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ニトリは「暮らしの豊かさを世界の人々に提供する。」という目標のもと、2032年までに3,000店舗、売上高3兆円を目指しています。このビジョン達成の一環として、Eコマースの成長戦略を推進中です。店舗とECの融合による利便性向上を目指し、レコメンドエンジン「Rtoaster」を導入しました。従来のエンジンに対する課題を解決し、顧客ニーズに応じたパーソナライズを実現。さらに、検索エンジンの刷新やデータ活用も進め、店舗とECのシームレスな体験提供を目指しています。
※本記事は後編です。前編はこちらから
DOORS A/Bテストの結果、Rtoasterの採用に至りました。決め手は何だったのでしょうか。
株式会社ニトリ・古川喜章氏(以下、古川氏)シンプルにA/Bテストで、最も良い結果が出たことです。PoC段階で売上高が他社ツールに比べ103%*1に増加しました。
*1 ブレインパッドの「Rtoaster」と他社製レコメンドエンジンによるA/Bテストを1か月間実施した実績数値。
短期間でやってもらったということもありますが、タグを1つ入れるだけでテストができるようにしてくれたので、テストに協力してくれたメンバーの負担が小さかったことも大きかったです。テストのためにコードを書き換える必要もありませんでした。その分のリソースをブレインパッドが負担してくれたということです。
あとは、途中で学習期間を半分にできたりすることも、運用上の利点があると感じました。
そのほかに魅力的だったのが、読み物をレコメンドできることですね。これは他のレコメンドエンジンでは見たことのない機能です。

DOORS 読み物のレコメンドとは?
古川氏 商品の説明記事があるのですが、旬を過ぎるとアーカイブの中に眠ってしまってほとんど見ることができません。しかし例えばカーテンのページに、カーテンの測り方の記事が出てきたら、お客様の知識が充実しますし、買ってくださる可能性も高まります。読み物のレコメンドは要件にはなく、内田さんと松田さんが提案してくれたのですが、お二人の提案力の高さを感じました。
あとは代表品番でレコメンドすることもできるし、SKU(Stock Keeping Unit、在庫管理の最小単位)、すなわち色違いやサイズ違いなど最も細かいレベルでもレコメンドできるのも魅力的です。
DOORS PoCの結果、商品単価、購入点数および併売率が向上したとプレスリリースにも書かせていただきました。この結果に至った要因は何だったのでしょうか。
古川氏 A社製品とRtoasterで似たようなアルゴリズムがあるのですが、それらでは実はあまり大きな差が出ませんでした。差が出た理由は、Rtoasterのほうが選択できるアルゴリズムの数が多かったからだと思います。具体的には、A社はユーザー軸でのレコメンドをするアルゴリズムが存在しません。その代わりになるようなアルゴリズムもあるのですが、それよりもRtoasterのユーザー軸によるアルゴリズムのほうが良い結果が出たということです。
株式会社ブレインパッド・安良岡史行(以下、安良岡) ちなみに検証の結果は予想外だったのですか、それとも予想通りでしたか。
古川氏 予想外でした。A社とC社で値段が1桁違っていて、Rtoasterがその真ん中あたりでしたので、結果も真ん中かと思っていたのです。C社を超えたので、迷わずに済みました。
株式会社ブレインパッド・内田健太(以下、内田) 私はA社製品もかなり使い込んでいるので、A社には精度では勝つだろうと思っていたのですが、C社にも勝ったのは少し驚きました。

古川氏 ニトリの商品の性質とRtoasterの相性が良かったというのもあるかもしれません。
内田 ニトリ様の状況とアルゴリズムが合っていたということですよね。
古川氏 そんなイメージです。学習期間やN数、商品の選び方などによって変わってくるものがあるのだと思います。同じツールでも、ニトリネットと他業種のサイトでは結果が変わってくる可能性があるのではないでしょうか。
DOORS 今回、RtoasterのKPI設計の取り組みを社内でされました。その目的を教えてください。
古川氏 部内のデータ分析リテラシーの底上げが大きな目的でした。A/Bテストも顧客分析は、何人かの閉じたメンバーだけで実施し、理解していたところがありました。今回、他の社員もやりたいと言ってくれたので、実際にサイトを作ったり商品を掲載したりする業務に生かせる、リテラシーを向上させることができました。
DOORS 成果指標を決めずに導入して、導入効果の評価がうまくいかなかいという経験
を我々も何回かしてきました。そのようなことを防ぐことも、今回は意識されたのでしょうか。
古川氏 はい。「観・分・判」の文化はあるとはいえ、インプレッションとかコンバージョンなどの言葉は、店舗ではなじみがありません。店舗から本部の部署に移ってきたばかりの人には、例えば「コンバージョンレートは下がったけれど、インプレッションが上がっている」のが良いことなのか悪いことなのかよくわからないことがあります。最終的な指標とその指標を達成するためのサブとなる指標の関係、すなわちデータの階層構造を理解してもらいたいと前々から思っていました。KPI設計をすることで、それが理解できます。
DOORS 以前、データ分析の内製化を進める際に、ブレインパッドが伴走支援をさせていただきました。そのときにさせていただいたことが、今になって役立っていることもあるのでしょうか。
株式会社ニトリホールディングス・福井裕也氏(以下、福井氏) 多々あると思っています。ブレインパッドの伴走を通して、自分たちが成長したと思えることは、単純に分析の手法を覚えたということではありません。きちっと課題設定をして、それを解くための分析ができるようになり、さらに分析結果をわかりやすく伝えることができるようになったということです。あまり苦労せずに上層部に理解してもらえるようになりました。

DOORS 意思決定につながる報告の仕方について、具体例があれば教えてください。
小倉氏 1坪あたりの売上が少ない商品分類を削っていくという一般的な考え方があります。原則その通りだと思いますが、それだけを追求すると最終的に売れているものしか置いていない、あまりおもしろみのない店舗になるおそれもあります。そこで坪単価だけではなくて、それがあることで顧客層を拡大しているとか、それを買うことで次の購買に広がるという軸でも評価したいという提案をしました。その提案の有効性を伝えるために、事前にシミュレーションした結果とその分析レポートを用意しました。
DOORS 上層部から課題が下りてきて、その提案をするまでどれぐらいのスピード感なのですか。
小倉氏 1週間足らずでいったん提案の方向性を示して、都合2週間後には提案を出します。

DOORS 速いですね。ところで武井様から見て、メンバーの分析力はいかがでしょうか。
武井氏 けっこうレベルが高いと感じています。ニトリの特徴として本部社員には必ず店舗業務の経験があります。私も店長をやりましたが、店舗や商品に関する大切な知識はほぼ全社員が持っています。その中から選抜されたメンバーが分析業務に取り組んでいるわけで、業務がわかっているから適切な提案できるのです。
ECについても、店舗のことを理解した上でECに携わっているので、要点を捉えたかみ合った議論ができます。一方で店舗から来たばかりの人はECのことがよくわからないので、古川が言うようにまずは考え方を理解してもらいたいのですが、いったん理解すればそのあとの成長は早いと思います。
DOORS Rtoaster導入後の施策を教えてください。
古川氏 私が頭の中で考えているベストのアルゴリズムや枠の配置があります。これらが本当に正しいかどうか検証していくのが、当面の主な活動になります。最適なアルゴリズムの配置や、学習期間の調整や、カテゴリーや売価などさまざまなフィルターをかけた検証をしていきます。
松田 ここにレコメンドを表示しようとか、ここに施策を打とうといった施策数が、かなり多く。最初に古川様が作られた施策案を拝見したときにすごいなと純粋に思いました。以前からこういった施策を行いたいと構想をお持ちだったのでしょうか。

古川氏 A社製品でやってきたことがベースにあります。A社製では足りなかった機能を、Rtoasterの仕様書を見ながら、「こんなアルゴリズムがあるならここに当てはめよう」という感じで進めました。
松田 お客様の導線のシナリオが頭の中にあって、ここではこういうロジックを使いたい、ここではこういう施策をしたいといったことを落としこんだということでしょうが、簡単にできることでは無いと思います。
DOORS そのあたりは、福井様と小倉様が取り組まれた顧客分析の成果が生かされていますか。
古川氏 私も2人と同じ部署にいたときに顧客分析にも関わっていたので、そのときに得られた知見は私の中にもあります。レコメンドそのものに関しては、2人に相談したことはあまりないのですが、顧客分析の知見も生かしながら考えました。
武井氏 店舗では週報を出しています。担当者、フロアマネジャー、店長と層別のフォーマットがあり、それぞれの立場で問題を発見し、解決策を考えることを毎週実施しています。それで鍛えられたことで、考える習慣が身についたのだと思います。
DOORS ニトリネットの刷新後の展望について教えてください。
武井氏 ニトリネットとアプリをセットで刷新しています。店舗とECの融合は最優先課題なのですが、ニトリ以外にもデコホーム、N+、島忠などのブランドサイトをわかりやすくして、もっと見てもらえるようにします。
その後、フェーズ2およびフェーズ3という形で、随時機能を向上させていく予定があります。先ほど申し上げましたが、マーケットプレイスも現在準備中です。他社にも協力していただいて、お客様にとってベストな環境を作っていきます。
あとは、お客様同士が交流できる場を提供したいと考えていまして、暮らしの困りごとがあったら相談できて、それに答えが返ってくる場を現在準備しています。
これらの施策で、お客様の「暮らし」に関する困りごとを解決できるようにしたいと思っています。他社の総合ショッピングサイトは販売サイトとしては強力ですが、総合的なサイトでもあるので、目的を絞るのは難しいところがあります。我々は「暮らし」にこだわって、そのポータルを担う形で精進していきたいと考えているのです。
安良岡 その仕掛けはおもしろいと思います。明確に買うものがあるときは、総合ショッピングサイトに行くのかもしれませんが、何を買おうか悩んでいるときに、まずはそこに行ってみようというサイトはあまりありません。
DOORS 最後にブレインパッドへの評価をお願いいたします。
武井氏 Rtoasterは、正直に言えば、少しお値段が高いなと思ったのですが、社内でも話し合いを重ね、検証を重ねた結果、現時点で日本一のレコメンドエンジンだという認識でいます。

福井氏 Rtoasterの導入には関わっていないのですが、後方支援や設計には関わりました。その立場で言うと、ブレインパッドには分析の支援でかなり協力してもらい、しっかりやってもらったと思っています。とても信頼ができる会社だと、個人的には評価していています。
小倉氏 評価という文脈から外れるかもしれないのですが、以前内製化で支援してもらったときに得た知見を社内に広める活動をしています。全社員が入社数年で基礎的な分析リテラシーを身に着け、そこからさらにステップアップしていくような体系を計画しており、今まさにその普及をしているところです。それだけの価値のある知見を、ブレインパッドから受け取ったと思っています。
内田 実は、「これから始めるデータサイエンス入門」という弊社の講座に、御社の社員からの個人的なお申し込みをいただいています。すばらしいことだと思います。
小倉氏 基本的な知識が社内に広まっていることで、社員に向上意欲が生まれ、教わったことのさらに上のレベルの知見を交互に教え合う循環ができてきているようです。
古川氏 ここまででも評価に関することをいくつか申し上げてきましたが、提案や分析のレベルが総じて高くて、そこは非常に信頼しています。
DOORS ブレインパッドへの高い評価をいただきました。伺っていてどう感じましたか。
松田 ブレインパッドにはお客様視点のメンバーが多いとは思っていまして、ニトリ様に少しでも喜んでいただこうと頑張っているところが評価されていると感じています。すごくうれしいことですね。
内田 私たちの提案を逐一検討いただいたりとか、広い視野で私たちの言うことに耳を傾けていただけいていると実感しています。提案のしがいがありますので、これからもどしどしご提案していくつもりです。引き続きよろしくお願いいたします。
安良岡 私もニトリで買い物をすることが多いのですが、裏側でのお客様本位の考え方を知ってうれしく思いましたし、新しいサイトがさらに使いやすくなることもひとりの顧客としてすごく楽しみです。こうしたお客様が喜ぶことに、我々も絡ませていただいていることも非常に誇らしいです。関係している弊社社員もみな同じ気持ちだと思いますので、ぜひ今後ともいろいろと一緒に取り組ませていただければと願っております。
DOORS 本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
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