
リスキリングとは?DX時代の人材育成に必要な考え方と方法論
- [執筆者]
- DOORS編集部
デジタル技術の導入によってビジネスが大きく変わると、労働者に求められるスキル要件も変わってきます。そのため、企業はDX関連の業務に社外から人材を確保するだけではなく、社内の人材が新たにデジタル技術を学び直し、DXに対応できるように準備しなければなりません。
この新たな学び直しを「リスキリング」と呼びます。今回は、経済産業省の審議会で発表された資料を基に、リスキリングの意義や国内外の事例について紹介し、リスキリングに向けた仕組み作りのポイントを解説します。
関連:DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?「DX=IT活用」ではない。正しく理解したいDXの意義と推進のポイント
リスキリングとは?用語の定義とDX時代に欠かせない理由
はじめにリスキリングの意味と、全社的なDXの人材育成にとって、リスキリングがどのように位置づけられているのか理解しましょう。
リスキリングの定義
経済通産省の審議会で発表された資料では、リスキリング(reskilling)は以下のように定義されています。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
リスキリングは、「新たにスキルを身につけること」とされ、特に社会人の転職やキャリアアップの文脈で用いられる傾向にあります。2020年1月に開催された世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)においても、WEFが「リスキリング革命」を推進すると表明したことで、欧米のみならず日本でも注目を集めるようになりました。
リスキリングがDX時代に注目を集める理由
リスキリングの概念は、DXの人材育成においてしばしば用いられます。デジタル技術の進歩に伴い、企業の事業モデルやサービス、製品のあり方が大きな変化を遂げています。その中でAIやIoT、「ロボット技術」または「ロボティクス」などに関連する新たな職業が増えていくと考えられ、デジタル技術を取り入れた形で仕事の進め方が大幅に変わる職業も少なくありません。こうした環境変化に適応するためにも新たなスキルを習得すること、すなわちリスキリングが必要だと考えられるようになりました。
リスキリングは、企業にとっても労働者にとっても「生き残り」に欠かせない戦略のひとつとされています。デジタル技術の力を取り入れて新たな価値を生み出し続けるには、企業が従業員の能力・スキルを再開発するための組織的な仕組み作りが必要です。また今後、DXがさらに普及していく中で労働者が自らの価値を生み出し続けるためにも、デジタル技術に関連した能力・スキルはより求められるようになります。
また、デジタル技術に関連しているからと言って、システムエンジニアやプログラマー、DX推進のプロジェクト関係者など、一部のIT技術者やシステム担当者だけにリスキリングの取り組みが限られるわけではありません。DXは、企業の価値創造のプロセスを根本から変化させる可能性を有しています。したがってリスキリングは、営業やマーケターなども含め、すべての人材に対して求められる取り組みと言えるのです。

リカレント教育・生涯学習との違い
リスキリングと類似した概念として、「リカレント教育」や「生涯学習」などが挙げられます。どちらも、学校を卒業した人間が何かを新たに学ぶという意味では共通しています。しかし、リカレント教育が「教育→就労→教育→……」のように、教育を受ける期間と就労する期間を繰り返すことが想定されているのに対し、リスキリングは基本的にある企業に属しながら新たなスキルの習得を目指すことが想定されている点に違いがあります。リスキリングは、職から離れて学びに専念するわけではありません。
また、企業内の教育プログラムとして、「OJT」(「職場内で行われる教育訓練)が連想されますが、OJTもリスキリングとは異なる概念になります。OJTは既存の組織、既存の業務を前提としており、その中で既存の業務を行いながらスキルを身につけることを目指します。一方、リスキリングは、既存の組織や業務を前提としておらず、社内には現存しないような仕事や、遂行するためのスキルを持つ人材が社内にいないような仕事のためのスキル獲得を目指す取り組みです。つまりリスキリングのための仕組み作りには、OJT以上にドラスティックな考え方が求められるのです。
リスキリングの必要性と国内外の事例
DX推進に際しては、人材育成が企業にとって大きなチャレンジとなっています。その課題解決のために、リスキリングに本腰を入れて取り組む企業が増えてきました。ここでは、国内外の企業や経済産業省がリスキリングについてどう考えているのか、あるいはどのように取り組んでいるのか紹介します。
DX推進における人材育成の課題
DXを推進していくためには、先進的なデジタル技術やデータ活用に造詣が深く、同時に社内の業務内容を熟知してデジタル技術で何ができるか、どんな限界があるのかを把握できるような人材が欠かせません。
しかし、現在IT人材の不足は深刻化しており、戦略的に人材育成や確保を進められない企業は、DXを実現できないというリスクが高まっています。こうした中で、DX人材育成に求められるポイントは5つあります。
- ITシステムだけでなく人材へ投資する
- 社内での育成と外部リソース活用の範囲を明確化する
- 最低限ビジネスプロデューサーは自社で育成する
- 事業部門の全社員にデータ活用の基礎的な素養を習得させる
- 受発注関係を超えた存在として外部パートナーを認識する
こちらの詳細については、以下の記事も参照ください。
【前編】DX人材とは?~必要な役割やスキル、人材育成やチーム組成のあるべき姿を解説~
【後編】DX人材とは?~必要な役割やスキル、人材育成やチーム組成のあるべき姿を解説~
国内外の先進的なリスキリング事例
実際にDXの人材育成は、どのように行われているのか。ここでは国内外の事例を紹介しましょう。
AT&Tでは、急速な環境の変化を把握し、2013年の時点で従業員が今後、身につけるべきスキルの見直しを行い、リスキリングプログラムを開始。2020年までに10億ドルを投資して10万人のリスキリングを実施し、社内技術職の80%を外部人材ではなく、社内の異動によって充足させています。
また、アマゾンやウォルマートのような小売大手も、従業員のリスキリングに力を入れる姿勢を明確に打ち出しています。アマゾンは、一人当たり日本円で約75万円を投じ、2025年までに従業員10万人をリスキリングすることを発表。またウォルマートは、VRを用いたイベント・災害対応や、機械操作などのスキル習得を進めています。
国内でも、DX推進と並行して従業員のデジタルリテラシーを高めようとする試みが始まっています。日立製作所は、国内グループ企業の全社員約16万人を対象としてDX基礎教育を実施すると発表。またブレインパッドの支援事例の中にも、三菱UFJ銀行様のように「データ分析の民主化」に向けて一般社員のデータ分析スキル底上げを目指した人材育成サービスの開発・実施に取り組まれる例もあります。
経済産業省はDXとリスキリングをどう進めるか
企業の努力に頼るだけではなく、経済産業省でも企業や、社会のDX推進を促すための環境整備を加速させています。その一環として人材育成のあり方にも課題意識を持ち、2021年には「デジタル時代の人材政策に関する検討会」と題した審議会を複数回開催してきました。
この審議会の中でリスキリングについても言及され、「スキル・能力の見える化などとあわせて、企業内でのリスキリングをもっと促進するための取り組みが必要なのではないか」と課題を挙げています。
リスキリング促進策についてはまだ具体化されていませんが、今後さらに議論がなされ、企業や個人のリスキリングを促すインセンティブや方向性などが提示されることが考えられます。
企業がリスキリングを進めるための3ステップ
では、実際に企業がリスキリングを進めるためには、どのようなポイントが存在するのでしょうか。ここでは、ブレインパッドの支援事例も参照しつつ、大きく3つのステップに分けて概要を説明します。
求められるスキルと対象となる社員・組織を定める
リスキリングの仕組みが、自社に求められる人材要件を満たすものでなければ意味がありません。そのためにも、まずリスキリング対象がどんな部署のどんな従業員なのかを定めることが重要です。
例えば三菱UFJ銀行様の場合、グループ行員によるデータ活用の文化が浸透していないという課題に基づき、データ活用・分析に関わる部署・担当者の業務内容をヒアリングし、そこから逆引きする形でデータ分析や統計学の基礎を習得するためのコンテンツを開発しました。現場のデータ活用ニーズをもとに、求められるスキル群と受講ターゲットとなる対象者を明確化することが、成否を分ける鍵の1つです。
【関連】『ブレインパッドのデータ活用人材育成サービス』事例ダウンロード_三菱UFJ銀行様が取り組む、企業にとっての真のデータ活用とは?
社外の専門組織を活用する
デジタルスキルは、業界や職種などを問わず共通する部分も多く、すべてのリスキリング用コンテンツを社内で開発するのは非効率であると考えられます。社外のコンテンツや専門家を活用したほうが、費用と時間の節約につながりやすいケースもあるのです。
もちろん、社外から講師を招いたりコンテンツを調達したりする場合、それらの選定やコスト、企業文化や業務フローなどの認識合わせなど、利用者側の意図通りに研修が進まないリスクもあります。社外のリソースやサービスを利用するにしても、課題設定や施策への落とし込み、座学のみならず実践力を養うプログラム作りなどさまざまな課題に柔軟かつ迅速に対応してくれる信頼できるパートナー企業選びも非常に重要です。
社員の声を取り入れつつ継続的に実施する
リスキリングは、一回きりではなく継続して行うことが大切です。リスキリングの必要性を社員に示してモチベーションをかき立てつつ、リスキリングプログラムへのフィードバックをしてもらいながら改善を図っていくことも企業としては必要です。
ブレインパッドのデータ活用人材育成サービスでも、受講後アンケートや人事部の研修担当者へのヒアリングを通じてサービス改善を常に行っています。三菱UFJ銀行様の事例でも、受講後アンケートの要望をもとに、学習理解度や利用ニーズに合わせて、より現場の業務に生かしやすいものに改善を行いました。
【関連】【座談会】DX人材育成のプロが語る~組織にデータサイエンスを根付かせるためには~ 前編
まとめ
DXの重要性がより注目されるようになった今、人材育成に対する課題意識を持つ企業が増えています。リスキリングが単なるOJTや学び直しとは異なる概念であることを理解しつつ、自社の社員に求められるスキル要件を洗い出し、外部リソースをうまく使ってリスキリングのための仕組み作りを、企業は迅速に進める必要があります。特に これから本格的にDXに取り組む企業にとって、このリスキングの実行精度が、DX実現および継続的な変革の成否を分けると言っても過言ではないのです。
DXの本質について改めて知りたい方は、こちらの記事もぜひご一読ください。
(参考)
リクルートワークス研究所「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
DOORS「【前編】DX人材とは?~必要な役割やスキル、人材育成やチーム組成のあるべき姿を解説~」
DOORS「【後編】DX人材とは?~必要な役割やスキル、人材育成やチーム組成のあるべき姿を解説~」
ブレインパッド「全行員向けに実施した「データ分析の民主化」に向けた人材育成支援」
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WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド
DOORS編集部
ブレインパッドのマーケティング本部が中心となり、主にDXにまつわるティップス記事を執筆。また、ビジネス総合誌で実績十分のライター、AI、ディープラーニングへの知見が深いライターなど、外部クリエイターの協力も得て、様々な記事を制作中。
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