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3月23日に開催した「DOORS-BrainPad DX Conference2022」。
3000人を超える視聴申し込みをいただいた本イベントの内容をお届けいたします。
今回は、
による「未来を見据えた伊藤忠「流通DX」のリアル」と題した対談の詳細をみていきましょう。
2018年よりDX・データ活用戦略の推進と改革に着手した伊藤忠商事。3年が経過し見えてきた景色、また同社が重要施策と位置付ける「食品サプライチェーンの最適化」の裏側やこれからのデータ戦略について語り合います。
ブレインパッド・関口 朋宏(以下、関口) ここからのセッションは「未来の探索」をテーマとして、伊藤忠の皆さんをお迎えして、ブレインパッドのメンバーと共にお話をさせていただきます。
それでは、お集まりいただいた皆様の紹介をしていきます。では、伊藤忠のデジタル戦略室長代行の海老名さん、押川さんに来ていただきました。実は、押川さんはブレインパッドの一員でもあります。現在、出向という形式で、プロジェクト推進に「中から携わる」観点から参画いただいている状況です。支援方法の違いや進め方の違いなどもお話を聞けたらと思います。
そして、伊藤忠のプロジェクトを推進しているリーダーである、データサイエンティストの原さんにも来てもらいました。データサイエンティストの視点から、どのようにプロジェクトに携わっているかという点もお話を聞きたいと思っております。
実は伊藤忠さんとは前回のカンファレンスに、デジタル戦略室室長の関川さんに登壇いただき、DXの考え方・進め方についてお話いただきました。今回は、伊藤忠として様々な産業をみる立場から、何かに注力しなければならないといった「選択と集中」の考え方もふまえ、デジタルと現業のビジネスの関係、DXを進めていく難しさと今後の展望などもお伺いする予定です。
では、まず海老名さんに質問です。伊藤忠は現状だと決算発表は絶好調であり、その中でもデジタル・情報産業の割合が目立っていると思います。実際に、伊藤忠の現状はどのような感じでしょうか?
伊藤忠商事・海老名氏(以下、海老名氏) ブレインパッドさんとのお付き合いが始まった2018年は、ちょうど前回の中期経営計画がスタートした年でした。テーマは「商いの次世代化」で、今では非常に大きな成果が生まれています。
例えば、モビリティの変革、エネルギーの変革に加えて、データ活用による収益の拡大に取り組んで来ました。3年間のうちに様々な事業会社の課題に触れ、下地を作ったうえで、テーマを「マーケットイン・SDGs」とした新たな中期経営計画が今年度からスタートしています。
変わらずデータ活用による収益の拡大というテーマを念頭に置き、どの現場も社会構造の変革に対して取り組んでいる最中といった印象です。
関口 社会構造の変革に取り組む場合、特に気にしている部分やポイントはありますか?
海老名氏 決算書を見ていただくと他の商社と比べて伊藤忠の場合、非資源と呼ばれている生活消費分野に特徴があります。
そして、その分野におけるサプライチェーンにおいては、24時間営業のための労働力不足・食品廃棄ロス、SDGsなど直面する課題が目の前にある状況だといえます。
関口 前のセッション(特別ゲスト対談「ESGとデータサイエンス」)でも話題になったESGが急速にきたことで、規制や法案といった早い対応が求められる流れにありますよね。そのあたりのデータになると紙やFAXを使っている企業も多く、その中でどうやってデータを集めて解決すればいいのか苦労するのではないでしょうか。
海老名氏 そう言った意味では、昨年のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)は特徴的でしたね。また、今年予定されている東証プライム市場の対象企業は、温暖化ガスの中でもScope3と呼ばれる調達・配送に関わる部分の二酸化炭素を開示していかなければならないため、この流れはより加速していくと思います。
データに基づく開示環境を整備しなければならないため、各社が非常に苦労すると予想しています。
関口 お話しいただいた状況を変えるには、現場を変えるしか方法がなく、どうやって変えていくのかといった点がキーになってくると私も感じます。伊藤忠の中でもビジネスを行っている現場を大事にする考えが根付いていると思うのですが、伝統なのでしょうか?
海老名氏 伊藤忠がカンパニー制に移行したのは1997年のことで25年経っています。その時点から、「縦割りで経営判断を早く行う」点にこだわっていますね。また、連結経営が大規模化しており、利益も大きくなってきています。単体で物を動かして獲得できる利益が大きいことから、どのようにして現場をマネジメントしていくのかといった点が商社にとっては非常に重要だと思っています。
例えば、先ほど私が申し上げたような労働力不足やフードロス、トラックの台数を減少させなければならないといった課題は、最近急に現れたものでなく、先人たちも向き合ってきた問題です。加えて、現場に行ってデータが整っていない、あるとしても表記ゆれで使用しづらいといったケースにも理由が必ずあります。そのため、根本から解決しなければいずれ、問題となり停滞してしまうことも分かっています。
そのため、現場にしっかり向き合う・本質的な課題を突き詰めることが要点だと取り組みの中で感じている状況です。
関口 先ほどのお話にも出てきた生活商品分野、衣食住に関する事業を多く持つのが伊藤忠の特徴だと私も思います。そして、「働いている人々もお客様も多いなかで、生活になければならないものと向き合う」意識は、課題解決をしなければならない意欲を高めることにもつながっていますか?
海老名氏 コロナウィルスの影響が長引いているなかで、重要視されているのは「エッセンシャル産業」など衣食住に関わるモノをそろえて必要な場所に届けることです。
加えて、「カーボンをしっかりマネジメントしていく」・「労働人口が減っていくことから、効率性でカバーしていく」「サスティナブルを維持していく」この3点がサプライチェーンに求められていることだと思います。
関口 伊藤忠では「商人」という言葉がよく使われるイメージですが、商売よりも「生活を守る・生活を豊かにしていくプロデュース」をしていくのが商人の役割ですよね。
海老名氏 「近江商人」「三方よし」は、伊藤忠ではよく使われている言葉です。今日のハッピーだけでなく、「未来に残るものでなければ今日の利益さえも残らない」のが現状だと私も感じています。売り手・買い手・世間よしと考えていくことがDXのベースですね。
関口 ここからは伊藤忠におけるデジタル戦略とデータ活用についてお話していこうと思います。サプライチェーンのDXに対して注力している理由を教えてください。
海老名氏 社会的な影響度の大きさが最大の理由です。コンビニ・スーパーに荷物を届ける役割は環境によって大きく変化しません。国内だと、道路は雪の影響を受け、フィリピンの大きな農場は台風の影響を受けたりすることもあります。
しかし、そういったなかでも「マネジメントによって、生活消費者サプライチェーン分野のベストプラクティスを作っていく」ことが重要だと考えています。
関口 その中でも、現在は食料品に対して「先行して事例を作る」ことも含めたプロジェクトをブレインパッドと共に行っていますよね。データ・デジタルによる生活に根ざした分野の変革を3年行った中で気付きはありましたか?
海老名氏 基本的な気付きは「仮説は仮説であって、答えは現場にしかない」ということです。今存在している業務は必要だとして、業務を理解すること・課題に対する本質的な問題を解決することが重要です。
関口 ブレインパッドからみても現場に行く意識を大事にしているプロジェクトだと感じています。押川さんは「中・外」どちらもみているという立場から、気付きや重要性など感じるところはありますか?
伊藤忠商事・押川 幹樹氏(以下、押川氏) 海老名さんのお話でもあったように、サプライチェーンの問題は昨日・今日で始まったものではなく、色んな人が取り組んできた上で存在しています。
その問題に土足で踏み込まないためにも、DXを取り入れる場合は、現場サイドから共にみて、ここは「できている」「問題だった」・「触らなくていい」など目線を合わせながら実施していくことが重要だと感じています。
関口 なるほど。発注を自動化できないかとプロジェクトを進めて、自動発注システムを使う現場に行く体験を原さんに経験してもらいましたよね。データサイエンティストとしては中々ない体験だと思うのですが、どうでした?
ブレインパッド・原 真一郎(以下、原) 直接お会いするタイミングで思ったのは、現場に迷惑がかかっていないかという点で不安でしたね。プロジェクトの概要は以下になります。
事前に利用してもらい、ある程度の期間を置いてから、現場に行きました。事前の数値分析からすると悪くない数値にみえていたものの、数値で見えない部分の負担が私からは分からなかったため、「どんなことを指摘されるのか」といった不安が強い状態でした。
ただ、実際に聞いてみるとポジティブなお話をいただき、「手動と変わらない精度ならどんどん導入してほしい」といった内容だったことから、安心・励みになりました。
関口 開発サイドとしては、「AIを使用するのであれば人よりも良くなければならない」といったプレッシャーもあります。しかし、実際には「手動と変わらないなら問題ない」などの意見を聞いて、海老名さんはどう思われますか?
海老名氏 非常に重要なポイントだと私も思っています。実際、原さんに参画いただいている「卸からメーカーへの自動発注のプロジェクト」は、現場への実装前は、毎週の定例会議の中で「精度」が問題となっていました。
しかし、実際に使用してもらうことを優先し、導入した結果、「精度」の話は出ませんでした。そのため、原さんも押川さんも言われた通り、いかに現場に実装して改善を加えていくのかという点が成功・不成功の鍵を握ると実感しました。
関口 制作サイドからすると、どうしても「費用対効果に対して、どの程度返ってくるのか」「業務効率はどの程度上がるのか」に着目しがちです。しかし、現場に視点を合わせるからこそ、見えたものだといえますよね。
海老名氏 最近、「自動発注システムを全国導入する」ための最後の仕上げミーティングを行いました。携わったメンバーが実際に発注してみなければわからないのでは?ということになり、原さんにも発注業務の体験をしてもらうことになっています。
関口 使用するのは人であるため、その人の気持ちになることで初めてわかるものもありますよね。デジタルだと、どうしても数字などの無機質なものに囚われがちです。しかし、人が使用する喜びがあるからこそ、システムは浸透するものだといえます。改めて、現場を重要視する視点が大切だと実感しています。
当初から、原さんに関わってもらったプロジェクトであり、「できるか、できないかの段階から、検証はある程度終わっているため、本格的に作ろう」という流れだったと思います。そのうえで、今まで関わったプロジェクトと今回は何か違いがありますか?
原 「絶対に現場で使う・使えるものにしたい」という熱量が高かったですね。これまでは、検証してみて「ちょっと良かったら導入してみる」といった温度感が多かったです。しかし、導入前提で進めたことによって、ほどよいプレッシャーの中で現場・作り手共にいい熱が入ったと感じています。
関口 導入前提だとしても、2つのパターンがありますよね。1つ目は単純に導入するパターン、2つ目は海老名さんたちと進めた、導入するために発生する課題を現場と対話して見つけていくパターンで、前者はシステムのパッケージにも似ています。
これまでも改革や業務効率化を経験してきたなかで、押川さんからみて今回のプロジェクトはどう感じますか?
押川氏 中でも外でも変わらない点として、DXを行う人の中には、テクノロジーが好きな人もいると思います。しかし、前提としてそうであっても、結果を出す・お金に変える・利益が出るといった要素から、実行・実装するといった思いが強くなるのではと感じました。
関口 技術検証からスタートし、いくつかの拠点で試し、全国導入を行うといった流れの中でどういった点に苦労しましたか?とくにPoCを超えるのは気になる点かと思います。
原 挙げるときりがないほどですが、「元となるデータを安定して供給する環境を作ること」が大変でしたね。例えば、現場の皆さんが使用しているデータから予測モデルを作るとしましょう。皆さんが使用しているデータは日々の業務用のデータであるため、履歴が残ってなかったり、別商品のIDが転用されたりしていました。業務では問題ないのですが、私たちが予測データを作る場合には、過去のデータが重要になります。そのため、現場の方と話し合いを重ね、精度や種類の拡充を行い、システムに落としやすい形式にしていきました。
関口 元々の稼働データは、アルゴリズムを作るために存在しているわけではないことから、特にIDの使い回しの件は頭を悩ませたと私も想像できます。テクニカルな話として、「予測モデルを作って全国導入をする」流れで、1つのモデルを全拠点に適用するのか、拠点ごとに別なモデルが必要なのかといった観点からすると、今回はどのように考えましたか?
原 モデルの粒度を細かくすると、それぞれの倉庫のパターンを学習するため、精度は上昇します。しかし、全国に展開する場合、その後の保守・運用を考える必要がある点と複数のモデルが乱立しているとメンテナンスに手間がかかり過ぎる点から、全国の倉庫で1つのモデルを採用することになりました。
関口 精度的には難しい方を選択したということですね。海老名さんからしても悩ましい判断だったのではないでしょうか?
海老名氏 私は最初からその判断を応援していました。開発側に求められるのは、運用までコミットすることです。そのため、横展開や利用するシーンを増加させることが必要になります。正直にいうと、精度よりも使いやすさが重要である点に早い段階で気付けたことが今のプロジェクトに活きていますね。
関口 精度問題は常にぶつかるものですよね。この判断について、押川さんはどうでしょうか?
押川氏 データを活用する素晴らしさは、経済的インパクトの大きさをある程度推測できることにあります。例えば、精度が悪化したとしても、ビジネス的に問題なければ標準化を目指せばよく、標準化がどの程度の価値になるのかがすぐに判断できる点は魅力です。
このプロジェクトにおける意思決定は「シミュレーションを行ったうえで価値を算出しながら判断する」といった流れを大切にしています。
関口 アルゴリズムを活用して業務を行う形式は、ブレインパッドとしてもまだまだ少ないのかなと感じています。実際に、運用の経験やデータサイエンティストがどの程度関わるのか把握できなければコストも算出できない部分も少なくありません。どちらがいいのかという点で知見が試されますね。
原 データサイエンティストとして精度は、できる限り高めたいという思いがあります。しかし、ビジネスの観点からすれば、精度よりも優先すべきものがあることを知ったことから、ビジネスサイドを選ぶという判断もできるようになりました。
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【後編】未来を見据えた伊藤忠「流通DX」のリアル~BrainPad DX Conference 2022~テーマ別 企業DX対談
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