【前編】「FaaS構想」を推進するアサヒの人材育成~BrainPad DX Conference 2022~テーマ別 企業DX対談

3月23日に開催した「DOORS-BrainPad DX Conference2022」。
3000人を超える視聴申し込みをいただいた本イベントの内容をお届けいたします。

今回は、

・アサヒグループジャパン株式会社 取締役 兼 執行役員 兼 事業企画部長 野村 和彦氏
・株式会社ブレインパッド 代表取締役社長 草野 隆史
・株式会社ブレインパッド アナリティクス本部 データ活用人材教育サービス部長 兼 データ活用人材育成サービス統括 奥園 朋実

による、『「Faas構想」を促進するアサヒの人材育成』と題した対談の詳細をみていきましょう。

DX推進の変遷とValue Creation室

ブレインパッド・草野 隆史(以下、草野) アサヒはナンバーワン飲料メーカーであり、DX銘柄としても選ばれる飲料業界の先進企業で業界をリードしている会社です。DX戦略の概要、その中でブレインパッドがサポートした人材教育はどういう位置づけだったのか、何のために行われたのか、という話を伺いたいと思います。

まずは、どういうDX構想だったのか。また、どういう変遷で今に至ったのか、という話をお聞きしてもよろしいでしょうか?

アサヒグループジャパン・野村 和彦氏(以下、野村氏)今は「DX」という表現をしていますが、その前の銘柄は「IT銘柄」といわれていました。ITからDXに変わってきた中で、私たちもそれに合わせて様々な動きをし、今に至っています。アサヒは、国内でいえば酒類事業・飲料事業・食品事業などの多岐にわたる事業を行っています。その中で、IT事業は「徹底した効率化」を中心に行ってきました。ユーザビリティを中心に、使い勝手をよくする、コストを削るといった点も含め、効率化を高めたことが評価されてきたと思います。

近年、IT化よりもDXという言葉をよく聞くようになり、数年前にDXにアサヒの「A」を付け、アサヒのDXという意味を込めた「ADX」を立ち上げました。当初は社内ITの流れを受け、システム部門がADXを立ち上げました。デジタルという意識が頭にあるため、トップからの指示としてもシステム部門がやらなければいけないという雰囲気になりました。

しばらくはそれで動いていましたが、DXは「ビジネスのトランスフォーメーション」、つまり、企業としての一大改革です。「改革を起こすためには、システム部門ではなく経営のど真ん中の視点で行わなければならない」と考え、ADXを作ったという流れですね。

ここで、「システマチックなことを行う」という点から「ビジネス改革を行う」という点に議論が移り、2020年の4月にValue Creation室を立ち上げました。DXという文字を入れようかという議論もありましたが、結局私たちの目的は価値を生み出すことであるため、その名称になっています。IT銘柄からDX銘柄になったときに、私たちの思想も受け入れてもらえたと認識しました。

草野 ADX戦略を走らせている中で、途中で止めて切り替えたということですね。アサヒほどの規模の会社が一度走らせた戦略を途中で止めるためには、取締役会などの場所で議論を行ったのでしょうか?

野村氏 経営会議のなかで「時代はこういう風に変わっていく」という話を行い、私たちのビジネスの今後について議論しました。経営陣にも理解してもらい、今のADXを作る流れにつながっています。そういう意味では、「ブレーキを踏んだというより角度を変えて加速させた」といえるでしょう。

草野 Value Creation室が担った役割はどういったものでしたか?

野村氏 Value Creation室は「価値を生み出す」ことが目的です。デジタルを意識しつつ、私たちとして「トランスフォーメーションを起こせる人材になる」必要があります。しかし、注力できていなかったため「人の強化」に対する舵取りが始まりました。

草野 そういう意味では、Value Creation室の役割としては、「事業開発」と「人材投資・開発」の両方を担っていたわけですね。その役割は、初期の設計通りでしたか?または、立ち上げる中で人がついてきていないため、後からミッション・役割を果たすために変化したものでしょうか?

野村氏 役割は少しずつ変化していったように思いますね。新しいものを生み出そうとプロジェクトを行っていく中で、「このままではいけない」という思いがありました。

「組織への浸透」と人材育成

草野 人材開発面では、Value Creation室で「人材開発・人材育成を行っていかなければならない」という議論が出たかと思います。では、どのように具体的な業務改革や人材開発・人材育成に方向転換されていったのでしょうか?

野村氏 DXを進める中で、どの企業においてもデジタル・IT・システム人材が必要になると思います。しかし、アサヒでは、そのような人材が圧倒的に足りませんでした。強化するのであれば外部からの受け入れも実施しなければなりません。しかし、「DXは一部のチームがやるものではなく、会社全体で改革を起こしていく」ものです。そして、会社を動かしているのは人であることから、「人が何をできるか」という点にフォーカスしていきました。

これまでアサヒにおける人材育成は人事部門による「レールを敷いた研修」や「階層別研修」を行っていましたが、全員が変わっていく必要があります。そのため、研修を受けたメンバーが芋づる式に広がっていくような形を目指して行動していきましたね。

草野 デジタルトランスフォーメーションを起こすためには、「まず、人をトランスフォームしなければならないという問題意識になった」ということですね。人材育成・開発も引き受けるとなったときに、「アサヒの人事部」は反対・賛成の意見も踏まえて、どういう流れになったのでしょうか?

野村氏 限られた予算の中で育てるこれまでの人材育成では、Value Creation室の目標は達成できません。研修のターゲットは全社員であったため、そこに対してどう投げかけるかといった点を考えました。人事部が想定している研修の形式はこの時点で当てはまらなかったといえます。

人事部が最も気にしたのはコスト面です。「いくらかかるのか」「そんな予算はとれていない」といった意見が出てきました。そのため、Value Creation室の「新しいものを生み出す知恵のために使う」ための予算の一部を人材育成・社員の意識改革に回し、統率を図りました。

草野 人材育成・開発に関しては、独自の議論を展開していったということでしょうか? 

野村氏 人事部は一つの部門がDXを行うと捉えていました。Value Creation室ではそうではなく「組織そのもの・どの部門であってもDXにつながる」と考えました。実際にトランスフォーメーションはどの部署にも可能性はあります。そのため、ターゲットや人を絞ることはしませんでした。

草野 では、アサヒとしての将来のあり方、目指す姿はどのようなものでしょうか?

野村氏 大きく分けて2つの目指す姿を想定しています。

1つは、「もっと新しい発想、違う価値観でビジネスを行い、より面白くビジネスを行う」といった新しい視点を持つというものです。

例えば、私たちはお酒のメーカーであるため、競合他社は何社かに限られているように見えますが、そうではありません。例えば、風呂上がりに全ての人がビールを飲むとは限らず、ビールではなくウィルキンソンのような炭酸水を飲むという選択肢もあるでしょう。しかし、そもそもその時間をスマホに充てられるとビールを飲んでもらえない、ということになります。そうなれば、「競合はもしかしたらスマホではないか」といった見方もできます。そうした視点があれば、新しいビジネスの発想や価値観の獲得につながることから、将来的な可能性をより検討できるようになります。

もう1つは、既存・拡大していくビジネスの中で、「今を大事にしすぎることなく、次のステップを切り拓く集団になること」です。そうなれば、企業そのものが常に回り続け、動き続けられるため、そのようなところを目指していきたいと思います。

草野 新しい事業を作りつつ、次へ、次へということですね。社風・カルチャー自体を変えにいこうとされているという理解でよろしいでしょうか?

野村氏 DXはそういった捉え方ができると思います。食品業界は、まだそのような段階ではないかもしれません。しかし、業界によってはそのような話も出てきているのは把握しています。

いつ既存の業界システムそのものを壊す確信的なイノベーションであるディスラプションが起きるかわからない以上、アサヒもそのような捉え方をしなければなりません。

草野 IT業界は変遷が激しいため、そのような危機感を持つ企業は多いと思われます。しかし、アサヒほど大きく、飲料メーカーの中でも確固たる立ちマーケットがある中で、その危機感はどこから来ているのでしょうか?

野村氏 海外のいろいろな動きやDXに限らず、ディスラプションを起こされて衰退していった会社はあると思います。そうした事例と自分たちを置き換えてみました。そのため、「こんなことが起こるのではないか」「場合によっては自分たちの方から起こしていかなければ、先にされたら危険だな」ということをいろいろなところで発言するようにしました。

従業員からすれば、今までは「こういうのをやっていればいい」「ああいう風にすればいい」という先輩から受け継いだビジネスのやり方があったといえます。そのうえで、「これでいいのかな?」と思いながら仕事を行っていたところに、DXが出てきたことに加えて、私からも「これでいいとは限らない」と投げかけ、それに対して賛同するメンバーが現れたという流れですね。

草野 DXをけん引していく人材開発をしなければならない中で、「人材を育てる方向性」についてはどのように考えられましたか?

野村氏 人材育成のビジネスを新しく行うという想定を行い、DXをDとXの2つに分けました。「デジタル」と「トランスフォーメーション」です。

1つはデータの利活用に対して、しっかりと考えられる人材を育成することです。データをどうやって分析できるかといった、データサイエンティストのようなスペシャルな人材でなくても構いません。この場合は、ファクトベースで物事を語れるような人材を育てたいと考えました。

もう1つは、「今をあえて否定して常に新しいものを生み出していく」というクリエイティブなことをやっていく視点を持つ人材を育成することです。そして、そうした人材が考えたものに関しては、最終的にマネタイズできるビジネスに変えていくことを目標としました。

このような人材が増えていくことで、新規・既存事業どちらでも今の改善点をファクトベースで考えることができ、改善ポイントも見えてくるようになります。まとめると、「ビジネスはクリエイティブをメインに、ビジネスを企画して形にしていく」、「データはデータを扱い分析し、クリエイティブの方に振ってまた戻していく」という両軸になります。

草野 大きく二つのタイプの教育プランを作り、社内に展開するという話になったのですね。特にその中の「分析的な人材」の点でブレインパッドにお声をかけていただいた、という流れになりますね。当初、200人くらいの枠を設け社内応募をかけたと聞いていますが、どのようにして応募をかけたのですか?

野村氏 200人にしたのは予算の都合もありました。個人としても「改革をするぞ」という人材がいたら嬉しいなという思いで、このくらいの規模を想定していましたね。過去の経験では社員に声をかけて、100人も集まったことはありませんでした。しかし、今回は結果的には「500人」を超える応募がありました。

今回は、私たちも仕掛け方を変え、社員限定ポータルサイトの冒頭に動画を載せました。パソコンを開けると必ず動画が目に入るものです。「DXはみんなでやる」「どの人でもできる」というメッセージを載せたかったため、全社員に情報をフルオープンにして募集をかけました。

200人分の予算でしたが、せっかく会社を変えたいという思いで手を挙げてくれたメンバーに対して、予算を理由に切ることはできなかったので、500人を超える応募者全員に受けてもらうことにしました。

草野 500人も応募があったら経営者、例えば僕だったら嬉しいと感じるのですが、どのような感想を持たれましたか?

野村氏 アサヒとしても嬉しく思いました。この経営予算をつけた経営陣もそれだけ変わろうとしているメンバーがいることに対して、嬉しさや期待感を抱き、驚いていましたね。経営陣も、これだけの声があるのだから会社としても本当に変わらないといけない、変わっていくべきだと強く感じたと思います。

ビジネスアナリスト育成の裏側

草野 500人の応募者の研修プロジェクトをブレインパッドで引き受けさせていただきました。残念ながらコロナの影響によってオンラインでしたが、実際にやってみて熱量などはどうでしたでしょうか?

ブレインパッド・奥園 朋実(以下、奥園)どういう研修だったのかも合わせてお話します。今回は、明確な目的をいただき、その目標に合わせて研修を設計しました。「育成したいのは、データサイエンティストではなくビジネスアナリストだ」と。そのため、しっかり各事業会社のビジネスドメインを理解したうえで、どういうデータ分析・活用すると課題解決できるかという事業活動の領域を担当できる人材が欲しいとのことでした。

データサイエンティストであれば、パートナーと組めば解決できます。そのうえで、「ビジネスアナリストとして、課題解決できる考え方を自分たちで持たなければならない」という明確な課題をいただきました。そこで、ご提供したのは3ステップの教育プログラムです。

まずは「データ活用はなぜ必要なのか」というセミナーを530名全員に受けていただきました。そのあとは、データ分析統計学の基礎知識をイーラーニング教材で約5時間かけて学んでいただきましたね。ここまでが基礎研修です。

次は、30人ずつのクラスに分かれ「コアスキル集中研修」を行いました。説明的分析と呼ばれる現状の可視化に関するものです。エクセルを利用した分析プロジェクトの研修を2日間行いました。そして、現在進行形で行っているのは、機械やAIをビジネス活用するにあたって、「アサヒのビジネスでどのようなプランニングができるのか」という、「専門スキル研修」です。

目標が非常に明確であり、人数も多く、提供する側としては大変嬉しく感じました。受講者は特定の部署の人ではありません。営業・マーケティング・物流・製造など、幅広い部署の方が研修を受けていただくことにより、ビジネスの知見とデータ活用が掛け合わされました。それにより「何かが動き出した」ことを感じました。来年度の取り組みについては改めて話をしているところです。このプロジェクトは1年で終わるわけではなく、数年単位での取り組みとなると思います。

草野 現場で受講している人からのフィードバックはどうでしょうか?

野村氏 今までの研修とは異なり、ありとあらゆる部門から来ていますね。私たちは3つの事業を行っていることから、それまでは事業ごとに声をかけていました。しかし、今回は全社員に声をかけているため、様々な立場のメンバーがいろいろな議論をしながら進めており、非常に有意義な場になっています。

研修内容も「すごく大変だ」という人もいれば、悠々と超えていく人も、そこから「社内にもこんなにいろいろなメンバーがいるのか」と得意分野も含めて気付きを得ています。「データを活用する」「新しいビジネスを生み出す」という発想からすれば、これまでとは異なる考え方となるでしょう。この流れを受け入れ、血肉にして持ち帰り、新規事業だけでなく今のビジネスの中でどう生かすことができるのか、というのが今後の大きな課題です。そのうえで、期待している状況です。

草野 ここ最近、ブレインパッドとしても組織開発の仕事や相談が増えていますね。その中でも、ここまで明確に「こういう人材を育成したい」と言われるところはそう多くはない印象ですがどうでしょうか?

奥園 アサヒのように「企業としてDXを用いてどこにいくのか」「足りないものは人材である」「逆引きするとこのような人材が必要である」という解像度が高い企業は、ほぼありません。例えば、「データ分析しなければならないため、データサイエンティストを300人育成したい」という依頼に対し、「それはなぜですか」と理由を聞いても、明確な答えが返ってこないというケースは多いです。

「人材を育成することが目的」となり、HowとWhatが逆になっている会社もあるのが実状ですね。アサヒからいただいた提案は非常に解像度が高く、「ビジネス成果」を目標に現場の社員が学び、活用いただく点が他社とは違うと感じました。

草野 例えば単体のマーケ研修だけであれば、マーケ用のコンテンツを作るケースは多いと思います。しかし、今回のように営業・マーケ・物流・製造など、多様な部署の方が集まるとコンテンツを作る場合になかなか絞れず、難しいかと。その部分はどのように解決したのでしょうか?

奥園 初回の取り組みは、皆がわかりやすい事例ということで、販売データ・POSデータを用いて分析しました。「部署に限らず、基本的なデータ分析の考え方を統一していきましょう」という流れで設定したものです。

しかし、「モノづくり」や「物流」は販売データの概念と距離があるため、苦労されていましたね。この担当領域に合わせた分析テーマを来年度以降、どうブラッシュアップしていこうか話し合いをしているところです。実際、専門分野ごとに学ぶべきこと・活用分野は枝分かれしていきますが、「起点を作れた点」は良かったと感じています。

草野 500人はオンラインでないと無理な規模だと思いますが、200人の想定時からオンライン前提だったのでしょうか?

奥園 200人想定時から「オンライン前提」でお話をいただいていました。オンラインで行えるということは、北海道の方と沖縄の方も同時に研修が受けられます。また、ある企業では、海外からの参加した事例もあるため、物理的な障壁がなくなるという点はメリットでしたね。

WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

DOORS編集部

ブレインパッドのマーケティング本部が中心となり、主にDXにまつわるティップス記事を執筆。また、ビジネス総合誌で実績十分のライター、AI、ディープラーニングへの知見が深いライターなど、外部クリエイターの協力も得て、様々な記事を制作中。

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