これからの小売業は、デジタルの力で顧客に寄り沿い“絆”を築く
「DOORS-BrainPad DX Conference-」レポート①後編

※前編はこちらからご覧いただけます。

ファクトベースの議論を可能にするDX

次に、「DXの利点」について、安藤氏は事例を基に説明します。

安藤氏 ──  ECの場合、流入経路や滞在時間や購入履歴、所謂ログデータがたまっていきますが、リアル店舗の場合、売れた時のPOSデータしか残らない。お客さまの店舗での行動が把握しづらい。だからECと同じようにしたいと思いまして。店舗に何人くらい来ているのか、何分くらい滞在しているか、どんな人が何の商品を見ているのか、接客がお客さん全員に行き届いているのか。これを測定するために、実験的に一部の店舗にAIのカメラを導入しています。

AIカメラを導入で大きく変化したことを、安藤氏は“施策の精度”と言います。

安藤氏 ── 顧客接点の可視化ができれば、施策の精度が上げられます。
施策の前に、そもそもファクトを基にして話せるようになることが重要です。例えば店舗の感触でありがちなのは「まあまあ商品が見られていました」「あの施策、意外と効きました」といった主観で話すこと。主観では本当に効果のある施策が打てない。ファクトがあると、多い少ないといった実数が出ます。

主観は主観でしかないため、裏付けができない一方で、データで出すことで数字が説明してくれるというのが最大のポイントと言えます。安藤氏は続けて、DXを入れなければ逆の施策を打って失敗することもあると説明します。

安藤氏 ── 売上が悪くなると、人件費削減や業務効率化などの話になりがちなのですが、真の理由はそこではない。
売上が下がっていた理由が接客率だった場合、人件費削減は逆効果です。デジタル化できていると接客率と売上が相関していることが分かるので、人件費削減はしないですよね。

柴田 ── 可視化しなければ、本当は売上のドライバーが販売員さんの数であり、そこから生まれる接客数だったことに気付けないまま、接客にかけるコストをどんどん減らしてしまって悪循環に陥っていたかもしれないですね。

デジタルで可視化したことにより正しい打ち手が可能になる、それには、データを正しく読み取る力も必要になる、と柴田は言います。

安藤氏 ── もうひとつ例を挙げると、2つ目はブレインパッドさんと行っているNPSの分析です。NPSが重要だということは皆さんご存知だと思います。NPSと売上は相関していると言われていますが、自分たちのデータで分析してみてそれが証明できました。DXの良さとは、ファクトを得られることだと思うんです。どこかの記事に載っていたとか、誰かが言っていたとかではなくて、自分たちのデータでそれを実感することが大事なんです。

この分析が上手く進んだら、会議の際にこのデータだけで事足りるようになります。エクセルで作業したり、わざわざプリントアウトする必要もなくて、見方を変えたかったらクリックひとつで変えることもできる。まだ一部でしか導入していませんが、全社的に活用できるようにしたいなと思っています。

柴田 ── 一番のポイントは「NPSって高いほうがいいよね、じゃあいい接客しよう」みたいな抽象論が入らずに、「NPSが高いってどういうことなんだろう」というのをデータで見て、「要因はこれとこれかな?」と事実を基に仮説を組み立てて議論が進むことですね。

DBの一元化は必要か?

髙島屋のインフラ改革に学ぶDX化の着眼点
小売業がDXを行う上で最大の課題となるインフラ問題について、西名氏は髙島屋の事例を基に解説します。

西名氏 ── DXを実施する上でよく言われるのが、顧客情報とサイト情報を一元化するのが基本でしょ?
それは大事なことですが、優先度を間違わないことです。私たちがまず取り組んだのは、お客さまからの問い合わせへの回答を統合することでした。これまでは、DBが複数存在していて、一度に回答を導き出せるDBになっていなかった。それを改善するために、問い合わせと回答内容のDBを一つに集約することにしました。

これは、お客さまへの回答を満足度の高い検索結果にするという目的もありますが、回答側の業務効率化という側面もあります。更に重要なのは、問い合わせされる内容や、問い合わせの数を知ること。これを可視化することで、我々のサービスが行き届いていないところや解決しなければならない課題が見えてきます。これは単純なDBの一元化だけでは実現できない。インフラでサービス改善をすることできるのです。

サービス改善のためのインフラ改革は、髙島屋の「顧客」を大事にする視点が生きているからこその施策だと柴田は言います。

小売業界が挑戦するもの

──顧客との接点をどう作るか、どう生かすか?
実店舗を持つ髙島屋・三陽商会が、実店舗においてどのようにDXを活用するのか? 次なる展望をおふたりにお聞きしました。

西名氏 ── 実店舗、EC、アプリなど、お客さまとの接点がいろいろある中で、それぞれでシームレスな体験を提供したいと考えています。
そのために必要なインフラを用意するというのが理想ですね。デジタル化が進んだ今、いろんな情報や選択肢がある中で、百貨店を選んでくださっているという大切な接点をしっかりキャッチして、接点を長期的につなげていく。一度知っていただければ、商品の質はもちろん、何にでも対応できるサービスを揃えていることは自負しています。そういったサービスを、一つの点ではなく、つなげて線にしていきたい。お客さま一人ひとりの人生に寄り添う“ライフタイムコンシェルジュ”を目指しています。

安藤氏 ── スマホの普及で、お客さまがスキマ時間にインターネットを見るよう変わってきた。
その短時間でどれだけ接触できるかが、今度は大事になってくる。いわゆる可処分時間みたいな、お客さまの時間を自分たちだけが取ろうとするのは、もう不可能に近いですよね。だから、コミュニケーションをもう一歩進めて、エンゲージメントを高めていくことが大切だと思います。時間やお金の前に、絆をつくって深めなければいけない。
何かを買おうと思った時に、自社のことを思い出してもらうために。

すべてをDXにする必要はない。
大事なのは“自分たちらしさ”

柴田 ── DXというと、全てDXにしなきゃきけないと思われがちですが、本当はDXに向いているところと、向いていないところの両方あったり、活用の仕方も、顧客対応だけではなく、ワークスタイルといった中の改善に使ったり。DXと一言言うだけでも、適応領域や場面もいろいろあるなと。バランスが大事なんだと実感しました。

安藤氏 ── 例えばECって、フロントの使い勝手は力入れますけど、バックエンドの使い勝手が悪いことが往々にしてあります。結局、運用がしづらくなって施策が後手に回ってしまう。実は、目に見えない裏側こそ加速させなくてはいけない。

どこかにだけDXを取り入れるというのでも、全部DXにすべきという正解はない。DXは、テストして失敗もしながら取り組んでいくものだと思っています。

西名氏 ── DXで最初に言われるのがDBの一元化。
一元化できるのが理想ではありますが、現実では難しいですよね。

DXを使って何をするか、どの範囲までやるのかという判断は、実は“らしさ”なんじゃないかと思っています。問い合わせDBを一元化したのは髙島屋らしさで、他の企業だったら別の取り組みになる。「自分たちは何を大事にしているか」という視点で考えてみるといいかもしれません。

DXに正解はないという安藤氏の実感と、DXにはその会社らしさが表れるという西名氏の言葉。DX導入を進めている、またこれから始める予定の企業にとって、大きなアドバイスを残し、セッションを締めくくりました。

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