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世界最大級の製造業向けイベント「Hannover Messe 2025」は、2025年3月31日~4月4日に、ドイツのハノーバーで開催されました。Hannover Messe 2025は「世界の主要な産業見本市」と称され、イベントには世界中から4,000社の出展企業が参加し、デジタル化やレジリエンス向上に関する最新ソリューションが発表されました。
本記事では、Hannover Messe 2025に参加した弊社社員の感想をお届けします。
【参考】
https://www.hannovermesse.de/en/about-us/after-show-report/index-2
会場で特に注目を集めていたのは、産業分野における生成AIの活用です。従来の生成AI活用は、主に社内文書の要約や検索、汎用的なチャットボット構築にとどまっていましたが、今回はより具体的な業務への適用を目指す取り組みが紹介されました。
特に印象的だったのは、製造業界の特定業務に特化した生成AIです。例えば、シーメンス社の製造装置の制御コードを生成するCopilotやEplan社の製造装置の設計支援に特化したCopilotなどが挙げられます。
これらの生成AIに共通しているのは、参照データをあえて限定し、高度なAPI連携を可能にしている点です。ユースケースを絞り必要なデータだけにアクセスさせることでノイズを抑え、生成精度を高めています。また、生成したコードを製造装置へ即時デプロイしたり、推奨部品を設計図へ反映させたりと、文章生成にとどまらず次のアクションまで自動で実行できる点が印象的でした。
このような高度な生成AI活用をおこなうには、対象業務を着実にデジタル化し、自社固有のデータを蓄積すること、そして各種システムのAPI整備を進めることが欠かせません。地道にデータを蓄積し、API整備を進めてきた企業ほど、生成AIを活用することで競争優位性を高めていると実感しました。
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デジタルツインも、Hannover Messe 2025の展示でその進化を強く実感した分野です。製造業における従来のデジタルツイン活用は、主にバーチャル空間に製造装置を配置し工場全体の稼働状況や消費電力をリアルタイムに可視化することを目的としていましたが、今回は設計段階の意思決定を加速させるためにシミュレーションを活用する事例が紹介されました。
特に印象的だったのは、バーチャル空間で装置をドラッグ&ドロップするだけでレイアウトを変更し、その場で工場稼働状況をシミュレーションする事例です。この仕組みにより具体的なラインイメージを顧客とリアルタイムで共有しながら配置や動線を検討できるため、要件定義時の手戻りを大幅に削減できることが大きな強みです。
さらに、消費電力の設定を変更した場合に生産能力がどのように変動するかを即座にシミュレーションするデモンストレーションも非常に印象的でした。実機の停止や試作ラインの構築を実施することなく、装置の台数や配置、稼働率といったパラメータを変更した際の影響を即座に把握できるため、消費電力とスループットの最適なバランスを短時間で見つけることができるという利点があります。
こうしたシミュレーション指向のデジタルツインは、設計や導入に伴う工数とリスクを同時に削減し、顧客との合意形成を円滑化することに大きな利点があります。ただし、現状では利用者が入力パラメータを手動で設定することでその結果をシミュレーションする仕組みになっています。
今後は「消費電力と生産能力を最も効率的に両立させる」といった目的を起点にシステムが自動的に最適解を導き出す仕組みが求められます。
さらに、その最適解を即座に現場へ反映させ、シミュレーションどおりの業務運用を実現することが可能になれば、デジタルツインの活用は一層加速するものと考えられます。
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Hannover Messe 2025では前年までと比べてエッジAI/IoTの存在感が一段と高まっていると感じました。製造ラインではPLCやセンサー、ロボットなどから毎秒膨大なOT(Operational Technology)データが生成されていますが、その一部には機密性が高くクラウドへ直接送信できないものがあります。さらに、全てのデータをクラウドへアップロードすると通信量が増大するため、低レイテンシーが求められる現場では実用が難しいという課題もあります。
こうした状況を踏まえ、各クラウドベンダーはエッジ側で前処理を行い、必要な情報のみをクラウドへ送信するハイブリッド構成を提案していました。この方式であれば、通信量やコストを抑えつつ、高度なクラウドサービスや大規模な計算処理を効率的に活用できます。
またAWSのブースでは、自社サービスとシームレスに連携可能な認定デバイスや、生成AIをエッジGPUで動作させる事例が紹介され、クラウドベンダーが現場向けソリューションの開発にも注力していることが感じられました。
一方、産業オートメーションメーカーであるベッコフ社の講演では、過酷な環境下におけるハードウェアの信頼性という課題が示されました。「今後ベッコフ製品に生成AIが搭載される可能性はあるか?」という質問に対して同社は「粉塵が多く高温多湿な製造現場において、GPUサーバーが当社製品と同様に10年以上の稼働保証を満たすのは難しい」と回答しました。
会場全体では低レイテンシー、小型フォームファクター、高い推論性能を訴求する展示が多く見られましたが、長期耐久性に触れた展示は限られており、実際の製造現場で求められるハードウェア要件と現状開発されているエッジデバイスの機能のギャップが浮き彫りになった印象を受けました。
弊社でも、エッジデバイスとAIエージェントを組み合わせた、現場で活用できる新規ソリューションの企画・開発に力を入れております。
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今回のHannover Messe 2025の視察を通して、インダストリー4.0のビジョンが構想段階から一歩進み、一部の現場では既に実装フェーズに入っていることを実感しました。
特に生成AIやデジタルツインなどの最先端技術が単なる概念にとどまらず、個々の業務課題を解決する具体的なソリューションとして進化している様子が印象的でした。この進化を支えているのは自社に必要なデータの蓄積やAPIの整備などの企業の着実な取り組みであり、改めて地道なデジタル化推進の重要性を認識しました。
一方で、ハードウェア要件という観点では現場で求められる要件と現状開発されている製品の機能の間には依然としてギャップがあり、今後このギャップを埋めるための取り組みが重要になると感じました。
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