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小売業界のデータ分析でつまずかないための工夫業界特有の事情をくみ取ったデータ分析を行うには

公開日
2021.11.29
更新日
2024.02.19

私は、データ分析職のバックボーンとしては珍しく、新卒から8年ほど大手コンビニエンスストア(CVS)チェーンにて、店長として店舗を切り盛りし、本部指導員としてフランチャイズオーナーの方が経営する店舗へと毎週巡回を行うなどの現場業務に従事しておりました。

その後、to C向けの来店促進アプリ企業への転職を機に、全国各地のスーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンターといった小売企業の広告販促部署向けに「来店情報」や「購買データ」を活用した分析に従事し、現在はブレインパッドでデータサイエンティストをしております。

小売業と縁が深いキャリアで小売業の現場で培った原体験は、分析職となった現在でも私に貴重な示唆を与えています。

データが生み出される「背景を考察する」ことは、業界を問わず、分析業務においては非常に重要なことです。現在の私はデジタルマーケティング領域での集計レポート作成や機械学習モデルの構築を行っていますが、ビックデータのログの裏側に存在する、「人間の感情」や「行動」を想像しながら仮説を組み立てることは、過去の経験が業務遂行に非常に役立っています。

ともすればデータ分析において、「データとは絶対に正しいもの」として扱われていますが、データが生まれる背景には意図的/偶発的な要因が見え隠れしていることを店舗運営の現場で目の当たりにしていました。

今回は私の小売業での実体験をもとに、数値データの背後に隠された”データ生成の発生要因”を考える重要性をお伝えできればと考えています

小売業の特性

実際の現場の話に入る前に、まずは小売業の特性についてお話しします。

小売業は私達の生活に身近な業界であるので想像力が働きやすい業界であります。この記事をご覧いただく皆様にも、実際、小売業でアルバイトで働いた方もいるのではないでしょうか。

小売業の定義については、日本標準産業分類では「個人用または家庭用消費のために商品を販売するもの、または産業用使用者に少量又は少額に商品を販売するもの」と定義されています。
かみ砕いた定義ですと、”小売”という名前そのままに”少量切り売り”するスタイルが該当します。

取り扱う商材には、”最寄品”/”買回品”/”専門品”/”非探索品”/…に分類することができます。例えば家電量販店では、消費者が比較購買を行う”買回品”を取り扱う業態となります。

私の出発点であるコンビニエンスストアでは、日常的に購入を繰り返す”最寄品”が主要商材となりますので、以降の話については最寄品を主体に取り扱う店舗をイメージしていただければと思います。

小売業の業務プロセスは、”仕入れて売る”というシンプルな構造であるため、参入障壁が低い業界と言われています。競合店舗との差別化は、「品揃え/価格/利便性/付加サービス」のような軸で打ち出すことはできるものの、最寄品を取り扱う性質上、スーパーやコンビニエンスストアでは強力な差別化の実現に苦労する実情です。
小売業の利益率は決して高い部類ではなく、店舗には一般消費者が出入りする条件も重なり、設備投資や機械化の余地が多分にある分野です。また最終消費者との接点になるため、臨機応変に応対が可能な「人間中心のオペレーション」がまだまだ主流である点も特徴です。

伝統的な仕入れて売るというスタイル以外にも、店舗以外のチャネルとしてECやデリバリー分野への進出やポイントカードのID-POSを利用したデータ分析も日常に取り入れられました。

近年、「小売業のDX」が叫ばれる背景には、消費者の変化にいかに対応していけるかが問われる業界の宿命であり、時代に合わせて様々な取組みを柔軟に取り入れやすい点が関係しているのかと思います。

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小売業におけるDXの取り組みは?

店舗オペレーションのばらつき

私が働いていたコンビニエンスストアでは、「購買データ」を基準として日々の業務を行っていました。ただしこのデータには意外と落とし穴も多く存在しており、数値を鵜呑みにして判断を行い、痛い目にあうこともしばしばありました。

そのような経験から、データをそのまま信じるのではなく、「背後にある現象のメカニズム」まで想像力を働かすことが大事なのだと身をもって経験しました。

小売業には、店内での販売促進や売場構成などをデータに基づいて決定していく「インストアマーチャンダイジング」という考え方があります。

例えば「店内レイアウトは顧客回遊距離が長くなるように棚を配置」といった類のものです。

設備レイアウト等の機材は、あまり店舗間での差は出てこないのですが、人に依存するオペレーション業務である商品陳列業務は、店員の習熟度や仕組み化の整備有無の要因によって、結果のムラが発生します。

商品陳列の場合、視認性が良く、手の取りやすい高さを「ゴールデンゾーン」と呼び、最も販売効率が高いと言われています。ところが、店員の習熟度で運用が左右します。ゴールデンゾーンの陳列が投げやりであったり、商品販売後の補充作業を見落したりという事象が起こります。データ上では売れ行き不調な商品が、店頭で確認すると雑多なバックヤードの陰に商品が眠っていたという事例にも遭遇します。

当然このような環境下で取得されたデータは、商品の売上評価を考えるうえで店舗間のバイアスとなって出現していきます。

もう一つ、オペレーションに起因する事例を紹介したいと思います。

オペレーション実務では、会計時の商品登録ミスや万引きなどによって「売場とデータに乖離」が発生する可能性があります。この差異を修正せず進めると、データ上ではいつまでも在庫が残ってしまう状況を招きます。万引き被害により高級化粧品が売場から消えていたにも関わらず、コンピュータ上の数値だけを見て発注作業を行っていたため、3カ月間も商品棚が空っぽの店舗もありました。

このような話も店舗のオペレーション能力に左右される事例といえると思います。

先述のとおり、利益率の低さやコスト・安全性の兼ね合いから、店舗での人的作業が占める比率は高いため、ある種、「店舗オペレーション能力の偏り」によって発生する要因ともいえるでしょう。

データ化されていない顧客行動

コンビニエンスストアでのメインの取扱商品は「最寄品」です。多くの人は「最寄品の意思決定」にそれほどコストを使いません。
空腹を満たすために商品を選定するため、お弁当・おにぎり・サンドイッチが置かれた冷蔵ケースから、カップ麺やレトルトの常温棚を確認し、冷凍食品棚を目視した後に、レジ前のカウンターフーズまですべての食材のバリエーションを吟味しながら毎回購入している消費者行動は稀に見ますが、珍しい行動部類に入ります。

一方、店内でお客様の行動を観察していると、棚前で迷う姿も散見されます。

商品検討時において、最も気に入った商品を見つけられなかった場合、お客様は特に声もあげずに立ち去るか、もしくは無難な商品を選び、レジに並ぶことになります。「本当は新商品のAという商品が欲しかった」が、見当たらなかったので「定番品のBを購入」した。これは、データ分析場は「表面上はBが売れた事実」しか残りません。

このデータ分析の結果、発注の仕組みが自動化されていくことで、店舗棚には「万人受けする無難な商品」が最大公約数的に埋め尽くされる結果になります。

「購入時の迷い」についても、最終的に購買した情報しかデータに残りません。2つの商品を両方手にして検討した末に売れなかったのか、はたまた最初から見向きもされなかったのかはブラックボックスです。

そのような情報を得るために、私が店長をしていた頃は、新商品の発売日にお客様の行動を棚前で観察し、常連のお客様にパッケージから受ける印象や購買・未購買の理由などをお伺いしながら、今後の売れ行きを考える材料としていました。
もちろん一定規模のチェーンストアであれば、全体の売れ筋情報は共有されるため、品揃えの方向性としては、ある程度は正しい方向に向き合うことができると思います。とはいえ購買前の顧客行動情報を加えることで、個店/個人という粒度でまだまだ最適化ができる余地は残されているのではないかと感じています。

データに現れない外部要因

コンビニエンス業界では、一般消費者向けなので、あらゆる「外部要因」に非常に左右されやすい業界といえます。代表的な事例としては”天気”がそれにあたるでしょう。

「天候や気温」はもちろんのこと、湿度や風速などが影響を及ぼす「体感温度」、1日の最低気温/最高気温の「気温差」もコンビニエンス業界では「購買行動の変化を促す」重要な要因となります。

カレンダーに準拠するイベントの影響も無視できませんし、近年ではマスメディアやSNSでのプロモーションの影響も非常に大きな影響を持つようになりました。

上記要因は観測可能な部類のデータですが、中には店舗だけに現れる外部要因も発生します。

近隣小学校での運動会などの「商圏内イベント」や納品配送時間の変更による「在庫パターンの変化」は、店舗運営の当事者であれば、自明のことでありますが、外部の人間からは把握しづらい部分になります。

「顧客の離反原因」も店舗データだけでは真相を掴みづらい領域になります。

ポイントカードのような個人に紐づく購買データ履歴があれば顧客の離反自体は観測可能ですが、店舗を訪れなくなる理由には様々なものがあります。

私がコンビニエンスストアで店舗指導を行っていたときは、特に「店舗外の変化」に気を配るようにしていました。競合店舗の出現や近隣集客施設の閉鎖、道路工事による市街地動線の変化などは店舗への人の流れを大きく変える可能性があります。

とある店舗で中高生の来店が減少した原因調査を行った際は、学校側から「店舗の営業妨害になる可能性があるため、登下校時の店舗立ち寄り禁止」という指令が出ていたこともありました。

小売業のお客様は「声を上げずに離れていく行動」が多いため、現場では「自らの目と足」で周囲の観察を行いながら売上への「影響を推測すること」が重要だと言われます。このような外部要因の究明も売上データだけからでは導くことは難しいといえるでしょう。

まとめ

少子高齢化やテクノロジーの進歩、コロナ禍での新しい生活様式などの影響により、消費者との最終接点である小売業にも店舗の省人化、無人化、ショーケース化などに代表される大きな変化の波が訪れています。

小売業向けの新たなテクノロジーや設備は日々進歩し、店内の回遊ログや画像やセンサーによる在庫情報の取得、棚前での商品検討動作ログなどの新しいデータを取得することも可能になりました。

「顧客の行動ログ分析」はデジタルチャネルの専売特許という側面がありましたが、これまで得られなかった新しいデータが取得可能となることで、リアル店舗でも、「デジタルマーケティングの分析手法」を応用することが今後推進されていくと実感しています。お客様に快適で楽しく新しい買い物体験を作り出すための、情報の上手い活用が、各店舗の競合差別化にもつながってくる時代に突入しました。

長年のキャリアを小売業とともにする私個人としては、店舗・本部ともにデータ分析・データ活用の余地がたくさんあり、小売業は、変革の可能性が多い魅力的な業界だと感じています。私の職務を通じて、小売業界の変革をご支援しつつ、業界ウォッチを続けていきたいと思います。

本記事が小売業に関わるお客様のDX推進の一助になれば幸いです。

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