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【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの-第6回 データ活用のあり方と攻めのデータガバナンス(後編)

公開日
2022.11.10
更新日
2024.02.22

※前編はこちら

 

本連載の記事一覧

データ活用に悩む企業の経営者の問題意識

ブレインパッド・神野雅彦(以下、神野) 前回は、データ活用に関する現状認識や課題感を共有しました。主にデータガバナンスの観点からどんな打ち手があるか、またこの3人で議論していきたいと思います。

前回の話を簡単にまとめると、データ活用がなかなか進まないと悩んでいる企業が多いけれど、そもそもデータは紙の帳簿の中にもあったし、それを活用することは昔やってきたよね、ということから始まり、データドリブンを実現するための組織や人に関わる課題にまで話が進みました。

今回は、データを活用して意思決定や判断をして、事業に貢献するためにどうすればいいのか、それに対してブレインパッドはどう導いていけるのか、さらにその先に何があるのかといった話ができればと思っています。

株式会社ブレインパッド
執行役員 内製化サービス推進
神野雅彦

さて先日、ちょうどあるクライアントのデータサイエンティスト成熟度現状調査を実施したところなんです。グループ全体でものすごい人数がいるわけですが、その中で本質的に一人前と言っていいデータサインティストは、わずか10人ぐらいしかいませんでした。

ただ報告相手である役員の方々の認識は私たちと非常に近いのもわかりました。「事業に貢献できるデータ分析をしないといけないが、事業をしっかり理解して、データ分析もわかる人材はなかなか確保できない」とおっしゃる。では、どうしたいのかと尋ねると私たちの認識とだいたい同じになります。

つまり「まずは『解く力』を身につけることが必要だ。ただそれはプログラマーに近くて、プロフェッショナルやエキスパートの仕事だというイメージもある。だから外部の人でもいいかもしれない。社内としては、データを見てどのビジネスに貢献できるかを考えたり、課題を見つけたりすることができる人材を育てるほうが大切。たとえばトップ営業が、データを使いこなしてどんどんビジネスを展開していけたら、これはすごいビジネスインパクトをもたらすはずだ」といったことを、どの会社の役員も共通しておっしゃるのです。

一方で「『デジタル人材』とか『データ人材』という言葉はちょっと大味だ」という指摘も受けます。「それらの言葉から想起されるのはシステムやツールの導入だけど、本質はそこではない。ビジネスや事業に貢献して恩恵をもたらす人材を育てるのが重要で、ビジネス戦略を踏まえた上で人材育成も実現していきたい」と言うんですね。

関口さんも西村さんも経営トップと話をする機会が多く、そこで未来の話や夢の話も出てくると思います。その辺の話を少し聞かせてもらえないでしょうか。

ブレインパッド・西村順(以下、西村) データドリブン経営について役員と話をするとよく出てくるテーマがあります。「解く力であれば、それこそエンジニアやデータサイエンティストを雇えばいい。だが、分析官が事業部の事業をきちんと理解できることとか、ふわっとした課題をデータで解きほぐす能力をまず強化しないといけない」と言うんですね。神野さんの話とほぼ同じです。

そのキーワードは「効率性」ではないかと思うんです。解決してもビジネスインパクトの大きくない課題に対して、たとえば3人の人材を半年張り付けるといったことになると、これは人数がいくらあっても足りません。事業部から言われたことを何でもやるわけではなく、初期のタイミングで、その課題は解けそうなのか、解いてインパクトがあるのかなどを見極めてさばいていく組織をいかに組成するか――つまり「見つける力」が効率性の観点から問われています。

株式会社ブレインパッド
執行役員 プロフェッショナルサービス事業統括
ビジネス統括本部長 西村順

データガバナンスの観点で言うと、分析の際には様々なシステムからデータを収集する必要があります。基幹業務やパッケージソフトやブラウザのアクションログなど様々なデータが全部揃わないと分析できないわけです。その上、各事業部にデータが分かれて存在していて、使うための承認を得るのにさらに2週間掛かるとなると極めて効率が悪い。では、どうすればすぐに分析が開始できるようにシステムや部門に横串を通せるのか――これが流通業界などでは結構ホットな話題になっています。

神野 金融業界や小売流通業、サービス業なども同じで、総じて「見つける力」はキーポイントになっているようですね。

「スピード」こそがデータの価値である

ブレインパッド・関口朋宏(以下、関口) 日本企業は生産性の課題をずっと抱えてきたわけだから効率性の話も重要ですが、私はそれ以上にスピードをすごく気にしています。意思決定をするときに、早く気づけて、早く手が打てたほうがいいに決まってますよね。今環境変化が激しいので、「何か変だぞ」と早く気づくことができないといけません。ですが気づける人と気づけない人がいて、感度の高い人の「気づくこと」に依存してしまっています。

先日、宿泊事業大手の経営者と、コロナ禍で宿泊事業全体が低迷したという話になりました。しかしその経営者は、緊急事態宣言下にもかかわらず、消費者行動にある発見をしたと言うんですね。そこですぐにデータを見て仮説を確かめたら、仮説を実証できたと。だから感度の高い人がいて何か気づいたとして、その気づきが本当かすぐに確認できる環境が重要かなと思います。

株式会社ブレインパッド
取締役 執行役員CGO(Chief Growth Officer)
関口朋宏

もう1つ、この経営者のように何気なく周囲を観察して気づくのは難しいとしても、すぐにデータが取れる環境になっていれば、そのデータから気づける人は増えると思うんですね。たとえば円安で海外クラウドの価格がどんどん上がっています。それを決算時にコストを見て、「あれ、クラウド利用料が何でこんなに高いんだろう?」では手遅れですが、クラウド利用料を定期的に見ていれば、早く気づけて、手遅れになる前に手が打てるわけです。そういう仕掛けを作っていかないといけません。

まとめると、潮目が変わったときに早く気づけて、早く手が打てる仕掛けができているか、それがデータやデジタルの恩恵を味わうということなのだと思います。スピードという観点で、データの価値を企業活動に埋め込むことを大事にしたほうがいいと改めて思った次第です。

だとしたら、データ活用をどんどん進めるべき業界とそこまで必要ではない業界に分かれるのかもしれません。石油を掘るといった10年単位のスパンになるような事業ではそれほど必要ないのかもしれません。一方で消費者に近いところで圧倒的なスピードが求められる事業はデータ活用で成否が別れてしまうのではないか。そういう業界では、「スピード」こそがデータの価値であることを改めて認識したほうがいい気がします。

神野 「スピード」という論点で行くと、データ利活用によりビジネスをより早く回転させることで、価値導出を増やすサイクルをどんどん回して、短縮して回数を増やすことが肝心だと、私もクライアントによく話をさせてもらいます。速度を増すことで結果も多く出ることになり、これは企業にとって大きな成果だと言えます。なので人材育成や文化醸成においても意識するところとなります。

自社のデータばかりをひたすら見ている企業が多いように感じます。そうではなく、ソーシャルデータや官公庁が出しているパブリックデータなども見ることで、ものの見方や分析する軸が変わってくるし、今まで気づかなかったことも導出できるようになるのです。

「理学系:原因を推論する分析」と「工学系:結果を予測する分析」

西村 データの価値に関して、ある通信事業者とよく話しているのは、「データで何ができるか?」ということです。分析には大きく2種類あって、1つは原因を推論するタイプのもの、もう1つは結果を予測するタイプです。その事業者では、推論タイプは自然界の様々な現象の謎を解くのと似ているので「理学系」、予測タイプは答えを見つけにいくので「工学系」と呼んでいます。

前編の定型業務/非定型業務の話と絡めると、工学系:結果を予測する分析は決定木分析のようなアルゴリズムが使いやすく、割と定型的な分析になりやすい。一方理学系:原因を推論する分析は非定型になりがちです。何が言いたいかと言うと、「何でも定型にせよ」ではなくて、「分析の内容や質によって定型/非定型を使い分ける」ことが分析のリテラシー向上につながるのではないか。そのキーワードとして、理学系/工学系というのを覚えておいてもいいかもしれません。

神野 因果関係の分析に価値を見出せない人たちが結構いますよね。「工学系:結果を予測する分析」の収益につながる話ばかりを求めるわけですが、因果関係がわかれば、定性的な判断だけでなく、定量的にロジカルに判断できるようになります。だから「理学系:原因を推論する分析」の分析も重要だともっと伝えないといけないし、理学系の分析が非定型、すなわち難しいのであれば、その支援を私たちはもっとしていかないといけないと思いました。

西村 工学系:結果を予測する分析のアプローチは答えを見つけるということなので入りやすいし、効率性も高めやすいのですが、理学系:原因を推論する分析は難しい。データドリブン、つまりデータ起点で意思決定しようとなっても、工学系はそうなるけれど、理学系は相変わらず勘と経験が残ることになりがちです。それもある程度仕方ないと思います。そういうこともあって、先ほどの通信事業者からは「理学のほうはブレインパッドにやってもらえないか、一方で工学のほうは内製でできるように支援してもらえないか」といった整理になりつつあります。

神野 私のクライアントでも、理学/工学というキーワードではないのですが、割と近い話が出ていて、因果推論とかWhyの追究が重要――たとえば決算情報の数字を見ていて、「なぜこの数字になるのか、前期と変わらないのだが一体どこに原因があるのか、社員が増えているのにそれはおかしいだろう」といった追究を重視する会社が増えてきています。フロントオフィスではなく、バックオフィスのデータ活用ですね。こういった領域に私たちブレインパッドはもっと入っていくべきかと思います。

※定型・非定型について語った第6回前編はこちら

経営者のセンサーをデータ化する

関口 「風が吹けば桶屋が儲かる」と言いますが、因果関係とまでは言わず、最初の「風が吹く」と最後の「桶屋が儲かる」の相関関係だけでも押させておけば、まずは十分だと思うんですね。そうならないときに、途中のどのステップに不具合があるのか探しにいけばいいのですが、「風」と「桶の売上」の2つはずっと追跡することが大切です。

「最近儲からないなあ」と結果ばかり見ているのではなくて、そもそも風が吹いているのかについてもセンサーを張っておけということですね。

たぶんこれまでの日本の会社は、社員が職人芸的にセンサーの役割も果たしてくれていたんだと思うんです。ところが世代交代でセンサーの精度が落ちていたり、マーケットも変化して職人芸が通用しなくなったりしている。だとすると、経営者がそのセンサー機能を自ら持たないといけなくなったということで、そのセンサーとしてデータを使うのがいいと思うわけです。

経営者は、「何でこんな数字になっているんだ?」と問うだけではなく、どういう構造で結果が出てくるかをデータの流れとして理解する必要があるということで、それは社員のセンサーが狂う可能性が今や前提となっているからです。とはいえ全部をつぶさに見るのは不可能だから、押さえるべき相関関係だけでもデータを使って押さえればいい。

神野 私たちが伴走して分析している段階ではクライアントのやりたいことを聞いて、それを実現していけばいいのですが、レベルが上がってきたら、クライアント側に考えてもらうことで脳を鍛えるようにしないといけません。つまり、先ほど理学系:原因を推論するタイプと言っていたロジカルに組み立てていく部分も自分たちでできる組織になる支援をしていきたいと思うのです。

経営層に求められる寛容さ

神野 ところで先日、某ERPソフトのエグゼクティブダッシュボードを使っているクライアントが、決算期になると全員徹夜していると話を聞いて、ツールを使いこなせていないというよりツールに振り回されていることに、残念な気持ちになりました。

西村 店舗がある会社で、前週の売上を毎週月曜日の朝に表計算に入力して本部に送らないといけないのですが、それが嫌で店長になりたくないという店員が続出しているらしいんです。それでも無理に店長にすると本当に辞める人もいると言うので、いたたまれない気持ちになりました。

しかしこれはよく起こることです。たとえば経営層から、「何でこの数字が今すぐ見られないんだ」という話が出ると、「いや、システムに実績が反映されるのにタイムラグがあって」、「いや、今すぐ見たい。何とかしろ」というやり取りになります。そうすると、経営者はそのときの思いつきでデータが見たいと言っただけかもしれませんが、現場のほうはいつ聞かれてもいいように準備するようになります。結果として不要なオペレーションがどんどん増えるし、経営会議の参考資料も山のようになっていく。そういう会社が未だに多いのではないでしょうか。

関口 それはよくわかる気がするなあ。マネジメントのスタイルが大事ということですね。私は以前経営者に「データ分析をすると不都合な真実がけっこう見つかるじゃないですか。それを怒らないでくださいね」という話をしました。そこで怒ってしまうと不都合な真実は隠されて、褒められるためのデータ集めに一生懸命になってしまいます。IT投資をして、データも蓄積されているのだから、データが使える状態になっているほうがいいに決まっているのに、経営者がそういうバイアスを掛けることで、逆に経営者が見たいものが見られなくなってしまうわけです。

あるいは「形式を整えて出せ」とか、「対策を考えてから出せ」とか、そういうのもあまり良くありません。課題がない企業などどこにもなく、だったらその課題をそのまま、「雑でもいいから早く出せ」とマネジメントが言えるかどうか。そうすれば、みんな怒られることを気にしてデータを隠したり、資料を整えるために一生懸命時間を掛けたり、それが面倒なので報告しなくなったりなどがなくなると思うんです。

「まだ分析の深堀りができていない部分があるなら、それがどこなのか教えてくれれば、分かったところまでで良いよ」といった寛容さがないと、データを使って何かすると言っても、無駄な作業ばかり増えてしまって全然進まず、社員は疲弊するばかり。データがあると緻密なレポートが出てくることを求めがちだけど、むしろ雑でいいと経営層が言うことが必要なのかもしれません。

神野 私たちはどちらかと言えば現場に入って伴走する取り組みが主ですが、経営層のものの見方やデータの見方の向上についても支援する必要があるのかもしれませんね。既にやっている部分もあるのかもしれませんが、ならばもっと明確に打ち出すとか……。

関口 天気予報がちょっと外れても、怒る人は少ないじゃないですか。それはみんな天気予報には普段から馴染んでいて、どのぐらいの精度かだいたいわかるから、予報に対して自分なりに向き合って、傘を持っていこうかどうか決めているわけです。経営者も分析にもっと馴染んで、おおまかに晴れなのか曇りなのか雨なのかぐらいわかれば十分で、あとは自分で調整できるようになる必要がありそうです。

クリティカルな問題に対してであれば、それは厳しく言うべきかもしれませんが、そうでないなら完璧を求めないことが、データ活用を本気で進めたいのであれば肝心なことなのではと思います。

神野 人材育成や教育の話でもありますが、総合的には文化醸成の話ですね。

関口 そうだと思います。「完璧で速い」は難しすぎるから、スピードが大事だと言うのであれば、速いことをもっと褒めてあげるのがいいですよね。

西村 マネジメントとしては、時間軸をちゃんと分けてレビューするのがいいと思うんです。たとえば来期の業績が下がりそうとの見通しが出たならば、なぜそうなるのかということに今時間を使うよりも、立て直しに向けたアクションをすぐ始めるべきです。理由については1カ月後にきちっと追究すればいいといったリソースマネジメントが重要ではないでしょうか。

関口 あるアグレッシブな経営者が、何でもすぐやれと言うものだから、結局どれもみんなすぐやらなくなっちゃったという笑い話があったのを思い出しました。今の西村さんの話はけっこう大事で、スピードを求めるものとそうでないものを振り分ける感覚をマネジメントサイドは持たないといけないということです。

難易度なども含めてデータがどうやってできていくかがわかる、すなわち情報活用リテラシーの問題で、マネジメント層にそれがあるかどうか次第なんでしょうけどね。

西村 そうです。最終的にはそこから逃げられないと思うのです。

データをアクションに結びつけるには

関口 あと経営層として大事なのは、分析結果が上がってきたらそれに基づいて実行させることができるかが問われます。分析結果は完璧ではないため、実行してはじめて分析から分かる示唆を検証できるわけです。しかし本当に実行しようと思ったら、業務プロセスがわかっていないとできません。現場のほうは今の仕事と違うことをやれと言われても、それで失敗するリスクは負えないからです。

だから経営者が「そのリスクは私が取る」と言ってくれない限り、現場はアクションを取れない。データでわかったことに対して、何かアクションするとか業務を変えるとか経営層がそこまで腹を括って指示しているのか。失敗したときに「何で失敗したんだ!」と言われれば誰もやらなくなるから、失敗のリスクも経営層が取るところまで含めてやらないといけないと思います。

たとえば金融業などは業法に則ったプロセスが整備されていて、変えるのが難しいじゃないですか。そういう業界はどうしているんでしょう。

神野 しっかりしたガバナンスが求められる業界なので、なかなか柔軟にプロセスを変えるのは難しいのが現実です。それこそ文化醸成が大事で、経営層も周囲の関係者も含めて、ガバナンスとコンプライアンスの考え方も含めて考えていく必要があるでしょう。また自分たち管轄の金融商品の内容や顧客側のお金の動きなどはよく理解していますが、他の部署の業務をあまりよく知らない傾向もあります。属人的な業務が多く、プロセスを変えると大変なことになってしまうんですね。

したがって、たとえばマーケティングのような種を撒くようなテーマはやりやすいのですが、プロセスに手を入れるとなると途端に難しくなってしまいます。データだけの話では、なかなかアクションには結びつかないでしょう。

関口 データ分析で課題を見つけるのは進んでいくけれど、それをアクションにつなげて、検証していくのにはかなりパワーが必要で、その結果なかなかデータドリブンにならないということですね。そこを突破しないといけない。

神野 業界による乖離はあるんでしょうね。小売流通業やライフサイエンス業界ならデータでビジネスをすることが既に根付いているので、デジタル化に違和感がなく、DX推進もほとんど抵抗がありません。そうでない業界は、やはり何か新しいことをすることに対する恐怖心を取り除いた上で、アクションするとはどういうことかを私たちがもっとブレイクダウンして伝えないといけないのかもしれません。

データ活用で現場が恩恵を受けられるように

関口 話は変わりますが、課題を見つけるとそれを何とかしないといけないという話になって、やることが増えるじゃないですか。しかし既にみんな多くの仕事を抱えているわけで、今やっている仕事を取り除かないと、新しいことはなかなかできないわけです。

マネジメントとしては、1つ足したら1つ減らしてあげないと。たとえばマーケティングのソリューションビジネスで、パートナー企業と話をするとよく言われるのが、「もっと自動化してほしい」ということです。データ分析ができることはありがたいけれど、その結果増えるアクションを自動化で減らしてほしいと言うんですね。「セグメントが細かくなってほぼ個人単位になり、きめ細かいマーケティングになったのはいいけれど、今までは20種類ぐらいのセグメントに対してそれぞれコンテンツを用意すればよかったのが、1万人ユーザーがいるのでその分用意しないといけなくなった。とても人手では対応できない」といった話です。

データで気づきが得られたり、課題が見つかったりするのはいいですが、そのためにアクションが膨大に増えることがあります。それに対して、経営層が自動化や業務削減といった形でアクションを減らすこともしてあげないと現場が回りません。データを活用したら仕事が増える一方になったのでは、本末転倒ではないですか。データ活用で社員が恩恵を受けられるようにしていかないといけません。神野 そうなんですよね。ブレインパッドに入社する前からもですが、もう十何年もチェンジマネジメントに取り組んできました。その割にはあまり変わっていないなと思います。ツールやテクノロジーは変わるんですよ。オンプレミスだったのがクラウドになるとか。

これはインダストリーに関係なくですが、変革には痛みが伴う。たとえば仕事が増えたりとか、課題を見つけると解決のための時間が必要だとか、結局残業が増えるだけになり、現場は誰もハッピーではないので、なかなか進まないのだと思うんです。

トレードオフが必要です。8時間という勤務時間の中でやれるようにしないといけない。そのためには業務量を減らすとか、一時的に外部要員を入れるとか、ツールを導入するとか、スキルアップを支援するとかいろいろな方法があります。それを経営者はもっと実施していかないといけません。

しかしながら、このあたりの変革に対する受け入れ方、受容性といったところが、まだまだ日本社会には浸透しきっていないということを改めて再認識しています。

ブレインパッドに求められるバリューの変遷

神野 私がブレインパッドに入社した理由の1つに、単なるデータ活用のアドバイザーではなく、経営の良きアドバイザーやビジネスパートナーになり得るということがありました。それはすなわち、分析結果をまず事実として受け止めてもらい、その上で打ち手を一緒に考えていくことなんだと思うんです。

そのためには、経営・組織として次のビジネスプランをどうするか。たとえばデータ活用によって10人必要だった業務が5人で済むことがわかったとします。では余った5人に何をさせればいいのか? 新しい事業を作って売上を上げるとか、異動して足りない部門を活性化するなど方法はいろいろです。そういう変化への対応や文化醸成について私たちはもっと発信し、それだけではなく実現への支援もしていくことがもっと求められているのではないでしょうか。

「業務を効率化しますよ、課題がありますよ、ツールを入れてこれをやりましょう」だけではなく、分析結果から「どう業務を変えていきますか」、「次に取り組んでいきましょう」、「次のビジネスを考えていきましょう」といった提言をもっとやっていくべきではないかと思います。

西村 ブレインパッドに求められていることが最近変わってきているのは感じます。単に施策を支援してほしいというだけではなく、神野さんがやられているような文化醸成であったり、チェンジマネジメントであったり、経営アジェンダへの貢献だったりを求められるようになりました。

一方で先ほど出てきた理学系:原因を推論する分析、つまり技術的に難しいのだけど、それに社員を注力させて本当に花が咲くかわからないことをブレインパッドに任せたいという話も増えています。ただ社内の人たちの実力がついてくると、「ブレインパッドばかりが何だか面白そうな分析をしていて、我々現場はルーティンワークばかりで割に合わないな」といった不満も出てくると思うんですよね。既にそこに気づき始めているクライアントもいるようですし。

私たちのバリューも変化しており、以前はデータ分析のオペレーションのサポートだったのが、「社内の人間をそこに使うとスピードが遅くなるのでブレインパッドを使おう」という外部を使う意義として、加速化の支援も私たちのバリューになってくるのではないでしょうか。

経営層に必要なデータドリブンに舵を切る気概

関口 最近未来のことを考えることが多いんですが、日本の生産年齢人口はどんどん減っています。5年後には10%減ると言われていて、計算すると常に20%の生産性向上が求められていたりもします。生産性向上には効率化と付加価値向上の2つの方向があって、効率化だけではなく、付加価値向上に関してもデータ活用が結びつくことにこだわっていかないといけないと思うんです。

DXというとデータを使うことが一大テーマで、それはそれでいいのだけれど、データと価値をどう結びつけるかにまでまだ至っていません。カルチャーという話が出てきましたが、今後20%の生産性向上を実現させていかないといけないのであれば、やはりマネジメントの立ち位置がすごく重要になってきます。そのためにデータを使ってビジネスをやろうという気概が持てるかどうかでけっこうな差が付くのではないでしょうか。

新興のベンチャー企業は、ビジネスそのものがテクノロジー活用が前提にありで、デジタルやデータを駆使することが当たり前なので、データを使ってビジネスを進化させることを日々実践しているわけです。その点については、大企業は置いていかれる一方です。

しかし日本の経済を支えているのはやはり大企業であって、大企業が経済成長にどれだけ寄与するかが日本という国家にとってはとても重要なのは変わりません。だからベンチャーと同じことはできないかもしれないけれど、人材育成の道筋はあるわけです。そのやり方も参照しながら、データドリブンに舵を切って、データを使ってビジネス価値を生むことで生産性を高めていく――大企業の経営者がそういうことにもっと本気で覚悟を持って取り組んでもらいたいし、私たちもそれを支援していきたいと改めて思っている次第です。

テクニカルレイヤーからビジネスレイヤーのサポートへ

神野 データ分析の支援は、ずっとやり続けることではなく、期限があると思うんです。内製化できるように伴走支援して、自走できるようになった時点で次の展開があるわけですが、そこで「本当の意味でのビジネスパートナー」になることを目指したいんですね。

私たちと経営層が議論している中に現場の人たちがもっと入ってきて、データをどう活用して、ビジネス価値に結びつけるのかを議論し、次のビジネスプランを一緒に作っていく――そういうことができる現場の人が「デジタル人材」「データ活用人材」であり、そういう人が普通にいる企業にステージアップしてほしい。そのカンフル剤としてブレインパッドを利用してくれればいい。

そして、私たちは業務委託契約ではなく、顧問契約という形でいろいろな企業に入っていければいいと思うのです。現在は何だかんだ言ってもテクニカルなレイヤーでデータ活用の支援をしているわけですが、ビジネスレイヤーでのサポートをしていきたいということです。たとえば関口さんは「ビジネスクリエイター」という肩書きで最近仕事をされていますよね。そういう「エキスパートが裏方として御社を支えます」というスタンスで、もっとクライアントに関わっていきたいですね。

関口 リデザインすることが最近大事だと思っていて、現状の業務やサービスのプロセスをゼロベースで書き直したらどうなるのかを試してみたくなるんですよね。そうすると今とは全然違うプロセスになるかもしれない。ブレインパッドでもやったほうがいいかもしれませんが。

ただ社内の人だけでゼロベースからプロセスをリデザインしろと言われても、これはかなり無茶なことなので、そこでブレインパッドがお役に立てればいいと思います。神野さんが言うように伴走支援は早く結果を出して、そういうことを一緒にやれるパートナーを目指したい。

西村 それはいいですね。

関口 「データは新しい石油」と言われてから10年経っていますが、果たしてそういう状態になっているか考えさせられます。DXやAIブームのおかげもあって、データは重要というコンセンサスはできましたが、データを使いこなすとビジネスの価値が高まることはまだ検証できていないのではないでしょうか。

そこで私たちとしては、伸び悩んでいる企業でデータ活用を実践したら価値が向上したということをもっとやりたい。つまりデータ分析の支援をするというよりも、その後に実際に価値が向上することでデータ活用の効果を実証したいのです。そうしないと「データは重要」で終わってしまいます。日本のビジネスをマネジメントしている人たちに対して、データ分析ができる人を増やすだけではなく、何かスパイスになることにこだわっていきたい。神野 クライアントが内製化できる、つまり自走できるようになることは、SDGsの1つではないかと個人的には思っています。第三者の私たちに頼らずにデータドリブンで経営できることは持続可能性の1つの要件ではないかと。だからこそ私たちの支援の仕方も、シフトチェンジしてさらに加速しながら変えていく必要があるのではないでしょうか。

組織のカルチャーを変える「スター」

関口 カルチャーの話をしたいのですが、カルチャーを変えることは重要だとよく言われます。しかし「カルチャーを変えましょう」と言って実際にカルチャーが変わることはまずありません。ところがKPIや仕事のルールを変えることで行動様式が変わり、カルチャーが変わっていきます。カルチャーを変える上で何が大事かというと、会社の仕組みを変えることだと思うんですよ。ではデータを活用するカルチャーに変えるためには、仕組みのどの部分を変えるのがいいのでしょうか。

神野 ネイチャーとカルチャーでは、ネーチャーは企業のコアコンピタンスなどでなかなか変えることはできませんが、カルチャーはそのときの流行みたいなものでいくらでも変えられると思っています。

結局、会社は人で動いているわけで、カルチャーを変えるカンフル剤も人が一番なんですね。変革の「スター」を作り上げることが最も有効だと思っています。

その人たちに音頭を取ってもらう必要があるので、優秀な人にこちらから「スターになってください」とお願いすることになります。で、その人たちに現場での取り組みを自ら発信してもらうわけです。

関口 「優秀」の定義を変えるということですか。

神野 そうですね。「働き方の変化をちゃんと受け入れてくれて、新しい仕事のやり方を体現してくれる人」を優秀と定義し、その人たちにお願いする形になります。

関口 そうすると、データから価値を見出そうとして、徹底的にファクトベースで掘り下げてアクションを取り、その結果成果を出した人を褒め称えるということでしょうか。

神野 ファクトベースでできる人は、もうスーパースターですね。そこまでできなくても、データを活用して仕事に役立てる楽しさを発信できる人ならいいと思います。データで課題を解決できたとしたら、それはもちろん素晴らしいですが。

関口 ただ気づきを得たとか、他の社員のヒントになるレポートを作ったとか、そういったことをした人を拾い上げて、褒め称える……。

神野 最初はそれで十分です。そういうことが意外とできていないのです。デジタルツールを導入したといったことを褒め称える会社は多いのですが。しかしツールは「ハサミ」でしかないのです。使いこなせたら良く切れるけど、間違った使い方をすると人を傷つけるし、右手用のハサミを左手で持っても使えません。

しかしデータとは事実であり、真実であり、ファクトのことで、それを活用してビジネスを動かすのがデータドリブンです。デジタルツールありきのデータ活用は変えていかないといけません。官公庁も「DX」とは言いますが、「データ」のことはあまり言いません。それでDXのためのツールがもてはやされるのですが、資産はデータなんだということをもっと発信して、経営者に改めて理解してもらう取り組みをしていきたいのです。

西村 CDOが必要だと最近言われるようになってきました。ハサミの例で言えば、切れ味のいいハサミを用意する人です。では「ハサミの使い手は?」と考えると、CDOがどれだけCOOのアジェンダに近づけるかがポイントだと思うんです。

前編でも触れましたが、たとえば受発注業務なら、それを丸ごとデジタルに置き換えて、受発注担当者をなくすといったことを、不退転の決意でやらないと組織は変わっていかないのではないか。少子高齢化で労働生産人口が減っている中、このような取り組みを、もう待ったなしでやらないといけないはずです。

神野 同感です。

データ活用の本質的な課題解決のための提言や、ブレインパッドがプロフェッショナルとして解決にどう関わっていくかといった話が一通りできたと思います。

関口 今回は私たちが考えていることをお話ししたわけですが、実際にリサーチしたデータを見ながら、それを紐解いていくと説得力が増しますよね。データからトレンドをどう読むかを具体的に示すこともできます。そういう機会があればいいなと思いました。

神野 いいですね。テーマやアジェンダを検討します。本日はありがとうございました。

【データガバナンスに関連する記事】
データガバナンスとは?データ管理体制の重要性

この記事の続きはこちら
【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの-第7回 シリーズの振り返りから考える「内製化」の本懐

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2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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