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【前編】材料開発にデータを巡らせるトヨタの「新規事業」 ~BrainPad DX Conference 2022~ テーマ別 企業DX対談

公開日
2022.04.04
更新日
2024.03.08

3月23日に開催した「DOORS-BrainPad DX Conference2022」。
3000人を超える視聴申し込みをいただいた本イベントの内容をお届けいたします。

今回は、

  • トヨタ自動車株式会社
    先進技術開発カンパニー 先端材料技術部 チーフプロフェッショナルエンジニア 博士(工学)
    庄司 哲也氏
  • トヨタ自動車株式会社
    先進技術開発カンパニー 先進プロジェクト推進部 AD-ZERO プロジェクト創生グループ 主任
    山口 剛生氏
  • 株式会社ブレインパッド
    代表取締役社長
    草野 隆史
  • 株式会社ブレインパッド
    ビジネス統括本部 アカウントマネジメント1部 アナリティクスインテグレーション営業1グループ グループマネージャー
    早川 遼

による、『材料開発にデータを巡らせるトヨタの「新規事業」』と題した対談の詳細をみていきましょう。

自動車産業の大きな変化

ブレインパッド・草野 隆史(以下・草野) 自動車産業は大変革期を迎えています。こうした流れの中でトヨタ自動車はどのように考えているのか、「マテリアルズ・インフォマティクス」にデータサイエンスを取り入れた事業を立ち上げ、外販に至った理由などをお聞きする予定です。

さて、「CES2020」(世界最大のエレクトロニクス技術見本市)でトヨタは街づくりを行うと宣言したプロモーションを今でも覚えています。トヨタとしては自動車産業が変革を迫られている中で材料開発の部分から、どのように捉えていますか?

トヨタ自動車・庄司 哲也氏(以下、庄司氏) 自動車業界のみではなく、社会課題を解決していくことが大切というメッセージが社長の豊田からも発せられている状況です。 社会課題を解決できるのであれば、アセット・成果は積極的に使っていこうという風に指針が変化しています。

草野 自動車業界以外の材料開発を行おうとした点は面白いですね。また、そういった取り組みを推進するということは、自動車だけでは社会的な変化を促すのは厳しいという危機感からでしょうか?

庄司氏 その危機感は間違いなくあると思います。 これまでものづくりを行ってきた強みを活かすことはできるものの、 社会課題の解決に目を向ければより広い出口が見えてくるだろうと。また、CESの5つのテーマの中に「マテリアルズ・サイエンス」が含まれている点は印象的でした。 どうしても材料開発部門は、車の中でも縁の下の力持ち的な役割として認識されます。しかし、ワールドワイドなあの場で焦点を当てたのは、素直に嬉しかったです。

今回の取り組みも材料技術にAIテクノロジーを活用して加速させながら、社会に還元するプロジェクトです。つまり、モビリティ・ロボティクス・持続可能なエネルギーに活かしていくと。まさにトヨタのミッションそのものだと実感して業務を推進できていますね。

草野 材料というと、素材メーカーが提案してきたものを評価するイメージですが、 トヨタとしても昔から研究開発を行っていたのでしょうか?

庄司氏  トヨタの材料開発は、「源流から品質を作るべし」という社是や材料技術部の母体が由来です。また、開発を行うことで色々と把握でき、結果として品質に返っていくため、新しいものを生み出せていけると個人的に考えています。

草野 どういった材料・素材を使用するのかといった点では、トヨタでも開発を行いながら、ベンダー企業とも研究・開発する体制ができているということでしょうか?

トヨタ自動車・山口 剛生氏(以下、山口氏) 材料は基本的には素材メーカーに作ってもらっています。しかし、自動車に使用する場合は達成しなければならない要件や達成しなければならない評価基準が出てきます。そのため、トヨタとしても、要件を明確にする・評価条件を作るだけでなく、素材から作っていかなければなりません。

なぜトヨタがマテリアルズ・インフォマティクス?

草野 素材開発は、長い歴史があり、トヨタの中でも重要な部分を担うものだと把握できました。その部分に対して、イノベーションを促すのが「マテリアルズ・インフォマティクス」だとイメージできます。では、そもそもマテリアルズ・インフォマティクスとは何かについて、また庄司さんが取り組まれるようになったきっかけを教えていただけますでしょうか?

庄司氏 マテリアルズ・インフォマティクスの概念は、「材料の研究・開発に情報科学を活用する」というものです。取り組むようになったきっかけは2014〜2015年にかけて、文部科学省に出向していたときに、マテリアルズ・インフォマティクスの企画委員会のワーキングに出たことですね。

企画を立て、様々な研究者にお会いし、どういうプロジェクトにすればいいのかといったことを検討していました。会社に帰っても部下とディスカッションしていましたね。

草野 出向時代に国内外の研究者とネットワークを形成し、世界でどの程度まで進んでいるかといったこともキャッチアップしたり、リサーチしていたのでしょうか?

庄司氏 おっしゃるとおりで、まずはとにかく思考して、最新情報にいかにしてたどり着くか、Web上でもひたすら調べてどうあるべきなのかといった検討を繰り返して情報を集めていきました。

草野 マテリアルズ・インフォマティクスがいつごろから注目されるようになったのか、日本の位置づけ、今どんな状況なのかなどの概要などをお聞きしてもよいでしょうか?

庄司氏 源流は、MITのGerbrand Ceder(ヘルブラント・セダー)教授が2011年に提案したアメリカの国家プロジェクト「マテリアル・ゲノム・イニシアチブ」からですね。材料の研究・開発に情報科学をプラスするという考え方の浸透と材料の素性を知るための計算を高速で回し、それらのデータをマイニングする取り組みとなっています。

日本は5年程遅れているので、当時は危機感しかないほどでした。

草野 素材に関しては、日本だと自動車に次ぐ輸出産業の一角ですよね。しかし、アメリカや中国はサイエンスの力で追い越していく動きが2011年にはスタートしていたと。

庄司氏 元々、私の場合は磁石の研究・開発をしており、いかに新しいものを生み出すかを考えていたところに、データでインフォマティクスを活用し始めました。そして、上手くいったことから、2018年にプレスリリースが出せるまでになりました。

草野 マテリアルズ・インフォマティクスはどのようなシーンで、どのように使われるのでしょうか?

庄司氏 基本的なものは、材料の性能や元素構成などの比率や作り方を結びつける、といった使い方をします。材料は光を当てると、中が見え、波形が現れるのですが、目では差が分からない時があります。しかし、そういうときにAIや機械学習を使用すると、差が明確に分かるだけでなく、私たちの仮説も当てはめられるようになりました。

材料の精度に対するフィードバック、製品能力の予想などができるようになった点はイノベーティブなポイントでしたね。

草野 材料解析の部分にAI・機械学習を入れたことが変化の要因ということですね。このアプローチに行きついた経緯はどういったものでしょうか?

庄司氏 材料の部門では分析したり、写真を撮ったりする場合に感覚で理解しようとするケースが後を絶ちませんでした。しかし、私はデータに対して感性だけでは、分析・評価は難しいと考えていました。そうしたタイミングで、非常に基本的な主成分分析で良い情報を取れることを発見できたのがきっかけです。

草野 早く把握できることによって、トヨタとしても今後やりたいことの意思決定が早めにできるということですよね。

庄司氏 実際に、実験の結果だけでなく、今まで作っていたものと何が違うのかが明確に見えます。人間に見えないものをデータで補完できる点は本当に「武器になる」と思いました。今までの実験などに関しても、時間がかかっていた選択がデータによる裏付けがあるため、プロセスと結びつけながらより正解に早く近づくことが可能です。

マテリアルズ・インフォマティクスを外販する真相

草野 データドリブンに材料の意思決定を行うことで開発期間の短縮を行っているということですね。それがトヨタのマテリアルズ・インフォマティクスのコア部分であることを把握できました。しかし、他社と差別化できる要素をなぜ、あえて外販することにしたのでしょうか?

山口氏 2019年に遡ります。元々庄司の下で材料開発・研究も行っていましたが当時の私はトヨタの統括部署にいて、カンパニーをどのように変えていくのかといった議題を日々追いかけていました。そのうえで、今までトヨタとして作ったアセット・培ってきた技術を使って、「何か社会を変えることができないか」という取り組みをスタートしました。

社内にどのような技術があり、社会にどの程度のインパクトを残せるのかといった課題に対して先端材料技術部に声をかけたところマテリアルズ・インフォマティクスを紹介してもらったのが経緯です。ちょうど、世の中にデータ活用の流れが来ていたこともビジネス的に加味し、社内でも使用しつつ、社外への販売も開始したということですね。

草野 アプリケーションとして開発完了する前に、すでに外販を行うことが決定されていたということですね。先ほどのお話に一部戻りますが、庄司さんや周りの方としては「差別化要因になる独自技術を外販する」ことに前向きだったのでしょうか?

庄司氏 私個人の観点から言えば、どんどん出していくべきだと思っています。実際、ここ数年でPythonのライブラリが浸透しており、コーディングができればAIや機械学習に触れられる環境ができつつあります。しかし、これはあくまでもコーディングができる前提です。

そういった流れのなかで、トヨタとしては「コーディングフリーでみんながデータを使いこなしより早く良いものが作れるならば喜ばしい」と考え、社会課題が解決できるのではないかと思いました。そのため、社内で声がかかったときに手をあげました。

トヨタのマテリアルズ・インフォマティクス「WAVEBASE」の全容

草野 そうして生み出されたサービス・プロダクトの1つに「WAVEBASE」があるということですね。このプロジェクトの概要を教えていただけますか?

庄司氏 「WAVEBASE」は、基本的にマテリアルズ・インフォマティクスをどのような方に使ってもらうかを考えています。概要をまとめると、1つ目はマテリアルズ・インフォマティクスをコーディングフリーで使用できる、2つ目は材料のデータを蓄積できるデータベースを構築する、3つ目はデータ活用によってお客様の開発を加速させるというサービスを行っています。

https://www.toyota.co.jp/wavebase/

草野 従来のシステムと異なる点は、解析結果の活用に特化しているところですね。これまでと比較して、どのような利点が出てきますか?

庄司氏 「WAVEBASE」の利点は、定性的に人が理解して終了していたものを定量的なデータにできる点ですね。他に、変換されたデータが機械学習に利用できる、分散状態が把握できる可視化システムも搭載しているといった要素も従来のシステムとは異なります。

例えば、ある材料を複数作ったとしましょう。条件を1つずつ変えて行く場合に、各条件に合わせて結果を出力し分析することが可能です。そのため、今まで捨ててしまっていたデータが価値を持つようになることが最大の利点といえます。

草野 データ解析後に読み手の知識も問われるものの、取捨選択や材料の良し悪し、方向性がみやすくなるシステムということですね。

▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント

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2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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