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「最新のAIツールを導入したものの、現場がなかなか使ってくれない」「DXがいつの間にかIT部門だけのミッションになっている」――。
DX推進に携わる皆さまなら、一度はこうした壁にぶつかったことがあるのではないでしょうか。便利なツールという「器」を用意しても、そこに現場の熱意や知恵という「魂」が吹き込まれなければ、真の意味で組織を変えることはできません。
日本政策投資銀行(DBJ)様においても、同様の課題意識を起点に、単なるデータ活用の高度化に留まらない取り組みを進めています。目指しているのは、プロフェッショナルとしての人間がその能力を維持・向上させながらAIを使いこなす、「DBJらしいAI活用」の実現です。それは「仕事の進め方そのものの見直し」であり、組織全体を強化するための根源的な変革プロセスでもあります。
私たちブレインパッドは、2025年11月よりDBJ様のパートナーとして、AIロードマップの策定からビジネス実装までを伴走支援しています。そして、この変革をさらに加速させるための大きな契機となったのが、2026年2月26日に開催された行内イベント「DBJ DX DAY」です。本記事では、外部登壇者として招かれたブレインパッドの視点を交え、熱気に満ちた当日の模様をレポートします。

イベントの冒頭では、DBJの小笠原氏とブレインパッドの中道による対談セッションを行いました。
小笠原氏からは、AIを徹底的に活用する必要性と、DBJらしさとして「人間力」を鍛えて維持していくことが、DBJにおけるAI活用の基本コンセプトであるという力強いお話をいただきました。AIという強力な「器」に意味を与えるのは、現場のプロフェッショナリズムに蓄積された知見や判断力に他ならないからです。
これを受け、中道からは、AIを単に「人間の仕事を奪うもの」と捉えるのではなく、人間の解釈・判断・直感といったコア能力を引き出し、拡張するための「パワードスーツ(能力を拡張する相棒)」として定義し直すことをお話ししました。
また、AIの土台としてのデータの重要性についても議論を深めました。特に現場が集めた情報(非公開情報や表情から読み取った情報など)は、人間のコア能力があってこそ集められる情報です。そのデータを使ってAIが強くなり、それによって人間の能力がさらに鍛えられ、現場はより深い情報を集められるようになる——。この「成長のループ」を回すことこそが、独自の競争力を生む鍵となります。

AIという「パワードスーツ」によって移動速度や攻撃力は飛躍的に向上しますが、中の人間(プロフェッショナル)が鍛えられていなければ、その機能は十分に発揮されません。AIという装備を纏い、リアルタイムな事象に即応する「イベント・ドリブン経営」への移行の重要性を説明しました。

続いてのセッションでは、DBJ行内で着実に進んでいる、Copilotをはじめとした生成AIを活用する6個の現場主導プロジェクトが紹介されました。紹介されたのは、投資案件検討時の初期的な情報収集や分析を、担当部の観点を踏まえて効率的に行う「投資案件初期検討支援」や、複雑な規程をAIが読み解き、職員の判断をサポートする「決定区分判定支援」など、いずれも現場目線での具体的な活用事例です。
会場からは実際の業務展開を期待する声や、「自分たちの部署でも使ってみたい」といった前向きな反応が数多く寄せられ、単なる事例共有に留まらない熱気に包まれました。これらの取り組みに共通しているのは、現場一人ひとりがDXを「自分ごと」として捉え、AIを道具として使いこなそうとする姿勢です。特定の部署だけでなく、全職員が主役となって業務をアップデートしていく文化が着実に醸成されている——そんな組織変革の確かな手応えを感じさせる発表の場となりました。
前半セッションではデータ/AI活用のマインドセットと現場の取り組みが語られ、DBJの果敢なチャレンジが見て取れました。一方で、全社的なデータ/AI活用の普及には、ひとつの「壁」が存在します。それは、現時点でデータ/AI活用に関わりの薄い部門や社員をどう巻き込んでいけるかです。
後半セッションでは、より社員を巻き込んで行くためのヒントとして、ブレインパッドの中で実践している「AI活用による身近な働き方の変化」と「プロジェクトでのAI活用の勝ちパターン」が語られました。講演では、データ/AI活用の最前線に立つブレインパッドの上席執行役員の鵜飼と、データサイエンティストの岡田が登壇し、現場のリアルなエピソードを披露しています。本節では、その一部のエピソードを簡単にご紹介します。
「クライアント企業のデータ活用を支援する我々自身が、誰よりもAIを使い倒していなければ説得力がない」そう語る鵜飼は、自らを「社内でのAI利用の第一人者」と位置づけ、コンサルタントが膨大な時間を割くスライド資料作成の時間を半分にすることを目標に、自身のノウハウをプロンプト化して社内に展開しています。
さらに、こうしたAI活用はデスクワークだけでなく、ミーティングの場でも活用されています。皆さんも、会議で言ったことがその後の行動に反映されないといったもどかしさを感じたことがあるかもしれません。この問題を解消するブレインパッドの取り組みとして、ミーティングでの議論を録音し、AIに要点の図解をさせることで、参加者の認識合わせを行うエピソードが紹介されました(下図参考)。

また、ブレインパッドでは、国内外の先進的なテクノロジー展示会といったフィールドワークでも、AIを「専門家アシスタント」として活用しています。例えば、新人が展示会に行った際、知識と経験不足が故に、情報収集がうまく集まらない・うまくまとめられないといったことが起きがちです。これに対処するブレインパッドの取り組みとして、展示会のテクノロジーを写真撮影してAIに解説させたり、展示スタッフの音声を録音してAIに取りまとめを行わせるエピソードが語られました。このように、経営層の鵜飼はもちろんのこと、社員一人ひとりが日常の働き方の中でAIを泥臭く活用する文化が、ブレインパッドの働き方を変え始めています。
そして、自社の実践で得られた知見は、顧客のビジネス変革において真価を発揮します。次節では、クライアント支援におけるAI実装でビジネスバリューを創出したエピソードが語られています。

ひとつめは、AIチャットボットの導入で法務部門への問い合わせ数の97%削減に成功した事例です。この成功の鍵は、チャットボットの単なるシステム導入ではなく「ユーザーがもう一度使いたいと思わせる体験設計」にありました。例えば、画像化されたフローチャートを人手で箇条書きに直して回答精度を上げる泥臭い工夫や、検索しやすいように「よくある質問例」をワンクリックで選べるユーザーインターフェース、さらにはAIの回答が十分に信頼できないケースは人間にバトンパスするなど、失敗体験をさせない設計が現場での定着を生みました。
ふたつめは、顧客の声をAIが分析した事例です。年間数十万件も寄せられる問い合わせは、商品改善やリスク検知のヒントが詰まった「宝の山」ですが、膨大な問い合わせに対して、人間の処理では精々数ヶ月に一度示唆を取り出すことが限界でした。この取り組みでは、AIを使って「どんな人からどんな種類の声がどれだけ集まっているか」を即座に見える化し、顧客の声の変動を察知して「次にどんなアクションをとるべきか」という施策まで提案させています。この取り組みにより、数千時間に及ぶ人手のコストが削減されるとともに、顧客の声を事業活動に反映するサイクルが加速し、事業と顧客の距離を縮めることに成功しています。

データ/AI活用を組織全体に浸透させるためには、データを集め、分析を実行していくだけでは足りません。「人と組織を巻き込んでいく」ことで初めて取り組みはスケールし、データ/AIドリブンな働き方が企業文化に根付いていきます。しかし、人を巻き込むことは容易なことではなく、DX推進部門だけが社内を駆けずり回って疲弊してしまっている企業も少なくありません。
そこでブレインパッドが取り組むひとつのアプローチが、セミナーを通じて組織の興味関心を育てるプロセスです。今回の「DBJ DX DAY」の取り組みもその一環であり、総勢100名近い参加者がデータ・AI活用の最先端に触れる貴重な機会となりました。さらにセミナー後に開かれた懇親会では、通常の会議では見えてこなかった現場のリアルな悩みや相談が寄せられ、組織のDXを全社で進めるにあたって手応えのある会となりました。
たったひとつの小さな成功体験を創り、セミナーを通じて組織の熱量を高めていき、それを起爆剤として周囲を巻き込み、最終的に「会社そのものを変える」ことがDXの成功パターンです。
本イベントの運営を推進された日本政策投資銀行のご担当者様からコメントをいただいておりますのでご紹介します。
構造化データ・非構造化データの双方に精通し、AIを活用したデータ分析・利活用において豊富な実績を有するブレインパッド様に講師としてご登壇いただいたことで、行内の関心も高まり、当日は多数の行員が参加する盛況なイベントとなりました。当日は、当行のデータドリブン経営が目指す姿について、経営サイドへのインパクトだけでなく特に「現場のデータドリブン経営」を深掘りして話してくださり、行員が具体的なイメージを共有することができ、目的に向けた取り組みの推進力が一層高まったと感じています。あわせて、その実現に不可欠なデータの蓄積や精度向上の重要性についても理解が深まり、行内のAIDX活動が加速・深化するきっかけとなる有意義な機会となりました。
当行にとって、このようなDX機運醸成イベントの開催は初の試みでした。企画当初は手探りの部分もありましたが、データ活用を梃子とした企業変革において豊富な実績と知見をお持ちのブレインパッド様より、準備段階から多くのご助言を賜り、安心して当日を迎えることができました。
イベント当日は、「AIへの向き合い方」から「AI×身近な事例」「AI×プロジェクト実装」まで、豊富な事例を交えながらご紹介いただきました。参加者からは、「DX領域のプロフェッショナルの皆さまによる講演が大きな刺激になった」との声が多く寄せられ、職員が多くの学びを得る機会となりましたこと、心より感謝申し上げます。誠にありがとうございました。
本イベントを通じて可視化されたのは、DBJ内部に脈打つ「現場の熱量」と、具体的な成功体験の積み重ねでした。AIに対する不安を期待へと変え、次々とプロジェクトが生まれている現状は、組織文化が着実にアップデートされている証と言えます。
イベントを締めくくった情報企画部長の矢端氏は、従来の要件定義から始まる開発スタイルとは一線を画す、アイデアを即座に形にしてブラッシュアップしていく私たちとの共創スタイルについて触れ、その価値を高く評価してくださいました。
AIによって生み出された余剰時間は、単なる効率化の結果ではなく、人間ならではの高度な意思決定や、新たな価値を生むためのネットワーキングへと再投資されるべきものです。ブレインパッドはこれからも、データサイエンスと実装力を武器に、各社が目指す「自社らしいAI活用」の実現を、技術と文化の両面から柔軟に支えてまいります。
今回のような社内勉強会への登壇やワークショップの開催を含め、現場の変革マインドを醸成するプロセスから伴走することも可能です。AIのビジネス実装や社内DXの推進において、次の一歩を模索されている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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