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DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用し、企業の業務プロセスやビジネスモデル、組織文化を根本的に変革する取り組みを指します。
DX推進とは、この変革を実現するために、戦略を策定し、組織・人材・業務プロセスを変えていく一連の活動です。
しかし、単にITツールを導入するだけでは、真の変革は達成できません。DX推進には、組織文化の刷新や人材育成、経営層の強力なコミットメントが不可欠です。
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本記事では、DX推進の概要や、DXを推進する企業が直面しやすい課題と、それらを乗り越えるための具体策を詳しく解説しています。
DXに本格的に取り組もうとしている経営者や担当者の方に向けて実践的な内容となっていますので、貴社の変革への第一歩としてご活用ください。
DXとは、単なるITツールの導入にとどまらず、デジタル技術を駆使してビジネスプロセスや組織文化そのものを変革することを意味します。
効率化によるコスト削減だけでなく、顧客体験の向上や競争力の強化にも及びます。
参考として、経済産業省によって策定された「デジタルガバナンス・コード」では以下のようにDXを定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。 」
参考: 「デジタルガバナンス・コード」における「DX」の定義
DX推進は、DXを企業内で促すための取り組みであり、社内でデジタル化を進めるだけで終わらせず、デジタル技術の導入による組織や業務変革を行い、企業としての競争優位性を築くことが目的です。
政府でもDXを成長戦略の柱と位置付けており、指標の整備や支援策を講じています。
一方で、DX推進には「人材不足」「社内意識の壁」「レガシーシステム」などの課題が伴います。
効果的に推進するには、全社的なビジョンの共有と段階的な実施が必要となります。
国は、企業のDX推進のために、さまざまな指標を発表しています。
中でも「DX推進指標」「デジタルガバナンス・コード」「自治体DX推進計画」は重要な指標です。
経済産業省が提供する「DX推進指標」は、経営者や社内関係者が、DX推進に向けた現状や課題の認識を共有し、次のアクションにつなげるためのガイドラインです。
この指標をもとに自己診断を行うことで、DXの取り組み状況を客観的に把握し、改善に向けた具体的なアクションプランを立案する手がかりを得られます。
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「デジタルガバナンス・コード」は、企業のDX対応を促すために経済産業省によって策定されました。このコードは、企業がデジタル技術を適切に活用して経営を改革する手引きとなります。
デジタルガバナンス・コードには、以下の項目が含まれています。
また、2024年に制定された「3.0版」では、AI(人工知能)などのデジタル技術の発展を見据えて、企業のビジネスモデルの抜本的な改革を促す内容となっています。
総務省は、自治体が優先して取り組む施策と国の支援内容をまとめた「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定しました。
この計画では、地方自治体がデジタル技術を活用して行政サービスの提供方法や業務プロセスを変革し、住民の利便性や満足度を高めることを目指しています。
重点項目には、例えばマイナンバーカードの普及促進、セキュリティ対策の徹底、行政手続きのオンライン化および情報システムの標準化が含まれます。
日本政府は、企業の競争力を強化するためのDX推進を国家戦略と位置付けて、積極的なサポートを行っています。
DXによって得られるメリットとして、「業務効率改善とコスト削減」「顧客体験向上と競合優位性の獲得」「新たなビジネスモデルの創出」が挙げられます。
それぞれのメリットについて、以下で詳しく見ていきましょう。
DXを導入すると業務の生産性が向上し、コストも抑えられます。
業務プロセスを自動化してシステムを統合すると、作業時間が短縮され、人的ミスも減ります。さらにペーパーレス化により消耗品の使用量が減り、追加のコスト削減につながります。
購買・調達部門では、人件費や発注ミスを減らせるだけでなく、データを可視化して購買戦略を緻密にできるため、仕入れ先との交渉力が向上します。
こうした無駄の削減により、担当者は戦略立案などの高付加価値業務に時間を振り向けられる点が、大きなメリットです。
DXは多様なデジタルチャネルを通じて顧客との接点を増やせます。
また、AIやIoTなどを活用した顧客データ分析を活用して、サービスの個別最適化が容易となり、パーソナライズされた提案やサポートが可能です。
これらによって、顧客満足度の向上や、市場の変化に適応した競合他社との差別化となり、業界内での優位性を確立することができます。
DXによって蓄積したデータや高度な分析基盤を活用することで、従来にはなかったサービスや収益モデルを生み出せます。
たとえば、製品の利用データを分析して新サービスを提供したり、他社とデータ連携することでプラットフォームビジネスを展開するといった形で、DXは事業モデルそのものの革新につながります。
こうした取り組みは顧客満足度を高め、市場の変化に柔軟に対応しながら競合他社との差を広げる要因になります。結果として業界内で優位に立つことができます。
日本の企業におけるDX推進の取り組みは、全体として年々取り組みが増加しているものの、業種や規模によって進捗に大きな差があり、特にサービス業や従業員規模の小さい企業ではDXの取り組みが遅れています。
以下で、DXの取組状況を企業規模や業種別に整理しました。
IPA(情報処理推進機構)が発行した「DX動向2024」によると、DXに取り組んでいると回答した企業は、2021年度の55.8%から、2023年度は73.7%と増えました。
日本企業でもDXが着実に広がっていることがわかります。
また調査年度は異なるものの、「全社戦略に基づき全社的にDXに取り組んでいる」と回答した割合は、日本の2023年度調査が、2022年度の米国調査を上回っています。
従業員規模別でDXの取組状況を見ると、DXに取り組んでいると回答した企業は「1,001人以上」の企業では96.6%、「100人以下」の企業では44.7%と、両者では大きな差がありました。
従業員規模が小さい中小企業ではDXの取り組みが遅れていることがわかります。
続いて、業種別で取組状況を見てみましょう。
「金融業・保険業」が97.2%、「製造業」が77.0%と高く、「サービス業」は60.1%と低くなっています。
比較的生産性が低いとされるサービス業で、DXの取り組みが遅れていることが伺えます。
日本企業のDXには、理想と現実の間にギャップがあります。
DX推進指標では、35項目の指標について各企業が自社の成熟度を6段階で自己評価します。レベル0は「未着手」、レベル5は「グローバル競争を勝ち抜ける」状態を示します。
IPAの調査によると、目標とされるレベル3に対して、2023年度の平均は1.26にとどまりました。現場だけでなく管理職や経営層の意識を変える取り組みが進まず、DX進展を妨げる要因となっています。
以下で、企業のDX推進を阻む構造的な課題を解説します。
DXを進めようとしても、社内の考え方や文化に壁があると計画が前に進みにくくなります。企業の中には昔からの業務のやり方や価値観が根強く残るところもあり、それが新しいデジタル技術への抵抗につながっています。
社内意識と文化を変えるには、まず小さな改善から始め、時間をかけて段階的に実施する方法が効果的です。
DX推進のためには、デジタル技術に精通した人材が必要ですが、多くの企業で確保が難航しています。特に、AIやデータサイエンス、クラウド技術など先端分野において、専門人材の需要が高まる一方で、供給は追いついていません。
加えて、既存の従業員に対するスキルアップの機会も限られているため、社内育成が進まず、人材不足とスキルギャップがDX推進を妨げる障壁となっています。外部から専門家を獲得すると同時に、社内人材の育成にも注力する必要があります。
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多くの企業には、長年使い続けてきたレガシーシステムが残っています。こうした旧式のシステムが老朽化し、DX推進の足かせになっています。
レガシーシステムは他のシステムと連携しづらいため、データ活用や業務効率化も進みにくい状況です。内部構造がわかりにくいブラックボックス状態となり、保守を担う技術者も高齢化していることから、次世代への技術継承が難しくなっています。
加えて、刷新には多額の費用と長い期間が必要となるため、経営層がリスクを懸念し、移行を後回しにするケースもあります。
DXの遅れは全社的な課題であり、購買・調達部門も例外ではありません。特にこの部門は、紙の書類や担当者任せの手続きが根強く残り、デジタル化の効果が十分に行き渡っていないケースが見られます。
以下では、購買・調達部門におけるDX推進の課題を具体的に説明します。
購買調達業務は、営業や生産管理といったフロントオフィス部門に比べ、DXの優先順位が低く設定されやすいのが現状です。購買調達業務は売上に直結しづらい「バックオフィス」と見なされることが多く、社内においてDX推進の意義が理解されにくいためです。
さらに、DXによって期待されるコスト削減効果が、初期投資に対して見合わないと判断されるケースも少なくありません。このような背景から、購買業務のDXは後回しにされる傾向があり、全社的なDX推進の足かせとなっている場合もあります。
現行の業務に慣れている場合や、プロセスに大きな問題を感じていない場合は、DXの必要性が認識されにくい傾向があります。
業務のやり方を変えようとすると、現場では抵抗感が強くなり、新たな取り組みへの関心も上がらないでしょう。
DXの効果やメリットが具体的に示されなければ、導入へのモチベーションも湧きません。
このような状況を打破するには、DXの具体的な効果や成功事例を共有し、意識改革を促進することが求められます。
購買・調達部門でのDX推進を成功させるカギは、部門全体で情報基盤を強化して、戦略的に活用していくプロセスにあります。
ポイントとして、「購入品情報の見える化」「サプライヤー情報の見える化」「マネジメント情報の見せる化」を軸に、効果的にDX化を進める方法を解説します。
購入品のコストを減らすには、品番・仕様・コスト明細などを集めて「見える化」し、データを分析する必要があります。情報を整理することで価格の妥当性を判断しやすくなり、適正な価格交渉や効果的な購買戦略につながります。
多くの企業では購入品の情報が部門や担当者ごとに散在しており、データ収集の時点で壁にぶつかりがちです。購買システムで情報を一元管理し、整えたデータを活用すれば、コスト削減効果を最大限に引き出せます。
サプライヤー情報を可視化すると、「品質(Quality)」「コスト(Cost)」「納期(Delivery)」の各側面でQCDを最適化しやすくなります。品質実績、価格変動、納期遵守率などのデータを集めて分析すれば、信頼性の高い取引先を選ぶことができ、リスクを抑えやすくなります。
さらに、環境負荷や労働環境といったサステナビリティ指標も見える化すると、調達活動を持続可能な方向へ導けます。企業は社会的責任(CSR)を果たしながら、競争力を高められます。
KGI(Key Goal Indicator)やKPI(Key Performance Indicator)は、収集から活用まで工程が多く、短期間で「見える化」しにくいという状況があります。
同時に「見せる化」を進めることも重要です。「見せる化」とは、経営層に提示したいマネジメント指標を選び、定期的に示す仕組みを整えることです。
この仕組みがあれば、経営層は現状を正しく把握し、戦略判断を下しやすくなります。
KGIやKPIは、単に収集や分析を行うだけでは機能しません。目標設定、進捗のフォロー、結果の評価まで一連のサイクルを整備して、業務改善につなげる必要があります。ダッシュボードで指標をリアルタイムで共有すれば、担当者は課題を早期に発見し、対応することが可能です。
データに基づく意思決定により、組織全体のガバナンス強化にもつながるでしょう。
DXを推進するにあたり、すでにDXに成功している企業の事例は、有益な参考材料となります。
ここでは3社の成功事例を取り上げ、それぞれが直面した課題、取り組みの内容、そして得られた成果を紹介します。
小売電気事業者である「東京電力エナジーパートナー」は、顧客や従業員から集めた自由記述式のアンケート分析に多くの時間と労力がかかり、迅速なフィードバックが難しい状況にありました。
そこで、生成AIの一種である大規模言語モデル(LLM)を活用して、自由記述式アンケートの自動解析に取り組みました。
ChatGPTを用いてアンケート内容を分類・要約し、重要な意見を抽出できるシステムを構築した結果、従来人手で行っていた分析作業が大幅に効率化され、迅速なフィードバックが可能になりました。
また、顧客や従業員からの声を的確に把握できるようになり、サービス改善や業務改革に活用されています。
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金融サービスを展開する「りそなホールディングス」では、銀行業務においてデータ活用が限定的であったため、業務効率と顧客サービスの改善に苦戦していました。
そこで同社は、データサイエンスを経営戦略の中核に据え、データ活用の基盤を整備しました。具体的な施策として、データ分析人材の育成やAI技術の導入、データガバナンスの強化を実施しました。
これらの取り組みにより業務効率が向上し、顧客満足度も高まりました。さらにデータに基づく経営に舵を切ったことで、持続的な変革を推進する新しい銀行の姿が形になりつつあります。
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クレジットカードを扱う「ビューカード」では、顧客体験(CX)と従業員体験(EX)の向上が求められていましたが、データ活用の体制が整っておらず、効果的な施策の実施が難しい状況でした。
課題を解決するため、デジタル戦略部を中心となり、全社的にデータ活用を浸透させる仕組みを構築しました。具体的にはデジタルマーケティングを内製化し、顧客データの分析を通じて、個々のニーズに応じたサービスを提供する体制を整えました。
これらの取り組みにより、顧客満足度が高まり、従業員のやりがいも向上しました。このDX推進は単発で終わらず、継続的な変革を生むサイクルが社内に定着しています。さらに、データドリブンな組織文化の醸成にも成功しています。
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DX推進は、単にデジタル技術を導入するだけの取り組みではありません。企業のあり方そのものを見直し、事業の競争力を高めるための根本的な変革を意味します。
DXの成功には、経営戦略と現場の実行を両立させ、社内意識を変革し、必要なスキルを備えた人材を育成することが欠かせません。加えて、短期的な成果だけにとらわれず、長期的な視点で取り組む姿勢が求められます。
本記事では、DX推進でよく挙がる課題と、成功事例から得られる実践ポイントを整理しました。これらを踏まえ、自社に合ったDX戦略を描き、変革を着実に進めてください。
デジタル変革をやり遂げた先には、企業の新たな成長の可能性が広がっています。
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