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DXという言葉が生まれて20年が経過し、読者のみなさんにとって今やデータ活用に取り組むことは当たり前になっていると思います。しかし、一方でビジネス以外の日常生活では、データ活用を体感する場面がそれほど多くありません。これはDXが、今なお、顧客体験にまで浸透しきれていないためです。
では、これは世界共通の状況なのでしょうか。いえ、そうではありません。特にDXの最先端を走るアメリカでは、データが顧客体験、もっと言えば店舗体験を変えはじめています。この記事では、海外の小売がはじめている店舗体験を進化させる3つの仕掛け:
を具体事例と合わせて紹介します。これから先、小売DXの競争力はどこから生み出されるのか、その手がかりをお届けします。
データに基づく広告配信やクーポン配布など、デジタルマーケティングは、もはや当たり前になっています。企業視点で見れば、経験と勘だけでやっていた従来のマーケティングよりも、売上を底上げする工夫が進んでいることに疑う余地はありません。
しかし、顧客視点では、デジタルマーケティングが必ずしも購買体験を良いものに変えてくれているとは限りません。たとえば、動画の途中に差し込まれる広告やアプリを開く度に表示されるおすすめ通知など、むしろ煩わしさを感じることさえあると思います。
では、顧客視点の購買体験を改善するデータ活用とは、どのようなものでしょうか。ここでは2つの海外事例を紹介します。
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ここでは、アメリカニューヨークにあるシューズショップの話をしましょう。店内を見渡すと、まず目に飛び込んでくるのは見慣れないタッチパネルです。タッチパネルには靴のサイズが表示されており、自身のサイズを選ぶと在庫のある商品ラインナップが表示されます。そして気に入ったデザインの靴があれば、「TAP TO TRY ON」を押すだけでスタッフが選んだ靴を持ってきてくれます。
ほんの少しの工夫ですが、顧客は
という悩みから解放されます。ただし、簡単に見えるこの仕組みも、店舗の在庫データがリアルタイムに管理されていないと実現できません。逆を言えば、リアルタイムの在庫管理さえ徹底できれば、少しの工夫でファンを生み出すような店舗体験を実現できます。
アメリカでこのような仕組みは、決して特別な店舗に限られたものではありません。コロナ禍を経て、それほど大きくない店舗でもネットショップとリアルショップのハイブリット型が普通になりつつあります。顧客は、店舗で買う、ネットで買う、ピックアップで買う(ネットで注文して店舗で受け取り)の選択肢で快適な購買体験を有し、店舗はその基盤となるスピーディーな在庫管理の仕組みを実装しています。
アメリカの大手百貨店Macy’sは、購買履歴と在庫の一元管理で、顧客とテナントの双方に利のある仕組みを提供しています。日本の百貨店やショッピングモールのテナントは、ほとんどが独立した運営を行っています。そのため、当然テナントごとにレジがあり、各テナントの店員が対応を行っています。
では、Macy’sはどうなっているのでしょうか。Macy’sではアプリを使って商品バーコードをスキャンすると、在庫はもちろん、その日の割引額までが画面に表示されます。驚くべきは、これが全テナントの全商品に対応しているということです。専用の電子タグを付けた商品だけでなく、化粧品小物のようなバーコードが印刷された商品にも対応しています。
この仕組みにより、Macy’sの店内には日本と異なる特徴があります。それは、テナントがレジをもっていない点です。レジは1フロアに1つだけであり、ショップ横断で機能重複の無駄をなくしています。これら工夫は、Macy’s・テナント・顧客それぞれにとってメリットを生んでいます。
以上のように、シューズショップのようなちょっとした工夫や、Macy’sのようなプラットフォームの仕組みを加えることにより、在庫管理のデジタル化が店舗体験に大きな変化をもたらします。これから先のDXは、データをマーケティングに活かすだけでなく、店舗体験につなげていくことが成功の鍵となります。
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1つ目の事例は、「GUCCIが生成AIで、一夜にして売上を30%UP」というエピソードです。
GUCCIがやったことは極めてシンプルです。電話接客サービスへ生成AIを導入しました。会話を通じて顧客の心に刺さる商品を提案できるか否かは電話オペレータの能力に依存しており、通常はオペレーター全員が優秀な営業にはなりえません。
そこでGUCCIは、顧客の要望にマッチする商品情報を生成AIがリアルタイムでオペレーターに提供することにより、全員をカリスマ営業に変えてしまいました。顧客から見れば、いつでも最高の提案を貰えるサービスであり、売上が急上昇したことも頷けます。
2つ目の事例は、今アメリカで急成長を遂げているTractor Supplyのエピソードです。
Tractor Supplyは、農機具や園芸品を販売する、いわゆるホームセンターです。この企業は顧客に寄り添うことを理念とし、スタッフのインカム(イヤホンマイク)に生成AIを搭載しました。ホームセンターでは、顧客からスタッフに難解な相談が寄せられることも少なくありません。
たとえば、「この植物の育ちが悪くて困っているんだけど…」といった内容です。当然スタッフは植物の専門家ではないため、応対に窮してしまいます。しかし、Tractor Supplyのスタッフはインカムに実装されている生成AIに質問を投げかけることで、まるでバックヤードに植物の専門家がいるかのように顧客へアドバイスを送ることができます。
完璧な答えを返すことはできなくとも、常にスタッフが顧客に寄り添えるようになったことで、Tractor Supplyは接客面で圧倒的な差別化を実現しています。
これら事例が顧客体験を進化させた要因には、生成AIによるデータの質の変化があります。
従来のマーケティングが扱ってきたデータは、購買履歴に基づく直接的なニーズです。たとえば、過去に買った商品や類似の顧客が買った商品に基づいてアプリ通知やクーポン施策を行います。しかし、一番売れやすい商品が「本当に顧客が必要としているもの」と言えるでしょうか。
過去に買った商品よりも、本当は別の商品の方が合っているなんてことは少なくありません。つまり、購買履歴から顕在化したニーズには不足した要素があり、そこには顧客体験の限界が存在します。
一方、生成AIが扱うデータは、ニーズよりもっと潜在的な興味関心です。GUCCIの電話営業もTractor Supplyの接客も、顕在ニーズに体験を提供しているわけではなく、顧客の声に応えています。そして生成AIは、購買履歴のようなニーズではなく、顧客の声(テキスト)から興味関心をデータとして抽出します。
たとえば、「ある商品に対して顧客はどういう関心を寄せているのか」「ある顧客が本当に求めているのはどんな商品なのか」をデータ化します。生成AIによって抽出される興味関心のデータこそが、売り手都合ではなく顧客都合でデータを活用し、顧客体験の限界を突破する鍵となります。
ここまでに話したDXもGAXも、テクノロジーが店舗体験を変えています。では、海外で変わってきているものは顧客体験・店舗体験だけでしょうか。いえ、そんなことはありません。
アメリカのDX先進企業である小売大手ウォルマートのCEOは、「これまでの投資は従業員に向いていなかった」と反省の弁を述べています。そして、投資は顧客だけでなく、従業員体験(EX:Employee Experience)の変革に向きはじめています。
ウォルマートでは、従業員向けアプリ「Me@Walmart」を開発し、スマホとセットで提供しています。このアプリでは、ウォルマートの仕事に最適化された数々の機能が提供されています。たとえば、
などの機能があり、従業員の日常業務をより快適なものに変える工夫をしています。
では、なぜ従業員体験が重要なのでしょうか。それは、サービス成長サイクルに従業員体験の強化が欠かせない要素だからです。
データ活用によって磨かれたサービスは、直接的ないしは間接的に従業員の手によって顧客へ届きます。つまり、従業員体験の改革が顧客体験(UX:User Experience)の向上に直結します。
そして、サービスを持続的に磨き続けるためには、顧客と従業員とAIの共創が生み出す質の高いデータの蓄積が欠かせません。このサービス成長サイクルを回し、これまでにない店舗体験を作り上げていくことが、これからの小売業の競争力を生み出します。
本記事では、小売業の海外事例から、DX・GAX・EXが店舗体験にどのような効果をもたらしているかについてまとめました。デジタルマーケティングだけでなく生成AIのコモディティ化も進みつつある現在、競争の舞台は店舗体験へ移行しはじめています。遠くない未来、このパラダイムシフトは日本にも届きます。これから先の小売データ活用で先手を取るためにも、DX・GAX・EXと共に店舗体験を進化させてみてはいかがでしょうか。
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