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近年、生成AIの開発競争が激化し、新たなビジネスモデルが生まれつつあります。目まぐるしく進化するテクノロジーは、私たちの社会をどのように変えようとしているのでしょうか?
この記事では、ブレインパッドの技術系執行役と同社フェローが、それぞれが注目する技術の最新動向を語り合い、AIやDXの現状や将来性を深掘りし、私たちの生活やビジネスにどのような影響を与えるのかを考察していきます。
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株式会社ブレインパッド・山崎 清仁(以下、山崎)シリーズでお届けしている『ビジネスを取り巻くAI・DXの現状と未来』の5回目となります。生成AIを活用することがある意味ブームのようになっており、企業によってはどのように対処したらよいか、また導入すべきかどうかを迷っているのが現状かと思います。今回は、生成AIの活用について取り上げていきます。
角谷さんは、最近の生成AIの活用については、どのようにお考えですか。
株式会社ブレインパッド・角谷 督(以下、角谷) 導入しないデメリットとして、競合に出遅れるリスク、新規競合が参入しやすくなるリスクがあり、「消極的でも導入を考える企業」が多いのが現状です。
一方、積極的な導入企業では、生成AIを用いて価値創造を実現させようとしています。このような企業では、広告のデザイン、キャッチフレーズの生成、提案書の自動作成などの業務効率化にも利用が広がっています。
そこで、今回は生成AIの現状と今後、その活用について考えてみたいと思います。
山崎 よろしくお願いします。生成AIの活用において消極的と考える企業が課題としている点を教えていただけますか。
角谷 活用にあたっては以下の課題が挙げられています。
1.誤りの生成
2.根拠が不明
3.新しい情報に対する学習が必要
4.回答のゆらぎ
5.倫理的な回答が得られるかどうかわからない
6.権利侵害の可能性の排除
7.生成結果をどのように評価するか
山崎 これらの課題を避けるための方策としては、どのような対策が考えられますか。
角谷 当初は、利用範囲を限定して問題が生じにくいエリアに適用していくのが良いと思います。利用マニュアルを作成し、利用にあたってのルールを制定して運用するのが適切と考えます。
先ほど挙げたような課題はあるものの、導入しないデメリットを考えると、導入のハードルが低い方法で、まずは活用にチャレンジしてみることが重要ではないでしょうか。
山崎 ハードルの低い導入方法というのはどのような方法がありますか。
角谷 次のふたつのパターンがあります。
1.生成AIサービスモデルの検索範囲を自社内ナレッジのデータまで拡張する方法
こちらは、RAG(Retrieval Augmented Generation、検索拡張生成)の活用になります。自社に蓄積された大量の業務文書・規定などの社内情報データを検索して情報を抽出し、それに基づいて大規模言語モデル(LLM)に回答させる方法です。
2.生成AIサービスモデルのファインチューニング機能で自社内のナレッジを取り込む方法
自社データをモデルに登録すれば、コマンドベースでファインチューニングすることができます。ただし、チューニングタイミングやデータ範囲などの運用方法を決める必要があります。
より高度な利用を目指す場合は、公開されているオープンなLLM(大規模言語モデル)をファインチューニングすることになります。独自のファインチューニングも可能ですが、ファインチューニングのためのハードウェア(GPU)やその環境設定などの知識が必要となってきます。
さらに、コーパスを活用してLLM(大規模言語モデル)を独自に開発することも考えられますが、そこまで投資する企業は多くないでしょう。
山崎 弊社でお手伝いさせていただいているケースも、これらの2パターンが多いのが現状ですね。次に、ツールの選定に関してはいかがでしょうか。
角谷 精度に関しては、ベンチマークとなる問題を解いた結果が色々と比較・公開されています。ただ、現在、広く利用されている業務改善のための文章のまとめや情報抽出などの基本的な機能に関しては、メジャーなツールであれば、どれを使ってもあまり変わらないのが現状かと思います。導入しやすいものを、選択されるとよいでしょう。
山崎 さて、生成AIサービスですと、オープンソースのDeepSeekの性能が話題となっていますが、産業界への影響はどう考えていますか。
角谷 サービス利用に伴うコストの低下によって、よりAIサービスのアプリ開発が盛んになる可能性があり、ソフトウェア関連の企業にとってはポジティブだと思います。半導体をはじめとするハードウェア業界への影響は、今の段階では判断が難しそうですね。
山崎 高性能半導体の製造に関する投資は減少する可能性もあるということでしょうか。
角谷 そうですね、投資が減少する可能性はあります。ただし、技術の進歩によって資源利用の効率が上がっても、資源の消費量が逆に増加してしまうというパラドックスがイギリスの経済学者ジェボンズによって指摘されています。これは石炭産業で観察された現象ですが、半導体でも同様のことが起こらないとは言えません。そのため、ハードウェア産業にとっては、むしろポジティブな影響があるという可能性もあるのです。
山崎 よく頂く質問なのですが、生成AIのエンジンはコモディティ化するのでしょうか。
角谷 現在広く利用されている生成AIのエンジンはコモディティ化するといえます。ただし、AGI(Artificial General Intelligenceの略。人工汎用知能)と呼ばれる高度なAIのコモディティ化はまだ先だと思います。
最近のDeepSeekで見られる進展は、1.重要なプロセスだけに高性能なチップを使う、2.必要な知識・推論に限定する、3.答えのみを評価対象にするなど、従来からAI研究の中で指摘されてきた非効率性という課題を改善する工夫によるものです。これにより、生成AIエンジンがより手軽に活用できるようになり、それを活用したアプリケーションの普及もより進むと思われます。AI活用に関して、企業にとって収益が投資に見合わないと思われていた部分に関しても改善されていくでしょう。ただし、インパクトのある業務改善や価値創造の実践例はまだ少ないため、今後の展開が期待されます。
角谷 弊社でも生成AIを活用したサービスがリリースされたので、生成AIの活用事例として取り上げたいと思います。サイト内検索を変えていくことが狙いだと聞きました。
山崎 はい。弊社のサービスだけではなく、最近のニュースリリースをみてみると、生成AIをサイト内検索のバックエンドに組み込むような動きが活発に検討されています。
例えば、飲食店の紹介・予約サイトが従来の検索をアップデートして、お客様の状況に合わせたサイト内検索を提供しはじめています。ショッピングサイトなどでは、これまで暗黙的な“検索スキル”を利用者側に要求していたように思います。
角谷 確かに。検索キーワードをスペースで区切って検索するというのは、今では当然のように行われていますが、本来の検索は、もう少し人に優しい検索であるべきかもしれませんね。
山崎 “検索スキル”を利用者に求めていた背景として、ECサイト側の仕組みに課題があったことも事実です。ECサイトでは、商品が構造化されたデータベースで保持されており、検索では、その構造化されたデータから適切な商品を表示する必要があります。また、その中でこの商品を推したいという売り手側の意向も含めることも、サイト内の機能として備えるようになっていました。
角谷 サイト内で扱う商品のデータベースが裏側にあって、その構造がサイト内検索として表に出ているという構図ですね。
山崎 もうひとつ具体例を出してみましょう。人材紹介のサイトでは、求職者と仕事をマッチングさせるのが重要な要素だと思います。仕事の検索を見てみると、職種や地域が細かく分類されており、詳しい条件を付加して検索できるように工夫されております。自由入力を極力少なくしてあり、前出の“検索スキル”は必要としません。この構造化された検索が、そのまま裏側のデータベースが垣間見えているという構図の良い例といえます。
ここに生成AIが登場したことで、検索窓を通した質問・回答のあり方に変化が生じ、ユーザー体験そのものが「対話をするような検索」に変わり始めています。
山崎 本来、本質的には我々がものごとを知りたいときに、自由な言葉でサイトで検索したかったはずです。それができなかったのは、上記のサイトの裏側の構造(データベース)のつくりだったわけです。
角谷 「あいまい検索」という機能も一時期流行りましたが、主流にならなかったですね。それは検索結果の質や速度が、人の感覚と乖離していたからだと考えています。また、機能的には「全文検索」というデータベースの機能を使うことになっていたのですが、事業者サイドでの導入が進まなかったのはコスト面も課題だったと感じています。
山崎 実現する技術はあったが、実用に耐えられるまでには至っていなかったという実感ですね。検索窓の機能として、生成AIを活用すると次のような体験が可能になります。
1.本来の人の言葉(自然言語)で問い合わせを入力できる
2.検索結果がわかりやすい言葉で出力できる
3.複数の問い合わせで、結果がその人に適した内容に変化する
角谷 ChatGPTのような体験がサイト内検索で実現される可能性があるということですね。現在では、クラウド事業者がそのフレームワークを提供していますし、全文検索の時ほどのコストは掛からないようになってきています。そうなると、これからのサイト内検索が従来とは変わってくることは想像できそうですね。このような状況では、DBなどサイト内の構成の変化もあり得そうでしょうか。
山崎 実現方法によりますが、現状の構成のままで、生成AIの活用部分を外付けする手法も可能です。まず、問い合わせを自然言語で受け付けるところを差し替えます。その裏側(バックエンド)では現状のデータをそのまま据え置いておき、従来の検索結果をわかりやすく加工して良い感じに出力にする機構を従来と置き換える構成で実現します。そうすることでデータ部分は従来のままにして「AI検索」を実装することが可能です。
弊社での生成AIを活用したサービス『Rtoaster GenAI』もそのような機能を提供するサービスです。
角谷 「AI検索」はユーザー体験が変わるということはわかりました。ECサイトや人材サービスを提供している事業者サイドでの利点は何かありますか。
山崎 これはあるお客様に検証していただいているところですが、問い合わせで入力される言葉が我々が思っていた以上に、バリエーション豊富であることが見えてきています。これを私たちは「見えないニーズを得られる」と見ております。これまで、顧客のインサイトをいかにとらえるか、というマーケティングの課題がありました。実は、この機能を備えることにより「商品の性格や特徴が、顧客体験を通して明らかになっていく」ような新たな気づきが生まれ、それが商品開発にも役立つのではないかと期待もされています。
角谷 つまり、商品企画やマーケティングが変わっていくということを意味するようですね。
山崎 さらに、サイト上では、その商品が持つ性格をもとに、リード文やカテゴリが動的に生成されて、顧客のより深いインサイトに触れられるようになるでしょう。顧客の特性と商品の特徴をマッチさせることも可能になりますし、一方では、裏では在庫なども把握したレコメンドも可能となり、サイト内で自然なおススメをされます。
店舗で、残り一品を購入できたりしたときに、店員さんからその購入に対して「最後の一品で買えてよかったですね」という言葉をかけられ、感情的な価値を付加していただくようなケースを経験された方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのような気持ちのお得感までもサイト内で感じられる顧客体験が近づいていると思います。
角谷 その最後の一品がディスカウントで購入できると、顧客としてはさらに満足感も高まりますね。そういったことも可能になる購入体験であれば、顧客体験が変わるといえそうです。
山崎 今回は、生成AIの活用についてお話ししてまいりました。ありがとうございました。
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