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ニトリは「暮らしの豊かさを世界の人々に提供する。」というロマン(志)を実現するための長期ビジョンである「2032年 3,000店舗 売上高3兆円」の達成に向けて、Eコマースでの成長戦略を打ち出しています。同社は、自社のEコマースにおけるUXの軸となるレコメンドエンジンに、ブレインパッドの「Rtoaster」を採用しました。数あるレコメンドエンジンからRtoasterを採用した理由とは? また、そもそもレコメンドを重視する理由とは? ニトリのCIOをはじめとするECリーダーとブレインパッドの代表メンバーを集めて話を聞きました。
DOORS編集部(以下、DOORS) 本日参加されている方々の、それぞれの役割と主要業務について教えてください。
株式会社ニトリホールディングス・武井直氏(以下、武井氏) ニトリホールディングスのCIOを務める武井です。2006年にニトリに中途入社して、店舗、物流部門、商品部門などを経て、2023年にCIOに就任しました。その直前には、デジタル販売業推進室の責任者として、EC事業とEC刷新プロジェクトを統括しており、その役割は今も継続しています。

株式会社ニトリホールディングス・福井裕也氏(以下、福井氏) 私は店舗で店長まで務めました。その後、営業企画室や情報システム改革室のほかのチームを経て、現在は、主にデータ分析の推進と分析人材の育成に携わっています。

株式会社ニトリホールディングス・小倉拓也氏(以下、小倉氏) 店舗でフロアマネジャーを務めたのち本部に異動し、それからは福井と同じチームで仕事をしてきました。

株式会社ニトリ・古川喜章氏(以下、古川氏) 今回のRtoaster導入をリードしました。福井と同じく店舗では店長も務めましたし、福井・小倉と同じ部署にいたこともあり、DataRobotやSASなどを活用した分析系の業務に携わっていました。

株式会社ブレインパッド・安良岡史行(以下、安良岡) 2006年にブレインパッドに中途入社し、データエンジニアリング部門の事業拡大および組織構築を牽引してきました。2023年7月より常務執行役員 CSOとして、現在、全デリバリー部門とプロダクト事業の統括をしております。
株式会社ブレインパッド・内田健太(以下、内田) 2012年ブレインパッドに新卒で入社した内田です。さまざまな部署を経験してきて、現在はGoogleとのアライアンスを主に担当しています。そのかたわら、プロダクト開発も兼任しています。
株式会社ブレインパッド・松田淳一(以下、松田) 営業担当の松田です。元々はIBM系のSIerにいましたがその後はメールマーケティングやMAの活用、SNSのマーケティング支援を経験してきました。現在は様々な企業を担当しRtoasterをはじめとするマーケティングソリューションをデータ活用支援の案件を担当しています。
DOORS ありがとうございました。さっそくですが、ニトリ様のEコマースの成長戦略を聞かせてください。
武井氏 ニトリでは、店舗数が1,000店舗(国内800店舗)、またEC事業も1,000億円近い売上があります。これまで店舗事業とEC事業をうまく組み合わせてきたと思っていますが、相乗効果をさらに高めたいと考えています。そのためには、お客様の利便性向上が大切であり、店舗とECサイトをより密接に融合させることで、お客様にとって最善の選択ができるようにしていきたいと考えています。
会社としては、以前から注力してきた「住まい」だけでなく、「暮らし」を豊かなものに変革するべくご提案の幅を広げています。具体的には、ECは売場面積の制約がないので、他社商品も取り扱うマーケットプレイスへと発展させます。「暮らしの困りごとがあれば、ニトリのサイトに行けば解決できる」という「暮らしのポータルサイト」を提供し、シェアの拡大につなげる狙いです。
DOORS ECサイト刷新の目的の1つとして、お客様のニーズをより的確に捉え、最適な商品提案を強化したいということがあったと思います。それに向けて、すでに進めていたことはあったのでしょうか。
武井氏 適切な商品がなければ適切な提案ができないので、商品の品ぞろえを進めてきました。それに伴い、検索エンジンとレコメンドエンジンが非常に重要だと考え、調査・研究を進めてきました。ECサイトの刷新では、検索エンジンとレコメンドエンジンを強化してお客様の利便性を向上させることで、最適な商品提案を迅速に行いたいと考えています。
DOORS 2023年4月に取材させていただいたときに、ニトリ様には「観・分・判」(観察して、分析して、判断する)という文化があると伺いました。その徹底が今回のECサイト刷新にもつながっているのでしょうか。
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小倉氏 「観・分・判」というのは、現状をしっかり捉えて、問題点を深堀りし、その上で仮説を立てて検証するということです。
そこでまずは、お客様がニトリをどう活用しているかをしっかり捉える活動に、近年力をいれて取り組んできました。その結果に基づいて、ECサイトやキャンペーンなどの企画をするフェーズに入り、今回のRtoasterの導入に至っています。
安良岡 これまでは、どのような観点でデータを見ておられたのでしょうか。

小倉氏 どちらかと言うと販売データを商品軸の観点で見ていました。さまざまなデータを2011年ごろから蓄積してきてはいたのですが、それを顧客軸で見るノウハウの蓄積が社内で進んでいなかったのです。それが、2022年から2023年にブレインパッドに支援してもらって実施した「顧客分析プロジェクト」で見えるようになりました。
DOORS ECサイト刷新でツールの活用や入れ替えについて教えてください。
古川氏 先ほど武井からも申し上げたように、検索エンジンも入れ替えました。レコメンドも検索も、入れ替えの目的は、商品提案をパーソナライズするためです。ニトリにはリアル店舗が全国に多数ありますので、ECサイトから店舗に導いたり、在庫が見られたり、店舗の営業時間を調べたりできることも必要です。つまり店舗とECの境をなくすことが、ECサイト刷新の1つのテーマなのです。
DOORS 検索エンジンの刷新について、もう少し具体的に説明していただけますか。
古川氏 新しい検索エンジン入れ替えの決め手は、例えば「ハンガー」で検索した場合、同義語の「衣紋掛け」でも同時に検索できることです。これまでは、「ハンガー」というデータに「衣紋掛け」という同義語を逐一手作業で登録していたのですが、きりがありません。その登録作業をやめたかったのです。
また、検索エンジンが持っているデータと紐づけて、パーソナライズすることもできます。検索結果の表示がかなり満足のいくものになりました。
武井氏 例えば「服」で検索すると、これまでは男女に関係なく同じ結果が返っていたのが、男性が検索すればメンズの服、女性が検索すればレディースの服が表示されるようになったということです。
DOORS 併売分析もやっておられると思うのですが、そちらはいかがですか。
古川氏 併売分析は、以前から福井と小倉が取り組んでいて、ECと店舗の両方を利用しているお客様の累積購入金額が高いという知見を得ていました。ECで注文して店舗で受け取ることができ、商品を受け取りにきたときに関連する商品をお勧めすると、併せて購入してくださるのですね。従って、ECと店舗の両方に来ていただくようにすべきだと考えました。
小倉氏 補足しますと、お客様がECで下見をしてから店舗で購入されることが多い商品があります。特にキッチンボードや収納ボックスなどは、長さをしっかり測ってから買いたい、実物を見てから決めたいというお客様が多いのです。そういった知見からも、店舗での購買をフォローするためにECの使い勝手を向上させることが重要であるとわかりました。
DOORS Rtoaster導入前にPoCを実施しました。PoCを実施した背景や当時の課題感などを教えてください。
古川氏 以前から使用していたレコメンドエンジンは、あまり手間がかからず、精度も高かったので、我々は高く評価していました。しかし、我々の売上規模が10分の1ぐらいだったころから活用していたので、売上規模が大きくなるにつれてお客様の利便性向上を考えると改善すべき点が見えてきました。売上が増えた分、投資できるようになり、お客様にとっての利便性を高められるさまざまなパーソナライズ機能を追求していくことにしました。
これまでのレコメンドエンジンをA社製とすると、ほかにB社、C社、そしてブレインパッドの都合4社の製品が候補になりました。そこでA/Bテストを実施したところ、まずA社とB社で比較したときに、A社のほうが良い結果が出ました。それでB社はお断りすることになりました。
次にC社が無料でA/Bテストを実施してくださって、その結果今度はC社のほうが良い成績を収めました。ただC社製品は明らかに予算オーバーになってしまいました。
それで困ってしまって、ブレインパッドにテストを依頼したのです。実は営業段階でRtoasterならさまざまなことができる感触を得ていたのですが、A/Bテストが有償ということでいったんお断りしていたのを改めてお願いしました。意思決定の期限が迫っていたので、かなり急ぎでやってもらうことになりました。
DOORS ECサイトのUI/UXを向上する手段はいくつもあると思うのですが、その中でもレコメンドをそこまで重視された理由は何だったのでしょうか。
古川氏 私たちはみな店舗業務を経験していますので、店舗のレイアウトを決めるための2つの原則を重視しています。1つはお客様にごく自然に店内を歩き回っていただき多くの商品に触れていただくこと。もう1つが一緒に使う商品はできるだけ近くに配置することです。ECサイトではレコメンドエンジンと検索エンジンをうまく使うことで、この2原則を自動的に実現できると考えました。
小倉氏 店舗では分類の近いものや似た用途のものを近くに並べています。スプーンを買いにきたら、隣にフォークがあるという具合です。また家具などの高い買い物であれば、お客様は店員に相談するのが普通ですから、接客でいくらでもフォローできます。このように店舗では関連商品を比較しやすいよう工夫できるのですが、ECの画面だと関連商品が見えにくい。それをレコメンドエンジンで自動化しようという発想です。
武井氏 私自身がユーザーとしてECを使うときに、レコメンドがいまひとつなサイトがたくさんあるとかねがね思っていました。逆に的確なレコメンドであれば、コンバージョンレートもお買い上げ点数が上がるはずです。想定していなかったけれども一緒に使うと便利だという商品が提案されれば、顧客満足度も上がります。顧客満足度が上がれば、来店回数も増えて売上も増えます。そのためには、レコメンドエンジンのパーソナライズが的確にできることが重要です。
福井氏 私も自社ECサイトのレコメンドがいまひとつだとずっと前から思っていました。またレコメンドを見る人の数が多いことも優先順位が高くなる理由だと思います。

DOORS 「いまひとつ」というのは、具体的にはどういうことですか。
福井氏 シンプルな例だと、ベッドを買ったばかりなのに、またベッドがレコメンドされるようなことがよくあるのです。当然ながら続けてベッドを2台も買う人はほとんどいないので、改善の余地が大きいなと思っていました。
DOORS 今回ブレインパッドにお声がけいただいた理由の中に、昨年取材させていただいた顧客構造分析を通じた内製化のご支援も関係はありますか。
古川氏 もちろんです。内製化支援でのやり取りは私も近くで見ていて、ツールだけではなく、人の面でも信頼がおける会社だと評価していました。
後編では、RtoasterのPoCで売上高103%を実現した具体的な検証プロセスや、今後のニトリネットの展望について詳しく伺っていきます。(後編記事はこちらから)
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