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3月23日に開催した「DOORS-BrainPad DX Conference2022」。
3000人を超える視聴申し込みをいただいた本イベントの内容をお届けいたします。
今回は、
株式会社電通クロスブレイン 取締役 佐藤 洋行
による、「顧客体験を高めるデータ活用の落とし穴と処方箋」と題したテーマについて解説していきます。
マーケティング施策を実施する際の落とし穴は多くの企業がはまってしまうもの。今回のテーマでは、何が落とし穴となるのか、どういった解決策があるのかについて詳しくみていきましょう。
私は現在、電通とブレインパッドの合弁会社である電通クロスブレイン(DXB)の取締役を務めています。
マーケティングにおけるデータ活用に対してその難しさを痛感する企業も少なくありません。法則性を見つけ簡単にしていくためにも、今回はKPI設定・算出といった2つの落とし穴と落とし穴にはまる理由、処方箋について焦点をあてていきましょう。
このようなPDCAサイクルはよくあるパターンです。マーケティング施策を開始する前に顧客理解という意味でデータを収集し、分析します。その後、仮説を設定したうえで、施策の実行から効果・検証まで行う流れです。
より細かく解説すると、施策前のPDCAは顧客が主体となります。例えば、データを収集する場合も定量データと呼ばれる年齢や年収などの要素と定性データと呼ばれる顧客の声や評判、SNSの声に分けられます。その後、分析を行い、「AであればBという結果になるだろう」という仮説設定を行います。
そして、施策PDCAに入る場合は、前述の仮説からマーケティング施策を立案し、実行。その後の結果を受けて、さらに施策を回していくことになります。一見すると、何の問題もないように感じられますよね。
ここからは、前項のPDCAで循環させていた動画サブスクリプションサービスの失敗例についてみていきましょう。落とし穴を知ることで、そうならないための対策を取ることができます。
施策PDCA前の顧客分析では、「セグメントAに対してコンテンツaによって満足度があがるため、解約を抑止できそう」という仮説を立てました。そして、施策PDCAでは、定期メルマガでセグメントAには、コンテンツaをメインで訴求しようと計画。
その後、メルマガは2種類に分けてコンテンツaでは、ABテストも行いました。ここまでは、論理的な視点から仮説から施策実行まで行われているといえます。顧客分析から、施策を立案・計画を立て、施策を実行していることから顧客視点も失われていません。
施策の実施結果としては、コンテンツaを訴求したメールでは3.3%ほど新しい訴求コンテンツaの訴求によって、遷移率・利用率どちらも向上しているようにみえます。つまり、コンテンツaを訴求するという意味では、マーケティング施策としても成功したと客観的に判断するでしょう。
そのため、以降の施策としても、ABテストを繰り返し、チャンピオン/ルーザー方式で訴求内容の改善を追求し、繰り返しコンテンツaの遷移率・利用率を改善していきました。つまり、セグメントAの顧客に対してコンテンツaを訴求し続けたということですね。
マーケティング施策を繰り返した結果として「KPIを達成しているものの、目的である解約率の改善は行えてない」という問題が起き、私に相談をいただきました。
企業として行っていたのは「メルマガによるコンテンツaの訴求でABテストを行い、良いものを残していくという手法」であり、一般的に考えれば間違っている方法ではないものの、最終目標であるKGIは達成できていません。
そこで、私は「他の流入経路からのコンテンツaへの遷移率」を調べたところ、「コンテンツaの利用によって満足している顧客の割合は全体的に変化がなかった」ため、KGIには影響が全くない施策を繰り返していたという結果になりました。
従来のメルマガを送付したセグメントとコンテンツaを訴求したセグメントに分かれており、別経路からの顧客の遷移は減少していました。コンテンツaの流入経路は他にもありましたが、今回のケースでは、ほぼメルマガを受け取った顧客から遷移しているため、メルマガ以外からの遷移が必要なかったと想定されます。そのことから、KGIとされている解約率も変わらなかったといえるでしょう。
また、結果としてコンテンツaをメインで訴求してもしなくても大きな変化はなかったということになってしまっています。問題だったのは、「セグメントAはコンテンツaの視聴で解約が抑止されるのではないか」という仮説が忘れ去られ、いつの間にかメルマガからコンテンツaにどのようにして遷移・利用させるかという内容に変わってしまっていた点です。
元々、施策PDCA前の顧客理解では、「顧客がコンテンツaを利用するかどうか」という仮説だったものの、途中で「メルマガからどれくらいコンテンツaに遷移しているか」という仮説に置き換わりました。そのため、KPIはクリアしているように見えてもKGIがクリアできないという問題が起きたといえます。
まとめると、「セグメントAに対してコンテンツaによって満足度があがるため、解約を抑止できそう」という仮説が忘れさられ、ひたすらセグメントaに対するコンテンツaの反応の改善を図っていたといえます。
そのため、KPIがKGIから乖離し、KPIを達成してもKGIには変化がないということが起きました。皆さんのマーケティング施策PDCAでは同じようなことは起きていませんか?
ここからは、1つのサービス訴求コピーのABテストの事例をみることでより深く考えて欲しいと思います。AB テストの結果を示したものです。別経路は今回存在しません。そのため、一見すると、CVRの高いAの方が良い結果だと感じられるでしょう。
しかし、この表でサービス訴求コピーの評価を行うこと事態が間違いだといえます。その理由についてふれていきますね。
気付くのは、新規来訪者とリピーターでCVRが異なることが想定されます。つまり、訴求コピーを試す前からのリピーターは必ず考慮しなければならないといえるでしょう。リピーターの数を考慮せずに算出した数字では、指標になりません。
では、新規・リピーターの数を反映した表をみてみましょう。
訴求コピーAでは、既存の来訪者数は変わりがありませんでした。また、CVRも全く同一となっています。しかし、訴求コピーBでは新規来訪者を多く獲得していました。サイト全体のCVRでは訴求コピーABは0.1ポイント以上差があるものの、新規来訪者に対するCVRは0.06ほどしかありません。
このケースの場合、新規来訪者を多く連れてきている点を考慮すれば、必ずしも訴求コピーAが正しいとはいえません。むしろ、新規顧客の獲得であればBの方が効果的でしょう。そのため、仮にCVRとして設定する場合は新規への訴求力を比較すべきかと思います。
2つの事例を通じてKPI設定は、そこまで簡単なものではないということが把握いただけたかと思います。
ここからはKPI設定が正しく行われたあとの落とし穴についてみていきましょう。今回は、通販の事例についてふれていきます。以下の図は、ある通販サイトの2回目の購買につながった顧客の割合を示すF2転換率を示したものです。
多くのサイトがF2転換率を計測する理由は、通算サイトでは、新規からのリピーター獲得・維持が今後を左右するためです。マーケティングの法則に従えば、新規顧客は購入単価が低いことに加え、獲得コストが既存顧客の5倍は高いことから利益が下がってしまいます。
この表は、初回購入日から1年間の推移を表しており、日数が経つごとに下がり続けるといえます。そのため、購入から何日目までが重要だと思いますか?と聞いた場合、「F2転換率からすれば、ほとんどの方は迅速にコミュニケーションを行う」ことが対策だと答えるでしょう。
また、3回目の購入はF3、4回目の購入はF4と表し、FはFrequency(頻度)を意味します。この表からするとF2が下がり続けていることからF3・F4の転換率はもっと低いと推察されます。では、本当にF2転換率は下がり続けているのでしょうか?
今回のF2転換率の計算方法は、1回目の購入者の総数を分母として、F2転換者を分子とする計算方法で算出されています。しかし、「総購入者数を分母にしてしまうと、分母が大きくなりすぎるだけでなく、F2転換率は必ず下がっていく」ことになるため、計算式が間違っているといえますね。
F2転換は一度転換したら、二度目はないことから、総購入者数が全く変化しないということはありません。こういった間違いを無くすために、F2転換の構造を知っていくことが大切です。以下は、F2転換者数の累積を表したものになります。
ここで、さらに以下のような操作を加えました。簡潔にいうと、数式を用いて数理モデル化しています。
構造を抽象的にとらえることができたと判断できます。
こうすることで、F2転換の構造として「全体の47.5%はF2転換しており、全顧客のうち0.63%は毎日F2転換している」ことがわかるでしょう。
また、F2転換者残数からF2転換者数を割ると正しいF2転換率が把握できるようになります。そのため、最初に見た推移を表す表も大きく変わり、「必ずしもF2転換率は減少し続けるわけではなく、重要となるポイントも異なる」という結論になります。
グラフを重ねてみました。青色が総購入者数を分母にした数値、オレンジ色が正しい分母で計算した数値です。グラフからすると、「最初のコミュニケーションが早かったとしてもF2転換率が高い」とはいえません。
さきほど構造として「全体の47.5%はF2転換しており、全顧客のうち0.63%は毎日F2転換している」と述べましたが、変換率は一定ではありませんよね。
変換率に焦点を当てた表をみていきましょう。灰色はモデルが示した変換率です。数理モデルとオレンジ色の変換率は大きく異なるといえます。また、オレンジ色に焦点をあててみると120日まではあまり変わらないものの、その後は180日で一度上昇し減少し続けます。そして、300日後からは上昇しつづけているようにみえますよね。
この企業では、120日までは継続的にコミュニケーションを取り、180日・360日のタイミングにおいても休眠施策を実施していました。そのため、顧客のポテンシャルは一定であり、企業からのコミュニケーション(Eメールやダイレクトメールなど)によってF2転換率は反応しており、重要度を問われれば「ほぼ毎日変わらない」という結論になります。
計算式の違い・意味まで検討したうえで、KPIを定めていきたいですね。では、もう1つの事例をみていきましょう。
上記の表は、サブスクリプションサービスの解約数を2016年1月から2022年1月まで記録したものです。「自社内のマーケティング施策によって、解約数を抑制する努力をしてきました。しかし、また上昇傾向にあるようにみえます」という相談でした。
解約率は、月の契約数から解約数を割って算出しています。一般的にこのように計算している事例は多いでしょう。しかし、この計算式では傾向を掴むことはできません。では、どのように計算すれば、正しい数値を算出できるのか解説していきます。
獲得からの経過日数で計算した場合、解約数は変化します。そのため、新規顧客をどれだけ獲得したのかを計算しなければ、適切な解約率のトレンドを掴むことができません。
そこで顧客を獲得した月を横軸とし、獲得した顧客のうちどのくらいの人々が解約するのかを縦軸にしました。この表からすると、2016年1月から2021年1月までには7割が解約していることになり、時間の経過とともに解約者が増加しているという傾向が見えます。
つまり、この事例では「獲得者数が多くなった月は、比例して解約率も上昇している」という因果関係があるといえます。
ここからは、なぜ間違いが起きるのかについて詳しくみていきましょう。1つ目の事例のメルマガはそもそもKPIが顧客目線からずれていました。顧客の導線を考えれば、メールからの遷移や利用率だけに焦点を当てても問題は解決できません。
例えば、最初の表は「メルマガがどうなったのか」をみていましたが、次の表では「メルマガを受け取った顧客がどうなったのか」に焦点を当てています。
2つ目は、サブスクリプションサービスにおけるKPIの算出です。このケースにおいても焦点を顧客にあてれば、間違いは起こらなかったと想定されます。顧客視点があれば、1回目購入者の総数を分母にすることは防げたでしょう。
マーケティングにおける間違いの処方箋は、「顧客目線でものごとを捉えること」だといえます。また、間違いが起きてしまう原因としてはマーケティング施策の作用構造も関係しているといえるでしょう。一般的に、マーケティング施策は、施策によって心理を動かし、行動してもらうことでKPI・KGIを図る形式です。
そのため、KPI・KGIも顧客によって大きく変化する要素となります。しかし、施策を展開する側が把握できるのは、「自分が行った施策の内容とKPIのみ」です。そのため、心理・行動変化といった顧客側視点の要素を見落としてしまいやすくなります。
加えて、最初に占めたPDCAを表すこの表内でも、顧客目線から途中で施策目線のPDCAになっていくため、より顧客目線のPDCAを分断してしまいやすくなるといえるでしょう。
例えば、顧客データに基づいたマーケティング施策を最近は求められる傾向です。しかし、施策目線のPDCAになった場合、図表からしても顧客データにふれる機会は減少すると想定されます。
そのため、DXBでは最近上記のようなフルスタックPDCAを推奨しています。簡単にいうと、顧客理解のPDCAに施策改善のPDCAを組み込むというものです。この流れであれば、顧客目線と施策目線どちらもおろそかになることはありません。顧客理解に基づいてKGI達成を目指すことが可能です。
さらに詳しくいうと、顧客理解のPDCAは大きく3つに分けられます。まずは基礎分析です。KGIの構造に対して、顧客目線から組み立てます。目的設定から要因分析、顧客セグメントを組み立てるという流れです。
次にフィードフォワードに移行します。顧客のセグメントに対するインサイトを設定し、KPIを定めていきます。また、インサイトは複数の仮設に基づいて分析するだけでなく、基礎分析の結果も反映させていきます。
フィードバックプロセスでは、顧客の反応から顧客理解のPDCAに戻しながら、循環させていく流れです。また、想定通りのKGIなのか、KPIが変化したのであればその理由を考察するといったプロセスをふみ、顧客の利益に還元していきます。
セミナーは以上になります。では、皆さんご清聴ありがとうございました。
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