小売業におけるDXの取り組みは?

新型コロナウイルスの感染拡大によって、小売業は大きなダメージを受けました。顧客の減少はもちろんのこと、従業員の配置見直しを余儀なくされたり、大量の在庫が発生したりと企業活動に大きなダメージを与えています。

その一方で、コロナ禍を機にデジタル活用を進めて、困難を乗り切ろうという企業も少なくありません。今回は、デジタル活用に活路を見出す小売業のDX事例をお伝えします。

コロナ禍における小売業のデジタル活用状況

コロナ禍によって、小売業でもデジタル活用が進んでいます。まずは、東京商工会議所が2021年2月16日から3月1日にかけておこなったアンケート(「中堅・中小流通・サービス業の経営課題に関するアンケート」)の結果を基に、小売業ではデジタル活用がどのように進んでいるのか、どのような課題があるのかを整理していきましょう。

中小の小売業でもコロナ禍でデジタル活用が一気に浸透

調査対象となったのは、東京商工会議所の会員のうち小売業、卸売業、サービス業(宿泊・飲食)に属する企業です。中小企業が中心なのが特徴で、4割以上が従業員数0~5名、実に9割近くが50名以下の企業です。

こうした中小企業でも、コロナ禍を機にデジタル活用が一気に浸透しました。「コロナ禍でデジタル化・IT活用は変化したか」の設問に対して、全体の43.6%、小売業の48.7%が「増加した」と回答。コロナ禍を経てデジタル化への対応は、中小小売業にとって避けては通れない喫緊の課題であることが、この結果から読み取れます。

コロナ後に活用の増えたデジタル化の用途として、働き方改革や商談・外部会議、人材育成・教育、イベント・展示会などが挙げられています。また、現時点ではあまり活用されていないものの、今後のニーズの高い領域として需要予測、資金調達が挙げられていました。

まだまだ多いアナログ業務

デジタル化が進んだと思われる結果である一方、アンケート結果によると半数近くの企業はコロナ禍を経てもデジタル活用は「変わらない」と回答しています。DXと呼べるほどデジタル技術による経営改革を果たした企業はごく一握りで、昔ながらのアナログの手法を取り続ける企業もまだまだ多いのが実情です。

卸売業・サービス業を含めた全体の数値ですが、受発注・検品・請求処理の全てで「業務の5割以上がアナログ対応」と回答した企業が約6割を占めています。特に検品・請求処理では、4割以上の企業が「業務の8割超がアナログ対応」という回答でした。基幹業務においても、いまだにアナログによる手法が一般的であることが分かります。

デジタル活用に割けるリソースの不足

大企業ではデジタル化が進みつつある一方で、中小小売業にはアナログによる手法が残っています。今回の東京商工会議所のアンケートでは、デジタル化が進まない/難しい要因についても掘り下げて尋ねています。

最も回答数が多かったのは、「他の業務が優先され先送りしている」で、全体の30.0%の企業が「デジタル化が進まない/難しい」要因として挙げています。次いで、「社内に詳しい人材がいない」(27.2%)、「自社の業務に合ったシステムが見つからない」(23.0%)という結果でした。デジタル活用に割くリソースがなく、「重要な課題ではあるが進める余裕がない」という中小企業の現実が透けて見えます。

それでは、小売業がDXを進めるにはどのような考え方・ステップがあるのでしょうか。ブレインパッドが小売業のお客様を支援した事例から、「小売×DX」でデジタルに活路を見出す方法論をつかんでいただければ幸いです。

「ニューリテール」推進のためのマーケティングDX(株式会社バロックジャパンリミテッド様)

ブレインパッドの支援事例の一つとして、バロックジャパンリミテッド様をご紹介します。データを活用したマーケティングDXをどのように推進したのか、参考にしていただければ幸いです。

コスト、データ基盤整備・・・マーケティングの課題

バロックジャパンリミテッド様は、アパレル業界でも急速に進んでいるEC化の流れを受けて、オンラインとオフラインを融合させた「ニューリテール」という形で事業構造を再構築するという課題を抱えていました。その解決策として、マーケティング戦略におけるDXが急務と考えていたといいます。

戦略の一環でECサイトの強化が決まったものの、それまでにさまざまなツールを導入していたバロックジャパンリミテッド様。データやマーケティングノウハウがばらばらに蓄積されていることと、運用コストもかさんでいることが大きな課題となっていました。

ツールの一本化と運用体制づくり、費用最適化の観点からパートナーとして選定されたのがブレインパッドです。マーケティングの観点ではブランドを横断した購買行動を促すこと、運用体制面ではデータを見るための基盤整備や運用の人的リソース確保を課題として、支援に入りました。

統合データ基盤の構築と認識の共有

上記の課題解決に向けて、ブランドを統合した会員基盤を構築しました。ECやPOSなどから取得したデータを基に顧客の動向や趣向を分析し、データとして基盤に蓄積していきます。これで、パーソナライズされたコンテンツを届ける準備が整ったことになります。

また、バロックジャパンリミテッド様は、共通言語のすり合わせにも力を入れました。「PV=お店に来て服を手に取ってくれた人の数」、「CV=レジまで来てくれた人の数」などと共通言語を作成。アルファベットを羅列した横文字の多くなりがちなマーケティング用語をかみ砕いて、店舗担当者でも理解できるようなコミュニケーションを意識されました。人によってマーケティング用語の定義が異なっているケースは多く、コミュニケーションロスを防ぐためにも共通言語の策定は重要なポイントです。

データ整備から業務改善へ

データ、用語の両面から社内に基盤を構築しただけでプロジェクトが終わるわけではありません。むしろこれはマーケティングDXのスタート地点に過ぎず、パーソナライズ化やナーチャリングなどといったマーケティング施策をこれから実施していく段階です。

顧客の変化に小売業はデジタルの力でどう対応していくか(株式会社髙島屋様、株式会社三陽商会様)

ブレインパッドが主催したDXイベント(DOORS BrainPad DX Conference 2020)のレポートから、髙島屋様と三陽商会様の事例をご紹介します。顧客の購買行動が変化していく中で、デジタルを活用してこの2社はどのようにDXを進めているのでしょうか。

DXに欠かせないデータインフラの整備

髙島屋様と三陽商会様の、共通している課題は「データインフラの複雑化」です。ECの強化、CRMの導入、SNSの活用など、バリューチェーンの全領域においてデジタル活用に取り組む小売企業自体は出てきています。

しかし、「DX推進」を掲げて施策を進めれば進めるほど、機能拡張やAPI連携が繰り返され、システム構成やデータ構成が複雑になってしまうのです。三陽商会様は2015年頃からDX施策に取り組んでこられていますが、「複雑なシステム構造図になった」と率直に語られました。

髙島屋様も同様で、店舗のオペレーションにあわせて、いろいろなデータベースが作られ、さらにECをはじめとした新しいサービスが加わりました。その結果、「システムやデータ同士の連携が増えて複雑化した」とおっしゃっています。これは、業界に共通した課題といえるでしょう。

顧客体験の変革とワークスタイルの変革

両社のDX施策に共通しているのは、それぞれの課題や施策は個別に存在するのではなく、お互いに相関していることです。

三陽商会様は、「オムニチャネル基盤強化」、「オン・オフラインの会員統合」、「会員ステージサービスの導入」を中心にDX施策を進めてきました。施策を進めるうちに、データ量やデバイスが増加した現状に対応するには、全チャネルでDXを進める必要があることに気づかれました。だからこそ、「基盤強化」「データ統合」が重要になってくるのです。

髙島屋様も、「顧客体験(接客)の変革」、「ワークスタイル(働き方)の変革」、そして「インフラ(基盤)”の変革」の視点を持ってDXプロジェクトを進めてきました。髙島屋様の事業主体はあくまで実店舗です。実店舗でオペレーションやシステムによる変革をおこなうことにより、徹底的な業務効率化を図らなければ顧客体験変革に投入する人的リソースやコストが生まれません。そして顧客体験変革とワークスタイル変革が進めば、自ずとインフラ設計の方向性も見えてきます。

前述の通り、データインフラの整備は重要ですが、その理由を検討して関係者間で共有することがより重要です。髙島屋様は、顧客を大切にするという観点から、顧客問い合わせへの回答結果を保管するデータベースを一元化しました。問い合わせ内容や数を深く知ることがサービス改善に必要であり、それゆえにデータベースを一元化する必要があったのです。単に「データインフラは整備するのが当然」で止まるのではなく、「なぜ整備するのか」を突き詰めることが求められます。

小売業におけるDXの利点

DXが進めば、ファクトベースの議論が可能になります。「あの商品が見られていた」、「あの施策が意外と効いていた」といった主観ではなく、店前通行数から入店率、来客数やその属性、立ち止まり数、捕捉率・・・・・・など、数字を基にしたコミュニケーションが取れるため、施策の精度も向上しやすいわけです。

三陽商会様も髙島屋様も、実店舗を持っています。小売業の場合、販売を完全にオンライン化することはできず、実店舗での顧客体験の質に課題のある企業は少なくありません。実店舗、EC、アプリなど、さまざまな接点でシームレスな体験を提供し、顧客とのエンゲージメントを高められるのが小売業の強みであり、あるべきDXの方向性といえるでしょう。

まとめ

消費者の購買行動がオンライン化して逆境にあるとされている小売業。しかしながら、デジタル技術を活用して逆境を打開しようとする企業も少なくありません。DXの推進により、実店舗の購買行動をデータ化できるようになります。多様なデータを持つことを強みとしてバリューチェーン全体のDXにつなげ、事業構造全体の変革も期待できるでしょう。小売業の今後を占う意味でも、オンライン×オフラインで変革を目指す小売業各社の取り組みは、注目していく必要があります。

(参考)
東京商工会議所「「中堅・中小流通・サービス業の経営課題に関するアンケート」結果について」
Markezine「バロックジャパンリミテッドがブレインパッドと推進するマーケティングDXの軌跡とこれから」
これからの小売業は、デジタルの力で顧客に寄り沿い“絆”を築く「DOORS-BrainPad DX Conference-」レポート①前編
これからの小売業は、デジタルの力で顧客に寄り沿い“絆”を築く「DOORS-BrainPad DX Conference-」レポート①後編

WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

DOORS編集部

ブレインパッドのマーケティング本部が中心となり、主にDXにまつわるティップス記事を執筆。また、ビジネス総合誌で実績十分のライター、AI、ディープラーニングへの知見が深いライターなど、外部クリエイターの協力も得て、様々な記事を制作中。

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