【後編】「3Dデータ活用」の現在地

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3Dデータのビジネス活用の考え方

前の節で、3D活用が近年注目されるようになった技術的背景について説明しました。しかし、いくら素晴らしい技術でも、ビジネスに適用することができなければ、宝の持ち腐れになります。ここではビジネス活用という視点で、3Dデータはどういうケースで必要とされるのかについて概観しておきましょう。
3Dデータ活用の方向性は、私は以下のふたつに大別できると考えています。

  1. 物体を動かすための目になること(フロー型)
  2. 3Dデータ自体に価値を持たせること(ストック型)

まず、物体を動かす目になるとは、前の節で説明した3Dセンサーを用いてリアルタイムに取得したデータをもとにアクションにつなげる作業です。たとえば、自動運転車にLiDARを搭載し、車から捉えられる風景を3Dデータとして取得します。そのデータを3D地図データと照合することで、障害物を検知するなどして安全な運転に貢献します。また、ロボットを動かす際にも、画像だけでなく3Dでもデータを取得することで、より現場の状況に即した物体の把持や動きの調整を行うことができます。このようなフロー型の処理のために3Dデータは活用されています。
もうひとつの3Dデータ自体に価値を持たせるとは、3Dデータにメタデータを付加することで、単なる点群やメッシュといった幾何情報の集合体ではなく、意味のある情報として3D情報を蓄積することです。例えば、3D形状データの可視化画像に、別のセンサーから得られたデータを座標とともに保存しておくことで、それらを重畳して可視化するといった処理が考えられます。上との対比で、ストック型の3Dデータ活用と言えるでしょう。
ただ、これらふたつは独立に存在するものではなく、フロー型で取得したデータにメタデータを追加してストック型にするなど、お互いに連携させて使用する、というのが実際のやり方になります。例えば、航空測量等に基づいて取得した3Dデータに、建築物のメタデータを付加することで都市データに加工したPLATEAUがその一例になります(*12)。このような方法で意味のあるデータを蓄積していくことが、最終的にはデジタルツインの構築につながっていきます。
実際の活用イメージについては、ある程度業界を絞って具体例を挙げてご説明するのがよいでしょう。ここでは、製造業と建設業を例に、3Dデータ活用の現在地についてご紹介したいと思います。


製造業での3Dデータ活用の現在地

日本の製造業は、戦後長らく日本を牽引してきた産業です。ただ、過去の記事でも指摘されているように、最新のものづくり白書によると、設計力といった観点で近年生産性が向上していないといった課題も顕在化している状況です(*13)。こういった課題が発生している要因のひとつとして、3Dデータ活用がうまく進んでいない現状があります(*14)。どういうことなのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

そもそも、製造業においてなぜ3Dデータが必要なのでしょうか。3Dデータを製造業に活用する効果として、以下のようなものが挙げられます。

  1. 生産工程の効率化(リードタイム短縮)
  2. リモートワークの推進
  3. 製品品質の向上
  4. 製品デザインの魅力向上

ここでは、特に1の生産工程効率化の見地から3Dデータ活用を見ていきましょう。

製造業における製品のライフサイクルは、研究・製品設計・製造設計・製造・検査・物流・販売などに分けられます。3Dデータ活用がまず活用が進んだのが、この中の製品設計の部分です。3DCADにより製品を3Dでデザインし、CAE(Computer Aided Enginerring)を用いた机上の検証を行いながら設計を修正していくことで、試作を行う手間を減らしながら素早く設計を行うことができます。このような仮想空間での設計・検証を指してバーチャル・エンジニアリングと呼ぶこともあります。このような活用は、日本でも1990年代ごろより用いられてきました。
ただ、3Dデータの活用方法としては、欧米ではさらに進んでいると考えられています。インダストリー4.0という言葉をお聞きになったことがある方も多いでしょう。インダストリー4.0とは、ドイツにおいて政府や主要メーカーが一体となって進められた製造業改革です。このインダストリー4.0で中核となる考え方が、バリューチェーンの水平統合やCPS(Cyber Physical System)です(*15)。特にCPSは、近年デジタルツインと呼ばれているものと同じ意味と考えればよいでしょう。これらの施策のために、3Dデータが重要な役割を担います。

より詳しく説明しましょう。製造業における製品設計は、3Dデータの形状や構造を自由に決められるわけではなく、機構・制御・製造・品質といった下流工程での実施内容と整合するように設計されている必要があります。従来は、上記の生産工程を順番に実行することが基本であったため、下流工程を実施中に設計上の不具合が発見され、また設計フェーズに戻って再検討するといった手戻りが多く発生していました。そこで、3Dモデルに下流工程の属性情報などを持たせ、そのデータを部門間で一気通貫に連携することで、設計時に各工程の関係者間で十分な議論を行ったり、机上で下流工程の情報を反映した精緻なシミュレーションを行うことができるようになってきました。これにより設計時に下流工程の仕様の多くを決定できるため、部門間での手戻りの抑制につながりますし、設計の変更が生じた際も下流工程への反映を容易に行うことができるようになります(*16,17)。このような設計を中心とした製造業のあり方は、製造現場での対応力に強みがあるととされる日本とは対照的です(*14)

このような設計段階での検証は、製造設計(工場設計)に対しても行われています。先ほど少し触れた、nVidiaのOmniverse上での自動車工場の事例がまさにそれを表しています(*18)。このデモでは、BMWの自動車生産工場全体が仮想空間上に再現されています。BMWの工場は非常に多種のカスタム製造を行えることが強みですが(いわゆるマスカスタマイゼーション)、そのためには製造設備自体が柔軟な再構成に耐えるものでなければいけません。3Dの仮想空間を用いることで、このような工場設計計画のためのシミュレーションを、以下のような点を実現しながら行うことができます。

  1. 人の作業のエルゴノミクスや安全性を考慮する
  2. 資材運搬ロボットの動作を仮想空間上で学習して適応させる
  3. 現実の工場に配置されたセンサーの情報を仮想空間上で確認する
  4. 複数の設計者が仮想空間上で遠隔に協働して設計を行うことができる

これにより、工場計画の工数の30%を削減できるとのことです。この例は先進事例ですが、このような3Dデータを起点とした製造業でのデジタルツイン活用が今後さらに進んでいくものと考えられます。

建設業での3Dデータ活用の現在地

次に建設業での3Dデータの活用イメージについて記します。建設業においては、3Dデータが活用される効果には、以下のようなものがあると考えています。

  1. 建設ライフサイクルの効率化(コスト削減、工期短縮)
  2. 構造物の魅力や品質の向上
  3. 人手不足への対応
  4. リモートワークの推進
  5. 安全性の向上

これらを見ると、多くは製造業と同じような課題が存在していることが見えてきます。実際、3Dデータの活用方法という点でも、製造業と多くの共通点があるように思います。どういうことなのでしょうか。
製造業への3D活用の説明で、3Dモデルに属性情報を加えることによるコミュニケーション円滑化や手戻りの抑制についてお話ししました。建設業界でも、これと似た手法が近年着目されています。それは、BIM/CIMの概念です。BIMはBuilding Information Modeling、CIMはConstruction Information Modelingの略で、BIMは建築業界の概念、CIMは土木業界での概念とまずは考えればよいでしょう。ここではBIMについてより詳しく説明していきます。

BIMとは、建物の意匠・構造・設備を忠実に再現した3Dモデルに、部材の材質等のカタログ情報やコストといった属性データを関連付けて、設計・施工・維持管理といった建設ライフサイクル全体で連携するための手法または基盤を指します(*19)。BIMモデルを用いることで、3D形状や材質を考慮した精緻な建築環境シミュレーションの実施、干渉チェック、施工時の工程や資材調達の計画・作業安全性などの事前検証、設備使用時の人流シミュレーションなどの運用管理上の検証など、建設ライフサイクル全体の検証作業を設計時に前倒しで行うことが可能になります。また、設計時に検証を完了していることから、設備のプレハブ化など、施工作業そのものを前倒しできる可能性も出てきます。加えて、3Dモデルに属性情報を加えてVRなどで可視化・共有することで、施主を含めた関係者間の合意形成が図りやすくなり、リモートでの作業も可能となります(*20)。おけるデジタルツインを実現するための手段と考えることができるでしょう。

BIMは、設計精度を高めるだけでなく、施工の際に直接役立てることもできます。例えば、鹿島による資機材位置・稼働モニタリングシステム「3D K-Field」があります(*21)。3D K-Fieldは、建物の3次元情報を持ったBIMモデル上に、現場の資機材・作業者・ロボットなどの位置情報やバイタルデータ、現場に設置されたカメラやIoTセンサ等から得られた情報などを重ねて表示することで、リアルタイムに現場全体の状況を一元化して3D表示できるシステムです。これにより、現場管理の遠隔化や管理コストの低減を実現できます。また、構内の物流や運営スタッフに対してこのシステムを適用することで、運用時にもシステムを活用することができます。このような建造物のデジタルツインの活用が進んでいます。

これらのBIM/CIMを中心とした建設業DXは、日本ではi-Constructionと呼ばれ、国交省などの中央省庁や大企業を中心にその普及が急がれています(*22)。また、日本は災害大国でもありますので、防災分野へのBIM/CIM活用は期待が大きい領域です(*23)

ブレインパッドでも過去に画像を用いた護岸劣化判定などのご支援させていただいた経験があります(*24)。今後はこのような防災領域でも3Dデータの活用が進んでいくことと思います。

ここまで、製造業と建設業を例に、デジタルツインを軸に3Dデータ活用を俯瞰してきました。同様の事例は、他の業界でも広がっています。たとえば医療分野では、VRを用いた遠隔医療や遠隔手術(*25)などで研究が進められています。今回は詳しく触れませんが、機会があればまたそのような話題についても紹介していきたいと思います。

今後の展望

今まで概観してきたように、3Dデータに関わる近年の技術の進歩は目覚ましいものがあります。しかし、今後ただちに現実世界を完全に模倣したメタバースやデジタルツインが実現するかと言えば、そうはならないでしょう。
最も大きな制約のひとつは、コンピューティング性能の限界です。現在最高レベルのスーパーコンピュータをもってしても、現実世界そっくりの仮想世界を実現することは難しいですし、限定的な活用においても困難な課題です(*26)。まだまだ進歩が必要です。その第一歩ではありますが、MetaはnVidiaと協働して、メタバース実現に向けての世界一レベルのスーパーコンピュータを構築する計画を発表しています(*27)
また、より重要な懸念として、今まで紹介してきた製造業、建設業などの事例は、国内や海外の一部の先進事例に過ぎず、特に国内の実際の現場においては、3Dデータの恩恵が十分行き渡っていないのが現状と考えられることがあります。3Dデータが、局所最適でなく全体最適に貢献するためには、より広く実際のビジネスに浸透していくことが必要と考えられます。
ただ、我々は言うまでもなく3次元の世界に生きており、本来的には3Dで物事を捉えたいと考えているはずです。このため、技術やビジネス上の制約はあるにせよ、3Dデータを今以上に活用する未来は、近い将来必ず訪れる未来だと考えています。来るべき未来に向けて、今のうちに親しみを持っておくことが肝要だと言えるでしょう。

参考

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WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

DOORS編集部

ブレインパッドのマーケティング本部が中心となり、主にDXにまつわるティップス記事を執筆。
また、ビジネス総合誌で実績十分のライター、AI、ディープラーニングへの知見が深いライターなど、外部クリエイターの協力も得て、様々な記事を制作中。

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