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「Patient Centricity」実現に向けたノバルティスのデータ利活用民主化

公開日
2023.10.27
更新日
2024.03.08

ノバルティス ファーマ株式会社(以下、ノバルティス)では、患者との効果的エンゲージメント促進への取り組みを「Patient Centricity」の要と捉え、企業活動の中心に据えています。

なぜノバルティスでは「Patient Centricity」を重要視するのでしょうか。またそれを実現するためのデータ利活用の取り組みとはいかなるものなのでしょうか。さらにその取り組みが順調に進んでいる理由は何なのでしょうか。

ノバルティスのデータ利活用推進責任者であるCustomer Data and Analytics部(以下CD&A)の中村 佳永氏とプロジェクトを担当したブレインパッドのメンバーに話を聞きました。

困っている人たちをサポートしたいということに尽きる

DOORS編集部(以下、DOORS) ノバルティス様は、患者さんとの効果的なエンゲージメント促進への取り組みを「Patient Centricity」の要であると考えていますが、この取り組みを、貴社の活動の中心にされている理由を教えてください。

ノバルティス ファーマ株式会社・中村 佳永氏(以下、中村氏) 我々が患者さんのエンゲージメントを重要視している理由として、多くの患者さんが未診断・未治療もしくはコントロールが不十分という状況が一番に挙げられます。患者さん のQOL(Quality of Life、生活の質)を健康な方と同じ水準に向上させていくためにも、必要な治療を必要な患者さんにいち早く届けることが我々のミッションです。当部(CD&A)としては、我々が提供する治療が、適切に可能な限り早く患者さんに届くようにするために、データとアナリティクスを活用することが必要だと考えています。

ノバルティス ファーマ株式会社
Customer Data & Analytics部 Senior Lead
中村 佳永 氏

具体的には、データとアナリティクスを活用し、弊社の薬剤情報の提供にとどまらない顧客である医療従事者のニーズや、彼らが抱えている幅広い課題を理解していくこと、そしてそれらのニーズをデータとアナリティクスで満たすことで、顧客の行動や考え方の変化を適切に促し、医療従事者を通じて、患者さんの未治療状態の低減などのアウトカムを実現していきたいと考えています。

DOORS ノバルティス様が「Patient Centricity」に取り組む思いを聞かせてください。

中村氏 製薬会社は薬を作る会社ですので、困っている人をサポートするためというのが最もわかりやすいと思います。そして、それに尽きると考えています。そのためには製品を提供するだけではなく、患者さんの治療に対するアクセスについて適切なかたちで貢献できるかどうかも重要です。


データとアナリティクスを手段として優れた顧客体験を提供する

DOORS 中村様がリードするCD&Aという部門は、2023年1月に発足したと伺っております。その設立背景、ミッションおよび具体的な施策について教えてください。

中村氏 グローバル全体で、以前は対象となる疾患をオンコロジーとそれ以外の領域として2つの事業部に分かれていました。それが2022年4月以降に、グローバルでの組織改編に沿って、1つの事業体に統合されました。

新しい組織による変革がもたらされる中で、データからインサイトを得る能力の強化がますます喫緊の課題となっています。それに対応して、事業の意思決定支援やビジネスの不確実性削減等に寄与するためにCD&Aが発足したのです。

当部のミッションはデータとアナリティクスを手段として優れた顧客体験を提供することです。

「顧客」とは医療従事者やひいては、我々の同僚も含めた概念です。したがって、我々が考える「顧客体験」も医療従事者や弊社の社員などすべてに最適化された体験を提供することになります。そのための具体的な施策としては、分析系・データ系・人材系の大きく3つの柱があります。

分析系とは、アナリティクスユースケースや分析プロジェクトを推進する取り組みです。どのようなチャネルがどのような医師に響きやすいのか、我々の数多くある製品の処方実績に何が要因として寄与しているのかなどを理解して、社内に適切なかたちで情報共有するのが分析系のざっくりとした内容になります。

データ系は、大きく2つあります。1つは中長期的な観点で、クラウドをベースにしたデータ活用プラットフォームを構築することです。社内外のデータを1つのデータベースに統合して、社内の人間が必要なタイミングで必要なデータにアクセスできる環境を整えています。もう1つは短期的な観点で、オペレーショナル・エクセレンスを実現することです。身近なデータをBIツールで自動的に分析したり、Excelをさらに使いこなしたりすることで効率的にデータを取得できるようにします。

人材系については、データ利活用を推進するために我々の部署だけだと物理的な人数の観点から限界があります。したがって我々が直接的に支援しなくても、自らデータ分析を推進できるようなメンバー、すなわち「エバンジェリスト」を育成していくことが端的な施策となっています。

小さな成功体験を作ることは本当に難しい

DOORS 今回、「Analytics boot camp(ABC)」という取り組みを実施したと聞いています。その目的、背景および概要を教えてください。

中村氏 我々の新組織でデータ分析とそれから導かれるインサイトが重要視される中で、我々のみならず他の部のメンバーも自律的に分析を進めていく必要性があると申し上げました。その自律的分析を実現するために我々が推進している施策がABCです。これにも座学研修・コミュニティ運営・データ活用業務の支援といった大きく3つの柱があります。

まず座学の研修でデータとアナリティクスに関する基礎的な教養を身につける。コミュニティ運営によって、研修に参加している人がエバンジェリスト候補のメンバーに気軽に質問や相談ができる。データ活用業務の支援は、学んだスキルを日常業務に落とし込む、高度な分析が必要な場合はCD&Aが支援する分析案件にする―こういった3つの柱で運営しているのがABCの概要になります。

DOORS 「ブートキャンプ」というと、苛烈なトレーニングを想像していたのですが、大きな勘違いでした。今言われた3つの施策を総合してABCと呼んでいるということですね。そのABCを実施したことによってもたらされた変化について教えてください。

中村氏 ABCの効果検証とブラッシュアップのためにアンケートを実施しました。

DOORS アンケートは、社内で独自に作られたものですか。

中村氏 そうです。リーダーである南雲が中心になってアンケートの項目を作り、研修受講者に回答してもらい、我々の手で結果を可視化しました。

その結果、満足度は5点満点中4.68と非常に高く、日常業務に関連性の高いスキルの伸長を参加者が実感したことが明らかになりました。そのスキルとは回答者の多い順に、データ加工、分析・結果解釈、課題・目的設定、集計・可視化となっています。

またCD&Aによるデータ活用業務の支援の満足度は4.62を記録し、現時点でもBE&E(Business Excellence & Execution、本社機構)各部の依頼に基づいた案件をCD&Aが推進している結果として、データ活用の土壌が醸成されつつあると認識しております。具体的な案件としては、ビジネス上の問題定義・課題解決の支援、ビジネス課題の構造化支援、売上上昇要因の分析支援、VoCによるMR活動の相関分析支援、社内BIツールによる集計業務の自動化支援、研修後テスト結果の可視化支援などが挙げられます。

ABCの3つの施策それぞれに対する満足度も確認しています。特に顕著だったのは、座学研修の満足度の高さです。またデータ活用業務支援についても大きく効果が出ていると感じました。

以上は定量的な観点ですが、定性的な観点で申し上げると、これまでデータマネジメントのツールを使ったことが無いメンバーが自ら率先して日常業務のデータフローを定義し、分析を進めるというユースケースがすでに3つ、4つ確認されています。そういうPoC的な小さな成功体験が社内でかなり広まってきたのが、ABCの一番大きな成果だと思います。

簡単に申し上げましたが、これは大変難しいことだと思うのです。小さな成功体験を作り出すことが実に骨の折れる作業であり、社内のステークホルダーを納得させるのは本当に大変なことだと、私は過去の体験から感じています。ですから、こうしたユースケースが出てきたことは本当に大きな成果であり、オーナーシップとリーダーシップの強さによってメンバーのマインドセットが明確に変わってきたことの1つの証左と考えています。

DOORS 運営を担当された南雲様の功績が大きいと伺っています。彼のどのような点が優れていたのでしょうか。

中村氏 元々はMR(医薬情報担当者、医師に医薬に関する情報を提供し、販売促進もする)で、大学院で薬学を学んでいたときにデータとアナリティクスの素養も身につけました。ただいわゆるデータサイエンティストのようなエキスパートとは違って、少しずつ自分で知識を蓄え、1人のビジネスアナリストとして様々なツールを使いこなせるようになりました。自分のキャリアをしっかり作っていこうという意欲、および元MRとして社内の関係者をうまくブリッジングできるコミュニケーション能力――それらを存分に発揮した結果、ABCでも大きな成果を生み出したのでしょう。

DOORS 中村様から見て、南雲様は聞く力と話す力どちらが優れているのでしょうか。

中村氏 両方ですね。人が何を考えているのかを、100を話さなくても1で理解できる能力も高いですし、相手の心証を害さないように伝えることにも非常に長けています。これらはビジネスアナリストとして、非常に大切なスキルだと思います。

モチベーションや意欲の源泉は?

株式会社ブレインパッド・大澤 温(以下、大澤) ABC参加者は 、公募対象の部署人数を踏まえると多くの人に参加頂いた認識です。ABCの参加者のモチベーションや意欲の源泉がどこにあるのかを伺えますか。

株式会社ブレインパッド
アナリティクスコンサルティングユニット マネジャー
大澤 温

中村氏 なぜ意欲があるのかというと、これは全社で同じです。「患者さんのために何かしたい」という想いがあり、その実現のために、各部門の役割があります。医療従事者を通じて患者さんに価値を届けるための能力開発としてMRの研修がありますし、我々のような業務支援の部門であれば製品を適切に届けるために業務が滞りなく行われるサポートをする――そこに必ずデータとアナリティクスが切り離せないものとして存在すると思うのです。

マインドセットとしては、会社のためにということもありますが、患者さんのためにできることを各メンバーが考えたときに、その1つとしてデータとアナリティクスに関するスキルセットを身につけることがあると考えたのだと思います。

それだけでなく個人的な成長への意欲もあるかもしれません。新組織になってから自分自身のケイパビリティをさらに伸ばしていかないといけないと実感するメンバーが増えている可能性があります。「人生100年時代」にキャリアがいつまで続くかをどうしても考えざるを得ない中で、新しいスキルをどんどん身につけていく必要があります。それもスキル向上の意欲につながっていると思うのです。

DOORS ABCへの参加者は公募したのでしょうか、それとも選抜したのでしょうか。

中村氏 基本的にはボランティアベースで公募して、手を挙げてくれた人たちの中から特に素養があったり、マインドセットが高かったりしたメンバーに声をかけました。データ利活用を学びたいという意識を持っているメンバーがかなりいたということになります。

データ利活用にリソースを割けないという人たちにどう対応するか?

DOORS 先ほどの中村様のお話と関連する質問になりますが、DXやデータドリブン化など改革案件では関係部署を巻き込む苦労をよく耳にします。そのために工夫されたことや苦労されたことがあれば教えてください。

中村氏 データ利活用に対する価値の認識は、同じ社内でもかなりばらつきがあります。営業の現場だと、KKD(勘と経験と度胸)に基づいた活動に重きを置くマインドを持っている人が多いのも事実です。KKDが正しいことも多いので、それを否定するつもりはありませんが、データ利活用の推進という文脈では障害になることもあります。また日常業務が忙しくてデータ利活用にコミットできるリソースが割けないとも言われます。こうしたことが、我々が今回進めていく中で苦労を感じたところです。

それを解決するために、研修を実施するに際してBE&Eのヘッドから社内広報の媒体を使って、ノバルティスのミッションとデータ利活用の取り組みがリンクしているというメッセージを伝えることで、社内の納得感を得るようにしました。またリソースを割けないと判断する理由は、プライオリティが低いからです。したがってプライオリティを上げる必要があり、そのためには成功体験を積み重ねて、我々の取り組みの価値を訴求していかなければなりません。そうした成功体験を社内にわかりやすく伝えることによって、「そんなに価値があることならやってみよう」という思いを参加者に持ってもらえたのだと思います。

DOORS 「少しずつ乗り越えてきた」ということなのでしょうが、その言葉から受ける印象とは、線形に右肩上がりに良くなってきたというものです。実際は、行きつ戻りつだったりとか、突然大きなジャンプがあったりとかしたのではないですか。

中村氏 ブレイクスルー・ポイントがあったと思っています。データ利活用にフォーカスした研修を過去に実施したことがある部署は1つもありませんでした。「果たしてどの程度効果があるのか」という人たちもいたかと思います。ですからおっかなびっくり始めながら、1つ1つ成功を積み重ねていく中で、ある瞬間に社内の受容レベルが一気に高まったと感じたことがありました。

社内BIツールによるデータマネジメントの成功体験が少しずつ出てきたことによって、メンバーの目の色が変わったということなのですが、いずれにしてもデータを日常業務に使っていく意味があるなと実感してもらったのが、大きく動き始めたきっかけです。

定量的な目標よりも大事なもの

DOORS 定量的な目標があれば教えてください。

中村氏 現状ではPoC的な位置づけでフェーズ1を終えたばかりですので、定量的な目標は設けていませんでした。次期フェーズ以降において、定量的な目標も検討しようと考えています。

ただ何人育成したという数の話よりも、みんなが自発的に着手して進めていく雰囲気の醸成こそが我々のなすべきことだと思っています。いついつまでにこういうことができる人を何人といったKPIをきっちり定義するより、むしろもっと自然に日常業務に馴染む形でデータ活用が浸透していくことが我々の真の目標だと考えているのです。

DOORS だとすれば、浸透の度合いをどうやって測るのでしょう。

中村氏 先ほどのABCの施策が3つあるという話にもつながりますが、コミュニティ内での発信や我々に対する相談が増えることだと思います。以前はほぼ無かったことなのですが、「自分でやってみましたが、これで合っていますか」という相談や、日常業務で我々が提供したソリューションを使って取り組んでいる様子を見かけたりすることが増えました。

DOORS 実際に対面で見ているときの「熱量」のようなものを感じるといった、数字では表せない全人格的な部分が非常に重要であるということですね。最終的には数値的な目標に向かうのかもしれませんが、それを達成するためにも肌で感じることが大切であるという認識でよろしいでしょうか。

中村氏 そうですね。

やはり強いドライブ力は必要

DOORS ブレインパッドのメンバーへの質問です。ノバルティス様の研修やABCの取り組みを見ていて、こういうところが変わったとか、工夫されていると感じたところを教えてください。

大澤 参加者には日常業務で忙殺されている人もいる中で、彼らの日常業務にデータの利活用がいかに効果があるかをきっちり示したことが、今回大きく工夫されたところだと思います。

総論としては、みんながデータの利活用は大事だと思っています。しかし各論になると自分の業務に本当にデータ利活用が適用できるのか不安な方々がたくさんいます。ですから研修のあとの実業務への適用についてしっかりサポートすることで、「データ利活用で自分の業務は良くなるのだな」、「時短にもつながるのだな」とわかるようにしないといけません。そういったところにコミットメントしていくことが大事であり、そこに工夫があったと言えるでしょう。

株式会社ブレインパッド・奥園 朋実(以下、奥園) 大澤さんがABCのコミュニティ運営を担当し、私は座学研修を担当しました。コロナ禍でしたので、オンラインと対面のどちらで実施するのかもかなり検討しましたが、結局対面で研修をさせてもらいました。様々な機会で研修を行ってきましたが、ノバルティス様では、参加者の目線から受ける熱量がまず違うと感じました。私が話をすればするほど、参加者が様々な情報を受け取って、納得度がどんどん上がっていっていることが肌でわかるのです。

株式会社ブレインパッド
トランスフォーメーションユニット 副統括ディレクター
兼 データ活用人材育成サービス領域リード
奥園 朋実

最も強く印象に残っているのは、中村様が、セミナーの開始時に参加者に向かって、「この研修をやる目的は、みなさんのスキルアップだけではなく、最終的に医療従事者、そしてその先にいる患者さんに貢献すること」と明確に言われたことでした。

中村様や南雲様を見ていて、これからデータ活用やそれに関わる諸々の施策を促進するためには、やはり強いドライブ力が必要だと感じました。お二人のリードもあって、受講者も強い目的意識を持って研修を受けてくださいました。熱量の高さを感じたのも、ドライブ力の賜(たまもの)でしょう。

DOORS ノバルティス様の意欲の高さの要因はどういったところにあると思いますか。

奥園 実際には、通常は、受講者はノバルティス様と同じように熱量があることが多いのです。ただし、研修の開催回数がKPIになっている場合などは、研修をすること自体が目的になりがちです。目的意識の違いが大きいと言えます。HowではなくてWhyから入る必要性があり、ノバルティス様はまさにWhy、すなわち患者志向から入っています。そこが大きな違いです。

なぜノバルティスではビジョンやミッションが浸透しているのか?

DOORS ノバルティス様では企業理念が深く浸透している雰囲気を、今回の取材だけでも強く感じました。それはなぜなのでしょうか。

奥園 先ほどKKDという話がありましたよね。実はKKDだけに頼らずデータで補完したいという気持ちの方が現場には数多くいらっしゃるんですね。そういう方々がどの業界でも増えていて、ボトムからのデータ活用の欲求は上がってくるのですが、その受け皿になるファンクションが無い場合も多いのです。ノバルティス様の場合は、受け皿たるセントラルファンクションとしてCD&Aがあり、CD&Aが実際の業務の必要からくる将来的なビジョンを踏まえて推進しています。それが大きいのだと思います。

大澤 ノバルティス社内に、アジャイル文化が浸透している点も大きいと考えています。アジャイル文化では、何故取り組むのかの「Why」を言語化し、皆で共通認識を持つことを重視しているとうかがっています 。そしてビジョンとは、このWhyを企業・事業規模に拡充したものではないかと考えています。ノバルティスのWhyから突き詰める文化的土壌があるがゆえに、より一層ビジョンが浸透したのかなと。また、データ活用がノバルティスのビジョン実現につながる手段だと参加者の皆様に感じて頂いたからこそ、多くの方々の積極的な関与に繋がったと捉えています。

DOORS 中村様に伺いたいのですが、会社のビジョンの共有にかなり時間をかけておられるのでしょうか。

中村氏 はい。かなり時間を使っていると思います。メンバーが集まる機会に社長が直々に、なぜ我々がこのアクティビティに取り組んでいるのかについて、毎回念押しして伝えられます。

DOORS トップが言っていることと実際にされていることが矛盾していたら、社員はついてきません。そこをしっかりされているということでしょうか。

中村氏 しっかりしていると思います。ダイレクトに我々メンバーに言葉を伝えることもそうですし、いったん我々のようなミドルマネジメント層に落として、我々が受容したことをチームメンバーに伝えていくための方法論もしっかりしています。そのため言葉が一人歩きせず、メンバー全員が納得感を持ってミッションを意識する文化が弊社にあると考えています。

DOORS DXやデータドリブン化の推進に成功している会社のお話を伺っていると、例外なくミッションやビジョンがしっかり共有されていると感じます。そういうことが本当に重要だということを読者に伝えたいと思って、少ししつこくお伺いした次第です。

奥園 CD&Aのような部署があることは非常に大きな意味があると思います。漠然と、DXが流行っているからということが起点になると、Whyは度外視してHowを探してしまうと、研修後に何をしたらいいのかがわからなくなります。CD&Aのような部署がドライブしている会社では、課題の設定や、それが解決された先の未来に何をすべきかプランがあるので、研修後に何をするかが明確になります。

DOORS ドライブする部署がある会社というのが、先ほど申し上げたミッションやビジョンに紐付いている会社であることが多いと思うのです。

奥園 そうですね。実はそのような会社では、失敗も重ねていて、データ活用の大変さを肌で知っています。ですから魔法は無いとわかっておられて、だからこそデータを使うとどう業務が効率化できるかとか、その先に顧客に対してどういうベネフィットがあるかとか、そういったことにきちっと結びつけられる人が出てくるのです。

DOORS ノバルティス様では現在、自走期間に入っています。ブレインパッドから見た以前との変化があれば教えてください。

大澤 先ほど中村様からあった話とも重複するのですが、各部門の方々が今回の研修で学んだことやBIツールを実業務の中で生かした実例が出てきていて、それを発表会などで他の社員にも披露するという動きが出てきているそうです。そのことによって他の社員も本当に実業務で使えるのだと知って、「私も試してみよう」「私もそれを知りたい」という輪が広がり始めていると聞いています。

小さいところからスタートして成功体験を得ることも大事ですが、それを広げていくことも難しいのです。広がる動きが進んでいるということは、とても良い状況だと思っています。

人材育成の成果が見えるようにするためには具体的なソリューションも必要

DOORS 今回のプロジェクトに関するCD&Aの役割について、経営陣や周囲の方々からどのように評価、あるいは期待されていると感じているのでしょうか。

中村氏 人材育成の成果があったかどうかは、最終的にはどう会社の利益につながったかとか実際に患者さんの治療につながったのかといったことで判断すべきですが、それはなかなか見えにくいものです。そこで、もっと成果がわかりやすく出るように、具体的なソリューションに落とし込んだ上で社内メンバーに提供することが重要だと考えます。

具体的に言えば、今移管を進めているデータプラットフォームが使える環境を早くユーザーに提供すること、あるいはMRやマーケティング担当スタッフが必要な情報を素早くフレッシュな状態で見られるようなダッシュボードを提供する――といった具体的なアナリティクスのソリューションをいち早く届けることが、我々に期待されていることではないでしょうか。

そのためには冒頭で申し上げた、分析系・データ系・人材系の3つの施策が全部伴って、ようやく社内のチェンジマネジメントが実現され、患者さんに我々の価値を届けることにつながるのだと思います。これらすべてについて優先順位を同じくして進めていくことで、具体的なソリューションをいち早く開発して提供できると考えています。

まだ2合目だが数年以内に頂上を目指す

DOORS 「データ活用民主化」がゴールということですが、それに向けて、現在何合目あたりにいると考えておられますか。

中村氏 2合目、つまり今後やるべきことが80%あると思っています。具体的に当部のデータ戦略を説明するのは差し控えさせてもらいますが、数年後にはそれを100%まで引き上げるというロードマップがすでに描かれています。それに向けて必要な施策を分析系・データ系・人材系のそれぞれできっちり打っていければ、データ利活用の民主化が実現すると考えています。

DOORS 10年後には実現するといった長いスパンではなく、比較的早い時期での実現を考えておられるということですね。

中村氏 そうです。なるべく近い将来に実現したいと考えています。

DOORS そのためには組織変革を推し進めていくことになると思うのですが、それについてはどのようなイメージを持たれているのですか。

中村氏 我々CD&Aが実施することは、「チェンジマネジメント」という言葉が当てはまるのではないでしょうか。組織のファンクションを変えるということではなく、マインドセットを変えていき、データ利活用の土壌を構築することが我々のなすべきことだということです。このような土壌を提供することによって、ノバルティスで働く全メンバーのマインドセットを、データとアナリティクスが重要だと考えるように変えていき、それによって各部門が理想とする組織への変革を支援するというのが、我々の組織変革のイメージです。

データ民主化に向けた体制作りが次のテーマ

DOORS ノバルティス様が目指しているデータ民主化のあり方について、今後の展望についてお聞かせいただけますでしょうか。またその中でブレインパッドに期待することがあれば合わせて教えてください。

中村氏 本社および営業現場の誰もが、社内外にある必要なデータに自由にアクセスして、分析や可視化を実施することで、データによるエビデンスに基づいた意思決定を行うようになることが民主化のゴールです。

その実現に向けて、対象者をBE&Eに限らず、全メンバーを対象者とした研修も期待したいと考えています。フェーズ1の経験や教訓を踏まえてアップデートした研修を提供してもらえるのであれば、弊社の他のメンバーにも、患者さんに価値を届けるための支援をすることができると考えています。

DOORS 今のお話を踏まえて、ブレインパッドでは今後どのような支援をしていきたいと考えていますか。

奥園 まずは今後予定されている研修を、つつがなく実施したいです。現場のエバンジェリストを育成したうえで、その上のミドルマネジメントの育成も支援できたらと思っています。

大澤 今日のお話を伺って、トップ層の理解がかなり進んでいると感じましたが、さらなる理解のためのご支援もぜひさせていただきたいと思っております。

また民主化については、運用面や操作マニュアル作成といった仕組みを実際に使っていくための人材育成支援もお手伝いさせていただければ、チェンジマネジメントの土台作りがより早く進むのではと感じています。

新しいプラットフォームは、民主化というテーマの当然の帰結として、ノバルティス様の社員全員を対象にすることになります。このプラットフォームをいかに使って自分の業務に役立てもらうか――その旗振りも含めた体制作りが次のテーマとしてあるはずです。そのテーマを実現していくためのご支援もできるといいなと思っています。

中村氏 アナリティクスに関わるベンダーは日本にも数多く存在します。社内で適切に議論して、今言っていただいた取り組みに対して最適な提案をしてくださるベンダーを選択し、社内のデータ民主化をさらに進めていきたいと考えています。

DOORS 今日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。



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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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