メルマガ登録
株式会社りそなホールディングス(以下、りそな)は、3度のDX銘柄選定やFDUA※アワード 2025「データ活用賞」受賞など、データ活用の先進企業として知られています。2022年には株式会社ブレインパッドと資本業務提携を結び、地域経済の活性化と持続可能な社会の構築を目指して歩んできました。
その成果のひとつが、2024年末にリリースされた銀行業務支援ツール「Data Ignition」です。
本記事では、Data Ignitionにかける想いと、それを生み出す土台となったりそなの文化や分析組織力に焦点を当て、両社の協業から得られた知見と、目指す未来について中心メンバー3人にお話を伺いました。
※FDUA:一般社団法人金融データ活用推進協会
【参考】
ブレインパッド、りそなホールディングス・りそな銀行と共同開発の「Data Ignition」が、「FDUAアワード2025 データ活用賞」を受賞
DOORS はじめに、皆さんのご経歴や現在のご担当について教えてください。
扇田氏 現在はりそなホールディングスのデータサイエンス部でAIソリューショングループのグループリーダーを務めており、AIモデルの開発や環境構築、ソフトウェア開発などを担当しています。今まで、銀行の営業店からデータサイエンス部門まで幅広く経験してきました。
佐野氏 同部ビジネスプランニンググループのグループリーダーとして、データサイエンス部の戦略策定やKPI管理、人財育成、広報活動などを担っています。ブレインパッドとの提携事業の推進も私の担当領域です。
中道 金融系のお客さまを支援する部署でデータサイエンティストをしており、分析支援のほか、金融業界向けのソリューション開発をリードしています。りそなのプロジェクトには2022年から関わり、現在は統括マネージャーとしてご支援しています。
りそなでは、扇田さん、佐野さんとやりとりしながら、分析支援と組織強化に一体となって取り組んでいます。
DOORS 組織強化とは、具体的にどういうことでしょうか。
中道 データサイエンスの組織は、規模の拡大に伴って、統制すべき内容や管理すべき内容など、あらゆる面で難しくなるところが出てきます。そこで、データサイエンティストの組織運営を長年行ってきたブレインパッドの目線で改善提案をすることが、組織強化の支援内容になります。
ブレインパッドでは、業界を問わずさまざまな支援をしていますが、組織強化はそのひとつの形態です。
DOORS まずは協業の背景について教えてください。
扇田氏 りそなはブレインパッドと資本業務提携という形でパートナーシップを結んでいます。業務委託のような、単なる受発注の関係ではなく、両社の事業領域を広げ、地域経済の活性化と持続可能な社会の実現を目指しています。
りそなは地域密着型のリテール金融サービスに強みを持っており、豊富な金融データを保有しています。ブレインパッドは分析の領域での強みがあり、在籍するデータサイエンティストの数も非常に多く、さまざまな業種でのノウハウも持っています。それぞれの強みを掛け合わせることでシナジーを生み出し、事業領域を拡大していきたいと考えています。
DOORS 両社の関係性について、特徴的だと感じる点はありますか?
扇田氏 りそながブレインパッドの人財を送り込んでもらう関係ではありますが、フラットな関係を築くことを心がけています。先ほども申し上げた通り受発注ではなく資本業務提携という背景もあり、りそなが「お客さま」と見なされないようにしたいのです。
DOORS 「お客さま」と見なされることでどのような不都合があるのでしょうか。
扇田氏 気を遣われることですね。りそなの言葉にパワーが発生してしまって、対等な立場で意見し合うことができなくなることが最大の不都合です。
佐野氏 例えば、社内ではブレインパッドから「りそな様」と呼ばれるのではなく、「りそな」と呼び捨てにしてもらっています。形式的な上下関係をなくし、対等な立場で率直に意見交換ができる関係性を重視しています。
中道 お互いビジネスパーソンなので、マナーとしての気遣いは当然あります。しかし、「お金をいただいて、その分奉仕する」という関係性を意識してしまうと、「改善したい」よりも、「利益を出したい」意識が強くなってしまいがちです。あくまで同じ目線でどう良くしていくかを話し合うことができる関係を作ることが重要だと思います。
DOORS 呼び方以外にも工夫している点はありますか。
中道 扇田さんから「同じ会社だと思ってください」といわれたことは印象的でした。実際、我々もオフィスで机を並べて働いており、ほぼりそなの従業員と同じ環境です。
扇田氏 委託先に常駐してもらっても、従業員とは別の環境を提供している場合が多いと思いますが、ほぼ従業員と同等の仕事環境を提供しています。銀行として求められるセキュリティはもちろん意識していますが、それ以外は同じ環境でないとノウハウを共有できません。
中道 りそなの従業員も、すぐに私たちのところに来て質問できるといった、コミュニケーションが生まれやすい環境になっています。
DOORS ここまで対等な関係性を築いている例はあまり聞いたことがないですね。
佐野氏 資本業務提携という点では、りそながやりたいビジネスを進めるというよりも、互いにやりたいこと、互いにメリットがあること、それぞれが目指す姿にマッチすること――そのような取り組みを進める関係であり、その認識がずれないようにしています。
中道 ブレインパッドは、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」ということをパーパスにしています。りそなと取り組むことは、パーパスの達成の加速につながります。具体的には、りそなと一緒に、地域金融機関に対して、地域社会のデータ活用を支援しています。
扇田氏 協業を始めたころにブレインパッドの関口社長が、「そもそも銀行に店舗は必要ですか?」という発言をされていたことを今でも覚えています。当時は、店舗での対人業務がまだまだ主流でしたが、現在では顧客接点のデジタル化も進み、リアルとデジタル双方でよりお客さまのニーズに合った取引チャネルの展開を加速させています。
我々は、関口社長の発言を真摯に受け止めて、オムニチャネルやデジタル化を推進してきた経緯があり、このようなブレインパッドならではの切り口は今も大切にしています。
DOORS これまでの協業はどのようなことを行っているのでしょうか?
扇田氏 ブレインパッドとの関係は、2016年に新規事業を支援してもらったことから始まっています。以降、少しずつ支援領域を広げてもらいながらりそなもデータサイエンス部門の陣容を拡大し、2022年には、ブレインパッドとの資本業務提携契約を締結しました。
その具体的な成果として、2024年末に銀行業務支援ツール「Data Ignition」をリリースするに至ったのです。
中道 資本業務提携の翌年から共同で地域金融機関の支援を開始し、さらにその翌年からはまた別の地域金融機関の支援を、というように支援先を広げてきました。
DOORS 具体的にはどのような支援をされているのでしょうか。
佐野氏 一例として、ブレインパッドと共同で地域金融機関における分析組織の取り組みをサポートしています。我々が分析組織立ち上げの中で苦労した点などをノウハウとしてお伝えし、回り道をせず、早期に成果を実感していただくための取り組みです。
Data Ignitionも同様に地域金融機関をサポートするもので、りそなで効果のあった分析モデルをソフトウェアの形で提供しています。
DOORS 「FDUAアワード2025」でデータ活用賞を受賞しました。これは大きな成果ですね。
佐野氏 Data Ignitionが単なる社内改善にとどまらず、業界全体のデータ利活用のレベルアップに貢献する取り組みとして評価されたことが受賞につながりました。
DOORS これまでの経緯や現状の取り組みが、正当に評価されたということですね。エントリーのねらいは何だったのでしょうか。
佐野氏 社内の環境を整え、効果的な取り組みを行い、その成果を外部にも提供することは、まさにブレインパッドとの業務提携のあるべき姿として思い描いてきたものでした。それが目に見える形になり、もっと広く知ってもらいたいと考えました。
中道 私たちが実現したかったことを言語化していただき、非常に嬉しく感じました。
DOORS そもそもData Ignitionとは、どのようなソリューションなのでしょうか。
佐野氏 りそなで実際にビジネス効果のあったAIモデルのエッセンスを盛り込んだ、銀行業務に特化した業務改善ソリューションです。りそなとブレインパッドが共同で開発しました。
さまざまな機能があるのですが、例えば金融商品に対するお客さまのニーズをスコア化したマーケティングリストを取得することができます。銀行では、サービスごとに、ニーズがあると見込まれるお客さまを抽出し、その方々に対して提案する方法をとることがありますが、それをAIやデータサイエンスによって効率化する試みです。
導入する金融機関は、自社の顧客データを準備し、Data Ignitionに読み込めば、すぐに顧客別の予測スコアを出すことができます。出力された予測スコアを参考に、お客さまに対して効果的な提案活動を迅速に行うことが可能になります。
従来の機械学習では、学習データを大量に準備し、目的変数を決め、学習をさせ、モデルを構築します。さらに、構築したモデルをブラッシュアップして精度を向上させ、ようやく運用に至るわけです。しかも、その手前にはデータサイエンティストの育成や分析環境の整備など、さまざまなステップがあります。
Data Ignitionでは、それらをすべて省略し、データを準備して投入するだけですぐに業務が始められます。そこがData Ignitionの最大の価値だと思います。
また、インターフェースがシンプルで、操作が簡単であることにもこだわりました。新しいツールに慣れるまでのハードルが高いと、それだけで使われなくなります。私たち自身も銀行員なので、せっかく導入したツールが使われなくなる感覚はよくわかります。
中道 単なるアプリケーションではなく、業務のシェアリングを意識したソリューションになっています。「活用実績付きのモデル」と言うのがわかりやすいかもしれません。最近は予測モデルを作ること自体、AutoML(Automated Machine Learning)の利用や生成AIによるコード生成などによりハードルが低くなってきています。一方で、投入するデータの特徴やバイアス、正解データの準備などの考慮無しに作れてしまうため、誤った分析結果になってしまうことも多々あります。
Data Ignitionの場合は、りそな内で成長したデータサイエンティストやブレインパッドのデータサイエンティストにより作成された、りそなでビジネス効果を出しているモデルを提供しているので、そのようなことにはなりません。モデルと事例(知見)の両方が入っていることに大きな価値があると考えています。
DOORS Data Ignitionの企画はどのように始まったのでしょうか?
扇田氏 資本業務提携したからには、できるだけ早く、何らかの成果を出さないといけないというプレッシャーの中で、何をやるか検討を始めました。当初は、AutoML(Automated Machine Learning)ツールがはやっていたので、そのブームに便乗しようという話もありました。また、さまざまな金融データを持っているので、それらを指標化して外部に提供しようという話や、ブレインパッドの強みである、分析人財育成で行こうかという話も出ました。
このようにさまざまな検討をしましたが、「両社の事業領域の拡大」、「地域経済の活性化」、「持続可能な社会の構築」という3つの目的をすべて満たす事業がなかなか見つからなかったのです。
一方で、情報をどこまで外に出していいのかという議論もありました。銀行なので、情報セキュリティに関してかなり厳しい面があり、私たちの取り組みが情報の流出に該当しないかという議論もありました。そして、知らず知らずのうちに、情報を一切出してはいけないという考えに陥っていたのです。
そんな中で、私たちがサポートしていた複数の地域金融機関から「りそなでビジネス成果のあった取り組みを教えてほしい」と言われたことがひとつのきっかけとなりました。その要望へのアンサーとして、知見をモデル化してソリューションに落とし込めば、簡単に使ってもらえますし、データを流出させることにもなりません。
同じことを、りそなやブレインパッドからデータサイエンティストを派遣して実施すると、かなりの費用が発生しますが、モデルを提供するのであれば、低価格で簡単に使えるものができるのではないか――そう考えて、検討を始めました。
佐野氏 地域金融機関へのサポートを行う中で、私たちの事例紹介や知見を共有し、喜んでいただく場面が多々ありました。そのことから、きっと他の金融機関でも私たちの経験や知見を役立てていただけると直観しました。
一方で、私たちの人員も限られていますし、時間も有限です。制約がある中、できるだけ多くの金融機関に喜んでいただくために、比較的リーズナブルな価格の、誰でも使えるソフトウェアに落とし込んで提供することに思い至りました。
扇田氏 Data Ignitionを作ろうと決めたときに、当時の私の上司が、「イメージするものがあったほうがいいよね? だったら、インスタントラーメンはどうだろうか? 行列ができるラーメン店にはかなわないけど、お湯をかけるだけで十分おいしいものができるじゃない? そういうものイメージしてみてはどうだろう?」とアドバイスしてくれました。
技術者目線だと、「大量のデータを用意して学習させて、学習済みモデルを作り、さらに大量のデータをセットして、できるだけ精度の高いモデルを作ろう」と考えがちです。そうではなくて、「簡便にスピーディーに、一定水準以上の予測結果が出るものを作ろう」という考えに至ることができました。
DOORS Data Ignitionの企画に、ブレインパッドはどのように関わりましたか。
中道 この企画に限ったことではなく常に持っている意識ではありますが、りそなと同じ目線であることを強く意識しています。単なるITベンダーの関係性であれば、要望を聞いて、要件どおりに作るというスタンスになってしまうかもしれません。しかし、それでは価値の高いものが作れないと考えています。「どうすれば地域金融機関に使ってもらえるのか。どうすれば使いやすくなるのか」を意識して、常に議論しています。
扇田氏 すでに申し上げたとおりフラットな関係性なので、りそながアイデアを出して、ブレインパッドが作るということではありませんでした。双方でアイデアを出し、中には、ブレインパッドからもらったアイデアをりそなのエンジニアが作り込むケースもあります。
DOORS 役割分担がまったくないわけではないのでしょうけれど、あまり細かく定義しないで、一緒に進めていくイメージでしょうか。
扇田氏 「行間」の大きい役割分担をしています。PMとかアドバイザーとか、細かく役割を決めているのではなく、大事な話も含めて常に一緒に会話をする、いわゆる「ワンチーム」ですね。全員で要件もUIも決めながら、開発しています。
中道 強みをどこで出しているかが違うだけの、多様性のあるチーム構成ですね。
DOORS データ活用において大切だと考えていることは何でしょうか
中道 「使われてなんぼ」ということですね。使われないモデルはデータサイエンティストの自己満足となってしまいます。
モデル作成が以前より簡単にできてしまう時代になり、学習済みモデルや生成AIも出回っています。それらをどの業務に、どう適用していくかが実は一番難しいところになります。我々はそれを「テーマ設定」と呼んでいますが、その筋が悪いと、使われない、無意味なモデルを作ることになります。
例えば、営業担当が「契約の取りやすい顧客リストを作成してほしい」と言ってきたとします。その要望をそのままに受け取って、「分析して解く」という課題設定としてしまった場合、使われない結果になることがあります。
契約しやすい顧客は、すでに営業担当が注目している先であり、ある特徴量でフィルタリングした結果と大差ない結果となったりします。そうなると、自身の勘と経験で十分、と理解され、営業担当の興味は薄れてしまい、活用されなくなってしまうことは多々あります。
そうではなく、営業担当が取りこぼしている先をリストとして抽出し、さらにその解釈ができる特徴量を(モデルの学習に使っていない特徴量であったとしても)すぐ参照できるように集めて隣のカラムに配置させておく、取りこぼしやすい先の傾向をすぐに把握できるように可視化する、など、「活用までのもう一歩」を意識して取り組むことが重要と考えています。
「契約の取りやすい顧客リスト作成」をテーマとするのではなく、「取りこぼしやすい顧客リストの把握と抽出」のテーマ設定としたほうがよい場合があり、それが筋のよい「テーマ設定」ということになります。
DOORS よく言われる「問題(イシュー)を発見する」と同じことなのでしょうか。
中道 そうです。困っていることの本質を見つけることが重要です。
データサイエンスの世界では「手段と目的が逆転する」場面を目にすることが多く、やはりデータサイエンティストは「分析して解く」ことに興味があるために、本質を見逃してしまいがちです。
扇田氏 ブレインパッドを見ていて感心するのは、「その目的は何ですか」という「パーパスドリブン」が徹底されていることですね。
中道 ブレインパッドは常に本質を意識していて、りそな含めお客さまと深く会話して目的を定めることが多いです。一方で、扇田さんや佐野さんからご指摘をいただくこともあり、パーパスドリブンは双方が意識しているのではないでしょうか。また、「100点を目指さなくていいので、どういうやり方が現場にとって一番自然なのか」を議論するのは、りそな独自の雰囲気だと感じています。
DOORS 現場へのヒアリングも一緒に行くということでしょうか。
中道 もちろんです。本部とのコミュニケーションが多いですが、支店に行くこともあります。ビジネス部門とのやりとりの際、ブレインパッドとしてというより、りそなのデータサイエンス部の一員として臨んでいます。
DOORS データサイエンス部の意識は別として、ビジネス部門から「業者扱い」されることはないのでしょうか。
中道 特段感じないですね。ビジネス部門に自分たちも変化するのだという意識がないと受動的になってしまい、「業者扱い」することにつながりがちです。そこはデータサイエンス部の苦労もあったと思うのですが、ビジネス部門が同じ方向を向いているので、ブレインパッドが「業者扱い」されるようなことはありません。
扇田氏 先ほど、従業員とほぼ同じ環境を提供していると言いましたが、コミュニケーションツールも従業員と同じものを使ってもらっています。したがってビジネス部門とコミュニケーションを取るときも、従業員と同じようにコミュニケーションを取れるようになっています。
あとは、現場の人間と名刺交換をしてもらわないのも、ひとつの工夫かもしれませんね。
DOORS おそらく「資本業務提携」という言葉も大きいですよね。プレスリリースもされ、従業員も周知していますから。単に口先だけでパートナーと言っても、浸透は難しかったのではないでしょうか。
中道 確かに、この2年で関係性が大きく変わった気がします。
中道 アナリティクストランスレーターという考え方が重要だという話を、りそなとはよくさせてもらっています。分析のレベルが上がると、どう解決していくかという目線が重要になってきます。その際に、どうやってビジネス部門とデータサイエンス部門をつなげる人財を育て、組織として確保し続けるかは、おそらくどの会社も抱えている大きな課題ではないでしょうか。それを、りそなとトライしています。
扇田氏 この点については、中道さんからご提案いただいてりそなの組織への反映を検討しました。現場のニーズとデータの専門知識の間をつなぐ役割は非常に重要です。データをどう活用するかの前に、「何を解決したいのか」を言語化し、共通のゴールを描く力が求められていると感じています。
中道 わかってきたことは、ビジネスの理解が深い人が、データサイエンスも理解できると最強だということです。ビジネスの理解としても銀行業においては、さまざまな部署の配属経験によって、その業務理解の深さが変わります。しかし、そのような広く深くビジネスを理解している人財は限られていますし、仮にそのような人が分析組織にいたとしても、人事異動があれば安定した組織力にはなりえません。
持続的に組織力としてアナリティクストランスレーターを育て、維持できる仕組を持つ必要があります。データサイエンティストでありながら、ビジネス部門とのコミュニケーション機会が多くなる橋渡し役を2~3名固定し、集中的に関係性を作れるようにすることを提案しました。
扇田氏 ビジネスを深く理解できる機会を作れるようにすることで、データサイエンスの内容をビジネス部門に伝わる言葉に翻訳し、本質を見抜くことができるような部隊となっていると感じています。
中道 いろいろな部門から集めてきたテーマに対して、データサイエンスでどう解くかについてを、ブレインパッドがサポートすることで、その方にインプットしていく。それがトレーニングになって、橋渡し役としての能力が向上していく。結果として、りそなの組織体制がとても良い形になりつつあります。
この取り組みは、ビジネスがわかるデータ人財が増えることで、Data Ignitionが提供する機能の最適化にもつながっています。
DOORS りそなならではのデータ活用の工夫や考え方はありますか。
扇田氏 中道さんの言うように、「使われてなんぼ」、「ビジネスがどう変わるのか」に重きを置いています。
そのためには言語化が必要で、私が意識しているのは、プロジェクトの名前を「目的」にするということです。
例えば、「○○商品の契約モデル構築」というプロジェクト名は手段ベース、分析ベースの命名です。そうではなくて、「○○商品をどうしていきたいのかという目的や、その先のビジネスがどう変わるのかがわかるプロジェクト名にしてほしい」とお願いしています。
DOORS それで、意識は変わるものなのでしょうか。
扇田氏 変わります。アウトプットのイメージが湧くことで、アウトプットをどう活用してもらえるのかに意識が向くからです。
中道 確かに最近の定例会議では、「これって、何のためでしたっけ?」という質問が著しく減ったと感じます。また、企画書に目的を書かないといけないので、手段先行になっている人は書けなくなってしまいます。こちらは扇田さんのこだわりを強く感じます。
また、ブレインパッドからは、ビジネス価値を試算する仕組みを提案させていただきました。テーマ企画時から、収益向上や業務削減効果が金額としていくらなのか、データサイエンティスト自らがビジネス価値として試算できるような仕組みづくりを提案しました。
佐野氏 これは中道さんのアイデアです。分析の取り組みを始めた当初は、どういう目的で分析するのか、分析結果がビジネスにどう落とし込まれるのかが、明確化されないままプロジェクトが進行することもありました。それを実際の分析作業に取りかかる前にクリアにして、分析する側だけではなくて、ビジネス部門とも認識を合わせた上で着手するルールに変えたのです。
ルールを遵守してもらうために、それを埋めれば企画について最低限の要件がクリアになり、ビジネス部門とも合意できるフォーマットを用意しました。
中道 使っていくうちに感じたすばらしい点として、データサイエンス部の担当者の方々のビジネス意識が、徐々に強くなってきたことでした。
一般的には、データサイエンティストは分析する対象が決まれば、解くことに集中してしまい、ビジネスとの紐づけが曖昧になるケースが多いです。ところがりそなでは、データサイエンティスト自らビジネス価値を試算する必要があるため、その分析に価値があるかの見極めや、ビジネス部門にも想定効果を先だって確認する動きが出てきています。
具体的には、業務削減するような分析テーマだったときに、ビジネス部門に確認すると、利用する人は2人で月に1回ほどしか実行しないような業務だったということはよくあります。
そのような確認をデータサイエンティストひとりひとりが能動的に実施できるところは、副次的な効果としてすばらしいなと強く感じているところです。こんな組織はほかで見たことがありません。
扇田氏 2019年にデータサイエンス室ができたときに、当時の室長によく言われたことが、「会社に分析しに来ているの? ビジネスをしに来ているのではないの?」ということと、「ビジネス部門の下請けの仕事はしないでね」ということでした。そのふたつを、耳にたこができるほど言われたことが原点なのだと思います。
中道 ビジネス部門とデータサイエンス部が対等ですよね。「下請けじゃない」というのは、社内に浸透していると感じます。
DOORS ブレインパッドとの協業を通じて、りそな様が目指す未来についてお話しください。
佐野氏 すでに何度も触れていますが、地域経済の活性化と持続可能な社会の構築のために、りそなの中で良い効果が出たことは、できる限り業界全体でシェアしたいと考えています。その結果、業界全体の効率化につながり、その先にいるお客さまにまで良い効果が波及すればすばらしいと思っています。
「仲間を増やす」ということを私たちはよく言っています。私たちはたくさんの失敗をして、ようやく成果を出せるようになりました。他社には、すぐの効果を実感できるものを提供することで、仲間をどんどん増やしたい。そうするうちに業界全体でより高度な失敗を経験する機会が増えていき、その分業界全体の成功へのスピードも速くなると思うのです。そのためにも仲間は多いほうがいいですね。
DOORS 銀行では、数字が1円でも違っては駄目というイメージがあるので、失敗は許されないと思っていました。しかし、お話を伺っていると、りそな様には失敗を許す文化があるように感じます。それは最近そうなったのですか。
扇田氏 かなり前からです。「たくさん失敗しろ」、「それはナイス失敗だ!」などと言われて育ちました。
佐野氏 とはいえ、潤沢なリソースを確保するのは大変ですし、できるだけ失敗したくないというのは絶対的な要望だと思います。それをData Ignitionで実現できると考えています。
DOORS 中道さんとして、あるいはブレインパッドとして、今後どうサポートしていきたいですか。
中道 佐野さんと同じで、地域経済の活性化と持続可能な社会の構築を加速させたい思いは強いです。
その観点で、仲間を増やす価値は大いにあると思います。他の仲間から共通的に出てきた悩みの中には、りそなは気づいていなかったけれど、解かないといけない問題である可能性が高い。社内の目線だけでなくて、社外の目線でもテーマ選定ができると、さらにデータ活用を加速させることにつながります。
DOORS ブレインパッドとしては、何年も前から多くの企業の伴走支援をしてきましたが、今回のお話の中で面白いと思ったのは、お客さまを通じて社会的な価値を実現していくというスタンスでした。
中道 「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」というブレインパッドのパーパスが社員には浸透しています。支援の際にも、パーパスをベースにお客さまと会話していくので、結果的に社会価値の実装に行きつくということではないでしょうか。
DOORS 意識の高いお客さまと仕事をさせていただくことで、そのお客さまの力を借りながら、ブレインパッドのパーパスも実現していこうということですね。
中道 それが社会貢献のひとつの方法だと信じてやっています。
DOORS 本日はお忙しい中、貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
あなたにオススメの記事
2023.12.01
生成AI(ジェネレーティブAI)とは?ChatGPTとの違いや仕組み・種類・活用事例
2023.09.21
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?今さら聞けない意味・定義を分かりやすく解説【2024年最新】
2023.11.24
【現役社員が解説】データサイエンティストとは?仕事内容やAI・DX時代に必要なスキル
2023.09.08
DX事例26選:6つの業界別に紹介~有名企業はどんなDXをやっている?~【2024年最新版】
2023.08.23
LLM(大規模言語モデル)とは?生成AIとの違いや活用事例・課題
2024.03.22
生成AIの評価指標・ベンチマークとそれらに関連する問題点や限界を解説