DX関連書籍のトレンド
~『シン・ニホン』の衝撃と、ビジネスパーソンがDXを学ぶには?~

[執筆者]
DOORS編集部

2020-21年はアフターコロナのあるべき世界を模索する中で、DXに人々の大きな期待や関心が寄せられた。
本の要約サービスflier(以下、フライヤー)の「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」でDXを扱った大作『シン・ニホン』(安宅和人著)が総合グランプリに選出されたほか、数多くのDX/データ/AIの関連書籍が部門賞上位に入賞したのも、そうした時勢を表わしている。
ビジネスパーソンの興味や関心を示すビジネス書のトレンドや今後、ビジネスパーソンにとっての、DXの一つの学び方について、本の要約サービス「flier(フライヤー)」を運営する株式会社フライヤーの代表取締役CEO・大賀康史氏に聞いた。

お話を伺った方

大賀 康史(おおが・やすし)氏

早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了。2003年にアクセンチュア(株)製造流通業本部に入社。同戦略グループに転属後、フロンティア・マネジメント(株)を経て、2013年6月に株式会社フライヤーを設立。著書に『最高の組織』『ビジネスエリート必読の名著15』(自由国民社)、共著に『7人のトップ起業家と28冊のビジネス名著に学ぶ起業の教科書』(ソシム)『ターンアラウンド・マネージャーの実務』(商事法務)がある。

ランキング上位にDX関連書籍が多数

DOORS編集部(以下、編集部) ビジネス書の分野でもDXは大きなブームになっています。Amazonで過去90日以内に発売された書籍から「デジタルトランスフォーメーション」で検索すると38件もヒットしますし、書店でもビジネス書のコーナーでDX関連書籍が多く平積みになるなど人気の高さが伺えます。

大賀 康史氏(以下、大賀氏) フライヤーでもDX関連書籍の要約は非常によく読まれていて、最近のランキングでは常に上位にあります。幅広いジャンルの本を豊富に扱う書店のランキングは「売れている順位」ですが、フライヤーのランキングは「要約が読まれた順位」です。話題性やインパクトもさることながら、多くの読者のニーズに刺さっているか/今読みたいと思う内容かが順位に大きく影響します。

株式会社フライヤー 代表取締役CEO 大賀 康史氏

編集部 売れている本と、要約が読まれている本は違いますか?

大賀氏 まったく違うということはありません。内容に優れ多くの人にとって読む価値がある本は、要約も読まれますし、実際の本もよく売れます。ただ、フライヤーはビジネス書に特化したサイトですから、趣味的に楽しめる本よりも仕事や人生に活かせる本が求められる傾向にあります。スマホからの閲覧が多いのはスキマ時間に読まれることが多いからでしょう。SNSやゲームなど埋め草には事欠かない中でビジネス書の要約を読もうという人ですから、かなりポジティブなマインドの利用者が多いのだと思います。

編集部 情報感度の高いビジネスパーソンが、仕事や人生に役立つ本を積極的に探した結果がランキングに表れやすいというわけですね。

2021年に『シン・ニホン』が最高評価を得た理由

編集部 そうした中「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」で、『シン・ニホン』(安宅和人著/ニューズピックス刊)が、総合グランプリに選出されました。

https://www.flierinc.com/summary/2548

『シン・ニホン』

大賀氏 直近1年間に出版されたビジネス書で、最も優れた作品を読者の投票で決めるコンテストです。本はジャンルが異なるとなかなか比較ができないため、イノベーション/マネジメント/政治経済/自己啓発/リベラルアーツ/ビジネス実務の6部門で投票してもらい、各部門の上位作から「総合グランプリ」を選出します。
本のコンテストには専門家が審査するものが多くありますが、ビジネス書に関しては読み手であるビジネスパーソンがどれだけ心を揺さぶられたか/影響を受けたかによって投票するのが最もリアルで価値のある選出方法だと思っています。
受賞作の傾向はその時々の時勢を反映しますが、今年は『シン・ニホン』でした。私自身も深く読み込んだ作品で、丸一日語れるくらいの思い入れがあります。タイトルに「DX」という言葉こそ使っていませんが、内容はまさしくDXのど真ん中ですね。

編集部 ビジネス書は、忙しいビジネスパーソンでも速くすんなりと読める本が売れやすいと言われますが、全437頁(厚さ3cm)もある本書がこれだけ多くの人に読まれ、支持されたのは驚きでした。

大賀氏 コロナ禍で多くの人が、腰を据えて自分自身やビジネスを、あり方を見つめ直し、今後の方向性を模索したい思ったことが、この結果に繋がったと思います。本作は安宅和人さんの長年の研究や叡智が、惜しみなく注ぎ込まれた大作です。前半では現在の日本が抱える問題をショッキングなデータと共に示し、いかに理工系教育が世界で劣位にあるかを訴えています。構造的・本質的な欠点を突きつけられ、読者の多くはぐうの音も出ない気持ちになるでしょう。ところが後半では日本の勝ち筋が、ファクトをもって示されます。日本はデータ活用やAIの分野で大きく出遅れてしまったが、まだ希望はある。客観的事実に基づいて具体的に「こうすれば道は開ける」と解決策まで書かれてあるところが、多くの納得と共感を得たのではないでしょうか。

編集部 DXの一丁目一番地はデータ活用にあると私たちDOORS編集部は発信していますので、データの重要性とAIの活用を説いた本書の内容にとてもシンパシーを感じました。

大賀氏 安宅氏は「まず目指すべきはAI-readyな社会」であると説いています。データやAIにどれだけ個人や組織が順応できる状態なのか/そういう状態に持っていかなければならないということです。
我々フライヤー自身もそうした領域を強めたいと常々感じていたのですが「テックカンパニーになるぞ」と口では言うものの、私自身の行動としてきちんと示せていなかったので、これを機にディープラーニングをきちんと学んでみようと、さっそく(一社)日本ディープラーニング協会のG検定を受けました(結果は合格)。

編集部 『シン・ニホン』という一冊のビジネス書との出会いによって大賀様ご自身が大きな影響を受け、行動を起こされたということですね。

大賀氏 はい、それこそが優れたビジネス書の力です。ビジネス書は我々に平等に知を与えてくれます。例えば『シン・ニホン』は、経理をやっている人にも営業をやっている人にも、エンジニアにも響きます。この本を読んだ人たちは、異なる仕事に従事していても、ある種の共通言語や共通理解を得ます。

編集部 DXは多くの企業や組織が直面している課題ですが、どの部署にも関わるテーマだけに、組織横断的に議論を進めたり、部署を超えて共通の知識・認識を備えておくことが不可欠です。そうしたところでビジネス書の果たす役割は大きいと言えそうですね。

DOORS読者に推したいビジネス書3選

編集部 DOORS読者であるビジネスパーソンがDXに関連して知識を得たい、活路を見出したいと思った際の、おすすめの本はありますか?

大賀氏 DOORSの読者は非常に向学心が高い方だと思いますので、以下の3冊をおすすめします。フライヤーでも紹介していますので、気になったものがありましたらぜひ要約からでも読んでみてください。

『今こそ知りたいDX戦略自社のコアを再定義し、デジタル化する』 石角友愛著/ディスカヴァー・トゥエンティワン刊

『今こそ知りたいDX 戦略自社のコアを再定義し、デジタル化する』

AIの領域でさざまな企業を支援されている石角友愛氏が、DXという言葉の意味から実際の活用事例までを解説された本です。今や新型コロナウイルスのワクチンで知らない人はいないモデルナ社が、いかにDXを実現し本質的な研究をするようになったかなど、非常に興味深い事例が紹介されています。読者が自分の会社でDXをどう位置付けるのか、クリアにイメージできると思います。

https://www.flierinc.com/summary/2656

『アフターデジタル2 UXと自由』 藤井保文著/日経BP刊

『アフターデジタル2 UXと自由』

オンラインがオフラインに浸透し、リアルがデジタルに抱合されていく未来が描かれています。アフターデジタル社会における最大の変化は、データの性質に起きています。年齢や性別、職業などの「属性データ」から、ユーザーがどのような状況にいるかを示す「行動データ」へと重要性が移行し、それを活用するUX(User Experience)の充実が鍵となるというのが著者の主張です。身の回りをデジタルに繋ぎ込む、意識づけになる本だと私は捉えました。

https://www.flierinc.com/summary/2372

『人類とイノベーション 世界は「自由」と「失敗」で進化する』 マット・リドレー著、大田直子訳/NewsPics刊

『人類とイノベーション 世界は「自由」と「失敗」で進化する』

DXをより広い領域から捉えたい方にお勧めです。ほぼすべてのイノベーションはある一人の天才のひらめきによって突然に起こるのではなく、多くの人の試行錯誤を経て段階的かつ必然的に起こっています。例えば「電球はエジソンが発明した」と思っている人は多いですが、実際に彼がやったことはフィラメントに竹を使って実用レベルに高めたことであり、電球はそれ以前から少しずつ改良が重ねられ進化していたのです。環境の変化と様々な人々の格闘の積み重ねがあり、大きなイノベーションのうねりになる。DXもまさにそういうものであり、不可逆的なイノベーションなのだと気づかせてくれる一冊です。

https://www.flierinc.com/summary/2615

良いビジネス書に出会える、とっておきの方法

編集部 「本が売れない」「活字離れが進んでいる」と言われて久しいですが、ビジネス書に関しては売れ行きが伸びています(日販調べによると、2020年1~12月の店頭売上前年比で、ビジネス書は105.4%を記録)。

大賀氏 DOORS読者の皆さんは誰に勧められなくてもDXに関心があるでしょう。ですが、日常生活でそれを意識せず仕事にも直接関係がなければ、いきなり「DXを学ぼう」とはならないものです。ところが何かのきっかけでその存在や言葉に触れて「もう少し知りたい」と感じた時に、何から知識を得るでしょうか。そうした知的好奇心の受け皿の1つになるのが書籍です。テレビやネットなどメディアは他にもありますが、書籍が最も信頼性が高いと私は思っています。一冊の書籍が世に出るには標準で1年ほどかかります。作者が構想を練り、文字に書き出し、編集者が構成し、事実が補強され、ファクトチェックを経て刊行されます。月日をかけて作られるがゆえに、数週間で無価値にはならない。ビジネス書の好調にはそうした「知への信頼」があると思います。

編集部 書店に行けばビジネス書はごまんとあります。あり余る知識を前にして私たちはどのように「価値ある一冊」を選んだらいいのでしょうか? 

大賀氏 日頃から本との接点をたくさん持っておくことです。書店に立ち寄るとか、話題の本を紹介するサイトを閲覧したり、SNSをフォローしたりといったことですね。そして本を読んだら、どこかでアウトプットしてください。読書には一人静かに本と向き合うイメージがありますが(もちろんそうした読み方も味わい方の一つですが)、読書体験はアウトプットしてこそ広がっていくものです。Facebookやブログに読後感を書くでも、同僚や友人に話すでもいいのです。アウトプットすることで記憶が定着し、見聞きする人には「そういう本があるんだ」という読書への入口になります。そうすると良いビジネス書の情報は、自ずと入ってくるようにもなるものです。

編集部 『シン・ニホン』もインフルエンサーがさまざまな場で紹介し、それを読んだ人が話題にすることで、じわじわと広がった本だと聞いています。

大賀氏 読んだ人同士が感想を言い合い、意見を交換することで、新しい気づきや共感が生まれます。また、本は人と人とを結びつけるツールでもあります。初対面でも「あなたもあの本を読まれましたか」とわかると、コミュニケーションのハードルがぐんと下がって相手に親しみを感じたり、仲間意識が芽生えたりするでしょう。これはビジネス書に限らず小説でも漫画でも同じです。私は良書が広がることで、社会はよりポジティブに変わっていくと思っています。

要約とは「10分間の楽しい読書体験」である

編集部 フライヤーは良書を広げ社会をポジティブに変えていく使命も担われているわけですね。本の要約をされる上で心掛けていることや、貫かれているポリシーはありますか?

大賀氏 要約自体が1つの作品として成立し「10分間の楽しい読書体験になる」ように心掛けています。また、要約には書き手の感情や賛否は一切入れず、著者の言うところをストレートにまとめています。読者が知りたいのは著者の考えであり、我々がそれを妨げてはいけません(ただし、レビューには読者としての意見や賛否を書いています)。この2点を徹底すると本の魅力が引き立つので、自然とその作品に対する興味・関心が深まります。

要約には書き手の感情や賛否は一切入れず、著者の言うところをストレートにまとめている(写真は同社編集部)

編集部 要約を読むことによって、本作が読まれなくなるということはないのでしょうか?

大賀氏 要約を読んだ人がすべて本を買うわけではありませんが、フライヤーの場合、約20%の人が購入検討の段階に入っています。要約を読んだからといって、本作の魅力が薄れるものではないのです。本には行を読み進めながら「自分の経験や状況に照らしてどうだろう」と自問したり、より深く理解しようと立ち止まって考えたりする時間があります。それこそが「本との対話」であり、要約にはない部分です。どちらが良い悪いではなく、要約と読書は別物なのです。

編集部 DX関連書籍の今後に関心があります。これだけ話題になり売れていますが、ビジネス書においてこれからもこのトレンドは続くでしょうか?

大賀氏 一口にDX関連書籍と言っても、簡単に読めてすぐに使える知識から、社会のあり方や国会戦略を問うものまで幅広くあります。出版業界にはDXがバズワードとなって乱立したことで、もはやタイトルに冠してもアピールにならないといった意見もあるようです。しかし、DXは流行り廃りとは次元の異なる、不可逆的なイノベーションだと思います。これまでは〝小さなデジタル化〟がDXというワードで括られる傾向にありましたが、それは最初の一歩に過ぎません。組織運営や経営、SDGsやESG、サスティナビリティやヘルスケアなど、DXはあらゆるテーマと掛け算されるものです。

タイトルで謳われるかは別として、DXはこれからもビジネスパーソンにとって必須の知識であり、進化も展開もしていきます。ニーズに応じたビジネス書が今後も求められ、ビジネス書の一角を占めていくでしょう。

編集部 ビジネス書を通してDXについてお話を伺えて、さまざまな気づきがありました。ありがとうございました。

本の要約サイト flierはこちら

WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

DOORS編集部

ブレインパッドのマーケティング本部が中心となり、主にDXにまつわるティップス記事を執筆。また、ビジネス総合誌で実績十分のライター、AI、ディープラーニングへの知見が深いライターなど、外部クリエイターの協力も得て、様々な記事を制作中。

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