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【シリーズ】データ分析プロジェクトの「プロジェクトマネージャー(PM)」に求められる役割 CASE1:データサイエンティスト・田村潤

執筆者
公開日
2023.07.21
更新日
2024.02.21

データサイエンスをビジネス現場に適用すべく、データ分析プロジェクトを推進する際には、データ分析とビジネスの橋渡し役となる、「プロジェクトマネジメント」ができる、「プロジェクトマネージャー(以下、PM)」の存在が必須です。

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PMは自らデータサイエンティストとして分析業務に取り組むこともあれば、プロジェクトに参加しているデータサイエンティストを束ねるマネジメント業務を担うこともあります。また、クライアントのメンバーとコミュニケーションを図りビジネス理解を深めるなど、データ分析プロジェクトになくてはならない存在です。

では、データ分析プロジェクトをリードするPMは、プロジェクトを遂行する上で何を意識しているのか。ブレインパッドのデータサイエンティストで実際にPMを務めているメンバーに、その心得を聞きました。

■登場者

  • 田村 潤
    株式会社ブレインパッド
    アナリティクスコンサルティングユニット
    シニアリードデータサイエンティスト

web業界・エンタメ業界では広告プロダクトの改善やマーケティング施策立案に向けた分析などデジタルマーケティングの分野を中心に支援。また、総合商社様とサプライチェーンマネジメント(配送最適化・需要予測に基づく発注業務支援)の領域に関する課題解決支援を実施。

【田村が登場する、その他記事】【座談会】データサイエンティストたちが考えるDX – 前編~求められるのは「データの整理」と「現場を巻き込む力」~

本記事の執筆者
  • データサイエンティスト
    田村 潤
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    アナリティクスコンサルティングユニット
    役職
    マネジャー
    web業界・エンタメ業界では広告プロダクトの改善やマーケティング施策立案に向けた分析などデジタルマーケティングの分野を中心に支援。また、総合商社様とサプライチェーンマネジメント(配送最適化・需要予測に基づく発注業務支援)の領域に関する課題解決支援を実施。

はじめに

データサイエンティストの田村潤です。本稿を読まれている方の中には、何らかのプロジェクトに関わったことがあるがデータ分析プロジェクトは未経験という方が多いのではないでしょうか。

Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)(QCD)を管理し、関係者間のコミュニケーションを円滑に図る等という点ではどんなプロジェクトでも変わりませんが、データ分析プロジェクト独特の留意点も存在します。

そこで、これからデータ分析プロジェクトに取り組む方、既に取り組んでいるがもっと成果を出したいという方のために、データ分析プロジェクトをリードするPMがプロジェクトを遂行する上でどのようなことを意識しているかについてお話ししたいと思います。


PMになるまでの経歴と現在の担当プロジェクト

私は、データサイエンティストとしてブレインパッドに入社して、今年で10年目になります。初期には、主に広告系・マーケティング系のプロジェクトを担当しました。Web広告配信の最適化、広告プロダクトの改善、デジタルマーケティングの施策立案と現状分析が主な仕事です。

お客様への説明などコミュニケーション面が問題なくこなせるようになってきた入社4年目のタイミングで、PMを任されるようになりました。ちなみにブレインパッドでは、4~5年目ぐらいからリーダーのポジションを任されるのがデータサイエンティストの一般的なキャリアパスで、特別早かったわけではありません。

現在は、2つのプロジェクトにPMとして参画しています。1つは大手総合商社様のサプライチェーン関連のプロジェクト、もう1つはあるエンタメ系企業様のマーケティング関連のプロジェクトです。

総合商社様の案件では、サプライチェーンマネジメントという大きな課題に対して、配送最適化・需要予測に基づく発注業務改善など、いくつかのテーマに分かれてプロジェクトが立ち上がっており、それぞれのプロジェクトに担当のリーダー・メンバーを割り当ててチームを組成しています。

私は需要予測に基づく発注支援システム開発のプロジェクトマネジメントを主に担当しつつ、他プロジェクトについても統括的に管理するポジションとして参画しています。

エンタメ系企業様の案件でも、テーマに応じてプロジェクトが立ち上がり、それを各メンバーが推進していく形になります。現在はスマホアプリやECサイトの分析などのプロジェクトが実施されており、そのうちの1テーマを担当しています。

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PMの形態(マネジメント専任/プレイング・マネージャー)

ブレインパッドのPMの働き方としては、マネジメント専任とプレイング・マネージャーの大きく2通り存在します。PMの下にメンバーが1~2名程度の比較的小規模なプロジェクトであればプレイング・マネージャーとして、大型案件や複数のプロジェクトを並行して担当する場合はマネジメント専任で従事することが多くなります。

私の場合は、総合商社様の案件ではマネジメント専任で、エンタメ系企業様の案件ではプレイング・マネージャーとして参画しています。流行りの言い方をすると「二刀流マネージャー」です。

データサイエンティストとして働いている以上、やはり分析をやりたいと思っている人は多いのではないかと思います。プレイング・マネージャーとして取り組めるのであれば自身で分析することも可能ですが、全ての案件でプレイング・マネージャーとしての仕事ができるかというとそうではないと考えています。私自身もできるだけ分析を担当したいと思っています。しかし、実際に大規模案件で全体のマネジメントをしながら分析を担当した結果、逆に自分がボトルネックになってしまうという経験もしています。プロジェクト全体を円滑に推進するためには、案件の状況に応じてマネジメント専任のポジションを置く、あるいは自身が担うことも非常に重要だと思います。

PM最大の役割=ビジネス価値の創出

以下で、受託分析におけるデータ分析プロジェクトにおけるPMの役割について、私の持論を述べたいと思います。

PMBOK等に書かれている一般的な定義では、PMとは「プロジェクトの目標達成に責任を持つ人」です。データ分析プロジェクトにおいても、その点は変わりません。ただデータ分析プロジェクトでは、プロジェクトの目標がお客様にとっての価値を生み出すことになりますので、「お客様にとっての価値」とは何かをしっかり見極めることが求められます。その価値を導き出すためにプロジェクトを円滑に遂行するのが、データ分析プロジェクトにおけるPMの最大の役割だと考えています。

一般的にPMというと、プロジェクトのQCDを管理する役割を担っているイメージがあると思います。データ分析プロジェクトでももちろんQCD管理は重要なのですが、データ分析プロジェクトは、一般的なウォーターフォール型のシステム開発プロジェクト等と比較すると不確実性が高いと考えています。期待する予測精度が得られなかった、仮説と全く異なる集計結果が得られた、など当初の想定と全然違っていたということがざらにあります。そういった特性がある中での品質や納期の管理は、システム開発等より一段難しいところがあります。

状況の変化に対応し、お客様やチーム内でのコミュニケーションを取り、適切な意思決定や軌道修正をしながらプロジェクトを推進させていく役割をPMは担っていると思います。

データ分析プロジェクトのマネジメント①:4ステップ×2つの実コウ性

以下で、データ分析プロジェクトのマネジメントにおいて一般的に重要視されているポイント、私自身がPMとして大切にしていることを説明したいと思います。

まず、一般的に重要視されているポイントについて、ブレインパッドの紺谷幸弘(ソリューションユニット 副統括ディレクター)がDOORSに寄稿した「データサイエンティストの強みをどのようにビジネス価値につなげていくか~キーワードは「2つの実コウ性」~」という記事を参考に、私がポイントだと思うことを述べます。

出典:【前編】データサイエンティストの強みをどのようにビジネス価値につなげていくか~キーワードは「2つの実コウ性」~ 「DOORS -BrainPad DX Media-」(株式会社ブレインパッド)

上の表は、分析の各ステップでブレインパッドが重視しているポイントを紺谷がまとめたものです。「実効性」とは分析結果をビジネスの現場に適用したときにどのような効果が得られるのか、「実行性」とは分析結果を実際に現場で利用してもらうことができるか、という観点になります。

データ分析プロジェクトの価値は「実効性」から来るものですが、実際に分析結果を利用するのは現場のお客様なので、ビジネスの現場で効果を上げるためには「実効性」と「実行性」のいずれも重要であるという考え方を持っています。

1.要件定義:目的を明確にする

ステップ別に見ていきましょう。1つめの要件定義でもっとも重要なのは「目的・課題を明確にすること」これに尽きると思います。ありがちなパターンとして手段と目的が混合してしまうケースがよく見られます。ビジネス価値を生み出すためにどのような目的・課題を設定するべきか、お客様も含めて議論する必要があると考えています。

また、ビジネス適用について意識しておくことも重要です。このタイミングで「分析した後どうするのか」について検討しておかないと、実際の現場で活用できないアウトプットが出てきてしまう可能性があります。もちろん、実際にプロジェクトを進めていくと、後段のステップでビジネス適用に向けた考え方が変化することも多いですが、要件定義の時点で大枠の方向性を決めておかないと、際限なくブレていくことになりかねません。その後のステップで修正があることは前提の上で、要件定義の段階で大きな方針をしっかりと決めておくことが大切です。

データ分析プロジェクトで重要なことは「常に出口を意識する」ことです。お客様に価値を感じてもらうためにはどういう状況になっていればいいのか、ステップを問わず意識し続けることが重要だと思います。

2.分析設計:レビューとリスクヘッジ

2つめの分析設計は、要件定義で設定した目標を達成できるプロセスが引けているかを確認するステップになります。

ここでのPMの大きな役割はレビューとリスクヘッジだと考えています。やろうとしていることは限られたスケジュールの中でこなせるのか、想定通りの結果が得られなかった場合のバックアッププランはあるか、などの観点で確認していきます。

実現性のないスケジュールやアプローチを前提に分析設計を行ってしまうと後々々苦しむことになりますので、このタイミングでしっかり確認し、リスクをできるたけ減らした状態で次のステップに進めるよう準備します。

3.分析実施:変化への対応とチームパフォーマンスの最大化

3つめの分析実施では、メンバーが中心となって分析作業を推進していくことが多いです。メンバーのアウトプットの確認や解釈などのレビュー、またアウトプットに応じたプロジェクトの舵取りが大きな役割になります。

本記事の冒頭で、分析プロジェクトは不確実性が高いと述べましたが、もっとも不確実性が高いのがこの分析実施のステップだと考えています。仮説と異なるアウトプットやスケジュールの遅延など、プロジェクト進行に支障が発生することも多々あります。

たとえば予測精度が98%のモデルが構築できたとしても、学習のために何千万円もかかるとか、予測に何日もかかるということであれば、ビジネス適用は難しいと言わざるを得ません。我々の仕事は高精度のモデルを作ることではなく、現場の課題を解決することです。技術的な正しさやある程度の予測精度も必要なことではありますが、それだけにならないよう注意すべきです。

その際、PMが状況に応じた意思決定やお客様とのコミュニケーション・折衝を行っていくことで、状況の改善及びプロジェクトの円滑な進行に努めることが重要です。

4.ビジネス適用:先回りの調整

最後のビジネス適用ステップですが、私はここが一番難しいと思っています。一方で、これまでのステップでもビジネス適用について常に意識しておくことが重要と述べさせて頂いているように、この段階になってから具体的な話を始めるのでは手遅れになっていることが多いです。分析プロジェクト開始当初から、ビジネス適用を前提としたコミュニケーションをお客様と取っていくことが重要です。

例えば、マーケティング系の案件ですと、対面しているお客様と実際に施策を実行する部隊が異なっているケースも見られます。この場合部門間の調整が必要で、分析が終わってからマーケティング部門に施策の実施をお願いしても「そんな話、聞いてないよ」と言われ、分析しただけで終わってしまいます。

実際に施策実行まで結びつけるためには誰にどういうアプローチで話をすればいいかといったことも気にかけておくことが大切で、場合によっては調整に入っていただけるようお客様に働きかけることも必要となります。

そこまで準備していても、実際に運用が始まると想像していたのとは違うということが起こります。100%予想通りということは、データ分析プロジェクトの場合はほぼあり得ません。何か想定外のことが起こるのを前提に運用体制を作っておく必要があります。この点に関しては一般的なシステム開発プロジェクトでも同じことだと思いますが、仮に障害など想定外の事象が発生した時に、誰がどのように対応すべきなのかという運用設計を現場の方々を含めて事前に検討しておくことが非常に重要となります。

データ分析プロジェクトのマネジメント②:筆者が考える重要ポイント

データ分析プロジェクトにおいて一般的に重要とされているポイントは以上です。ここからは私が個人的にプロジェクトマネジメントで特に大切にしていることを述べていきます。

私はどんなプロジェクトにおいても円滑なコミュニケーションが取れるチーム作りを目指しています。これを目指すうえで特に意識しているのは以下の2点です。

  1. 目線を揃えること
  2. オープンな議論ができる雰囲気を作ること

それぞれ少しご説明します。「目線を揃える」についてですが、これにはチーム内の話とお客様を含むプロジェクト全体の話との2通り存在します。

目線を揃える

まず、チーム内で目線を揃えるために「今やっているタスクは何のためにやっていることなのかをPM・メンバーで共通認識を持つこと」を意識しています。目的意識を常に持ってタスクを推進すること、と言い換えてもいいかもしれません。我々にこの意識が欠けていると、ただただ集計結果だけを報告する人になりかねません。出てきた結果をどう解釈し目的達成のための次のアクションをどうするか、常にそこまで意識してタスクに取り組んでいくことで、円滑なプロジェクト推進が実現できると考えています。

もちろんメンバーは結果を出すだけ、PMはそれを取りまとめる、という役割分担もできると思いますが、その分担だとメンバーはいち作業者になってしまいます。言われたことしかできないデータサイエンティストになってほしくないので、目的意識を持つことについては多少口うるさくなろうとも指摘するよう心がけています。

次に、お客様も含めて目線を揃えるという点については、「お客様の立場に立って物事を考えること」を意識しています。

我々の仕事はお客様に価値を提供することなので、自分たちの分析結果をただ伝えるだけでは意味がないケースも多いです。結果に至るまでの背景や前提の説明はもちろん、できるだけお客様が普段使われている言葉で、お客様の業務がイメージできるような表現で伝えることが重要だと考えています。

また、お客様の興味関心がどこにあるのかを見極めることも大切です。ビジネス成果に興味があるのか、技術的な部分に関心が高いのかなど、説明する対象となるお客様が知りたい事が伝えられるような資料構成・プレゼンテーションを行うこと、これもPMとして必要な能力だと思います。

オープンな議論ができる雰囲気を作る

最後に「オープンな議論ができる雰囲気を作る」という点についてお話します。分析設計や分析実施のステップにおいて、リスクヘッジ・変化への対応が重要、と述べさせていただきましたが、リスクや変化が顕在化したタイミングで適切にエスカレーションできるような体制を組んでおくことが重要だと考えています。

例えば、データ確認中にメンバーが後々厄介になりそうなリスクを発見したとします。それをすぐにチーム内で周知し対策が打てれば良いですが、もし周知がなく、そのままプロジェクトが推進した場合、気付いたときにはもう手遅れになってしまいます。

PMの流儀・自己開示の重要性

その他付け加えるとすれば、PMの自己開示はすごく大事だと思っています。実際に私は仕事の進め方のスタンスやレビューの観点などを明文化かつオープンにしています。

なぜこれが重要なのかというと、PMの仕事の進め方は個々人の思想や考え方によって大きく変わるものだと考えているためです。もちろん標準的なプロジェクトマネジメントの方法論はありますが、実際にはPMのこれまでの経験や一緒に働いてきた上司の影響など、個々の流儀のようなものに強く依存するすると思っています。プロジェクトの進め方に絶対的な正解は存在せず、メンバー側もこれまでと全然違う進め方をされて困惑してしまうため、様々なPMと働くことによるメンバーのハレーションが軽減できるよう、このような取り組みを個人として実施しています。

データサイエンティストとのコミュニケーションの秘訣とは?

不確実性が高いからこそ度量が必要

データ分析プロジェクトは、分析結果に応じて方向を変えないといけないという不確実性が高いものです。しかし目指すべきゴールを適切に設定し、メンバーやお客様も含めてそのゴールに向かって進んでいくという意思統一ができていれば、多少右往左往したとしても、目的地に向かって進んでいくはずです。

そのために必要なPMの資質を私なりに考えると、様々な関係者のそれぞれの思いを受け入れられることではないかと思うのです。お客様にはお客様の思いがありますし、メンバーにもメンバーの思いがあります。もちろん私にも「こうすべきではないか」という思いがありますが、それを人に押し付けるのではなく、みんなの考えを十分に引き出して、最適な落としどころを見つけられる――そういう人がPMに向いているのではないでしょうか。

今の時代、自分ひとりでできることはたかがしれています。大きな仕事を任されても、他人の意見を突っぱねてしまうようでは、にっちもさっちもいかなくなります。そのため、どれだけ人の意見を聞き入れられるかという度量の大きさが大切になってくるのではないでしょうか。それはデータ分析プロジェクトのPMも例外ではなく、むしろ不確実性が高いがゆえにより強く求められると感じています。

読者の皆さまが、これからデータ分析プロジェクトに関わられた際、拙稿が少しでも参考になれば幸いです。

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2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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