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パーソナライズ、レコメンドの変遷~ECサイト勃興期から現在~

執筆者
公開日
2022.10.31
更新日
2024.02.22

はじめまして。プロダクトビジネス本部 フロンティア開発部長/エンジニアリングマネジャーの❝やぎぞう❞こと柳原淳宏です。

ブレインパッドに入社して以降、エンジニアとして、今では業界随一にまで成長した、高精度パーソナライズ基盤「Rtoaster」をはじめとした自社プロダクトの開発業務を中心に担当してきました。

私が率いているフロンティア開発部では、「Rtoaster」をはじめとした自社開発プロダクトのための技術調査、研究、検証及び実証実験業務を行っています。

さて、近年マーケティングDXの領域において、「パーソナライズ」が脚光を浴びています。

本記事では、ECサイトの勃興期にあたる2000年代から現在に至るまでを、その時々でレコメンドエンジンはどう進化を遂げてきたのかを読み解きつつ、マーケットのトレンド、ユーザ企業の課題を振り返っていきたいと思います。

本記事の執筆者
  • データエンジニア
    柳原 淳宏
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    XaaSユニット
    役職
    マネジャー
    自社プロダクトRtoaster、L2Mixerの開発を経て、現在はConomiのプロダクトマネージャー兼開発を担当。レコメンド/マッチング技術を中心に企画、提案から開発、チューニングまで数多くの案件に従事。

2000年代 – ECサイトの勃興と成長

1990年代後半から、インターネットの普及・常時接続化に伴い楽天市場やアマゾンなどのECサイトが勃興。ユーザーもネットショッピングを気軽に楽しむようになり、ECのマーケットが急成長し競争が激化した時代でした。「インターネットによる買い物の壁」を取り払い、価格競争などの要因も含めて市場が作られていったといえます。

また、ブログの普及や有力なSNSの登場により、企業と顧客との双方向のコミュニケーションが進みました。しかし、顧客が発言する場が普及・確立していった時期であったため、デジタルマーケティング面でいえば、SNSを集客方法の1つとするにはまだ頼りなかったと感じています。

Webの爆発的なデータ増加により、検索エンジンの重要性が高まったのもこの頃です。この年代では、検索エンジン以外で「自分のニーズを満たすものがおすすめされる」という環境がなく、企業側にもアクセス解析が徐々に浸透していきました。検索エンジンの順位に重点がおかれはじめ、検索エンジンを活用する広告も拡大傾向に変化しました。実際に、GoogleAdwordsやYahoo!JAPANの検索連動型広告もこの時期にスタートしています。

その後、新しいチャネルとして、ECサイトが登場したことで、リアル店舗と比較しリーチできる顧客数が爆発的に増え、新規市場開拓の可能性が広がったといえます。その反面、Webの世界で表現できるデジタルなコミュニケーションの貧弱さは課題でした。

初期の「Rtoaster」とインフラの拡大

ニーズに沿ったデジタルコミュニケーションが求められていた時代背景に後押しされるように、2006年にサイト訪問者の行動遷移を基にしたコンテンツ自動最適化ツールとして「Rtoaster」(現在のaction+に相当)をリリースしました。

初期の「Rtoaster」では、

  • サイト訪問者を理解するための「スコアリングエンジン機能」
  • ユーザーのスコアやコンテキストに合わせてコンテンツを出し分けるルールベースレコメンド機能
  • 施策の効果を計測するための「レポート(可視化)機能」

が含まれていました。

「Rtoaster」を利用することで、画一的なユーザーとのコミュニケーション(どのユーザーが見ても同じWebページが表示される)から、ユーザーに付与したスコアやセッション内の行動・特徴ごとにコミュニケーションをとることができるようになったといえます。

言い換えると、マーケターはサイトに訪れているユーザーを理解する目(スコアリングによるユーザーの可視化)を獲得し、グルーピングされたユーザー毎に適切に接客(ルールベースレコメンド)する武器を手に入れました。

そして、2008年にはECサイト向けレコメンデーションシステム構築サービスを開始します。こちらは「購買情報」と「閲覧情報」を活用するレコメンデーションシステムをセミオーダーで構築するサービス(現「Conomi」に相当するサービス)でしたが、EC市場では自社固有の「パーソナライズ」課題を解決したいというニーズが成熟していませんでした。

そのため、単独のリリースはなく、翌2009年に「Rtoaster」にビルトインのレコメンドエンジンとして統合されます。マーケターはルールベースレコメンド機能と対になる自動レコメンド機能を使うことで、サイト内のユーザーコミュニティの行動トレンドを元にしたオススメ施策を行うことが可能となりました。

加えて、Webで多くのユーザーの行動データを安価・大量に取得することが可能になりました。そして、それを支えるITインフラが発達したことやデータサイエンスにおけるレコメンドアルゴリズム研究の成果がビジネスレベルで組み込み運用可能となったことが挙げられると思います。

「売上・客数予測による販促計画策定」など5つの成功事例を収録。

2010年代前半 – スマホの出現

通信環境の発達と共に、このころのエポックメイキングな出来事としては何といっても、スマホの登場が挙げられます。PCを中心としたインターネットの利用に加えて、スマホを中心にしたモバイル環境での利用が進み、企業と顧客との接点がさらに広がりました。

同時に、スマホの登場・普及によって、ユーザーがいつでもどこでもサイトにアクセスできる環境を手に入れました。ユーザーが複数端末を持つようになり、企業においてもPCやモバイルからのアクセスを前提とした対応が必要となりました。

また、スマホが普及したことによって、SNSの利用も拡大しました。

マーケティング面でも顧客に「共感できる情報に価値がある」という意識が芽生えた時期でもあります。インターネット上に情報が溢れている状態から、企業側としても「どのようにして顧客に適切なアプローチを届けるのか」を模索していたといえるでしょう。

実際、顧客としては「店舗に訪れる前にインターネットで情報を集め、意思決定まで行える」状態になっているため、企業の情報発信の方向性も変わっていきました。企業のマーケティング面に関しても、SNSでの評判や口コミの獲得が広告の代わりになるという考え方も広がっていったと思います。

「Rtoaster」とレコメンドエンジンの進化

2010年には、「Rtoaster」モバイル(トラッキング API、レコメンドAPI)の提供を開始し、PCだけでなくフィーチャーフォン(いわゆるJavaScript非対応のブラウザ搭載のガラケー)も含めたモバイル環境下でのコミュニケーションに対応します。

また、同年にメール配信連携機能の提供を開始、翌年には機能強化を行い多様なOne to Oneアプローチを実現する総合的なレコメンドメール機能をリリースしました。

機能導入の背景として、HTML形式のメールを配信する企業が増加し、モバイルメール活用の積極化が進んだためです。そして、ユーザーの反応率低下や退会率上昇を鈍化させるための積極的な活用施策のひとつとして、「Rtoaster」の「パーソナライズ」機能を差し込むことで世の中の要望に応えました。

2013年には広告配信機能を追加(Rtoaster Adsの販売開始)し、リターゲティング広告施策におけるレコメンドの活用に領域を広げていきます。

レコメンドのアルゴリズム自体も企業側のシステムとの連携により、アイテム属性やユーザー属性を加味したレコメンドやWebでのレコメンドに対する反応に応じた重み付けを実施しました。内部のパラメータ条件を変えて用意した複数パターンのレコメンドリストを使ったスプリットランテストによる自動チューニング機能などロジックに磨きをかけています。そして、月間20億PVクラスの大規模サイトへの導入によりエンジンのロバスト性(強靭性)を高める対応を行いました。

また、リピート購入された商材に対して適切なタイミングでリマインドする周期性レコメンドやWebメディア向けに自然言語処理エンジンを使ったコンテンツマーケティングレコメンドなど、様々な課題に対応したロジックを追加投入しました。

様々な業界で、モバイルをはじめとした企業と顧客の接点が多様化し、EC以外の業種業界におけるWebサイトでのレコメンドを含めたOne to Oneコミュニケーションの活用も広がりました。そして、汎用的なデータプラットフォームとしての基盤の発展と様々なニーズに応えるためのレコメンドエンジンの改良、拡張が行われたといえます。

2010年代後半 – ネットサービスの顔としてのレコメンド

2010年代の後半では、レコメンド機能はAmazon、YouTube、Netflixをはじめとする様々な巨大ネットサービスで活用されている状況にありました。消費者側が目にしない日がないほど、当たり前の機能としての認知が進んだといえます。

また、企業側の様々なマーケティングツールの導入が進んだことで、レコメンドに関する理解が深まり、顧客とのエンゲージメントを高める重要な施策として位置付けられるようになりました。「パーソナライズ」による高度な顧客とのコミュニケーションの構築について、検討する企業が増えてきました

実際、2017年にはPC保有率をスマホ保有率が超えており、2019年には10%以上の差がついている状況です。そのため、顧客との接点が多様化するだけでなく、企業としても多様化した接点から顧客のニーズに合わせた提案を行う必要性が高まっていった時代だといえます。

加えて、データプラットフォームとしてCDP(Customer Data Platform)が台頭し始めました。「どのようにして顧客の情報を蓄積し、購買や認知につなげるのか」を前提としたマーケティング活動を行っていくという考え方が広がり、オンラインだけでなく、オフラインまで含めた情報を統合する必要性が高まりました。

「Rtoaster」で見えてきた課題と「Conomi」のリリース

「Rtoaster」に内蔵されているレコメンドエンジンは、様々な業界でも幅広く手軽に利用でき、高いパフォーマンスを発揮できるという強みがあります。一方で、汎用エンジンであるがゆえに特定の業界や企業の課題、ロジックに全て対応することは難しく、「自社でこういうパーソナライズがしたい!」といった課題意識の高い企業のニーズを満たせない場面がでてきました。

そこで、改めて個社ごとの課題に対応できるセミオーダー型のレコメンドエンジン「Conomi」を2018年にリリースしました。ビルトインのレコメンドエンジンでは実現できなかったレコメンドシナリオの実装、運用が可能になっています。実は、リリース前からパイロットユーザーとして数社ほど機能提供を行い、運用していました。

「Rtoaster」は初期の段階から外部のレコメンドエンジンと連携(外部リスト連携)できるインターフェースを持っており、その選択肢の一つとして「Conomi」を提供しています。独自で実装したレコメンドリストを「Rtoaster」に連携することも可能ですが、フルスクラッチでエンジンを構築するには時間と投資、そしてノウハウが必要となります。

レコメンドエンジンは単なるアルゴリズムの実行環境ではなく、サービスとの連携、ビジネスのロジックも考慮したレコメンドシナリオを実行するための基盤です。「Conomi」にはレコメンドシナリオを実現する豊富な機能群とそれらを実行するワークフローエンジンを搭載しています。

様々なニーズに応える機能を部品化し、パッケージに収録しており、目的に応じてデータを選択できます。「ニーズに合わせた部品を組み合わせることで、簡単にレコメンドシナリオを作成できる」ことが強みといえます。また、レコメンドシナリオに足りない機能は、要件に合わせて追加でカスタマイズ開発を行い部品化して組み合わせることで、実現可能です。

2008年にセミオーダー型のレコメンドエンジン構築サービスを投入した時点では市場が成熟していませんでした。しかし、現在「Conomi」のようなプロダクトのニーズが求められる状況に変わりつつあります。カスタマージャーニーを作成し、顧客が製品・サービスの購入に至るまでのプロセスを把握した上で、顧客とどのようなコミュニケーションをどういった接点でとるか。そういった観点から、本気で設計・検討する企業が増えてきたことを物語っていると感じています。

2020年代以降のレコメンドの在り方

スマートフォンを軸としたWeb、アプリ、SNSなどのデジタルな接点とリアルな接点において様々な情報が取得可能になり、より顧客を軸とした理解とコミュニケーションが大切な時代に変化しつつあります。その中で顧客におすすめの情報を提供する技術も進化しており、より対話型のコミュニケーションが求められるようになりました。

扱えるデータ(取得可能なデータ)も構造化されたデータだけでなく、文書(会話)や画像、音声といった非構造データにまで広がっています。そのため、データ量が増えた点も含めて、マルチデバイスへの対応はレコメンドの精度を上げる目的でも必要でした。

レコメンドのこれからと課題

現状のレコメンドは、データを使ってユーザーの感性、感情などを理解し、五感に訴えるアイテムに対するユーザーの嗜好を予測の手がかりとする特徴量として扱えるようになりました。臨機応変なレコメンド技術によって、解像度を上げたレコメンドがより普及していくでしょう。

また、ユーザーのコンテキスト(同じ会員でも目的に応じて行動を変えること)を理解した上での提案、ファッションやセットメニューなどの組み合わせの提案など、より顧客に寄り添った複雑な利用シーンでの活用も進むはずです。企業側が追いついてない部分もあるものの、双方向・対話型インターフェース対応に追いつくことができれば、レコメンドの概念も変わると感じています。

ユーザーがUIに納得していないだけでなく、「機械的ではなく、人間の好みやスタッフの経験を活かした提案のようなレコメンドを多くの企業では実装できていない」点はこれから解決していきたいです。

まとめ

2010年前半は、レコメンドといえば「売上は上がるのか?」といった話題になりがちでした。単純に、レコメンドが選択するアイテムの精度争いに特化していたと思います。しかし、2010年後半になると、レコメンドがコンテンツの1つとなり、2020年では、レコメンドが利用者の意図を表すコンテキストになりました。レコメンド技術は精度だけでなく、伝えたいものを伝えるための技術になってきていますね。

レコメンドエンジンは今までであれば、関連するタグに基づいて適切なものを抽出するといった役割でした。しかし、現在は「Conomi」のようにアイテム×コンテンツなど、より顧客のコンテキストに沿ったレコメンドが求められている状況です。私もファッションなどの業界では、無機質なものよりも温度感のあるUI・コミュニケーションが大切だと感じています。

これからも企業と顧客を繋ぐデジタルなコミュニケーションの精度を高め、顧客のファン化を促進して、顧客とのエンゲージメントを高めていくための技術を磨き、皆様に提供できるよう邁進していきたいと思っています。



本記事でご紹介した
製品・サービス
  • Rtoaster(アールトースター)
    Rtoasterは、サイトやアプリの売上アップや顧客体験向上に必要な「全てのお客様への個別接客」を効率的に自動化するデータビジネス・プラットフォームです。
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