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今年も経済産業省と東京証券取引所による「DX銘柄2025」の選定結果が発表されました。デジタルトランスフォーメーション(DX)に積極的に取り組み顕著な成果を上げる上場企業を業種横断で選び公表するこの制度は、2015年から開始された「攻めのIT経営銘柄」を前身に、2020年より「DX銘柄」としてリニューアルされたものです。今回は31社がDX銘柄に選定され、その中で特に優れた2社が「DXグランプリ企業2025」、さらに継続的に突出した取組を行う1社が「DXプラチナ企業2025-2027」として表彰されました。本記事では、DX銘柄制度の概要と目的、2025年版の選定ポイント・企業動向、そしてDX推進のトレンドや各業界への影響について解説します。
「DX銘柄」とは何か、改めて整理しましょう。経産省によれば、DX銘柄とは「企業価値の向上につながるDXを推進する社内の仕組みを構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業」を選定し広く紹介するものです。これは単なる表彰に留まらず、業界横断でロールモデルを示すことで他企業のDX促進に弾みをつける狙いがあります。実際、選定企業は株主や取引先などステークホルダーからも高く評価される傾向にあり、DX銘柄への選出は企業にとって名誉であると同時に社会的信用力の向上にも寄与しています。
DX銘柄にはさらに上位カテゴリが設けられています。選定企業の中から、DXの取組内容や成果が特に際立つ企業には「DXグランプリ企業」の称号が贈られます。また、複数年にわたり継続して優れたDX経営を実践している企業は「DXプラチナ企業」として3年の時限で選定されます。今年度の場合、「3年連続DX銘柄選定」かつ「過去にDXグランプリ受賞」の条件を満たす企業がDXプラチナ企業2025-2027に選ばれています。
DX銘柄選定に当たっては、毎年東証上場企業約3,800社を対象に実施する「DX調査」の結果が基礎となります。一次評価では調査回答企業の中からDX認定企業など一定条件を満たす社をスコアリングで絞り込み、二次評価では企業価値への貢献度、DX実現能力、ステークホルダーへの情報開示の3観点で審査が行われます。評価項目は具体的に、経営ビジョン・ビジネスモデル、DX戦略策定と推進体制(組織・人材・ITガバナンス)、成果指標の設定と見直し、利害関係者との対話など多岐にわたり、まさに企業全体でDXを「やり切っているか」が問われます。
今年のDX銘柄2025では、31社がDX銘柄に選定され、その中から SGホールディングス株式会社ソフトバンク株式会社との2社が「DXグランプリ2025」に選ばれました。さらに、株式会社LIXILがDXプラチナ企業2025-2027に認定されています。選定企業一覧を見ると、製造業、金融、IT、流通、サービスなど幅広い業種からDX先進企業が選ばれており、日本企業全体でDXに取り組む気運が高まっていることが伺えます。
証券コード | 法人名 | 東証業種分類 |
---|---|---|
9143 | SGホールディングス株式会社 | 陸運業 |
9434 | ソフトバンク株式会社 | 情報・通信業 |
証券コード | 法人名 | 東証業種分類 |
---|---|---|
1801 | 大成建設株式会社 | 建設業 |
2802 | 味の素株式会社 | 食料品 |
3591 | 株式会社ワコールホールディングス | 繊維製品 |
3407 | 旭化成株式会社 | 化学 |
4901 | 富士フイルムホールディングス株式会社 | 化学 |
4568 | 第一三共株式会社 | 医薬品 |
5021 | コスモエネルギーホールディングス株式会社 | 石油・石炭製品 |
5108 | 株式会社ブリヂストン | ゴム製品 |
5201 | AGC株式会社 | ガラス・土石製品 |
5411 | JFEホールディングス株式会社 | 鉄鋼 |
6367 | ダイキン工業株式会社 | 機械 |
7011 | 三菱重工業株式会社 | 機械 |
6503 | 三菱電機株式会社 | 電気機器 |
6701 | 日本電気株式会社 | 電気機器 |
6902 | 株式会社デンソー | 輸送用機器 |
7259 | 株式会社アイシン | 輸送用機器 |
7936 | 株式会社アシックス | その他製品 |
9101 | 日本郵船株式会社 | 海運業 |
9301 | 三菱倉庫株式会社 | 倉庫・運輸関連業 |
9433 | KDDI株式会社 | 情報・通信業 |
2768 | 双日株式会社 | 卸売業 |
9962 | 株式会社ミスミグループ本社 | 卸売業 |
2678 | アスクル株式会社 | 小売業 |
8316 | 株式会社三井住友フィナンシャルグループ | 銀行業 |
8354 | 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ | 銀行業 |
7199 | プレミアグループ株式会社 | その他金融業 |
8253 | 株式会社クレディセゾン | その他金融業 |
8802 | 三菱地所株式会社 | 不動産業 |
4544 | H.U.グループホールディングス株式会社 | サービス業 |
証券コード | 法人名 | 東証業種分類 |
---|---|---|
5938 | 株式会社LIXIL | 金属製品 |
DX銘柄2025の選考にあたって強調されたポイントとして、経産省は昨年に続きいくつかの新視点を導入しました。まず、評価プロセスの強化です。2024年版では評価方法が見直され、DXの本質的意義に沿った持続可能な取組がより重視されるようになりました。その流れを受け、2025年版でも「短期的なIT活用に留まらず、中長期のビジョンをもってDXに挑んでいるか」が評価の鍵となっています。具体的には、
また、業界への波及効果も新たな視点として追加されています。自社だけでなく他社や業界全体に好影響を与えるDXを実現しているか、という観点です。具体的には、オープンイノベーションでスタートアップや他社と協業している例や、業界標準となるような成功モデルを作り出し普及に努めている企業が高く評価されました。このように、DX銘柄の評価軸は年々高度化・成熟化しており、「単なるIT投資額やシステム導入件数では測れない質的なDX」をどれだけ実践しているかが問われています。
選定企業の取り組み傾向から、今年特に目立ったDXトレンドをいくつか挙げます。
2024年版DX銘柄の記事でも指摘されていたとおり、多くの企業で生成AIや機械学習の導入が進展しています。2025年版でもその傾向は続き、チャットボットによる顧客対応、自動コード生成による開発効率化、画像認識AIによる検品自動化など、様々なユースケースが報告されています。特に、社内の定型業務をAIで自動化して生産性向上を図る取り組みが一般化しつつあります。例えば製造業ではAIを活用した生産ライン最適化、小売業では需要予測AIによる在庫削減などが具体例として挙げられます。
近年、企業経営において環境・社会・ガバナンス(ESG)とDXを両輪で推進する動きが顕著です。DX銘柄2025に選ばれた企業も例外ではなく、DXの取り組みを通じて環境負荷低減や社会課題解決に貢献しているケースが多く見られました。例えば、IoTでエネルギー使用をリアルタイム監視し工場の電力効率を最適化する、AIで物流ルートを最適化してCO2排出削減につなげる、といった事例です。単に利益を追求するだけでなく、サステナビリティと調和したDXが重視されている点は昨年同様のトレンドです。
従来DX推進は大企業が中心との印象がありましたが、2024年版では中小企業の台頭が目立つとされました。2025年版でも、地域の有力企業や中堅企業がDX銘柄・DX注目企業に選定されており、その勢いは続いています。中小企業は意思決定のスピードや柔軟性を武器に、新しいデジタル技術をいち早く事業に取り入れて成果を出しています。クラウドやSaaSの活用で低コストにDXを実現し、大企業にはない創造的なビジネスモデルを生み出している点が評価されています。これは、日本全体のDXを底上げする上で心強い傾向と言えます。
選定企業を見ると、単なる新規事業立ち上げではなく既存の主力事業自体をDXで進化させているケースが多いことも特徴です。例えばDXグランプリ企業に選ばれたソフトバンクは、通信事業の高度化だけでなく、AIデータセンター構想や自社開発の大規模言語モデル「Sarashina」の計画など、通信インフラ企業から“次世代の社会インフラ企業”への進化を掲げています。またもうひとつのグランプリ企業であるSGホールディングス(佐川急便グループ)は、物流ネットワークのデジタル最適化やラストワンマイルのDXでリードしており、本業の配送サービスを変革しています。既存の強みにDXを掛け合わせ、新たな価値提供につなげる企業努力が高く評価されたと言えるでしょう。
以上のようなトレンドは、DX銘柄選定企業以外にも広がりつつある、日本企業のDX成熟度の向上を示すものです。DX銘柄に手が届かなかった企業も含め、各社がこうしたベストプラクティスから学び、自社のDX推進に活かすことが期待されています。
今年のDX銘柄発表は、日本企業のDX推進が新たな段階に入っていることを印象付けました。評価の視点が高度化したにもかかわらず、選定企業数は前年並みを維持し、DX注目企業も含め計50社超が選ばれています。これはDXに真剣に取り組む企業層が着実に広がっている証と言えるでしょう。また、ソフトバンクのグランプリ受賞に見られるように、DXの成果が企業の競争力そのものを左右する時代が到来したことも象徴的です。通信や物流といったインフラ産業でさえ、DX抜きには次の成長ビジョンが描けなくなっている現実を浮き彫りにしています。
一方で、選定から漏れた企業やこれからDXに着手する企業にとっては、「うちは大企業ではないから関係ない」と傍観している余裕はありません。DX銘柄制度の目的は決して競争を煽ることではなく、良い取り組みを横展開し日本全体のDX水準を引き上げることにあります。各社は自社の業界・規模に応じて、DX銘柄企業の事例から学べる点を取り入れ、自社なりのDXロードマップを描く必要があります。
ブレインパッドとしても、DX銘柄の動向はクライアント企業への助言に大いに参考にしています。選定企業が重視した評価項目(例えば経営トップのコミット、データ戦略、人材育成等)を踏まえ、我々の支援内容も年々アップデートしています。加えて、DXとESG、人的資本経営などの領域横断の知見を組み合わせ、経営戦略に直結するDXをデザインするお手伝いを心がけています。DX銘柄で示された「勝ちパターン」を他の多くの企業にも再現できるよう、ブレインパッドは今後も伴走者として寄与していきたいと考えています。
最後に、DX銘柄2025に選ばれた企業の皆様に敬意を表するとともに、その取り組みに学ぶことで日本企業全体が発展していくことを願っています。DXは目的ではなく手段ですが、その先にある企業価値向上や社会価値創出というゴールは、すべての企業に共通するものです。今回明らかになった成功要因――経営の本気度、持続性あるDX、オープンな協業姿勢――を胸に刻みつつ、自社のDX旅程を加速させていきましょう。ブレインパッドもメディア「DOORS」や各種サービスを通じ、皆様のDX推進に寄与できれば幸いです。
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