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【前編】DXレポート2.1を解説。DXで企業が目指す「デジタル産業」とは?経産省が描く企業の経営課題と将来像

公開日
2022.01.31
更新日
2024.02.21

DX推進に際しては、単にAIやIoTなどの最新ITツール・システムを導入すればよいのではなく、自社の変革後のあるべき姿を明確にすることが欠かせません。

こうした観点から、経済産業省ではDX推進の課題や方向性をいくつかレポートにまとめて公表してきました。今回は、『DXレポート2.1』と題されたものを取り上げ、経産省の考える「企業のあるべき姿」について整理します。

▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント

ユーザー企業・ベンダー企業が抱える課題

経産省は、これまで二度にわたってDXレポートを公表してきました。今回のDXレポート2.1は、この2本のレポートの結果を受けたうえで課題をユーザー企業・ベンダー企業の企業のあり方に絞っています。まずはレポートのなかから、企業間の連携について分析した箇所をご紹介します。

ユーザー企業とベンダー企業の「低位安定」な関係

2018年のDXレポートでは、ユーザー企業とベンダー企業の請負契約や準委任契約が問題視されました。

ユーザー企業がシステム開発を内製で賄いきれないために、ベンダー企業に業務委託するケースが多くなっています。しかし、ユーザー企業自身が現行システムの仕様や機能を理解できておらず、また情報システム部門と事業部門、経営企画部門との連携が不十分であるために、必要十分な要件を明確化できないまま「丸投げ」に近い形で発注することもあると指摘されているのです。

その結果、開発されたシステムがユーザー企業の意図とは異なり、テスト工程で手戻りが発生するために開発費用が大幅に超過したり納期が遅延したりと、損失やトラブルを発生させてしまいます。さらに、こうした損失やトラブルの責任が両企業間で不明確であるため、責任の押し付け合いから紛争・訴訟へ発展するケースも増えているというのです。

こうしたユーザー企業とベンダー企業の関係について、DXレポート2.1ではさらなる深掘りが行われています。ここでは、両者の現状を批判的に「低位安定」であると指摘し、以下のような問題点があるとしています。

ユーザー企業

IT をコストと捉え、ベンダー企業を競わせることでコスト削減を実現。その一方で、

  • IT をベンダー企業任せにすることで IT 対応能力が育たない
  • IT 対応能力不足により IT システムがブラックボックス化し、また、ベンダーロックインにより経営のアジリティが低下する
  • 経営のアジリティ低下により、顧客への迅速な価値提供ができない

ベンダー企業

労働量に対する値付けを行うことで、低リスクのビジネスを実現。その一方で、

  • 利益水準が低くなり、多重下請け構造を含め、売上総量の確保が必要
  • 売上総量の確保が必要であるため、労働量が下がるような生産性を向上させるインセンティブが働かず、同時に、低利益率のため技術開発投資が困難
  • 技術開発投資が困難であるため、新たな能力が獲得できず、”デジタル”の提案ができない

このように、かつてコスト削減やリスク低減・長期契約獲得のために確立されたビジネスモデルが、DXを阻害する構造的な課題に転化しているのが現状なのです。一見するとWin-Winの関係でありながら、DX実現に必要な能力を獲得できない構造になってしまっています。

企業変革を妨げる3つのジレンマ

今回のDXレポート2.1では、ユーザー企業とベンダー企業に存在する「ジレンマ」が3点挙げられています。

1.危機感のジレンマ(ユーザー/ベンダー)

先に挙げた「Win-Win」に見える関係のもとで、短期的には好調な業績をあげることができます。そのため、本来であれば投資体力が残っているうちにDXを進めていくべきなのに、好調な間は変革へのモチベーションを持たず、課題が意識され危機感が醸成されたときには既にDXに必要なだけの投資体力を失っています。

2.人材育成のジレンマ(ユーザー/ベンダー)

DXでは、常に人材育成が課題となります。デジタル技術の進化スピードが従業員の学習スピードを上回る結果、時間をかけて新たな技術を習得したときには、もはやその技術が陳腐化することすら考えられます。即座に新技術を習得し使いこなせる従業員がいたとしても、非常に価値の高い人材であるがゆえに他社からの引き抜き対象となる可能性が高いのです。

3.ビジネスのジレンマ(ベンダーのみ)

従来のような受託型ビジネスを現業とするベンダー企業が、危機感を持ってユーザー企業のDXを伴走支援できるビジネスへモデルチェンジを図ったとすると、何が起きるのでしょうか。皮肉なことに、ユーザー企業が内製化を志向するため売上規模の縮小へつながることになります。「おんぶにだっこ」の状態であれば長期に安定的な契約を獲得できたはずなのに、DX支援によって自分たちベンダーを不要とする状態を実現することになりうるのです。

こうした構造的な課題・ジレンマがあるからこそ、DXの実現は容易には進みません。ユーザー企業経営者のビジョンとコミットメントによって、構造的・組織的な反発を突破することが欠かせません。

また、ベンダー企業が取り組んできたIT技術やシステム開発の能力も、決して無駄にはならないとレポートでは主張されています。最新技術が普及してコモディティ化したとしても、こうした能力は継続的に求められます。これらの能力を維持しつつ、最新技術に精通し続けることが企業変革にとって重要です。

(後編に続く)

参考

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【後編】DXレポート2.1を解説。DXで企業が目指す「デジタル産業」とは?経産省が描く企業の経営課題と将来像



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