います。クッキーレス問題の対策という意味も含めて、ユーザーにとって「好きだな」「気になるな」と思ってもらうきっかけを作ることが大切ですね。

加えて、店舗やECに来店してもらい、チャネルレスの接客と購買体験をしてもらうことも意識しなければなりません。ファーストパーティーデータを活用し、2回目以降のユーザーの期待を超える商品提案につなぐ流れが理想ですね。

例えば、「ECでカートに入れて購入しなかったら、お買い忘れはありませんか?」といったシナリオを発動させる方法は一般的な手法です。しかし、リアルも含めたデータを見ていなければ、「カートに入れた商品は参考情報であり、実は店舗で購入した」という部分まではみえません。

逆に、そこまでみえていれば、顧客ニーズに合わない「コミュニケーションのミスを防げる」という考え方もできます。

近藤 リプレイスやCDPなどの手段の刷新よりも、考え方が「局所的なECではなく全社的なECに変わった」転換期だったということですね。そして、今後その流れはより加速していくと。 薄井さんは、店舗とECの役割は違うとして、店舗主導のDXについてどのように感じられますか?

薄井氏 店舗にあってECにないものもあると思っていますね。例えば、店舗の場合は、スタッフ・商品・レジがあります。

対して、ECには商品とカートはあるものの、スタッフの要素となるものがありません。

そのため、スタッフをECに対応できるようにするサービスに価値が生まれます。「STAFF START」だけでなく、他のサービスでもその視点があれば、店舗のDX化につながりますね。 

近藤 他業界でも、店舗の要素であるスタッフ・商品・レジから、ECに足りない要素であるスタッフを補完していくことでDXにつながると私も感じます。山下さんはDX・デジタル化・接客の課題はどこにあると思いますか? 

山下氏 ECだけでどれだけ購買につなげられるかという点では、購入方法や素材感が課題となりますね。例えば、コーディネートは非常に重要な要素の1つです。「店舗のスタッフがデータに基づいて顧客に提案する」という流れが今後必要になってくるかと思っています。

近藤 実際に、店舗に立つスタッフの方から、顧客の行動が大きく変化したというお話は私も伺っています。例えば、スマホを眺めるという行動からは購買の意欲を読み取るのは難しいという意見はよく聞きます。

山下氏 「行動として顧客が何を求めているのか」という点から、リアルでできることはまだ多く残されているとみていますね。

薄井氏 リアルからデータを取れるのは、実店舗を持つブランドしかできません。 オンラインのプラットフォームではできないことができる点は本当に強みですよね。

近藤 店舗とECの接客について見解を述べると、店舗のマネキンはスタッフのセンスによるコーディネートであるため、「STAFF START」とも相関がありますね。売りたい商品を見やすく購入しやすくするVMDは、ECからするとレコメンドに該当するかと思います。

ファーストビュー・セカンドビューは売れ筋を検討する棚割、店員の声掛けはWeb設計ですね。今、Webと店舗の役割を置き換えてみましたが、スタッフコーディネートのデータがあれば、Web接客にも応用できると感じています。

そして、店舗には店長がいますね。しかし、ECでは「店舗の意思を決定する」店長の役割を担う人は多くありません。Webでは、スタッフコーディネートツール・レコメンド・Web設計・担当はツールでも担えるものの、既に存在する要素を活かして「どんな世界を作るか」が抜けているケースは多いですね。

今後、Webでも店長が意思を反映する店舗のような接客ができれば、「接客のレベルが上がる・様々なコラボがしやすくなる」と思いますね。

山下氏 店舗における接客のきっかけは、会話です。そのため、スタッフは「会話の糸口から顧客が求めているものを把握・イメージする」ことができます。ECに置き換えると、会話はクリックや行動に該当し、コーディネートが出てくることによって意思決定がしやすくなると想定できますね。

しかし、「一連の流れと自社として何を武器として持っているのか」を把握しておかなければ難しいとも感じました。 

近藤 その部分こそ、マーケティングにおける人を動かす心理であるインサイトですね。店舗であれば「今のお客様はこういうニーズがありました」という報告があるため、洞察を知見に変えられます。

今後、ECでも「どのようなシーンでどういったニーズがあってクリックしたのか」といったデータの洞察化が必要になりそうですね。

WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

DOORS編集部

ブレインパッドのマーケティング本部が中心となり、主にDXにまつわるティップス記事を執筆。
また、ビジネス総合誌で実績十分のライター、AI、ディープラーニングへの知見が深いライターなど、外部クリエイターの協力も得て、様々な記事を制作中。

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