【後編】DXの成果は「課題の自分ゴト化」と「トップのコミット」で決まる
~全社一丸となって取り組む合意形成・協力体制の作り方~

[執筆者]
若尾 和広

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グランドデザインは「ワークショップ」で明確にしていく

DXに踏み出すとき、最初から「こういった企業の姿を目指す」というグランドデザインを完璧に描き切れている必要はありません。大切なのは目の前の課題解決を考える中で、経営と現場のさまざまな利害関係者の意見を集めて議論することです。

それによって自社の強みや課題が共有出来ますし、全社のメンバーがビジネス改革を「自分ゴト」として推進していくモチベーションが醸成されるのです。

もちろん既存の組織ややり方を変えることに摩擦は発生しますが、課題感の共有ができていれば経営陣の最終判断にも納得感が生まれます。そして、技術的にできること/できないこと、どうすれば実現できるかといった方法論は、支援企業であるブレインパッドがサポートします。

他の例で言えば、あるクレジットカード企業のDXに関わった際の最初の依頼は「CRM(顧客関係管理)の仕組みを刷新するのに〝何が足りていて、何が足りていないのか〟を明確にして欲しい」というものがありました。

最初のワークショップではCRMに必要な機能/要素について一般的なケースを題材に説明し、それらがクライアント企業に揃っているのかの調査を行いました。続いて、人的リソースや組織については他社事例(具体的な実例)を参考として提示し、幾つかの選択肢を共有しました。議論が抽象化しやすい箇所に具体的なケースを題材に当てはめて議論が加速するようにしたことで、自分ゴト化されたまま議論が進み、そして、中長期的なビジネスの展望、自社の強みや方向性などをお聞きしながら「自分たちが目指すCRM」においてゴールを定めていったのです。

目指すべきゴールについては、むしろ端的に「どうしてCRMをされたいのですか?」とお聞きしました。

それに対する答えは当初は「顧客LTV(ライフタイムバリュー)を最大化したいから」というものでしたが、LTVの定義は企業によって異なります。顧客の「LifeTime」はどのような定義とするのか? 「Value」は売上で見るのか利益で見るのか? 「利益」であるとするならば、利益は過去の「確定利益」なのか将来の「期待利益」も含むのか?と具体的に測量可能な要素を探りにいきました。

漠然と「LTVを最大化するためにCRMを導入したい」というところからスタートし、議論を通じて具体的な要望や暗黙的に前提となっていたこと、本当に実現したいこと、などが明確になっていきます。

その上で「それは誰がいつどのように計測するのか?」「いつまでにどの程度その数値を上げたいのか?」「どんな活動をすればその目標は実現し得るのか?」など議論を重ねるごとに徐々に具体的になっていき、それによって必要なデータ管理やシステム、組織や運用のイメージが明確化します。

そして、ワークショップにはあらゆる部門が参加しているため、議論を通じて目指すべきゴールとやるべきことはおのずと社内の共通認識になっていきます。

ブレインパッドへの相談は、数年前は「計画が策定された後」のシステムを構築・データ分析・MAツール導入などの案件相談が主でしたが、本当の意味でクライアント企業のDX推進を支援するためには、これらの「構想策定」や全社での意思決定の共有に関係するコンサルティングフェーズが非常に重要であるとの認識のもと、最近は構想策定からの伴走支援体制をより強化しています。

DXには経営トップのコミットメントが不可欠

繰り返しになりますが、DXとはこれまでの業務の進め方やビジネスのあり方を根本から見直し、「ITとデータを活用したビジネスに切り換えていくこと」です。既存のワークフローや組織形態を完全に維持したまま「単にデジタルに置き換える」というのでは、革新的なX(トランスフォーメーション)にはなりません。

経営戦略の柱となるテーマであり、場合によっては大幅な組織改編も伴う話となることから、CEOの直接的なコミットメントと権限付与が不可欠です。単なる「了解」だけだと、主導する部門と既存部門に軋轢が生じて計画が一向に前進しません。一般的に大企業ほどそうした「組織の壁」に阻まれる傾向があるようです。

実際、我々があるメーカーの一部門からの依頼でDXの実施計画を制作して他部門に協力を呼び掛けたところ、他部門でも同様の計画を検討していた事実が発覚して主導権争いが勃発した事例がありました。

DXの基盤となるデータは、それを管理する部門の存在価値でもあります。そのことが歪曲するとある意味「データのサイロ化が解消しない要因」にもなるのですが、「ワンソース・マルチユースを実現するためにデータを供出してください」と呼び掛けてすんなりと協力いただけるかどうかは、そこに至るまでの関係者同士での合意形成がなされているか否かに係ってきます。

別のあるメーカーでは全工場に分析環境を備え、「製造から営業までグローバルにデータ活用をしていこう」という壮大な構想がありました。組織横断型の計画を進めるために専門チームが作られたものの、十分な権限を与えられなかったために結果として、各組織・各部門との連携ができず全社的なDX化がなかなか進まないということもありました。

ある工場に分析環境を作ることが決まると別のラインの工場から横やりが入って白紙に戻ったり、ワークショップのたびに社内調整のための事前テレカンが幾度も必要になるなど困難に直面した例もあります。

日本企業の会社組織はミドルが強くそれが日本の強み、と言われた時代もありましたが、現代のDX推進にはやはり一定以上のトップのコミットメントと覚悟が必要なのだと現場のプロジェクトを通じて改めて実感します。

総論賛成・各論反対を乗り越えるDX推進チームの作り方 

変革には痛みを伴います。その痛みを前にすれば誰もが抵抗が出ることは想像に難くありません。

データに基づいてファクトベースで意思決定していく企業は、日本にはまだそう多くはありません。そうした大多数の企業でビジネスの進め方や組織のあり方を根本から変えていこうというときに、経営陣の直接的な関与(あるいはそれに準ずる大きな権限)があるとないとでは突破力に天と地ほどの差が出てしまうのは当然でしょう。

DXを成功に導くにはどういった組織が必要か? 社内の各部門はある程度フラットな関係にある場合は、主要部門から人を集めて推進チームを立ち上げるのが良く、逆に社内に中核となる影響力の強い部門がある場合はそこに推進チームを置く方法もあります。

また、DXがある程度軌道に乗るまでは「CEO直属のチーム」がこれを主導し、形が見えてきた段階でしかるべき部門の下に配置換えするといった方法もあるでしょう。どの方法がベストかは企業によって異なります。

DXとはデジタルイノベーションによる事業のピポット(方向転換・路線変更)と言い換えることも出来ます。

現状では現場の方々が「ここで変わらなければ生き残れないんだ」と強い危機感を持って動き出しているケースが多いですが、その〝熱〟が経営陣にうまく伝わらないと構想は角が削られ小さくなって、実現するのは小手先のデータ活用に止まってしまいます。それでも経営は効率化しますし多少の業務改善はありますが、それはDXで達成しうる可能性のほんの一部に過ぎません。

現状では多くの企業が「変わらなければならない」「ITやAIを活用せねば負ける」などの切迫感でDXを検討していますが、主たるビジネスモデルそのものが変わった、と思われるほどDXが完全完遂している企業はまだ多くありません。

多くの企業が道半ばにあるのが日本のDXの実態だと思います。しかし、ここから〝その先〟を見据えている企業/変化に対する覚悟を持って取り組んでいる企業と、そうでない企業の差は歴然と出てくるはずです。

「ワークショップで経営と現場が丁寧に積み上げた現場の理解と合意」。その結果として「共有化されたグランドデザイン」。さらに「トップのリーダーシップと熱意」。これらの歯車がうまくかみ合ったとき、その企業のDXは本質的な軌道に乗ると考えています。 そのサポート役として、ブレインパッドが持つ知識とノウハウをご活用いただければ大変嬉しく思います。

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WRITER執筆者プロフィール

株式会社ブレインパッド

ビジネス統括本部
プリンシパル
若尾 和広

大手印刷会社にて通販・ECなどダイレクトマーケティング企画・制作業務を経てDBM・CRMソリューション事業の立ち上げに参画。家電量販店・アパレル・CVS・GMSなど流通を中心としたデータ分析とプロモーション企画を多数実施。
その後大手広告代理店系のマーケティング会社にてDWH・BIシステムやポイント交換サイトなどの構築・運用に携わる。
2015年よりブレインパッドに参画し主にCRM領域のビジネス企画、データ分析とそれを支えるプラットフォームシステムの開発マネジメントを担当。

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