【前編】ユナイテッドアローズが考える「データの価値」 ~BrainPad DX Conference 2022~テーマ別 企業DX対談

3月23日に開催した「DOORS-BrainPad DX Conference2022」。
3000人を超える視聴申し込みをいただいた本イベントの内容をお届けいたします。

今回は、

  • 株式会社ユナイテッドアローズ 執行役員CDO・DX推進センター担当本部長 藤原 義昭氏
  • 株式会社ブレインパッド 取締役 ビジネス統括本部・プロダクトビジネス本部管掌 関口 朋宏 
  • 株式会社ブレインパッド マーケティング本部長 近藤 嘉恒

による、『ユナイテッドアローズが考える「データの価値」』と題した対談の詳細をみていきましょう。

CDO就任の真相

ブレインパッド・関口 朋宏(以下、関口) さて、藤原さんは2021年にユナイテッドアローズにコメ兵から転職されました。「ブランド」に対する考え方がコメ兵のときとユナイテッドアローズでは大分違うということでした。そこが選ばれたきっかけの一つになっていると伺ったのですが、理由を教えていただけますか?

ユナイテッドアローズ・藤原 義昭氏(以下、藤原氏) 私の職責はCDOであるため、マーケティングだけではありません。そもそもマーケティングだけの話をすると、そのブランドの認知をとるまでが遠くなってしまいます。前職で苦労したのは、東京に進出してからの認知です。初めは38%ぐらいで、退職時には78%ぐらいまで上がりました。「認知獲得」の部分にお金を相当投下したため、その後コストをかけられなくなってしまいました。

対して、ブランドアセットとしてユナイテッドアローズは誰でも知っていて、認知の部分をある種、すっ飛ばすことができます。入ったからには、ある程度短いタームで結果も出さなければいけないですし、あまり認知に力をかけられないなと思いました。その面ではブランド力があるのは魅力的です。

関口 今回、CDOという役職になられましたよね。業界の中ではマーケターの藤原さんというイメージがありました。

藤原氏 「D」にこだわったわけではありません。しかし、今の一般的なCDOには2系統あると思っています。

1つは、情報システム経由でCIOからCDOになるパターン。もう1つはCMOからCDOになるパターンです。私の場合は後者ですね。昔のシステムという面は、どちらかというと管理系に該当していました。しかし、ここ15年ぐらいでテクノロジーやシステムは一旦経営のところは終わり、今度は顧客に使うぞというフェーズになっていきました。

前職では、いわゆる会計系のシステムがあり、基幹システムを作ったうえで、マーケティングをやらなければなりませんでした。その理由として、今までの紙や昔のメディアではなく、デジタルを使おうという動きになったためです。その中でECも盛り上がり、営業系の方になってきたことから、CMO経由のCDOが多く出てきました。

私の話をすると、前職ではCIOとCMO両方の役割を担っていたものの、その比重は営業サイドでした。マーケティングだけで見ると、実際いじれるのは施策ベースです。しかし、CDOという職責だと「モノづくりからデジタルで改革すること」が可能です。そこから、出口であるお客様の購買のところまでを全てコントロールする場合、CDOでなければできないと感じます。

そこで現職ではある程度権限がある、「デジタルを全部使えるようなポジションのCDO」という職責につきました。そしてマーケの域を超えてやりたかったことは、「顧客ベースの先にある製品作りまで変革すること」です。一気通貫で繋げられる役割を担わなければ、お客様は満足できないと思ったからです。

関口 日本ではマーケティングというと、どうしてもプロモーションや宣伝をマーケティングと呼んでいる人が多い印象です。藤原さんの中でのマーケティングのイメージは生産から販売、お客様のコミュニケーションもつなげてはじめてマーケティングという感覚でしょうか?

藤原氏 そうなります。結局、分断してしまうと何を作っているか分からないし、お客様に「作ったものをどうぞ」というわけにもいかないからです。例えば、セレクトショップ業界は半歩お客様を置いてきたことによって、ブランディングしてきた業界です。しかし、それだけではもうお客様の共感を得られません。

お客様の情報を取る方法が昔と違うからです。今はソーシャルメディアもあることから、どのような情報でも入る時代ですし。そうなると、お客様と共に物を作り、販売するコミュニティのようなものが現在は重要視されていると思っています。そのため、マーケティング全体に関わる必要があります。

ユナイテッドアローズの魅力

関口 藤原さんにとってのユナイテッドアローズの魅力はどんなところですか?

藤原氏 先ほど申し上げた通り、ブランドが強いというところですね。もっというと、「何の強み」でブランドが強いかという点です。入った当初調査をして、強みをリサーチしました。お客様が洋服を買う場所がセレクトショップだけでなく、いろんなところに分散していました。また、お客様の感覚としてもすごい差別化されているかというと、実はそんなに差別化されていません。

お客様が「洋服を買おうかな」と思ったときに、「5本の指に入っているかどうか(想起されるか)」が私は重要だと思っています。そして、お客様がユナイテッドアローズを選ぶ理由は、どのリサーチでも「上品さ」や「品質の良さ」でした。

だとすれば、「まだ認知していない人に認知できれば、いける」と思いました。ただ、難しいのは品質の面と接客の面ですね。これは残念ながら「体験しないとわからない」ことです。だから1回買っていただければ、物の良さや心地よさが認知されるとわかっているため、「1回目をどうやって越えてもらうか?」という点に注力しています。

関口 徹底的にそういう調査をされたということですよね。ちなみに、お客様への調査は、どんな手法で行いましたか?

藤原氏 ちょっと細かい話ですが、パネル調査もやります。ハウスカード会員の母体もあるため、全部データを取ったり、オンラインで一対一のインタビューを何回もやりました。パネル調査で仮説を作り、その後お客様にインタビューを何回もやらせていただきましたね。

社内で「差別化されているのはなんですか?」と聞くと、みんなバラバラな意見であることに加えて、「お客様が思っていることではなく、自分たちが大切にしたいこと」でした。

関口 今の話、実は大事なことだと思います。差別化要素について、自分達がやりたいこととお客さんが思っていることって確かに混同されるなと。場合によっては、ブランド価値を間違って伝えてしまう可能性がありますよね。

藤原氏 ブランドはお客様のものであるため、どう思ってもらうかが大事だと感じます。

関口 近藤さん、お客さんの調査など最近データを取れるようになりましたが、マーケティング業界を見ていて手法は進化していると思いますか?

ブレインパッド・近藤 嘉恒(以下、近藤) この1年間でユナイテッドアローズのハウスカード会員のお客様からのアンケート調査は多く来たなという印象です(笑)。

あと、マーケターの方々にとって、ユーザーアンケートは、上司から「やらされている感」があるのかなという印象です。本来は組織で、「何の目的で調査をするのか」というコンセンサスがあれば、その後の施策までつながりますが、至るケースが少ない。そのため、強みを探すという目的がしっかりあった中でのアンケートはやはり重要だと感じました。

関口 興味が湧いて来たので深堀したいですね。最近プライバシーの規制など厳しくなってきてサードパーティデータが使えなくなりました。

つまり、今後は能動的にデータを取りに行かなければなりません。アンケートなどは、今後これからも多くの企業からユーザーに来るのではないかと思っています。しかし、アンケートにユーザーが答えるのが面倒くさくなってしまうこともあると思うのですが、どう思いますか?

藤原氏 お客様には大変申し訳ないですが、統計のためにデータを取り続ける必要があります。その理由は2つです。1つは仮説を立てて合っているかどうかの確認するため、もう1つはゼロパーティのデータをとるためです。これを同時に行わなければなりません。

1つ目の仮説の部分は、ユナイテッドアローズに対して、熱狂的な人はどんな人かを深堀ることからリサーチしていきます。実際、当社を使ってない人に「なんで使っていないのですか?」と聞いても、お客さんも明確な理由は分からないはずです。

しかし、熱狂的な人を何人か見つけさらに磨きをかけて、「今使っていない方がどうしたら熱狂的になるか?」というお客様のカスタマージャーニーを作らなければなりません。そして、お客様からデータをいただく以上、サービスやプロダクトで返す必要があるものの、そこに対してどうコミットするかという点が大切だと思います。

関口 アンケートに答えるにしても、インセンティブをどう与えるかをセットにしないといけないものなのでしょうか。

藤原氏 私はインセンティブを1円もあげてはいけないと思っています。なぜなら、本当に使っている方にフィードバックをいただくことが大切だからです。そのため、今は店舗で購入し、ハウスカードに入っているアプリをダウンロードした人に対してのプッシュ施策を行っています。例えば、「今日の接客はどうでしたか?」といったことを常に聞いていますね。

私がすごいなと感じたのは、お客様が結構なボリュームで答えてくれていることです。選択肢じゃなくて、フリーワードである点がすごいと感じています。

関口 時間がかかりますよね?

藤原氏 お客様にとっては時間がかかるはずです。しかし、そうした中でも、結構泣けてくるようなこと書いてくれるお客様もいっぱいいらっしゃいますし、もちろんお叱りも多くあります。つまり、その両極端な意見が重要です。店舗は、お客様を喜ばせたいという想いが最優先です。対して、経営層は「そんなにサービスするのか?コストをどれだけ考えているのか?」という視点になりがちで、店舗運営とは全く違います。

しかし、違っていても問題はありません。店舗の人は「目の前のお客様をいかにして最高にハッピーにしたらいいのか?」と思っているため、それに対して、どのようにフィードバックをいただいて、どうやって店舗に返していくかも反映されていくかと思います。

デジタルだけでゼロパーティをとって施策に加えて成功することもありますが、リアルでお客様に良い感情を抱いてもらい、ブランドが最も体験できるフィジカルな部分に返して行かなければなりません。

関口 なるほど。デジタルデータとして大量に集まってきますよね。店舗などにお返しする際、膨大な生データを渡しても結構つらいと思いますが、その辺で何か工夫されていますか?

藤原氏 工夫する必要があると思っています。いわゆる解釈が重要ですね。お客様は「大体こう思っている方が多い、さらに熱狂的なお客様はこう感じていますよ」という内容は、マーケ側で推測する必要があると感じます。

ユナイテッドアローズのデジタル化

関口 藤原さんはSPA(製造小売業)に今回こだわったと伺っています。その中でやりたいことやマーケットが縮小していく日本において、デジタルがどう大事になってくると思いますか?

藤原氏 ビジネスの中でデジタル化の分脈は、コスト削減の省人化か、付加価値をどうやってつけるかしかありません。そのうえで、SPAは企画からお客様にお届けするまで、自分たちで全てコントロールできます。

当社は工場を持っていません。しかし、お客様に関わるところは全部持っています。その中でデジタル化の本丸はどこかと問われると、「サプライチェーン」です。ものづくり側・物流・顧客とのコミュニケーションのCX部分の3つを定めています。結局、マーケティングってどこですか?と問われるとものづくりの話になるため、一気通貫が本丸だといえますね。

関口 ブレインパッドもデータ分析をずっと行ってきましたが、データの分断は多いのが本音です。マーケティングとサプライチェーンの両輪を回せたら、企業経営も全部できると感じています。

また、日本ではずっとサプライチェーンといっていますが、アメリカではデマンドチェーンといっていますよね。消費者サイドのデータをもとに、バックキャストでサプライチェーン側を磨いていくという動きです。しかし、日本が進まないのは何故でしょうか?

藤原氏 ものづくりが基本になっているからですね。どういうものを作り、何色あって、どれぐらい出て、どれぐらい売れたかっていうデータについては、すぐにわかりますよね。しかし、意外とお客様がどう考えていて、買ったものに対してどう満足しているかというデータは見ていません。

今後はデマンド側のデータをどうやって流すかという点が重要になっていきます。そして、効率化した分をお客様に戻すことができるため、「さらに良い商品が届いた」といった流れが作れるといいかなと思っています。

関口 少し前のデジタルマーケティングは、施策を回すための道具として、Web接客系やMAを使うという話になっていました。しかし、その先の商品開発サイドでデータをちゃんと使いたいという声がようやく増えてきたと思っています。

近藤 確かに、どこにそのデータを使うのかという話は増えましたね。ダイナミックプライシングの案件の引き合いが多いのは、どういう形で金額の策定をしていくか、そういったところにデータが使われるのはトレンドだなと感じます。トレンドになってきたということは、多くの企業が「デマンドチェーンの流れにチャレンジしたい」という気持ちになってきていると思いますね。

関口 言葉としてはなかなか流行らないものの、考え方としては浸透していますね。確かに生産は大量のロットで回していくため、そこまで細かいことをできないよ、みたいな戦いはあるでしょう。そこをどうやってコントロールするかという点が課題かと思います。

藤原氏 アパレルは「リードタイムがちょっと長い」ですね。例えば、秋冬のものは、半年以上前から企画をして発注しなければならないものの、その後の気候などは分かりませんよね。その期間をどうやって短くするのかがポイントといえます。

あとは、物を運ぶ時間をどれだけ短くできるかなど、本当に一つ一つ短くしていけば、「トータルで20%短くなりましたよ、30%短くなりましたよ」となるでしょう。また、的中精度も上がることから、セールで売らなくてもよくなります。

関口 一般消費者的にはアパレルは、ほぼ夏と冬にセールするため、セールで買おうという風潮になっていたこともありましたよね。そう考えると、的中率って重要ですね。

藤原氏 マーケティングの顧客目線でいえば、ユナイテッドアローズの場合、ブランド認知があります。しかし、セールでしか売れないとなると、ブランドロイヤリティが下がっていると判断できます。そこで、認知の次のロイヤリティをどうやって上げていくかという部分で、データを使って、お客様1人1人にカスタマイズできる世界観が大切かと思いますね。

関口 「割引じゃないと買わない、という選択はそもそもロイヤリティが低い」と考えてもいいということですね。

藤原氏 今すぐ欲しいわけじゃなくて、安くなったら買おうというのはそういうことです。そのため、アンケート結果の「5」の人をどれだけ多くするのかという点が重要になります。コミュニケーションだけでなく、物に対する想いもあると思うため、マーケティングが全てです。

関口 そうですよね。藤原さんとしては品番や色の数なども、デマンドサイドのデータをもう少し分析すれば減らせるという感覚でしょうか?

藤原氏 実際、100色あれば楽しいかもしれません。しかし、お客様満足につながるかというと違うと思いますね。多ければ多いほど選べなくなるし、選んだものが3ヶ月後にこれ正解だったのかな?と思われる可能性もあります。

例えば、薄いグレーではなく、濃いグレーを本当は買っておけばよかったと言われた場合、お客様は満足していないことになります。そのため、お客様の欲しいものをとにかく作るだけじゃなく、「アパレル企業はお客様をアップデートできる提案」が重要です。その中で、「10色作れる力があるものの、今期は3色にしました。この中でお客さんは間違いなくおしゃれになれますよ」と言えるかが大切です。

関口 そうすると提案に対して、顧客目線で信頼しているか?という判断もできますよね。

WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

DOORS編集部

ブレインパッドのマーケティング本部が中心となり、主にDXにまつわるティップス記事を執筆。
また、ビジネス総合誌で実績十分のライター、AI、ディープラーニングへの知見が深いライターなど、外部クリエイターの協力も得て、様々な記事を制作中。

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