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前半では、ビジネス現場における効果検証の精度をいかに高めるか、というテーマについて数理的なアプローチからご解説いただきました。
マーケティング施策の正しい効果検証を行うためには、本来であれば対象をランダムに2グループに分ける「RCT(ランダム化比較実験、いわゆるA/Bテスト)」が不可欠です。しかし実際のビジネス現場では、ユーザーに特定の行動を強要することはできません。例えば、「新機能を利用する/利用しない」という行動そのものをランダムに割り当てて強制することは不可能です。そのため、実務においてはランダム化奨励デザイン(RED)というアプローチを取ることになります。新機能の利用を強制する代わりに、「新機能の利用を奨励するメールの送付」をランダムに実施する、といった設計がこれに該当します。
ただし、このときに「メールを送った人」と「送らなかった人」を単純に比較してしまうと、メールを受け取っても新機能を利用しない人が多く含まれるため、新機能そのものが持つ本来の効果が薄まって見えてしまうという課題が生じます。専門用語を用いると、この単純比較では新機能の効果が過小評価されてしまうのです。
そこで活用されるのが「操作変数法」です。「メールの有無」というランダムな要素を操作変数として用いることで、メール通知をきっかけに新機能を使ってくれた人たちの効果、すなわちLATE(局所平均処置効果)を求めることができるようになります。これにより、現場の制約をクリアしつつ、新機能の真の効果を精緻に見極めることが可能になります。
さらに、このアプローチを用いた具体的な実証実験として、加藤先生の実際の論文『Empirical Validation of the Attraction Effect Using Randomized Field Experiments: Real-World Evidence of Contextual Decision-Making Bias』に基づき、実際のビジネス環境における「おとり効果」の検証についてご講演いただきました。おとり効果とは、選択肢の中にあえて選ばれにくい極端なプラン(おとり)を混ぜることで、売りたい本命のプランをより魅力的に見せる消費者心理のバイアスを指します。ラボ(実験室)の中だけにとどまらず、実際の購入場面というフィールドにおいてもこのおとり効果が確かに意味を持っていたという実証プロセスは興味深いものでした。
後半では弊社データサイエンティストとパネルディスカッションを行い、我々のクライアントへのご支援のなかでの悩みや加藤先生の専門分野に関する質問をしました。実務ならではの生々しい話題も交えながら、研究とビジネスの接点について理解を深める貴重な機会となりました。
また、講演会後は一部の残れるメンバーで懇親会を開催しました。講演会中には聞けなかった質問や実務での悩みから、プライベートな内容までざっくばらんな話題で盛り上がりました。

ブレインパッドでは、このような外部の専門家をお招きした社内講演会を不定期に開催しています。ここでは、データ分析を生業とする企業がこのような講演会を開催することの意義について、3つの観点からお伝えします。
講演会を開催する第一の目的は、社内全体の技術レベルを引き上げることです。
ブレインパッドには多様なバックグラウンドを持つデータサイエンティストが在籍しており、専門分野も実務経験もさまざまです。データ活用の支援会社として、組織全体の分析力を高めていくことは、クライアントに対する責任でもあります。
今回のテーマである操作変数法は、因果推論の分野では広く知られた手法ですが、出身分野によっては馴染みのない方も少なくありません。講演を通じて、初めて触れる方にとっては新たな学びの機会となり、すでに知識を持つ方にとっても理解を深め、視座を広げるきっかけとなります。
また、講演会は社内の知見共有を促進する場としても大きな役割を果たします。今回も講演後には参加者同士で活発な議論が生まれ、「自分の担当案件ではこういうシチュエーションで適用できるのではないか」「このケースでは別のアプローチのほうが適切かもしれない」といった、実案件に基づいた具体的な意見交換が行われました。こうした知見共有は、それぞれのご支援を見つめなおすきっかけになるだけでなく、分析者としての引き出しを増やすことにもつながります。
データ分析の実務においては、明確な正解が存在しないケースに直面することが少なくありません。そうした場面での分析方針が本当にベストなのか不安になる場合もあるのが現実です。この会では、パネルディスカッションや懇親会で、そのようなケースの悩みを率直に先生にご相談し、合意や助言をいただきました。こういった場は、新たな学びであると同時に、私たち自身の大きな自信にもつながります。
特に、「自信にもつながる」部分は予定外の産物でした。例えば、今回のパネルディスカッションでは、「A/Bテストができず、未観測交絡がある場合の対処」について議論が交わされました。A/Bテストができない場合の因果推論の手法はさまざま開発されていますが、未観測交絡の存在が否めない場合は、その分析結果の信憑性は怪しいです。そのため、無理に複雑なモデルを構築して対応を試みるのではなく、シンプルな集計に留めて分析の限界を率直に認めるべきである、という結論に至りました。これは日頃から私たちが現場で感じていた方針と一致するものであり、アカデミアの第一線で活躍される先生からの裏付けを得られたことで、自分たちの判断基準に確信を持つことができました。
※当然、ケースバイケースであり、これらの手法を適用すべき場面も多いことにご留意ください。
ブレインパッドには技術を愛し、探究心にあふれた人材が集まっています。しかし、日々の業務に追われる中で、一人で最新の技術を追い続けることは決して容易ではありません。
だからこそ、みなで学び合うカルチャーを意図的に育てていくことそのものに、大きな意味があると考えています。技術への好奇心や学ぶ意欲は、放っておくと日常の忙しさの中で簡単に火が消えてしまいます。勉強会や講演会を継続的に開催し、組織として意図的に火をともし続けること——それ自体が、分析会社としての競争力を支える重要な取り組みであると私たちは信じています。
今回の勉強会は参加メンバーからも非常に評判が良かったです。「理論と具体的な事例の結びつきが非常にわかりやすかった」「教科書で読んだ操作変数法を実務に活かす道筋が見えた」「パネルディスカッションで出たジオマーケティングについて、今後さらに面白いビジネスの未来が作れるのでは」「また次回も開催してほしい」といった声が上がりました。
こうした声を振り返ると、今回の勉強会は、まさに本記事で述べてきた講演会のメリットを実感できる機会だったと感じています。改めて述べると、以下3点は今回の勉強会を通じて実際に感じられた価値でした。
外部の専門家をお招きした講演会は、単に知識をインプットする場にとどまりません。理論を実務に引き寄せ、自分たちの分析や支援のあり方を見つめ直し、組織としての学びを深める場でもあります。
ブレインパッドは、今後もこのようなアカデミアとの積極的な交流を通じて知見を深め、理論と実務の架け橋として、クライアント企業のビジネスへより高い価値を還元してまいります。
加藤先生、刺激的で素晴らしいご講演をありがとうございました。
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