【前編】DXの成果は「課題の自分ゴト化」と「トップのコミット」で決まる
~全社一丸となって取り組む合意形成・協力体制の作り方~

[執筆者]
若尾 和広

そのDXは、未来につながっているか?

ブレインパッドでは分析支援やデータ利活用のシステム構築支援などを通じて、様々なクライアント企業のDX推進のコンサルティング、支援を行っております。その中で、私はデータ利活用システムの導入、そのシステムを使って分析やビジネス展開を行う人材育成・組織立ち上げ支援を担当しております。

その支援のなかで、世の中でDXの機運が高まったことにより、多くの企業が「今、踏み出さなければ生き残れない」といった切実な問題意識を持たれているとヒシヒシと感じています。

ただ、そのなかでDXによって「最終的にどんな企業を目指すのか?」「何を実現したいのか?」「どう変えていきたいのか?」といった”グランドデザイン”が具体的に描けているケースは、あまりお見受けしないなという印象を持っています。

どの企業も、DXに取り組む時には「まずは目の前の課題解決からスタート」することが多く、スモールスタートという言葉で言われるように、いきなり完璧なシステムの構築を目指そうとするのではなく「できるところ/切実な問題」から手を付けるアプローチを取っており、そのことは間違っていないと思います。

目の前にある「喫緊の解決すべき課題」というのは、具体的には以下のようなものです。

・組織単位でバラバラなシステムで加えてデータが部門ごと部署ごとの収集・管理でサイロ化していることからデータ分析や利活用が出来ない。(システム課題)

・保有するデータを様々な角度から分析し、効率化や自動化に活かしたいが分析人材や組織が社内に存在しない。(分析人材の不足)

・データやITを活用して新たなビジネスワークフローへの変革や新ビジネスを生み出したいが、リードできる人材もシステムもない。(DX推進の体制)

最初の一歩を踏み出すことは重要です。自社のみで踏み出せない場合、外部のDX支援企業からのサポートを得ることで、こうした個々の課題の1つ1つは解決を見ることが出来るでしょう。

ですが、グランドデザインが描けていなければ単発で終わってしまい、〝その先〟にあるトランスフォーメーションまで繋がっていきません。

DXとは単に今ある業務の進め方をデジタルに置き換えるだけではなく、旧来のビジネスから新しいビジネスを創造することも視野に入れた取り組みです。どこを目指すか/何を実現するかによっては事業構造が大きく変わり、大きな組織の改編が必要になることもあります。そして、それは経営方針に関わる問題ですから、特定の部署だけで推進できるものでもありません。CEO以下経営陣のコミットが必要ですし、全社的な合意形成と協力が求められます。

企業が100社あれば100通りのDXのやり方があります。

どのようにグランドデザインを描き、そしていかにして社内の合意形成と協力体制を作っていくか――「合意形成と協力体制」は各社共通であり、ここにこそDX活動の成否を決めるポイントがあると私は考えています。

多くの企業では「細分化された組織が複雑に連携」することでビジネス活動を行っています。

これまでのIT化活動の多くが、その複雑な連携の中で「個々の部門の個別業務を効率化」することで、データやシステムがサイロ化してきたわけですが、DXはある種それらの棚卸しを行い企業全体で再編成する活動である、とも言えます。

企業の経営戦略に照らし合わせ、データやITを使ってどのように全体最適となるかを、部門を横断して検討する必要があります。

DXがビジネスの改革である以上、企業のDX推進担当者やそれをサポートする外部のコンサルティング会社が一方的に検討・説明するのではなく、会社のことや現場のことを誰よりもわかっている当事者が意見を出し合い、お互いの問題・課題を共有することにより、合意形成と協力体制が出来上がっていきます。

クライアントのDX化を後方支援する立場である我々は、当事者意識を持ちつつ、知識・技術・情報の面から合意形成をサポートすることこそがミッションだと考えております。

分析サーバーの処理速度向上という”課題”がきっかけで生まれた「新しいビジネス基盤」

私がこのようなDX推進についての考えをもったのは、3年前のあるクライアント企業の新分析基盤の導入に携わったのが最初でした。

きっかけは「分析サーバーの処理速度が遅過ぎてコンサルティング業務に支障が出ている。データ加工/分析のスピードを上げて欲しい」という、具体的かつ切迫した依頼をいただいたことでした。

そのクライアント企業では、外部からある領域の様々なデータを収集し、顧客企業に対しデータを分析しデータ提供とコンサルティングを提供することがビジネスモデルとなっている会社でした。

クライアント企業が収集しているデータは、専門性と収集の難易度やデータカバレッジなど様々な点で非常に貴重なものでした。そのデータを分析して顧客企業にコンサルティングを行うのがクライアント企業のビジネスの根幹なのですが、その時点ではデータ分析にあまりに時間がかかるためにコンサルタントが単なる集計係となってしまい、本来の仕事であるコンサルティング業務ができていない状況でした。

そこで我々は、これまでオンプレミスで行われていたデータ処理を「クラウド上の並列分散処理」で実行できる環境に移行することで、分析処理速度を約10倍の速度で処理ができ、データ量が増加したらスケールさせることが出来るシステムを構築しました。これによってこれまで諦めていた直近データの分析や、顧客企業からのリクエストに応じた「条件を変えてのやり直し」などにも対応できるようになったのです。

ここまでの経緯だけみると通常の分析システムの構築でしかありません。

実は、この構築のプロセスの中でもう一つの目的を持った活動が行われました。

それが「新たなビジネスモデルを支えるあるべきデータ基盤構想策定のワークショップ」です。

先に記載したクライアント企業が収集しているデータは、実はなかなか他の企業では収集出来ない貴重なデータでした。

クライアント企業の経営企画部門の方々は自社の競争優位が「このデータの価値そのものである」と考え、ITとデータを組み合わせて自社のビジネスモデルや新たなビジネス・サービスを生み出せないか?と考えていらっしゃったのです。

ワークショップの中では現在の課題(処理速度)、将来の課題(コンサルタントに依らないコンサルテーションのサービス化やデータマネタイズ)などを社内の関連部署の方々と、「今の技術で何がどこまで出来るのか?」「今後は何が出来るようになるのか?」をITトレンドや社内体制などと合わせて構築するデータ分析基盤をコアに討議を行いました。

その中で、これまで参入出来なかった領域に向けた手軽なコンサルティングやデータ提供、Webインターフェイスを用いたサブスクリプションサービスや外部APIによるデータ提供でのマネタイズなどのアイデアや構想が徐々に生まれ、分析基盤の設計時にそれらの将来構想を盛り込んだ拡張可能なアーキテクチャでの構築となりました。

結果として、処理速度の高速化によりコンサルタントの方はより最新のデータでコンサルテーションに時間を使うことが出来るようになり、またデータ基盤へWebUIのセルフBIサービスの拡張開発を行うことでサブスクリプション収益(コンサルタントの人数やスキルに依存しない収益モデル)を新たに獲得出来ました。

現在はコンサルタントのデータ分析スキルの向上のための人材育成や、セルフBIサービスへの予測機能の追加による付加価値向上など、構築したデータ分析基盤をコアにビジネス拡大、収益性の向上に取り組んでいらっしゃいます。

(もちろん、ブレインパッドでも人材育成・各種分析モデルの開発で支援を行っています)

このクライアント企業は理想的に分析基盤検討からDXを推進していらっしゃる例ですが、やはりキーになったのは経営企画の方の「ITとデータでビジネスを変革したい」との想いとワークショップで醸成された現場の方々の「とことんまでITとデータを活用して効率化・収益性向上を目指そう」との意識の共有だったと思うのです。

ここまで少々長くなりましたが、後編ではDXに踏み出すために必要なグランドデザインの描き方について、お話していきたいと思います。

WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

ビジネス統括本部
プリンシパル
若尾 和広

大手印刷会社にて通販・ECなどダイレクトマーケティング企画・制作業務を経てDBM・CRMソリューション事業の立ち上げに参画。家電量販店・アパレル・CVS・GMSなど流通を中心としたデータ分析とプロモーション企画を多数実施。
その後大手広告代理店系のマーケティング会社にてDWH・BIシステムやポイント交換サイトなどの構築・運用に携わる。
2015年よりブレインパッドに参画し主にCRM領域のビジネス企画、データ分析とそれを支えるプラットフォームシステムの開発マネジメントを担当。

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