DOORS DX

ベストなDXへの入り口が
見つかるメディア

ベンダーとのワンチームで“トランスフォーメーションの壁”を突破する

執筆者
公開日
2020.11.09
更新日
2024.02.10
本記事の執筆者
  • コンサルタント
    堀川 亮
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    XaaSユニット
    役職
    ディレクター
    CRM、販売管理、生産管理、BI等のシステム導入、音楽配信サービス開発の後、ブレインパッドに参画。デジタルマーケティング構想立案から、関連するデータテクノロジーおよびシステム構想に至るまで幅広く担当。デジタルマーケティングをはじめとした、データ起点のマーケティング領域におけるコンサルティングを得意とする。

ベンダー頼みのDXではトランスフォーメーションは実現しない?

こんにちは。
私は、ブレインパッドでデジタルマーケティングをはじめとした、データ起点のマーケティング領域におけるコンサルティングサービスの責任者を努めています。

DXの推進に取り組む中、「データの重要性を感じながらもデータ活用がなかなか進まない」というご相談をいただく機会が多くなっています。事業に活かせるデータがあるのか、データはどのように管理されているのか、どう活用しようとしているのか、どこから手を着けていいのか分からない―。DXに取り組もうとする際のデータ活用における課題の現状だと思います。

このような状況から一歩を踏み出そうとするものの、社内には詳しい人材がいないためにベンダーに依頼せざるを得ない。デジタル化によるトランスフォーメーションに大きな期待を持って取り組みつつも、自社の目指す変革に向けたデジタル化を進める具体的かつ詳細な依頼をすることは難しく、ベンダー頼みの発注になりがちです。

一方、ベンダーはクライアントの課題が生じている現状に至る経緯や社内事情になかなか踏み込みにくいため、分析したデータをその後の事業展開にどう活かすかといった、発展性のある提言もしにくく、ベンダー意向のソリューション導入の推進になりがちです。優れたソリューションも、トランスフォーメーションを阻む課題の真因を捉えた上で解決できるものでなければ目指す変革に至らない結果に陥ってしまいます。

結果、パッケージの機能を備えたシステムと分析結果という成果物を受け取ったクライアントがシステムとデータを使ってDXを加速し、飛躍的な進化を遂げられるかというと、そうならないケースが多いのではないでしょうか。システムや分析結果という成果物の提供にとどまらず、より核心である顧客にとっての商品やサービス価値の向上やデータ活用を主導する組織の変革を実現するためには、ベンダーとどのような体制を構築していくべきでしょうか?

クライアントとベンダーがお互いの領域に入り込まず、システム開発やソリューション導入、分析結果の提供を目標としたDXでは、トランスフォーメーションとその先にある事業と組織の変革は実現しにくいです。クライアントとベンダーが垣根を超えて社内外の専門家を有する「ワンチーム」になってDXを推進することこそが、課題の真因でトランスフォーメーションを阻む壁を乗り越え、テクノロジーの導入から事業へのデータ活用を主導する組織への変革を実現する筋道なのです。

ここからは、「ワンチーム」により幾多の壁を乗り越え、データドリブンマーケティングを導入、推進した、私が実際に担当した事例をご紹介します。


顧客を理解し、体験価値向上に繋がるデータとは何か?ワンチームの始動。

クライアントはイベント、アミューズメント体験、飲食店やグッズ販売店を提供する大型複合商業施設を運営する大手エンターテイメント企業です。来場した顧客が一日を通してどのような購買やイベント体験、アミューズメント体験をしているのかを把握すること、個々の体験や体験の組み合わせを分析し、その結果を通じて顧客体験価値を高めることに繋げていく事をデータドリブンに推進していく組織に変革していきたいということで、ブレインパッドに支援を依頼いただきました。

顧客を理解し、体験価値向上に繋がるデータとは何か?
今あるデータだけに縛られずにゼロベースでの検討からスタートしました。デジタル導入が目的ではなく、顧客体験価値向上を第一にしたデジタルの活用から着手したのです。

・どこで何をすればどんなデータが取れるのか
・そのデータを活かしてどのようなことができるのか
・取得したデータから顧客にどのようなベネフィットを還元できそうか

このような「データをビジネスに活かす可能性を探る」ところから協力して欲しい―。
具体的な要件になる以前の支援開始でしたが、この段階からプロジェクトに関わるとベンダーとしてもクライアントと「問題点」や「目指すべきゴール」が同じ目線で共有できます。

このプロジェクトは立ち上げ当初からクライアントの意向もあり、社内外の専門人材を含めたタスクフォース作りを意識した「ワンチーム体制」で推進しました。
クライアントから「こういうデータを取るためには、どういった方法があるだろうか?」という相談を受け、我々は「候補となる技術とデータ分析・活用を見据えた具体的な ソリューションを選定」します。選定された技術領域とソリューションに対して、「運用できるか」「コストに見合うか」という基準をベンダー側もクライアントの社内事情を踏まえてチーム内で検討して見極めていきます。その後選定したソリューションの技術検証の段取りをそれぞれの役割の元にチームで進行していきます。お互い本気ゆえに深い議論になることもありますが、「データ取得の目的」を戦略面から共有しているのでクライアントとベンダーの立場に立脚せずスピーディーに進みます。

「オフラインの世界」を分析するデータがない。必要なデータはつくり、顧客を捉えるビジネスロジックは開発する。

検討の末に着手したのは、「来場顧客の施設内行動を把握すること」でした。オンライン(のEコマース)において顧客の行動データが蓄積されていることは通常ですが、リアルの来場・店舗利用・イベント体験のデータは存在しないことが多いです。今回は顧客を理解するデータを用いた施策を検討していることもあり、オンラインだけではなく「来場時のオフラインでの体験を評価するデータ取得」が必要でした。

広い敷地内での行動や、多くの体験施設、飲食・グッズ店舗の体験をデータで取得することは、難易度や手間がかかることは明白でした。しかしながら、技術の活用に突破口を見出し、綿密な下準備と社内調整、そして検証に地道に足で稼ぐ、汗をかくこともいとわず、チーム一体で目的に必要だという共通目標のもとにブレずに取り組み、”非オンラインのデータ”の取得、すなわち「オフラインのデータ化を」実現できました。
この実現により、社内の他部門にもデータ活用に対する「取り組みの本気度」が伝わり、プロジェクトが認識されるようになりました。

オフラインデータは取得するだけではビジネスに活用できる状態にはないため、顧客ごとに「個々の店舗利用やイベント体験」を捕捉し、「一日の体験を把握」できるデータを作り出す必要があります。随時蓄積されるフォーマットされた計測データを「顧客行動を示すデータにするためのロジック」を開発することが次の取り組みとなります。

ロジック開発もワンチームで進めます。クライアントは「どのような状態が店舗を利用したと言えるか」という定義をして、我々が「それをモデル化して利用判定するロジック」を実装します。初期のロジック構築、実装して現地で検証、チームでレビュー、さらにロジック改善に反映を重ねるサイクルをチームで回して完成させていきます。ワンチームは「トライアンドエラーの取り組み」で威力を発揮します。

ビジネス目標に向けてデータのバリューチェーンを仕組み化する

こうして開発した「来場顧客の行動データ」に、オンラインで取得した顧客属性やECの検索・閲覧・購買データなどを掛け合わせることで、顧客の様々な体験や行動が「意味のあるデータ」として見えてきました。どんな体験の組み合わせや店舗利用のパターンがあるのか、初回の来場で何の体験をすると次回来場時のどの行動に結び付くのか―といった「リアリティのある顧客の行動」が理解できるようになってきました。

来場時行動に基づく顧客体験の分析結果が見えてきましたが、顧客に価値を提供するためには、「個々の顧客の状況に応じて一貫したサービス(オファー)」の提供と「継続的に分析結果が反映される仕組み」が必要となります。仕組み化することでデータ取得から分析、サービス提供までの「データ価値化のプロセス」をビジネスに実装することに繋がりました。

顧客の理解を促進し、顧客に応じたサービス提供を支えるデータは全社にとって価値のある経営資源となり、データ活用の仕組み化はビジネスプロセスを高度化し、データ活用を主導する組織へのトランスフォーメーションを進めます。

来場時の顧客行動分析結果は、「現在位置の表示」や「当日の利用傾向に基づいた飲食店のメニューやグッズのおすすめ」「直近に開始されるイベントの告知」など、顧客の体験価値の向上に向けたサービスとして次々と実装されました。また、来場顧客の行動・体験データは、「来場後のフォロー」や「次回来場へのコミュニケーション」に活用されました。

クライアントとベンダーの垣根を超えた「ワンチーム」がトランスフォーメーションを可能にする

「顧客を理解し、体験価値向上に繋がるデータとは何か?」から始まった、ワンチームによるデータ活用の取り組みは、オフラインデータ取得と顧客行動を捕捉するロジックの開発、バリューチェーンの仕組み化に至り、ビジネス目標に向かって高度化されたプロセスとデータドリブンに施策を主導する組織へと走り始めました。運用が開始された後もワンチームは走り続けています。ここまでの壁を乗り越えてきたチームとしての「共同体的な推進力」が運用時の課題解決にも発揮されています。

デジタルネイティブな企業でもない限り、社内に「データのプロフェッショナルが少ない/いない」のが実情だと思います。その場合にベンダーに発注するのは必然となりますが、「データによって何が実現できるのか/どこまで依頼できるのか」がわからないために、オーダーメイドでありながらベンダーの提案に沿うしかないモヤモヤした状況がありはしないでしょうか?

クライアントとベンダーという垣根を超えて「ワンチーム」が結成できれば、変化に際して生じるあらゆる障害を乗り越えてゆくことができます。デジタル化によるトランスフォーメーションは「リアルの世界をデジタルに転換」していく取り組みですが、リアルに存在する幾多の壁を乗り越えていくためには、情熱や真摯さ、いかに現場で汗をかいて共感を広げていけるかといった困難に向き合っていく「人間臭いチームワーク」が突破力になっていることが少なくないのです。



このページをシェアする

あなたにおすすめの記事

Recommended Articles

株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

メールマガジン

Mail Magazine