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【レポート】生成AIで変わる働き方を議論する「Work Wonders Conference」 SESSION2:上場企業184社に聞いた「生成AI活用のリアル」

公開日
2024.01.19
更新日
2024.06.04

2023年11月22日、ブレインパッドはインクルージョン・ジャパンと共同で、生成AIのビジネス活用や働き方の未来を議論する「Work Wonders Conference」を開催した。会場には満員の300人を超える来場者が詰めかけ、生成AIを活かす組織や業務プロセスの変革についての熱い議論に耳を傾けた。本レポートでは3部構成で行われた議論のエッセンスを、DOORS編集部が各部にわたって要約し、ビジネスにおける生成AIの可能性に迫る。

SESSION2はインクルージョン・ジャパン取締役の寺田知太氏と、ブレインパッド執行役員アナリティクスコンサルティング担当の押川幹樹氏が、上場企業184社と2,724名を対象のアンケートから見えてきた「生成AI活用のリアル」について議論が展開された。トークは寺田氏が主導してアンケートの背景説明と解説を行い、要所で押川氏が見解を求められるスタイルで進行した。

【本イベントのレポート記事】

本記事の登場人物
  • コンサルタント
    押川 幹樹
    会社
    株式会社ブレインパッド
    役職
    執行役員アナリティクスコンサルティング担当
    東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。アクセンチュア株式会社に入社後、国内外でデータ活用に関するさまざまなプロジェクトに従事。2017年よりブレインパッドに参画。機械学習を活用した発注最適化や数理最適化による物流効率化など、データによるサプライチェーン改革の他、営業活動の高度化、医療データサービス立ち上げの構想策定支援、AIソリューション開発体制の構築支援など、幅広い業界・領域でのアナリティクス技術を活用したDX支援の実績をもつ。2023年7月より現職。

生成AIの導入の実態と課題:19%はなぜ「利用禁止」なのか

まず、生成AIに対する会社の基本スタンスを知るために、「生成AIを活用するにあたって社内ルールを設けていますか」という問いに対する回答が示された。何らかの「ルールがある」と答えたのは全体の51%で、「ルールがない」と答えたのは39%だった。ただし、ルールがあるとした企業のうち一律で「利用禁止」としている企業が19%、ルールを定めた上で「適切な利用を推進」している企業が42%で、ルールの内容でも大きな違いがあった。

「19%の企業が一律禁止としているのは、生成AIにリスクがあると懸念しているからでしょう。ただ何をリスクと捉えているのかはわからない。意外と『わからないからリスクがある』と判断しているのかもしれません。使わせなければ問題は生じないはずと思われるかもしれませんが、生成AIでいかに業務が効率化するかを知っている社員は、規則違反を承知で自分のアカウントを作り、こっそり利用するかもしれません。リスクを認識するからこそ一律禁止ではなく、明確なルールを設けて適切に利用をさせるとか、システム上で制限をかける(ルール違反のデータは入力をはねるなど)のも適切なマネジメントだと思います」(押川氏)

次に、「半年前と比べて生成AIの評価・期待値はどう変化したか」との問いに対する回答が示された。ChatGPTが公開(2022年11月30日)されてから半年ほど経ち、一般的になったあたりから現在までの評価だ。結果は「とても上がった」「上がった」が58%と過半数、「変わらない」が46%、「下がった」のは1%だった。

ただ、この回答は「実際に使ってみての評価」と、「メディアで聞く程度の評価」が一緒くたになっている。そこで、想定される用途別にその効果を5段階評価で聞いたのが次のアンケートだ。その結果「役職員の業務時間削減が期待できる」「役職員の業務・アウトプットの質向上が期待できる」「まずは導入して効果を見極めている」「一部の社員が生成AIをどんどん利用して、生産性を向上できる」が50%を超える回答を得た。

経営者の姿勢についても三分類で聞いたところ、経営者自らが利用したり勉強会に参加している「積極層」が22%、自分では使っていないが生成AIの導入検討を指示していたり予算はつけると表明している「中立層」が47%、無関心や黙認している「消極層」が31%だった。

この「積極層」「中立層」「消極層」を企業の事業規模別に分類してみると、会社規模が小さいほど「消極層」が多くなっているものの、自分で使っている「積極層」の割合は事業規模とはあまり関わりがなさそうなことが見てとれる。

「面白いのは生成AIの利用にルールを設けているかどうかを、経営者の積極層/中立層/消極層でそれぞれに分類したデータです。経営者が「積極層」「中立層」だと6割が何らかのルールを設けていますが(消極層だと生成AIに無関心なのでそもそもルールは作らない)、中立層の自分で使わない経営者や導入を部下任せにしている経営者の19%が、一律で「利用禁止」にしていたのですね」(寺田氏)

「技術というのは、使われるまでは〝知ってはいるが理解はしていない〟という微妙な段階があります。社員に導入の検討をさせるが自分ではまだ使っていない中立層の2割ほどが一律で利用禁止にしてしまうのは、まさにこの段階だからこその判断だと思います。自分で使ってみるといろいろわかって安心できるのですが…」(押川氏)

さらに半年前と比較しての評価・期待の変化を、経営者の「積極層」「中立層」「消極層」別に分類してみると、経営者が使うほど/関わるほど期待が増していることが明確に出た。

「そこで用途別の効果を聞いたアンケートを『積極経営者』のみで抽出してみたのです。その結果、役職員の業務・アウトプットの質向上が期待できる/役職員の業務満足度・エンゲージメント向上につながる/幅広い社員が生成AIをどんどん利用し生産性を向上できるの3つが突出していたのです。生成AIに積極的な経営者ほど、自分で使う➨自分で使うと手応えを感じる➨手応えを感じると社員に使わせて質や満足度を上げたくなるという正のサイクルが起こっているのでしょう」(寺田氏)

LLM(大規模言語モデル)の生成AIがこれまでのAIや機械学習と違うのは『新しい文房具みたいな使い方ができる』ところだと言う人がいます。ChatGPTのイメージでこの技術を捉えている人が大勢を占めているんだろうなというのが、このデータからわかります」(押川氏)

【関連記事】
LLM(大規模言語モデル)とは?生成AIとの違いや活用事例・課題


予算の配分:期待される「利用促進」へのもう一押し

生成AIを「導入」するための予算確保の状況はどうだろうか。生成AIだけに予算を取っている企業はまだ3割ほど。金額も100万円~1000万円にボリュームゾーンがある。生成AIの「利用促進」に予算を割いている企業となるとさらに少なく、全体の2割になってしまう。予算はさらに少なくなっている。

生成AIの利用促進に予算を充てている企業は何に使っているかを聞いたところ「自社の生成AI環境の整備」が63%、「社員による生成AIの具体的用途・ユースケース共有会の開催」が39%だった。まずは自社環境を整備して、その後は社員にまかせて用途を探索しているという段階なのだろう。

生成AIの業務利用ルールの詳細からわかることは「自社の事業戦略が類推できる質問内容の入力禁止」「自社の機密情報やノウハウの入力禁止」「取引先とNDAなどを締結して得た秘密情報の入力禁止」など。機密情報・自社戦略流出に敏感になっているのがわかる(だが60.3%の企業はルール未整備)。

「生成AIに理解のある経営者ほど、社内に厳しいルールを設けているのも面白いところです。これは意外でしたが自分でも使って良さを理解するほど、多くの社員に使わせようとするし予算も充てるのですが、生成AIの現実を理解しているがゆえに『かっちりルールを設けた上でないと』と思うのかもしれません」(寺田氏)

企業では、実際にどの程度利用され始めているのだろう。まず6割以上の企業では、社員の生成AI利用率を把握していなかった。残り4割の利用率を把握している企業でも、3分の2が5%未満の利用率しかなかった。

「予算の使い道を聞いたアンケートでも、導入にはお金を使うが利用促進には予算を割いていないという結果がありましたが、それと符号する話です。これだけ大きな話題になっていますから使ってみようと思う人は多いのですが、試しに社長の名前を検索しても『最新の情報を提供することはできません』などと出てしまい興味を挫かれるケースが多いと聞きます。LLM(大規模言語モデル)はきちんとした問いを投げ掛ける必要がある。Googleのように単語を幾つか入力すればそれに該当するものを手当たり次第に表示させてくれるものではないので。そうした使い方の不慣れが利用率に現れていると思います」(押川氏)

ここで企業ではなく個人のビジネスパーソンに聞いたアンケートも見てみよう(学生、フリーランス、公務員は除外)。まずは生成AIの認知・利用だが「知っていて、使ったことがある」が14%、「知ってはいるが、使ったことはない」が50%、「名前を聞いたこともない」が35%だった。

従業員100人以上の企業に勤める役職員の生成AI業務利用頻度では「ほぼ毎日使っている」と「週2~3日使っている」積極利用は全体の8%、「月1」「月2~3日」「週1日」のお試し利用が16%だった。当然ではあるが個人においても「積極的」に使っているほど、生成AIに対しての評価・期待(半年前と比較して)も高くなっている。

積極利用者と未利用者で生成AIに対してどんな期待・評価をしているかを示したのが下のグラフ。未利用者は「海外や外国人とのコミュニケーション」「派遣社員や業務委託のコスト削減」などに「効率化・コスト削減」に期待し、積極利用者は「役職員の業務・アウトプットの質向上」「社内の既存システムやデータをより活用できる」など「質向上」を評価している。

「積極利用者は人間ありきの発想で、生成AIが業務負担を軽減してくれるコパイロット的な存在と認識しているように感じます。一方で未利用者は生成AIが人間を代替するアンドロイド的な存在と認識しているように感じます。これをもって現時点では積極利用者は現実的な用途をよく理解しているのに対し、未利用者は期待先行という分析になっています。しかし、3~5年後にはわからない。LLMのアルゴリズムは日々進化しているますので、いま思い込みゾーンにある要素が時間の経過と共に確信ゾーンに移っていくと思います」(押川氏)

「未利用者のゾーンに『生成AI導入や利用促進にかかるコストが高価である』という評価がありますが、実際に導入し使いこなしてみてこの評価に到達する人も出てきています。クラウドベンダーなどがいろいろなファウンデーションモデルを出していますが、価格がまったく違うんです。コストはROIに影響を及ぼします。これから何万人が使い何万回もAPIがコールされる段になると論点になってくるかもしれませんね」(寺田氏)

ここからわかることは使わない~お試し利用のうちは「環境整備・ルール整備」に止まってしまい期待先行で「楽をしたい」「できあがったものをそのまま使いたい」が大半なのに対し、積極利用者は「自ら新しい用途を発見」して「競争力を高めている」図式ではないか。

経営サイドでは社内環境を整備し厳しいルールを設けるだけでは競争力の向上や用途・人材は見いだせず、現場サイドでは使う人と使わない人でどんどん差が開いていっている。

「今日は生成AIのカンファレンスにこれだけ多くの人が集まっていますが、我々はマイノリティであることを認識しなければいけないと思っています。会社全体の効果を期待するなら、私たちが面倒くさい/わからないと思っている人たちがどうしたら使えるようになるかを考えてあげなければいけない。そういう視点が向かないと、いつまでもチームの溝は埋まらず、生成AIの利用が加速することもないでしょう」(押川氏)


生成AIを使うのは誰か:積極的に利用されている職種に焦点を当てる

最後に、具体的に誰がどのような用途で生成AIを利用しているのかについて、調査に基づいた見解を紹介しよう。この種のテクノロジーは利用者の年収によって格差が広がりがちだが、生成AIを毎日活用しているユーザーグループにおいてはそうした傾向はほとんど見られなかった。

「業務指示や会話のコミュニケーションにLLM(Language Model)を使用する用途がこれから増えていきます。AIブームの際も同様でしたが、心理的なハードルは主に印象に基づいています。LLMに関してはChatGPTのようなモデルが先んじて一般的になったので、ハードルは低くなっているでしょう。これは好ましい状況です。ただし、使用方法には様々なアプローチや工夫が必要です」(押川氏)

企業内で生成AIの導入を積極的に進めているのは主にIT・情報システム、経営企画、研究開発部門などの部署。一方で実際に生成AIを積極的に利用しているのは、これらの部署に加えて営業、法務・コンプライアンス・監査、マーケティングの部門だった。

「これを個々の職種と組み合わせてみると、興味深いデータが浮かび上がります。導入を進めているのはIT・情報システム部門が中心ですが、個人として積極的に活用しているのは経営企画部門の担当者が多いようです。また、部門としては導入を主導していないが、個人では積極的に使用している職種には人事、広報・コミュニケーション、財務・経理、マーケティング、総務などが含まれています」(寺田氏)

次に、会社が推奨している生成AIの用途を挙げてもらったアンケートの結果が掲示された。推奨されているのは、「メールや文章の丁寧さなどのトーンの変更・修正」「ホームページの記事やメール文の作成」「議事録の要約」「営業スクリプトや業務マニュアルの作成」「日本語以外の文書の翻訳」「FAQ、問い合わせ対応スクリプトの作成」などが上位にあり、これらは主に入力の変換に関している。

一方で、同様の質問を個人に対して行った場合、また面白い用途が浮かび上がった。会社が推奨している業務ではないが、個人が積極的に使用しているのは、「画像内容の抽出」「画像ルール(著作権やロゴ利用など)の適合チェック」「広告画像の生成」「履歴書のスクリーニング」「人事面談の分析」「セキュリティ関連の客先資料チェック(反社チェックなど)」「申し込みや注文のチェック」「管理者向けの例外事例の検索」「取引先の優先順位付け」など。

「これらの用途を見ると、大量のPDFファイルを前に〝これをどうにかしなければ…〟と困っている場面が浮かび上がります。こうしたシーンは日常の職場にさまざまありますが、その中でパターンマッチングやプロトコルのチェックなどの業務が生成AIの機能とうまく調和しているのでしょう。生成AIが完璧にできる業務ばかりではありませんが〝60点の完成度でも構わないから、とにかく手伝ってくれ〟という切実なニーズを感じますね」(押川氏)

企業が推奨している用途として挙げられたものと、個人が積極的に使用している用途が一致しているのは、「問い合わせのチャットボット」「議事録などの論点抽出」「競合調査」「法律調査」などだ。今後、需要が大きく拡大する可能性があるのは、この辺りかもしれない。

「問い合わせのチャットボットは、当社でも多くの受注があります。難しいのは、会社がどのようにお客様に対応する責任を果たすかです。調査や例外事例検索など、LLMとデータベースを組み合わせた仕組みを求めるお客様は多いです。チャットボットが一巡してから、ラグやデータベースとの接続へと進むのは自然な進化のパターンです」(押川氏)

経営者自身が生成AIを使用することで、その価値を前向きに評価し、社内に導入する意欲が高まる。ただし、まだまだ活用している人はわずかであり、広報、人事、マーケティング、コンプライアンス、管理職の社員は、会社が理解・推奨する以上の使い方を模索している。これらが今後の進展において示唆に富むポイントとなるかもしれない。

「今はまだ初期段階。スマホの例えで言えば、まさにiPhoneが初めて登場した頃に匹敵します。ここからAIを使う人と使わない人の差がますます広がっていくでしょう。経営的な観点から言えば、経営者が実際に感じることが重要です。ただし、触れさせればすぐに導入できるかというと、それほど簡単ではありません。次のハードルはすぐに現れるでしょう。全社員を対象にすることの期待やリスクに対する懸念はありますが、まずは先進的な社員を見つけて変革をリードしてもらうことが必要です」(寺田氏)

「LLMの技術はまだ日々変化しており、先月できなかったことが今月できるようになるといったことが頻繁にあります。一方で、会社の業務にどの機能が適用可能かはまだ十分に議論されていません。先月は導入の時期尚早と判断されても、今月には状況が変わるかもしれません。何に利用できるかを常に考え、技術の進展について検討を続けることが必要です」(押川氏)

アンケートの結果と両氏の議論から、生成AIの現状と将来展望が明らかになった。企業ではまだ大半の社員がついてきていない一方、数%のわずかな社員が毎日の業務に活用していること。中でも広報、人事、マーケティング、コンプライアンス、管理職の先進社員は、会社が理解・推奨している以上の使い方をしている可能性があることなど。使う個人と使わない個人の生産性の格差がこれから広がっていくかもしれない。鍵は経営者の積極的な関わり。一人でも多くの経営者が自ら使い実感するだけでなく、社員底上げ・リスク回避の罠を乗り越え、先進社員による会社変革のポテンシャルを引き出していって欲しい。

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