金融業界におけるデータ活用の可能性 ~コンサルタント×データサイエンティスト対談~ 「第1回 金融データ活用チャレンジ」入賞記念

金融業界のデータ活用の遅れが指摘される中、「個人の活躍のため、金融機関のデータ活用スタンダードを策定し、金融業界の魅力を発信する」ことを目的に、金融機関を中心に関連組織を集めて結成された一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)。同協会内・データコンペ委員会主催のコンペ「第1回 金融データ活用チャレンジ」にて、ブレインパッドのデータサイエンティスト、中山英樹が精度部門第3位入賞を果たしました。

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コンペ参加者には学生から行員まで多様な立場の人々がおり、金融業界のデータ活用の重要性を多くが認識する状況になっています。

そこで本記事では、ブレインパッドのデータサイエンティストである中山英樹と、執行役員で、FDUA標準化委員会委員長代行を務める神野雅彦が、金融×データの可能性について語り合いました。

■登場者

  • 神野雅彦
    株式会社ブレインパッド 執行役員
    フィナンシャルインダストリー担当
    一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)標準化委員会 委員長代行

東海大学理学部卒業。大手IT企業、外資系企業、海外駐在、日系コンサルティング会社および外資系コンサルティングファームを経て、有限責任監査法人トーマツに入所。2022年よりブレインパッドに参画。戦略コンサルタントとしての経験を活かし、顧客企業のデータドリブン企業への変革、DX推進体制の強化、データ組織・人材開発の伴走支援、金融領域の活性化、デジタル基盤を含むトランスフォーメーションを実現するためのビジネス開発、プランニング等を担う。2023年7月より現職。一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)標準化委員会 委員長代行を務める。

  • 中山英樹 
    株式会社ブレインパッド 
    アナリティクスコンサルティングユニット

2016年6月に株式会社ブレインパッドに入社。前職は監査法人にて10年ほど勤務、会計監査業務やデータ分析業務に携わる。株式会社ブレインパッドにおいては、ネット業界における広告の分析、配信の最適化、アパレル業界の需要予測・画像分析、人材業界の人事分析・自然言語の分析などのプロジェクトに携わる。

自己紹介と2人の関係性

株式会社ブレインパッド・神野 雅彦(以下、神野) ブレインパッド執行役員の神野です。一般社団法人金融データ活用推進協会(以下、FDUA)の標準化委員会委員長代行を務めております。この度、FDUA内にあるデータコンペ委員会が主催したコンペ「第1回金融データ活用チャレンジ」で、ブレインパッドの中山さんが予測精度部門で第3位に入賞されました。おめでとうございます。ブレインパッドにはどのぐらい在籍されているのでしょうか?

株式会社ブレインパッド・神野雅彦

株式会社ブレインパッド・中山 英樹(以下、中山) ありがとうございます。ブレインパッドには入社して7年目ですね。データサイエンティストとして日々業務を行っています。

株式会社ブレインパッド・中山英樹

神野 金融データ活用チャレンジは、金融業界の次世代の活躍を期待し、新たなスターを発掘するという新しい取り組みです。ただし、エントリー段階では個人情報が隠されていて、中山さんがエントリーされていることを私自身は知りませんでした。

開催の目的は、「未来の金融業界のデータサイエンスを担う人材を発掘する」ことで、金融庁のお墨付きをもらって実施しています。FDUAの代表の岡田さんとは、中山さんもお話しされましたか?

中山 はい、表彰式の際に少しだけお話ししました。元々私は公認会計士だったので、金融機関出身ということで親近感を感じましたね。

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「金融データ活用チャレンジ」へ参加した理由

神野 金融業界では、積極的にデータ活用に取り組もうとしているものの、他業界と比較すると、まだまだデータが有効活用されていないという状況が見受けられます。そのため、このコンペは現状把握をするとともに、金融業界がデータ活用でどう変わるかを視野に入れたものでした。中山さんの示唆やマインドをブレインパッド内で広めてもらえるとありがたいです。

中山 ありがとうございます。意識して、活動していきたいと思います。

神野 中山さんが「金融データ活用チャレンジ」にエントリーされた理由を教えていただけますか?

中山 データ活用のコンペへの参加は以前から行っていました。特に前職が監査法人だったこともあり、金融系への興味が強かったことから、この度のFDUAの「第1回 金融データ活用チャレンジ」に参加しました。

神野 他のデータ活用のコンペにも参加されているのでしょうか?

中山 そうですね、以前はグラフのデータ解析や医療画像解析、テスト採点など、業界や内容を絞った多種多様なコンペに参加していました。直近では投資のコンペにも挑戦しました。購入する株を決めて、当日の朝に購入し、売買が終了する間際に売却し、どれだけ利益が出るかという内容だったのですが、市況など予測不能な要素が多く難しかったです。

神野 今回のコンペに取り組んだ感想はいかがでしたか?

中山 非常に参加しやすいコンペでしたね。結果の予想が容易で1時間程度で挑戦できる程度の課題でしたし、実際の現場でも活用可能な課題だったので参考になりました。ただし、課題をもう少し現実に即したものにするとさらに良いと感じました。

神野 なるほど、現実に即した数値を使った予測について扱うべきであるという提言でしょうか。ぜひ実施したアンケートを通して主催者側にも伝えていただきたいです。

中山 確かに数値の設定が難しいですが、参加しやすい課題であることを念頭に置きつつ、現実に即したコンペ内容にしていただけるといいなと思います。また、返済額に対して預金がどれだけあるのかを示す預貸率など、金融ドメインの知識を統一的に扱える仮説を立てたいと感じました。

データサイエンティスト自ら示した「金融業界×データ活用」の可能性

神野 今回の入賞は、 金融業界×データ活用の可能性をデータサイエンティストが自ら示したということだと思っています。実際に中山さんが金融データを触ってみて、例えば、データサイエンスの観点からデータが足りているか、足りていないかなど、感じたことがあればお願いします。

中山 データ活用は主に意思決定に用いられます。金融業界には、その意思決定に利用できるデータが十分にあると思います。例えば、住宅ローンの承認、返済困難者への対応、新規顧客や企業の資金需要など、金融業界の課題や意思決定にデータ活用の可能性を感じました。

神野 では、金融業界におけるデータサイエンスの導入に対して、中山さんはどのように感じられますか?

中山 金融業界でデータサイエンスを導入するには、まず経営層がデータ活用を進めることが大切かと思います。成果を出すためには、意思決定の質を上げることが鍵となります。

質を上げる方法は3つあります。1つ目は、最良の選択肢を選ぶこと。2つ目は、限られた選択肢を並べつくしたうえで、新たな選択肢を作ること。3つ目は意思決定に根拠を持つことです。

例えば住宅ローン金利について、「データを用いて金利別の新規住宅ローンの想定貸出額や資金調達コストをシミュレーションした結果、0.3%の変動金利が資金需要、そして銀行の収益性や不動産需要への影響から考えて最もバランスが良いと考えられますので、今回は0.3%とします。」という流れを作り、感覚ではなくデータに基づいて住宅ローン金利を変動させることが可能です。住宅ローン金利に関しては、より根拠のある収益の見立てができるようになるため、他人の納得感を得、組織全体として動きやすくなります。

経営者から取り組むべき理由は、経営者が行う意思決定の場合、動く金額が大きいためです。10億や100億といった金額が動くケースも多く、0.1%でも選択肢の質を上げることができれば、これまでにない新たな価値をデータ分析から得られることができるでしょう。

だからこそ、データ活用は経営層から取り組むべきだと言えます。データ活用が遅れる、あるいはデータ活用を行わないと、意思決定の質を上げる機会が失われます。この点が、日本のデータ活用が遅れている一因で、成長や進化が妨げられていると思います。

現場と経営層:意思決定のレベル感の違い

神野 金融業界に限らず、ブレインパッドとしてデータサイエンスの話をする場合には、データサイエンスの実行は現場の力によるものですので、分析・人材育成の支援も現場向けに行います。

そして、経営の意思決定やデータドリブンな意思決定は組織の最上部で行わなければなりません。データサイエンスの結果が組織全体に吸い上げられることで、経営判断は勘や経験でなく、データに基づくようになるという流れが重要です。

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顧客に提案・ 説明する際、経験と勘で判断するケースは未だに多いと言えるでしょう。経営層や管理職には、データがこれまでの考えを裏付けたり、逆の結果を示したりすることを受け入れ、データドリブンに取り組むことが必要だと説明しています。

この場合の意思決定は、経営であれば経営のための意思決定、 現場であれば現場(判断・条件分岐)のための意思決定となります。そして、選択肢によって起こるインパクトの度合いが違うと言えるでしょう。しかし、現場と経営層の意思決定のレベル感の違いはまだまだ浸透していない、多くの余白を有していると思います。

例えば、広告の打ち出し方を考えてみます。データサイエンスで予想モデルを作成し、その結果を基に提案が可能です。ただし、これは経営判断ではなく、マーケティングのオペレーションによる判断の一部です。

経営判断としては、そういった結果を踏まえ、戦略や方針、そして売上と利益に繋がった時に意思決定に結びつけることができると言えます。私の最近のテーマは、それぞれ適切な場面でのデータサイエンスと経営判断があるということです。経営や管理職の方々が、データドリブンな意思決定に取り組む覚悟が必要です。

中山 ただし、経営が意思決定しなければならない事項もあるため、現場からの意思決定がすべて正しいとは限りません。現場レベルの意思決定というと、売上に影響を与えるケースを想定します。

例えば、住宅ローンの貸し出しは管理職レベルの決定で、結果、利益が生じたとしても、経営層から見れば、数字のレビューに過ぎません。住宅ローン金利全体を上げる場合は経営の意思決定となり、そういった意思決定の分かれ方が存在します。

神野 FDUAでは、「意思決定は売上と利益を追求すべき」といった観点からビジネス評価のチェックシートを作っています。しかし、コスト抑制やその観点でKPIが設定されていないケースも多く、顧客満足度など定性的に評価するケースもありました。

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つまり、意思決定の内容の考え方に壁があり、それをよりアクセスしやすい形にしたいと思っています。決断とオペレーションの定義が必要だと感じています。

金融業界では、決断とオペレーションの関連性をどう解釈するかが重要です。データサイエンスを用いた意思決定をするという覚悟が、企業の行動に影響を与えると感じます。この話題は今後深掘りする必要があると思っていますので、別途ご相談させてください。

中山 ぜひ、よろしくお願いいたします。また、経営からデータサイエンスに取り組むという姿勢は、世の中では既に成功例があります。M&A業界のM&A総研ホールディングスが、AIとデータ活用でディール期間を短縮し、手数料から利益を増やした例は参考になると思います。これは高いROIが示す通り、経営の意思決定の質は企業価値に表れると言えるでしょう。

神野 その通りです。しかし、金融業界全体でどれだけこの動きが求められるかが重要です。全ての金融機関が同じレベルに到達できるとは限らないので、段階として何を定めるのかといった点も重要です。

中山 地銀の場合は、社会貢献的な役割も大きいですね。 

神野 そのとおりです。データを扱うという観点よりも、アナログな信頼性に頼るケースが多いところはありました。しかしながら、昨今はデータサイエンスの力が増しており、地方銀行の人々もコンペに応募・入賞していました。現場のデータサイエンス力が拡大・向上している一方、それを活用する場がないという状況も多いようです。

中山 多くの参加者が若手だったので、管理職にも参加を促したいですね。

神野 確かに、管理職向けのデータコンペがあっても良いかもしれません。また、学生の応募やコンペ参加も増えています。

データ活用の内製化

神野 では、データ活用の内製化について話を移したいと思います。

中山 データ活用による成果を出すには、管理職や現場でデータ活用の範囲を広げる必要があると思います。ただし、現状ではキャパシティが問題です。限定的なサポートなら、我々のような外部の支援会社を頼ることもできます。

しかし、全ての銀行・金融機関でデータ活用を行うには、データ活用の内製化が重要です。これにより、各所で日常的に意思決定することが可能となり、その質が向上します。

神野 また、内製化を語る際にはリスキリングの話がついてまわります。中山さんはリスキリング経験者とお伺いしています。どのような経緯からリスキリングされたのですか?

中山 ブレインパッドに転職したときのお話ですね。前職ではTableauを使用してデータを可視化したり、PythonやRでデータをクラスタリングするということを行っていましたが、社内にデータ分析に詳しい人がいなかったため、独学によりデータ分析を学ぶも自己流に終始してしまい、十分な成果を出せないような状況に陥っていました。正しいデータ分析手法を身につけるために、ブレインパッドに転職しました。

詳しくは「【シリーズ】リスキリング×データサイエンティスト CASE1:中山英樹」でインタビューをしてもらいましたので、よろしければご覧ください。

ブレインパッド×金融データ活用でできそうなこと

神野 今年度から、私たちブレインパッドはフィナンシャルインダストリー向けのデータサイエンスユニットを立ち上げました。金融業界はデータ活用の動きが、他業界と比較して遅れ気味と言われていますが、その重要性を認知した取り組みが広がっており、金融機関によっては昨今話題の生成系AIや大規模言語モデルを利用できる環境を整えています。

データ活用への期待は高まり、データサイエンティストの役割についても「定義」が変わってきています。現状では、ビジネス寄り・テクノロジー寄り・AIのロジックから考えられるかどうかで分けられます。特に顧客が求めているビジネス寄りの立場を理解し、サービスと一致させていくことが重要です。

「データの民主化」という言葉は以前から使われていますが、その意味は変わってきています。例えばこれまでは、表面的なダッシュボード作成だったものから、常にデータサイエンス・データ活用ができる状況を作ることが求められています。データサイエンティストだけでなく、一般の社員の方々も業務の中でデータに触れ、経験則や勘ではなく、データから得られる傾向でデータドリブンな意思決定を行う必要があると考えています。

ブレインパッドが支援している領域でも、データ活用のチームやデータサイエンス部門だけでなく、業務用の人々にデータサイエンスを広げ、総合的な環境を整えることが重要です。

金融業界はデータ活用に関して、知識や手法を持つ人材が増えている状況で、データが貢献できる部分は多いと認識しています。これからもこういった能力を持っている方々から金融業界データ活用の活性化に貢献してもらえればと思います。

中山 私も金融業界の経営層から現場まで、データ活用が広がることを支援したいと思います。その結果、収益性を上げ、資金需要のあるところにお金を貸すなどの課題を解決し、社会全体を活性化することにつながるでしょう。そういった観点から私もサポートしていきたいと感じました。

神野 ぜひ一緒に、金融業界に対するデータサイエンスの貢献に一緒に取り組んでいただければと思います。今後ともよろしくお願いします。

中山 よろしくお願いします。

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WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

DOORS編集部

ブレインパッドのマーケティング本部が中心となり、主にDXにまつわるティップス記事を執筆。
また、ビジネス総合誌で実績十分のライター、AI、ディープラーニングへの知見が深いライターなど、外部クリエイターの協力も得て、様々な記事を制作中。

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