DOORS DX

ベストなDXへの入り口が
見つかるメディア

【前編】パナソニック流「サプライチェーンDX」の現在地と未来~BrainPad DX Conference 2022~実践セミナー_対談

公開日
2022.04.11
更新日
2024.03.08

3月23日に開催した「DOORS-BrainPad DX Conference2022」。
3000人を超える視聴申し込みをいただいた本イベントの内容をお届けいたします。

今回は、

  • パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社 現場プロセス本部 エグゼクティブコンサルタント/エバンジェリスト 一力 知一氏
  • 株式会社ブレインパッド ビジネス統括本部長 西村 順
  • 株式会社ブレインパッド エンタープライズアナリティクスコンサルティング部長 東 建志

による、「サプライチェーンDXの現在地と未来」と題した特別ゲスト対談となります。

パナソニックの現状とサプライチェーンDXによって今後何が変わっていくのか、みていきましょう。

「2024年問題」で日本の物流になにが起きるのか、より深く知りたい方はこちらもご覧ください。
運送業界の「2024年問題」とは?業界の現状から考える解決法


SMCのトレンドと現状

ブレインパッド・西村 順(以下、西村) パナソニックの一力 知一さんは社内の経営プロセス変革の知見、パナソニックのデジタル技術を組み合わせたインダストリアルエンジニアリング(IE)の知見とDXの融合による経営オペレーション改革の中核を担っておられます。

今回は、サプライチェーンのデータDX推進の現在のチャレンジについて対談していきます。

パナソニックは現場の困り事やテクノロジーエッジデバイスで解決する「現場プロセスイノベーション」を主力事業としています。その中で、現在はソフトウェア・サービスやSaaSのソリューションのDX推進に力を入れている状況です。

近年では、2021年にアメリカのリーディングカンパニーであるブルーヨンダーを買収し、特にサプライチェーン領域の推進を加速させようとしています。パナソニックの「サスティナブルな未来を手に入れる」とブレインパッドの創業来の「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」というコアバリューには類似点があると思っております。

まずはパナソニックのサプライチェーンの現状について伺います。現場プロセスイノベーションで様々なプロジェクトをされていますよね。では、サプライチェーンの中で、今のトレンドやどのようなお仕事が多くなってきているのか、などをお聞かせください。

パナソニック・一力 知一氏(以下、一力氏) パナソニックはサプライチェーン・マネジメントの一員として、これからは物流や流通に対して貢献していく予定です。

「物流」「流通」「製造」の3つに分けたときに、例えば、物流領域で困り事が出ているものの、実は物流以外に原因があるケースも少なくありません。そのため「どこを改善すれば、サプライチェーンが本当に良くなるか」を特定するのが非常に難しいと感じています。結果に対する原因をどうみつけていくかが今後の課題だといえます。

西村 東さんはどのようにお考えですか?

ブレインパッド・東 建志(以下、東) 現場で活動する中で、これまではサプライチェーンの「システム」を使って課題を解決するという流れでした。しかし、現在は「データ活用」によってどのように解決していくか、より踏み込んだ内容に変化しつつあります。そのため、この変化に対しての解決策がより大きな課題となっていますね。

西村 先ほど一力さんのお話では「物流」「流通」「製造」と領域が分かれる中で、なかなか課題の特定が難しいとのことでした。そのうえで、世の中ではPoCなどでプロジェクトが進んでいると思います。現在はパナソニックとして、どこまで進んでおり、どのようなチャレンジを行っていますか?

一力氏 チャレンジとしては、「AIを始めとするさまざまな新しいテクノロジーを活用していくべき」だと思っています。ただ、AIなどを適用したときに効果がなかったり、効果はあっても実際に業務の中で運用すると無理があったりといった制約条件は少なくありません。

また、データを導入する際に大きな手間がかかるといった問題点もあります。そのため、取り組んではいるものの、「PoC疲れ」という言葉が当てはまるほど、実証実験段階で終わってしまうプロジェクトが多い点は課題ですね。

西村 ブレインパッドとしても共感できます。担当させていただいているプロジェクトの中で、今の傾向やトレンドなどについて、東さんは何か思うところはありますか?

 ブレインパッドが得意とするデータサイエンス技術で、課題を解決したいという企業は増えていますね。例えば、画像診断でAIに判断させるといった使い方です。

どちらかというと、これまでは業務やオペレーションの中で解決策を提案することが多かったものの、今後はデータサイエンスが使えることを前提に、どのように経営課題を解決していくかが大切になると思います。

西村 元々ブレインパッドでも、物流の業務を自動化したり、アルゴリズムを置き換えたりといった仕事は多くありました。しかし、徐々に「物流の問題を物流部分だけでは解決できない」ケースが多くなってきている状況ですよね。

一力氏 経営者からすると、「経営ロスが起こっている原因」を把握はしなければなりません。対して、現場は「品質問題が起こっている本当の原因は設計・作り方・部品の調達のどこにあるのか」という点を知る必要があります。そのため、PoCで終わらせずに効果を出すためには、経営から現場までデータでつなげることが非常に重要な観点になると感じます

西村 パナソニックだとデータ駆動型経営を示しつつ、経営されていると思います。その辺りを少し詳しく教えていただけますか?

一力氏 パナソニックとしても、「経営の問題と現場の問題が紐づかないケースはよくある」と感じています。例えば、現場では生産性や品質問題、作るスピード(タクト)などが重要な指標です。経営的にはPL、営業利益、限界利益などが非常に重要だといえます。「現場がよくなれば経営もよくなる」のは事実です。しかし、この因果関係を結びつけるのは難しいことから、つなげるためにパナソニックではデータ活用を以下の5つのステップに分けています。

簡単に言うと、ステップ1はデータの取得です。重要なステップ2では取得データ同士をつなげていきます。つながらないデータは不必要、つなげられる・意味があると感じたデータは必要なものと判断していきます。ステップ1、2を繰り返し実行して、現場の実態を表しているデータとは結局何なのかを決めていくことが目的です。

ステップ3では、相関関係から因果関係・取得したデータを情報に変えます。例えば今、社内に10人のスタッフがいるとしましょう。この時点では人数がデータに変わっていないため、まだ情報には変えられません。

しかし、運搬に30人を必要とする量の荷物がある場合、情報をデータに置き換えることができれば20人が不足していると判断できます。ステップ1〜3の流れでデジタルの力によってデータを情報に変え、活用できる状態にしていくことが大切です。

ステップ4では、データを情報に変えた場合、業務プロセスも併せて自動化できるように変更します。DXが役に立つのは、データを取得してステップ3から4に移行する過程です。情報がつながっていないことに問題があるのではなく、情報に変わった際につなげることに意味があります。

ステップ5では、サプライチェーンソフトウェアのBlue Yonderを使って「物流から流通」「流通から製造」「物流から製造」のようにつなげ、現場の実態を追う情報に変えていき、さらに物流から流通といったように領域を超えてつないでいきます。パナソニックでは今、このような概念で考えています。

西村 お話を伺っていて、「現場も含めて、経営という観点でみている」ことが興味深いなと思いました。利益を出すという本質は一緒だとしても、なかなか噛み合わない点はブレインパッドも苦労することが多い要素です。

東さんが担当するプロジェクトでも、経営・現場の中でも営業や物流担当の方、経理の方など結構苦労されている企業も多いかなと思います。これまでの経験の中で、具体的に苦労したことなどのお話を伺えますか?

 商品の製造では、「設備投資をどうしていくか」という問題に対して、判断を行っていく際には「意思決定するためのデータ」を集める必要があります。しかし、データをマーケティングが持っていたり、経理が持っていたり分散しているケースは少なくありません。加えて、「データそのものが同じ数字じゃない・いろんな意思が入っている」こともよくあります。

そのため、「どの数字を使っていけばよいのか分からない」といった問題にぶつかります。さらに詳しくいえば、「データがあったとしても生産・販売・マーケという3つの視点があることから、部門の壁を超えられず、データ活用に至らない」問題は本当に多いといえますね。

西村 物流部門はあるデータをAと解釈していて、マーケ部門はBと解釈しているようなところから掛け違いが起きているケースも多いですね。

そこから、ブレインパッドが紐解いていく形のプロジェクトも意外と多いものの、特にお話を伺って大きく違うと思うのは、デバイスの有無です。パナソニックには、デバイスからデータを取る概念があるかと。その辺りは、ブレインパッドにない知見だと思うので、少し補足でお伺いできますか?

一力氏 会社の業務オペレーションは、ERPを代表するような基幹システムを中心に動いています。しかし、現場のデータは意外に取れていない状況ですね。そのため、「みんなの解釈が違う」という点も整理する際は、同床異夢を前提として考えました。

データの「見たい目的」はそれぞれで異なります。今は基幹システムを現場のデータとして活用しているケースが多いものの、基幹システムはお金や発注などの単位で見て経営に紐づいて直結した観点でみているものです。そのため、判断もシステム上のバッチ処理となっています。しかし現場はリアルタイム処理ですよね。

お金の単位や人物情報を1日100・200・300回と回していき、その結果を基幹システムに返していることになります。そのため、後でみると現場のデータは取れてないケースが多いです。「人が何人いて、どのくらいの作業をしたのか」のデータを取ろうとするとストップウォッチで計ったりしなければなりません。

パナソニックが持つAIの画像処理技術を応用しながら、現場がどういう実態なのかを知ることができます。今、ハードの部分と処理を行うエンジンの部分を連動させてデータを取得し、経営のデータへ確実につなげていく、という観点で動き出そうとしている状況です。

西村 経営のデータと現場のデータをつなぐところは、ブレインパッドでも割と似たようなプロジェクトがいくつかあります。東さん、プロジェクトの実例をご紹介いただけますか?

 私がご支援した食品メーカーの事例では、増えていくラインナップに対して、「現場で製造計画を作る場合の難易度が上がり続けている」という問題を抱えていました。なかなか環境変化に合わせた良い結果を出せないため、「システムで良い製造計画を作って解決したい」という現場の課題も聞きましたね。

しかし、経営から見るともう少し違う風景が見えていました。システムがあれば、楽になる部分もあります。しかし「計画を動かしたり、良し悪しを判断したりする人間の方が重要だと。将来的にそのような人材がどんどん減っていく中で、どうやって維持していくか」が課題になっていますね。

「メーカーでいう供給責任・事業の持続可能性の維持のために、人・システム・データをどう使っていくか」という観点で「紐解いてほしい」となることが多かったといえます。技術を使って質のよい解や製造計画を作るよりも、経営目線で課題を解決していかなければならない場面が増えてきたと思っています。

西村 経営と現場をデータでどうつなぐかといった観点とその先にどういう未来が待っているかという点から人の話が出てきたといえます。その辺りは今、様々な企業でトライアンドエラーが起きている傾向ですね。


このページをシェアする

あなたにおすすめの記事

Recommended Articles

株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

メールマガジン

Mail Magazine